インダストリー4.0とは?IoTとの関連性や最新の事例をご紹介

データの利活用がますます重要となる現代において、世界の産業を牽引する存在となるべく、ドイツが打ち出した施策が「インダストリー 4.0」です。

「インダストリー 4.0」は、世界の産業がどう変化していくのかを示しましたが、「具体的に何をすべきなのか」あるいは「何を意識しなければならないか」などと疑問に思われる方も多いのではないでしょうか?

本稿では、インダストリー 4.0について解説し、実際の事例から、私たちが行うべき具体的なアクションを考えていきます。

インダストリー4.0とは

インダストリー 4.0 とは、直訳すれば「第4次産業革命」を意味します。

第1次産業革命とは、18世紀にイギリスから始まった「工業の機械化」を指します。それまでの手作業から蒸気機関を使った産業にシフトしたことで、生産性が飛躍的に向上しました。

第2次産業革命とは、電気・石油の膨大なエネルギーを使った「重化学工業」と「大量生産」です。

第3次産業革命とは、1960年代に始まった「コンピュータの導入による自動化」です。全ての機械を人の手で制御していた時代から、コンピュータ制御の時代へシフトすることで、より効率的に機械を運用できるようになりました。

第3次産業革命以後、産業界で起きた潮流の1つは、アメリカのソフトウェア関連企業の躍進です。近年は、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft) を筆頭に、インターネットを活用したグローバル企業が一国家と同等の影響力を有するようになりました。

もう1つ大きな変化は、中国の巨大化です。GDPで日本を抜き去り世界第2位の経済大国となり、産業の発展に加え、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)と呼ばれるIT企業の台頭も目立ちます。

こうした背景のもと、ドイツが「国内産業の技術力を生かして、アメリカと中国に対抗するため」に打ち出した政策が「インダストリー 4.0」です。ドイツは自国の有する技術力を、情報通信技術と融合させることで、大きな武器にしようと考えました。

Today, we stand on the cusp of a fourth industrial revolution; one which promises to marry the worlds of production and network connectivity in an “Internet of Things” which makes “INDUSTRIE 4.0” a reality.

(今日、我々は第4次産業革命の最前線にいる。「Internet of Things」は製造業をネットワーク化し、「インダストリー 4.0」を実現する」)

参考資料:INDUSTRIE 4.0 SMART MANUFACTURING FOR THE FUTURE

インダストリー 4.0 についてまとめたドイツの提言文には、IoTやAIを用いて、人や機械からあらゆるデータを取得し、それらを解析することで、産業の効率化を図る、という内容が見られます。

また、インダストリー 4.0によって、主に以下が可能になると考えられます。

  1. 顧客の要望を反映した柔軟な設計や生産を実現する(マスカスタマイゼーション)
  2. AIとビッグデータの活用によって、機器の故障や異常を予知し、適切な頻度での保全(サービスの「モノ」から「コト」化)
  3. 大量の情報がAIによって解析され、適切な決定を下すために必要な形にしてオペレータに提供(技術的補助)
  4. システムが自ら決定を下し、自律的に業務を遂行(分散型決定)

ンダストリー 4.0 についての誤解と本質

ドイツの目指す「インダストリー 4.0」の本質とは何なのでしょうか?

ドイツは「スマートファクトリーの実現が根幹である」と述べています。スマートファクトリーとは、あらゆる設備、機器をインターネットに接続し、製品の品質や機器の状態をモニタリングできるようにした「工場」を指します。

しかし、「スマートファクトリーの実現が根幹である」と聞いて、「IoTやAIの導入がインダストリー4.0だ」と考えるのは間違いです。IoTやAIを活用して、工場内の保守点検、生産性の向上を行うことはインダストリー 4.0の一部に過ぎません。

工場の内側で、どれだけプロセスを最適化し、どれだけ良いものを作ろうと、インダストリー 4.0の目指す飛躍的な生産性の向上は望めません。

「工場」という一部分が最適化されるだけでは、これまでの産業構造から抜け出せないからです。

インダストリー 4.0が真に目指すのは、受注、設計、仕入れから始まり、販売、アフターケア、フィードバックまでの、一連の流れすべてが繋がり、企業や街・国全体として最適なものづくりが実現されることです。

