デジタルツインとは|メリットや課題、製造業における活用事例を解説

製造現場の物品管理を効率的にしたいと考えていませんか?

製造現場をデジタル上で忠実に再現した「デジタルツイン」なら、工場内の物品の位置や個数が即座にわかります。

デジタルツインは製品開発や設計など、製造の上流工程だけのものではありません。バーチャルなシステムなので、リアルの製造現場に影響を与えずに仕掛品や素材・部品の配置シミュレーションができます。

デジタルツインを活用することで「モノ」だけでなく、「ヒト」の最適な配置や管理、さらには製品ライフサイクルを通じた最適化が図れます。

本稿では、

  • デジタルツインとは何か
  • デジタルツインのメリットや課題
  • 製造業での具体的な活用事例

をご紹介します。

これから製造業でも普及が見込まれるデジタルツインについて理解を深めてみませんか?

デジタルツインとは

デジタルツインの概要

デジタルツインとは、現実世界に存在する実体のデータをリアルタイムに取得し、バーチャル上で再現したものです。ここでいう実体とは、主に製品や試作品、機器、設備等のことを指します。

デジタルツインは「ツイン(双子)」と称するものの、一般的に言う見た目や質感といった物理的特徴の模倣までは追求していません。稼働状況や部品の状態、周囲の環境などをデータ化して直感的にグラフィック表示し、リアルタイムに同期して再現します。そのため便宜上「ツイン」と称しているのです。

ITの進歩により、デジタルツインを作成して様々なモノの状況を詳細に把握できるようになりました。ただし、その再現性はデータとして取得・設定可能な要素にとどまります。

デジタルツインで実現できること

デジタルツインでは、リアルタイムモニタリングが可能です。現在の状況を把握できるので、即時に対応を取りやすいのが利点です。

また、現実には難しい、物理的なシミュレーションをバーチャルに実施できます。物理条件をデータ定義し、パラメータを設定したり投入することにより、対象物の状況を仮想的に表せます。物理的なテスト環境を用意しなくても、デジタル上で何度でも試行できるのは大きなメリットだといえるでしょう。

ただし、デジタルツインはあくまで現状確認やシミュレーションモデルとしての役割を担うもので、直接デジタルツインを介して対象に変化を与えたり影響を及ぼしたりすることはありません。

デジタルツインに欠かせないIoT

デジタルツインにIoTの技術は欠かせません。対象物の状態を詳細かつ動的に再現するには、デバイスやセンサーのような情報収集・送信ツール、通信ネットワーク、データ加工・分析を行う情報システムが必要です。

しかも現在の状況を忠実に再現するには、多数の機器やアイテム一つ一つにセンサーを取りつけ、情報をリアルタイムに送受信できなくてはなりません。高速、低遅延、同時多数接続が可能な5G実装により、デジタルツインの実用化が加速するでしょう。

IoT以外にも、デジタルツイン利用を支援するIT技術があります。大容量ストレージは、現況確認だけでなく、過去データの参照や活用のために必要です。また、膨大なデータの分析や処理にはAIの活用が望まれます。

デジタルツインのメリットや課題

1.デジタルツインのメリット

デジタルツインは従来の開発設計分野に加え、「製造、配送、設置、導入、保守メンテナンス、廃棄」にいたるまで、製品ライフサイクル全体を通じた利用が可能です。

製造業のあらゆる過程において、効率化とコストダウン、運用管理コストの最適化が期待できるのです。

製品ライフサイクルを通じて蓄積したデータや分析情報をもとに、価値提供を行う先進的な企業も出てきています。これは製造業のサービス化、「モノ」から「コト」への変化のきざしが見えるとも捉えられます。

