産業用ロボットの基本と世界4強メーカーを初心者向けに解説

人手不足や働き方改革の影響で、製造工程の自動化を検討する企業が増えています。特に産業用ロボットの活用は「人件費削減・効率化」に貢献するため、導入ニーズが高まっています。

本稿では、ロボットの導入を検討している方に向け、製造業を中心に活躍する産業用ロボットの種類や市場規模について解説します。さらに主要メーカー、AIとの連携によるデジタル変革の可能性についても触れていきます。

産業用ロボットとは

そもそもロボットとは、

「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」(『ロボット白書2014』(NEDO))

あるいは、

「二つ以上の軸についてプログラムによって動作し,ある程度の自律性をもち,環境内で動作して所期の作業を実行する運動機構」(JIS B 0134:2015 /2.6

などと定義されています。

2つの定義をやさしく言い換えると、ロボットとは「プログラムで制御・動作可能で、ある程度自分で判断できる、作業を行うためのシステム」となります。

ロボットは、用途によって「産業用ロボット」と「サービスロボット」に大別できます。今回は主に製造現場で利用される産業用ロボットについてご紹介します。

産業用ロボットの定義

産業用ロボット」はJISにて次の様に定義されています。

「自動制御され,再プログラム可能で,多目的なマニピュレータであり,3 軸以上でプログラム可能で,1 か所に固定して又は移動機能をもって,産業自動化の用途に用いられるロボット」(JIS B 0134:2015 /2.9

「マニピュレータ」とは、対象を掴んで動かせる機械のことで、「軸」とは人間の関節にあたる部分です。言い換えると「産業現場で自動化するために使われるロボットで、目的に応じてプログラムが変更でき、腕のように曲げる動作をすることができるロボット」となります。

プログラムを変更できることで汎用性が高まります。また、軸の数が多いほど複雑な動きができるようになり、産業用としては最低3軸が必要とされています。

導入するメリット

産業用ロボットを導入するメリットは、大別すると「人の負担減・効率化」と、「作業の標準化・生産性向上の2つが挙げられます。

【人の負担減・効率化】

・今まで人が行っていた作業をロボットが肩代わりするため、単純作業に費やしていた時間を別の作業に充てられます

・重量物の運搬、危険な場所での作業をロボットが担うことで、人間の負担を減らし労働環境を改善できます

【作業の標準化・生産性向上】

・自動化することで、作業者ごとの生産性にバラツキがなくなり、かつ、作業が標準化されます

・ヒューマンエラーが起きないので正確性・生産性が向上します

・ロボットは24時間365日稼働可能なので、生産性が高まります

・熟練の技術者のような高度な作業をロボットが行うことで、品質が安定します

基本的な仕組み

産業用ロボットは、主に「本体(マニピュレータ)」、「コントローラー」、「ティーチペンダント」の3つで構成されています。

【マニピュレータ】

実際に作業を行うロボットの部分で、一般的にロボットアームと呼ばれる部分です。産業用ロボットでは3つ以上の軸で構成されています。

【コントローラー】

コンピューターでマニピュレータの動きを制御する部分で、基盤などが入っています。

【ティーチペンダント】

作業内容を設定・プログラミングする部分です。ティーチペンダントを用いてマニピュレータに動作を教えます。ティーチングペンダントとも言われます。

サービスロボットとの違い

製造現場で活用される産業用ロボットに対して、日常生活で活用されるのがサービスロボットです。主に物流・搬送、医療の用途で用いられるほか、施設案内、清掃、介護補助などの用途でも利用されています。ソフトバンクグループが提供している人型ロボットの「Pepper」はサービスロボットの一例です。

産業用ロボットの種類

産業用ロボットの種類は、マニピュレータが持つ軸(関節)の構造によって一般的に以下の6つに分類されます。

① 直交ロボット:Linear robots (including cartesian and gantry robots)

ユニット同士が直角に交わっているロボットで直線的な動きをします。比較的単純な構造で、複数のロボットを同時に動かしたり、他のロボットと組み合わせて使うことができます。

工場での製品搬送やハンドリングなどに使われます。直交ロボットは「ガントリーロボット」とも呼ばれます。

② 水平多関節ロボット:SCARA robots

平行な回転軸を持つロボットで水平方向に動きます。軸が垂直方向についているため、上下方向へ強度があるのが特徴です。工場での自動組み立て作業などに使われます。

③ 垂直多関節ロボット:Articulated robots

3つ以上のアーム(4つ以上の軸)持ち、自由度が高い人間の腕のような動きをするロボットで、産業用ロボットの主流となっています。汎用性が高く、工場での検査や箱詰めなどに使われています。