もちろん、そこにはSDGsと呼ばれる、持続可能な開発目標の観点も入ってくるでしょう。

単一の工場の最適化だけで完結するものではなく、複数の工場がデータで繋がり連携します。

そのために必要なものがスマートファクトリーなど、産業を取り巻く環境の変革である 「デジタルトランスフォーメーション」です。スマートファクトリーは工場内外をあらゆるモノや人に接続するための手段に過ぎません。

「デジタルトランスフォーメーション」については、下記の記事にて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

デジタルトランスフォーメーションとは?革新的な3つの活用事例から学ぶ技術戦略

インダストリー4.0関連技術等 

インダストリー 4.0は、近年発展が目覚ましい情報通信技術を基盤としています。これら技術群の理解はインダストリー 4.0を理解するために欠かせません。

ここでは、各概念や各技術がインダストリー 4.0の中でどのような役割を果たすのかを解説していきます。

IoT (Internet of Things:モノのインターネット)

あらゆるモノがインターネットに接続され、モノ同士の情報交換により相互制御をする仕組みを指します。

IoTが提唱された背景にあるのは、近年のセンサーや通信技術の発展、及びそれに伴うセンサー価格の低下です。1個あたりのセンサーの値段が安くなったことで、あらゆる場所にセンサーを取り付け、情報を収集できるようになりました。

インダストリー 4.0において、IoTは工場における各機器や製品、人をインターネットに接続し、情報を抽出する役割を果たします。

「IoT」については、下記の記事にて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

IoTとは?IoTの最新動向と活用事例をわかりやすく解説

IoTプラットフォーム

IoTの導入にはセンサーや通信機器の取り付けだけでなく、データの保存、大量に集めたデータの分析、情報セキュリティなど、ソフトウェア方面のシステム導入が欠かせません。

IoTに関わるすべてを自社で独自に開発することは難しく、特にセキュリティに関しては一般の企業が手を出しにくい分野です。

近年では、IoTに関わるソフトウェアのすべてがパッケージ化され「IoTプラットフォーム」として販売されています。代表的なプラットフォームは、シーメンス社のMindSphereです。

IoTプラットフォームによって、IoT導入の障壁が大きく下がっています。

「IoTプラットフォーム」は、MindSpere以外にも様々な種類があります。下記の記事にて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

【2020年最新版】IoTプラットフォームとは?違いや選び方をわかりやすく解説

M2M(Machine to Machine)

M2Mは、Machine to Machine、すなわち、「機械と機械」を「人の介在無しに繋げる」という考えで、技術的にはIoTと大差ありません。

IoTは「インターネットを介して」情報をやり取りしますが、M2Mの情報媒体は様々で、有線で情報をやり取りする場合もあります。インダストリー 4.0において、M2Mは、人に依存しない分散型意思決定システム構築の要です。

M2Mとは?IoTとの違いや注目される背景までを徹底解説!

 

センサー・通信技術

インダストリー 4.0 における製造業を「人の集団」と例えると、製造ラインにおける機器は「人」であり、センサーは目や皮膚のような感覚器官、通信技術は口(声)や耳です。

工作機や製品、設備から必要な情報を取り出し、他の設備やオペレーターに伝える役割を持ち、上記IoTやM2Mを支えます。

「センサー」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

IoTセンサーとは?IoTに不可欠なセンサーの役割と活用事例

ロボティクス

人を支援したり、人の代わりとなって製造の現場を担います。インダストリー 4.0においては、仕様変更に即座に適応し、データを活用して自身をカスタマイズする柔軟性があるロボットが求められます。世界の中でも日本が特に優れた技術を持っている分野です。

「産業用ロボット」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

産業用ロボットの基本と世界4強メーカーを初心者向けに解説

AI (Artificial Intelligence)

収集されたデータを解析するための核となるソフトウェア技術です。

IoTにより収集される膨大な量のデータ (ビッグデータ)は、そのままの形では上手く活用することができません。ビッグデータを整理、分析、視覚化して、モノや人にとって意味のあるデータへと変換する役割を担うのがAIです。