ここで、デジタルツインは製造業のモノづくりの各段階においてだけでなく、ヒトの管理にも応用できることを紹介します。それぞれにおいてどんなメリットがあるかを見てみましょう。

a.モノの管理

i.製品開発・設計

製品の開発・設計において、試作品をバーチャルに再現し、テストやシミュレーションに利用することで物理的なコストを削減できます。

テスト専用の試作品やスペースが不要になるだけでなく、物理テストにともなう危険リスクも削減できます。

また、物理的な制約を受けないため、柔軟にシミュレーションが可能なこともメリットです。

ii.製品製造

デジタルツインで製造現場をバーチャルに再現することにより、広い工場内の物品の状態を容易に把握できます。

素材や部品、工具などの位置や量の変化、仕掛品の数や進捗率をリアルタイムに確認して管理できるのです。

デジタルツインは対象物のモニタリングだけでなく、シミュレーターツールとしても優秀です。

実際の現場に影響を及ぼすことなく、機器や物品配置をシミュレーションして最適化を図ることもできます。

生産過程でのエラーも、生産プロセスのどこで発生したか問題の切り分けと特定がしやすくなります。

iii.保守、顧客サービス

デジタルツインは保守修理サービスの能率と最適化を叶えるツールとなりえます。

デジタルツインにより、製品出荷後のモニタリングや様々なデータ取得も可能になります。

自社のテストデータに加え、顧客の製品をモニタリングすることで、作動状況や設置環境のデータを集めて設備保全の質を高めることもできるでしょう。

また、過去のデータから摩耗や劣化の時期を予測し、一律の定期点検が不要になったり、使用状況に応じた最適タイミングでの保守ができるようになります。

さらに、デジタルツインは動作状況をグラフィカルに表現するので、不具合があっても原因や発生個所の特定がしやすくなり、作業員の負荷を軽減することにもつながります。

b.ヒトの管理

デジタルツイン活用はモノの管理が主流ですが、生産過程におけるヒトの管理にも応用できます。作業者にセンサーやウェアラブルデバイスを装着させて、モニタリングしたり効率的に管理したりできるようになるでしょう。

生産工程ごとの稼働率や停止率、作業負荷の程度をうまくデータ化できれば、ラインや生産スケジュールの効率的かつ最適な編成が可能になります。

たとえばRFID(ICチップ)によって、モノの流れと機器の動作状態、ヒトの活動状況をトータルに可視化することで、より効率的な生産に向けられます。

「RFID」の基礎知識や活用事例については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

RFIDとは?最新動向と活用事例を解説!

2.デジタルツイン利用においての課題

デジタルツインは一定の成果をあげているものの、まだ発展途上にある技術です。特に精緻なデジタルツインを必要とする場合、実装までの課題がいくつか存在します。

まず製品モデルの構築と、シミュレーション効果モデルの作成、解析手法の確立が必要になります。また、開発分野に限らず、故障予知等、一定の条件を付したシミュレーションには環境条件や実稼働の詳細なデータが不可欠です。

ただし、モノの位置や実数管理など、単純なモニタリングであれば複雑な仮想化技術は不要です。

製造業のデジタルツイン活用事例

最後に、製造業のモノづくりやサービス提供、将来的なヒトの管理に応用できるデジタルツイン活用事例を紹介します。黎明期にあるデジタルツインは進化やブラッシュアップすることが見込まれます。

1.製品開発・設計

通常、製品設計はCADで行いますが、CADデータとテストデータを融合しデジタルツインとして活用することができます。デジタルツインを利用できると、開発設計段階のすみやかな問題の把握と対策検討が可能になります。

イスラエルのレーシングカー開発企業のGriiip社では、試作車に多くのセンサーを取りつけデータを取得しています。以前はデータを表計算ソフトに取り込んで分析し、一部データはデジタル解析するという、一般的な手法を取っていました。

車を安定走行させるには、車体や内部機関を制御する必要があります。CADの物理(設計)データに、試作車の制御動作後のフィードバックデータを反映させることで効果的な設計が可能となります。

Griiip社ではサスペンションにセンサーを取りつけ、走行中のハンドル操作の角度と、センサーが測定したサスペンションの動作長を連携させるようにしました。その結果、操作と車体の挙動の関連性がはっきりとわかるようになったといいます。

デジタルツインはリアルタイムの連動性を特徴としており、静止物(構造物)とその動作データを融合させれば、より精度の高いデータ取得や洞察が得られます。

参考資料:

『IoTを設計に活用するためのキーワード「デジタルツイン」とは』ITmedia

https://techfactory.itmedia.co.jp/tf/articles/1805/17/news003.html

『スタートアップでレーシングカーを製造 Griiip』Israel MedtechPost

https://israelmedtechpost.com/2017/10/16/startup-racingcar-griiip/

2.製品製造

製品製造の現場で移動や構造変化が起こるモノとして、仕掛品や素材等があります。多品種少量生産をする工場であればその管理も煩雑になります。

工作機械メーカーのヤマザキマザックでは、デジタルツインを製造に必要なモノの流れを把握するために活用しています。同社では工場再編により複数の工場でラインを統合することになり、仕掛品と部品の管理を統合的に行う必要性が生じました。

具体的な解決策の一つがRFID(ICタグ)を活用したデジタルツインです。これにより、すべての原材料や仕掛品の位置と数量、滞留時間が一目でわかるようになったといいます。

また、意外な滞留時間の発生や属人的な物流管理の実態が見え、改善と生産の効率化が図れたということです。

これは実体の動きをデータでリアルタイムに把握できるデジタルツインと、実体であるモノの位置データを把握できるRFID(ICタグ)を融合させることにより、製造現場の課題解決を図った好例といえるでしょう。

3.保守、顧客サービス

デジタルツインは製造業務にとどまらず、保守などの顧客サービス分野にも活用されつつあります。

航空機エンジンを製造するGE社ではデジタルツインを活用して、エンジンの販売ではなく、時間ごとのエンジンの出力に課金する仕組みを導入しました。これは製造業の「サービス化」が始まっているといえるでしょう。

同社ではデジタルツインで自社エンジンをリアルタイムモニタリングしており、エンジン動作や燃料データ分析といった自社製品の豊富なデータによる価値提供、新事業創出を図っています。

具体的には同社のデジタルツインにより、飛行機が現地に到着する前にメンテナンスが必要な箇所を検知し、整備や部品の手配ができるようになりました。その結果、航空会社はメンテナンスの効率化とフライト遅延のリスクを回避できるようになりました。また、GE社では最適な操縦プロセスのコンサルなど新サービスの提供も始めています。

製造業は将来的に「モノ」の提供から、データによる「サービス」や「コト」への対応もしていくことも考えられるのです。

4.ヒトの管理

ヒトの管理にデジタルツインを活用した事例として、2018年のサッカーのワールドカップがあります。

ビデオアシスタントレフェリー(ビデオ審判員)制度やゴールラインテクノロジー(ゴールライン越えの自動判定)により、ゲーム運営のデジタル化が顕著に見られた画期的な大会でした。また、主催者のFIFAが出場全チームにデジタルツインのシステムを提供したことでも知られています。

FIFA大会でのデジタルツインは、遠隔カメラによる光学トラッキングシステムにより、ボールと選手の挙動をリアルタイムに取得し、可視化と分析ができるものでした。これにより、データ分析官がベンチ側に参考指標やアドバイスを送り、戦術に反映された可能性があります。

今後、製造現場で働くヒトの動作や活動状況をデジタルツインを利用して可視化し、業務改善に活用することも十分に考えられます。

将来的にはヒトがセンサーやウェアラブルデバイスを装着し、モニタリング、管理に使用するでしょう。しかし現状は、FIFA大会のようにカメラを使ったトラッキングや、ヒトでなく作業場所にセンサーを設置し稼働状況を測るほうが適切だといえるでしょう。

まとめ

デジタルツインは製造業におけるあらゆるステージにおいて、最適化と効率化、コスト削減に貢献してくれます

国内外の様々な分野で活用されているデジタルツインは、いずれ国内の製造業でも広く使われるようになることが予想されます。

デジタルツインの構築はやや高度な技術を必要とするのが難点です。しかし、参考事例にあるように、製造現場での物品管理に使うなら比較的ハードルは低めです。まずは手始めに現場でのデジタルツインの利用を検討してみてはいかがでしょうか。