④ パラレルリンクロボット:Parallel/delta robots

アームが円柱状の台座に並列についているロボットです。高速で精密な作業を行えるのが特徴で、工場での選別や仕分けなどに使われます。垂直多関節ロボットのように、1つだけついているものは「シリアルリンク」と呼びます。

⑤ 円筒座標型ロボット:Cylindrical robots

回転軸と直進軸を持つロボットで、初期のタイプである座標軸ロボットのひとつです。工場では製品の搬送などに使われます。

⑥ その他

極座標型ロボット」、「双腕ロボット」などがあります。

参考資料:WR Industrial Robots2019

産業用ロボットの市場と見通し

産業用ロボットは企業の自動化ニーズに合わせて国内・国外ともに市場が拡大しています。世界的には2013年から5年間で販売台数が約2倍に増加、国内でも2013年から6年間で出荷台数が2倍以上、販売金額も2倍近くに増加しています。

 

参考資料:一般社団法人日本ロボット工業会 年間統計推移表

また日本は世界有数のロボット生産国であり、1990年代は世界の約9割、現在でも60%弱のシェアを持っています。産業用ロボット導入台数としても、中国に次ぎ世界2位となっています。(※2020年5月時点の情報。データはIFR World Robotics Presentation – 18 Sept 2019および一般社団法人日本ロボット工業会 年間統計推移表)

参考資料:ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性〜ロボットによる社会変革推進計画〜

産業用ロボット導入の流れは今後も続くと見られ、国際ロボット連盟(IFR)の2019年レポートでは、2022年まで世界で年平均10%前後の成長率が見込まれています。

産業別に見ると、自動車および電機・エレクトロニクス産業で導入が進んでいますが、それ以外にも金属・プラスチック加工業など、従来活用が進んでいなかった産業や、導入が進んでいなかった中堅・中小企業などでも徐々に導入が増えていくと予測されています。

産業用ロボット導入のステップ

自社で産業用ロボットの導入を検討するにあたり、何から始めればよいでしょうか。まずは、経営者が取り組むこと、次に実務担当者が取り組むことの2つのステップに分けて説明します。

①ロボットで解決したい課題を見つける

経営者が、産業用ロボットとはどのようなことが出来るかを理解した上で、事例などを参考に産業用ロボットによってどんなことが出来そうか、導入するイメージを掴みます。

さらに自社において「単純作業を自動化したい」「ヒューマンエラーを減らしたい」など、どのような課題を解決したいのかを洗い出します。

②自社の具体的な工程に落とし込む

実務担当者が、具体的にどの場所で、どの工程を自動化するかを検討します。対象となる作業や場所によってロボットの種類やオプション(カメラが必要か等)、サイズなどを絞り込みます。

その後、導入目的や効果、予算などの項目を明確にしたうえで、ロボットメーカーや代理店と打合せするときに必要となる提案依頼書(RFP)を準備するとなお良いでしょう。

経済産業省からガイドラインが公開されており、導入を検討する際に参考になります。

参考資料:産業用ロボット導入ガイドライン|経済産業省

主要なメーカーを一挙紹介

ここからは、産業用ロボットを製造している主要なメーカーをご紹介します。

主要メーカーの中でも、ABB、ファナック、安川電機、KUKAは「世界4強」と呼ばれています。

ABB

スイスに本社を置く大手ロボットメーカーで、1988年にスウェーデンのアセアとスイスのブラウンボベリが合併して誕生しました。ロボット関連ソリューションを提供しており、国内では塗装ロボットで多くの実績を持っています。近年食品産業向けロボットにも力を入れているのが特徴です。

ファナック

1956年の創業以来、工場の自動化を追求しているメーカーです。FA事業、ロボット事業、ロボマシン事業の三本柱に加えIoT関連事業を展開し、多関節ロボットに強みを持っています。製造業向けのオープンプラットフォーム「FIELD system」を開発し、ロボットとIoTとの連携にも力を入れています。

安川電機

1977年に日本で初めて全電気式産業用ロボット「MOTOMAN-L10(モートマン)」を発売したことでも知られるメーカーです。産業用ロボットの累積台数で世界首位となっています。2017年にはスマートファクトリーのコンセプトとして「i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」を発表するなどIoT対応にも力を入れています。

KUKA(クカ)