AIは可能な限り自律的に決定を下し、工場の分散型意思決定の実現に寄与します。

この分野において、技術的に最も進んているのが、アメリカのソフトウェア関連企業で、AIは近年成長が著しい技術分野の1つです。

「IoT x AI」については、下記の記事にて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

IoT x AIが切り開く第四次産業革命!製造業に与えるインパクトと注目サービスを徹底解説

デジタルツイン

現実世界で抽出したデータを使って、サイバー空間でシミュレーションを行い、機器の動作予測や最適な計画立案を可能とします。インダストリー 4.0では、より流動化する製造業にスピードと柔軟性を与えます。CPS(Cyber Physical System)と呼ばれることもあります。

「デジタルツイン」については、下記の記事にて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

デジタルツインとは|メリットや課題、製造業における活用事例を解説

情報セキュリティ技術

インダストリー 4.0では様々なモノが繋がり、互いに情報のやり取りをします。情報の漏洩や改竄を防ぐために用いられるのが、情報セキュリティ技術です。

「ブロックチェーン」も情報セキュリティ技術の1つですが、ブロックチェーンには「速度」という弱点が存在する上、情報を公開することが前提の技術であるため、情報を秘匿することができません。

情報セキュリティ技術はインダストリー 4.0には不可欠な技術であり、様々な検討が行われていますが、まだ明確な答は得られていません。インダストリー 4.0実現のための大きな課題の1つです。

「IoTセキュリティ」については、下記の記事にて詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

2020年以降に求められるIoTセキュリティとは?セキュリティの重要性と具体的な対策を徹底解説!

標準化

人と人が会話する際、同じ言語を用いるか、間に翻訳を挟む必要があります。機械同士が会話をするときも同じで、機械と機械を繋ぐためには会話のルールが必要です。

インダストリー 4.0では機械があらゆるものと繋がります。生産性と利益を最大化するために、他社と情報を共有することもあるでしょう。

現在でもオープンイノベーションが産官学で進められています。他社と繋がる際、互いに異なる言語を使っていては機械に会話させることができず、物事を前に進めることができません。

機械同士の会話においては、「各段階でどのような言語を使うのか」を「繋がる可能性のあるすべての領域内」で統一しなければなりません。

「標準化」は、これらの「言語の統一」を指します。

上記のIoTプラットフォームも標準化の1つと言えるでしょう。

参考資料:インダストリー4.0標準化、グローバル化が進むからこそ生きる“日本らしさ” |MONOist

協調領域の明確化

インダストリー 4.0下の産業では、「仕様変更に必要な労力の大きさ」を懸念して維持されていた取引は立ち行かなくなると考えられます。

従来の産業には「従来使ってきた部品より、別の部品の方が安く、利益を上げられそうでも、変更すると他の部品にも影響を与える可能性があるので、現状維持としよう」という考えが存在しました。

しかし、デジタルツインは仕様変更による労力を大きく低減し、AIによる市場や売り上げの予測はすべての不合理な取引を切り捨てるでしょう。「自前ですべての部品を用意し、組み立てた製品」は「AIによって部品やプロセスを最適化された製品」に、質も価格も及ばなくなります。

自前主義を捨て、オープンに活用できる技術として各社で共有し合うことで、相互の利益と企業間の連携を高めることになります。インダストリー 4.0下の産業には、こうした協調領域の明確化が必要となります。

インダストリー 4.0において、情報通信技術と対をなす推進力は、協調領域明確化等の制度です。制度面の取り決めには、企業のみならず政府も大きく関与し、推進されています。

参考資料:インダストリー4.0では、競争しない領域を決める勇気も必要|GLOBIS 知見録

日本におけるインダストリー 4.0 の取り組み事例

以下では、インダストリー 4.0に向けた国内の取り組み事例や、インダストリー 4.0の実現を支援する取り組みから、今、私たちのすべきことを考えます。

武州工業

武州工業は、設備の自社開発を理念とするパイプ加工企業で、「一個流し」という特殊な生産体制を持つことが特徴です。

一個流し生産は1人の工員が材料調達から加工、納期管理までを一貫して行う生産方式で、注文を受けてから生産を始めるため、製品の在庫を一切抱えず、品種の変更にも柔軟に対応できます。その一方で、受注してから納入完了までの時間 (リードタイム)が長くなってしまうという課題もありました。武州工業では無駄な工程を省くため、市販のタブレットやスマートフォンを用いて出退勤や生産指示、倉庫内の部品在庫量を一括管理するシステムの自社開発に取り組み、リードタイムを2/3に低減することに成功しました。

参考資料:65年つづく黒字経営! 自社開発ITを駆使する武州工業の先進的ものづくり|GEMBA

IBUKI

IBUKIは従業員60人程の地方金型メーカーで、組織改革によって6年間の赤字経営から脱却したことで注目を集めました。

IBUKIでは、高い技術力を次世代に伝承し、人材育成を進めることが課題となっていました。ベテラン職人には感覚で分かるようなことも、口で伝えることは大変難しく、技術を継承するには10年、20年といった長い年月が必要です。しかし、時代の変化は激しく、昔ほど技術伝承に時間を割くことができなくなりました。

こうした課題を解決するため、デジタルトランスフォーメーションやAIの導入を推進しました。加工に関するトラブルの原因や、原因特定のために必要な情報は何なのか、に関する細かなヒアリングからデータを集め、AIによって分析することでベテラン職人の考えていることを視覚化し、感覚的なことを言語化することに成功しました。

また、これまでベテラン職人に依存していた製品価格の見積もりについてもAIを導入し、新人が半日がかりで行っていた見積もり作業を最短30分程度にまで短縮しました。

参考資料:オープンイノベーションで、破綻寸前からの大復活劇――職人の暗黙知をAIで見える化した金型業界の風雲児「IBUKI」|GEMBA

上記2つの事例に共通しているのは、「自社の課題を明確にし、その課題を解決するためにIoTやAIを適切に活用したことです。私たちも「IoTやAIを使って何かできないか」と考える前に、自社の課題を明確にしなければなりません。

日本は先進諸国の中でも時間当たりの生産性が低いと言われています。長時間労働でそれを補っています。

つまり、人的資本の運用について、課題は山積みです。

インダストリー 4.0はそうした無駄を省き、より効率的な産業構造を実現します。

ボッシュ

世界トップクラスの自動車機器サプライヤーであるボッシュは、自社で培ったIoT、ビッグデータ活用のノウハウをコンサルティングという形で他社に外販しています。

予知保全や、大掛かりなコンピュータを必要としないデータ活用の方法は、自社で実際に効果が確認できた方法であるため、機器の保全やデータ活用について、ボッシュと同じような悩みを抱えている企業にとっては、有用なアドバイスとなるでしょう。

参考資料:モーターの故障を予測して生産ラインの突発的な停止を阻止

テクノスジャパン (RFIDタグによる在庫の可視化)

企業の基幹統合システム作成事業を手掛けるテクノスジャパンはRFルーカスと共同で、倉庫業務効率化のためのシステム実証実験を開始しました。

RFIDによる位置特定技術と、テクノスジャパン独自のIoTプラットフォームにより、工場内倉庫の在庫数をリアルタイムに把握し、仕入れや在庫把握のための作業効率を高めます。

テクノスジャパンがRFID(電子タグ)高精度位置特定の物流IoTソリューションを提供するRFルーカスとDXプラットフォーム上でRFID+ERP連携の実証実験をスタート!

 

IoTプラットフォームではなくとも、部分的なIoTの導入支援に多くの企業が名乗りを上げています。自社が抱える課題について、自前で解決手段を持たなければ、支援を受けることもできる時代になりました。IoTやAIを用いた課題解決のための行動に対し、障壁は確実に下がっています。

重要なことは「自社の課題を明確にすること」、「適切な解決手段を選ぶこと」です。課題が明確でなければ、適切な解決手段を選択できず、IoTについてのコンサルティング企業から適切な支援を受けることができません。

RFIDとは?最新動向と活用事例を解説!

まとめ

インダストリー 4.0の目的は「データをクラウドに上げること」や「AIを導入すること」ではなく、「繋がり、全体最適を実現する」ことです。

各社がインダストリー 4.0に向けて動き始めている状況ですが、「何を解決すべきかを明確にすること」に第一歩があることを、各成功事例は示しています。

課題の多い日本だからこそ、それらの課題を解決することで「課題解決先進国」となり、日本は再び活力を取り戻すでしょう。