1898年にドイツのアウクスブルグで創業した有力ロボットメーカーです。もともとガス灯技術関連事業を手掛けていましたが、1970年代以降にダイムラー・ベンツ向けに自動化装置を製造するなどロボット関連技術に注力しています。2016 年に中国の総合家電メーカーである美的集団によって買収されました。豊富な製品ラインナップに強みを持っています。

川崎重工業

世界4強ではありませんが、川崎重工業もチェックしておくと良いでしょう。

川崎重工業は、1968年から50年以上ロボット事業に携わるメーカーです。1969年には日本初の国産産業用ロボット「川崎ユニメート2000型」の初号機を開発しました。2017年にはABBと協働ロボット(人と同じ空間で作業する産業用ロボット)分野での協業を発表し、翌年には共通の操作UIを発表するなど協働ロボット普及にも力を入れています。

テクノロジーと連携したロボットの将来

日本での産業用ロボット活用は、1980年のロボット普及元年から40年近く経ち、様々な工程の自動化に役立ってきました。最近では、AI(人工知能)やIoTなどのテクノロジーとの連携で、さらに進化しています。

例えば、産業用ロボットでは欠かせないティーチング(ティーチングペンダントを操作してロボットの動作を制御するプロセス)は、専門知識を持つスタッフが担当しなくてはならず、教え込むのに時間がかかる、といった問題がありました。

AIをロボットに組み込むことで、強化学習によりティーチング工程を一部自動化することができるようになり、作業負担の削減だけでなく、ロボット導入までの期間を短縮できます。

また、産業用ロボットは決まった位置への定型的な作業が得意な反面、ランダムに配置された製品やバラ積みされた部品を選ぶといった作業は難しいという問題がありました。

これも画像認識AIを組み込むことで、少ないティーチング時間でロボットが自律的に判断を行えるようになり、より高度な作業ができるようになりました。

安定した稼働を実現するためにIoTとの連携も進んでいます。ロボットにセンサーを組み込み、取得したデータをサーバーに蓄積することで、異常や稼働状況などのデータを可視化し、予防、故障検知などに活かす取り組みが増加しています。

以下の記事では、IoT×AIが製造業に与えるインパクトやIoTにおけるセンサーの役割や活用事例も含めて紹介していますので、是非ご覧ください。

IoT x AIが切り開く第四次産業革命!製造業に与えるインパクトと注目サービスを徹底解説

IoTセンサーとは?IoTに不可欠なセンサーの役割と活用事例

AI・IoT以外の技術を活用する動きもあります。

例えば、産業用ロボットはマテリアルハンドリングと呼ばれる製品の移動・取り付け作業においても、決まった位置ではなく毎回違う場所に配置することが苦手でした。

それを補う技術としてMIT(マサチューセッツ工科大学)は、2019年にRFIDを活用した新たな3D位置測定技術「TurboTrack」を発表しました。

これはRFID信号の反射から距離を測定するもので、1cm以内の誤差で物体の位置を把握することができると言われています。

同じような距離測定は画像認識AIでも実現可能ですが、RFIDのほうが圧倒的に低コストで、かつAIが苦手とする暗い場所などでも測定できるという強みを持ちます。 

「TurboTrack」のような技術の普及により、ロボットはより精密な作業を低コストで実現できるようになるかもしれません。

参考資料:Robots track moving objects with unprecedented precision|MIT News

まとめ

産業用ロボットの活用は、自動車産業や電機・エレクトロニクス産業において大企業を中心に進められてきました。

しかし、近年の人手不足や働き方改革といった環境変化を背景に、産業や企業規模に関わりなく導入が必要になっています。2020年以降は多くの企業にとってロボット活用が不可欠になるでしょう。

また今後は生産性向上という視点だけでなく、企業が成長するために必要とされるデジタル変革を実現するために、ロボットやAI、IoTと連携した工場全体の「デジタル化」、「スマートファクトリー化」が重要になってきます。

そこで得られたデータを活用して新たな価値を生み出すことで、より自社の競争力を高めることができます。

こちらの記事では、IoTと工場の関係について詳しく解説していますので、是非ご覧ください。

IoTで工場の何が変わる?何を変える?製造業のIoT活用事例6選を用いて徹底解説!

アフター・コロナ(新型コロナウイルス終息後)では、今以上に社会・企業のデジタル変革が進むと予測されています。

自社の生産工程で自動化できそうなものがないか、AIやロボットの導入で差別化できる部分はないか、一度検討する機会を持つと良いでしょう。