医療×IoT(IoMT)のメリットは?国内外の活用事例6選をご紹介

  • 3月 23, 2022
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ありとあらゆる「モノ」がネットワークにつながり、相互に情報を交換する「IoT」が急速に拡大しています。特に、医療やヘルスケアに特化したIoMT(Internet of Medical Things)は、医療コスト削減や収益性の改善に貢献するとして、大きな期待を寄せられています。

しかし、IoT(IoMT)という言葉は知っているが「具体的に活用されているイメージが湧かない。」「導入することで、どんなメリットがあるのか。」など疑問に思われている方も多いのではないでしょうか?

そこで本稿では、IoT(IoMT)を導入するメリットや課題の解説、国内外の医療業界における活用事例をご紹介します

医療業界の課題とIoT市場動向

まずは、現在の日本の医療業界が抱えている課題とIoT市場動向について解説します。

医療分野の課題

医療分野では高齢者の増加」「医師不足」「医療費の増加の3つの課題が挙げられています。厚生労働省が公表している「医師・歯科医師・薬剤師統計」では、医師の人数は増加傾向ですが、医師は東京や大阪など大都市圏に集中しており、地方では依然として医師不足の状態が続いています。

また、少子高齢化社会で高齢者が増加することにより、医療費の増加が問題となっています。医療格差が生まれることが懸念されますが、この格差を埋めるためにIoT導入が注目され始めているのです

参照資料:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」

以下の記事では、製造業や物流業界でのIoT活用事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

IoT活用事例を一挙大公開 〜工場・物流・医療編〜

IoTとは何か

IoT(Internet of Things)とは、「モノのインターネット」という意味で、家電や自動車など、あらゆるモノがネットワークに接続されることをいいます。特定通信・放送開発事業実施円滑法でもIoTについて言及されており、「インターネットに多様かつ多数の物が接続され、及びそれらの物から送信され、又はそれらの物に送信される大量の情報の円滑な流通が国民生活及び経済活動の基盤となる社会」であると定義されています。

IoTを導入すれば「モノを操作する」「モノの状態を知る」「モノ同士で通信する」ことが可能となります

参照資料:特定通信・放送開発事業実施円滑化法のご案内

以下の記事でより詳しくIoTについて解説していますので、本稿とあわせてご確認ください。

IoTとは?IoTの最新動向と活用事例をわかりやすく解説

IoTの市場動向

富士経済が医療IoT市場を調査した報告書『メディカルIoT・AI関連市場の最新動向と将来展望』では、2025年のIoT市場は、2016年と比べ2.2倍の1,685億円に達すると予測されています。

通信機能搭載型人工臓器は、後期高齢者の増加に伴い需要が増加し、2025年は2016年と比べ2.1倍の1,058億円に達すると予測されています。また、ウェアラブル型脳波計は大幅な成長が予測されており、2025年は2016年と比べ4.1倍の150億円、AI関連は2025年に2016年と比べ3.8倍の70億円に達すると予測されています。

また、遠隔医療支援IoTシステムは、2015年8月に厚生労働省による医療法の遠隔医療の解釈が明確化され、その活用を広く認める方針が打ち出されたため、参入企業は増加しています。厚生労働省の医療施設調査によると、遠隔医療システムを導入している医療機関は579ヵ所、一般診療所が3,150ヵ所となっています。実際に遠隔在宅医療を実施する機関は562ヵ所にとどまっています。

参照資料:富士経済「メディカルIoT・AI関連市場の最新動向と将来展望

参照資料:厚生労働省の医療施設調査

医療業界におけるIoT導入のメリット

医療業界でIoT(IoMT)を導入すると、次のようなメリットがあります。

遠隔診療が行える

ICT(インターネット上でコミュニケーションをとる技術)の発展により、PCやスマホのデバイスを活用して遠隔診療が行えるようになりました。新型コロナウイルスによる院内感染リスクを避けるため、2020年から遠隔診療が解禁され普及が進んでいます

免疫不全の方は疲れやすくあちこちと移動できませんが、遠隔診療であれば自宅から定期検診が受けられて移動負担が減らせます。ウェアラブル端末で取得したデータを送受信すれば、遠隔でも質の高い診察を受けることが可能です。

診療と治療の質が高められる

患者にウェアラブル端末を装着してもらえば、1か月分の血圧や脈拍の数値が取得できます。取得したデータを参考にすれば、正確な診断と効果的な治療が行えます

例えば、起立性調節障害は早朝に血圧が異常値まで落ち、午後になると血圧が正常値に戻ります。そのため、診療時に血圧と脈拍を取得しただけでは発見しにくいものです。このように見逃しやすい病気を、取得データから特定できるようになります。

薬誤投与を防止できる

IoTで患者情報を収集・蓄積していけば、薬誤投与が防止できます。薬の処方は、年齢・性別・体重・身長・病状に応じて行う必要があります。また、薬の相互作用が発生する恐れもあるため、医療過誤や薬誤投与の防止に注意しなければいけません。

IoTを活用すれば、「何が」「どこに」を可視化し、処方箋の発行から薬剤の院内受け渡しまでの工程の効率化が実現できます。

業務負担を軽減できる

IoTを活用して、24時間体制の看護の業務負担を軽減できます。遠赤外線センサーやマットセンサー、マットに取り付けたバイタルデータ測定機器を活用すれば、患者のリアルタイムの状況が把握できます

心拍数や脈拍が異常値になったり、ベッドから転倒したりした場合はアラートで通知してくれるため、付き添う必要がありません。業務負担の軽減は運用コストの改善にも繋がります。

病院の運営を改善できる

IoTは病院の収益化にも貢献できます。診療報酬の初期加算は入院期間が短いほど高くなるため、入院の短期化を目指す病院も珍しくありません。

IoTを活用して遠隔診療や情報共有が行えれば、患者に地域の病院を紹介することも容易になり入院の短期化が実現できます入院の短期化に成功すれば、病院の収益を上げていけます。

健康増進プログラムを提供できる

健康増進プログラムとは、生活習慣病を改善するためのプログラムをいいます生活習慣病を改善するための適正な腹囲、血圧、内臓脂肪などの正常値を伝えておき、ウェアラブル端末や体重計を活用して測定してもらいます。

正常値を維持して。患者がセルフケアできるように仕組み化されたプログラムです。IoTなどデジタル機器の発達により、病院から患者に対して健康増進プログラムが提供できるようになりました

医療データの研究に役立てられる

医療データのデジタル化により、検査データの共有や活用が可能になります。従来の紙ベースによる検査データと比較すると、データ共有がスムーズになります。それだけでなく、検査数値のグラフ化や分析が容易になるため、医療の研究に役立てられます。

医療業界におけるIoT導入時の課題

医療業界でIoTを導入すれば、さまざまな恩恵が受けられますが、次のような課題も出てきます。

セキュリティ対策が必要

モノをインターネットにつなぐIoTは、外部から攻撃されるリスクにさらされます。そのため、医療分野でIoTを導入する際は、これまで以上にセキュリティ対策を慎重に行う必要があります。

例えば、遠隔医療サービスを導入した病院が、悪意のある第三者からの攻撃を受けてしまうと、システムが利用できなくなり人命に関わり、大きな被害にもなりえます。そのため、IoTを導入する際はセキュリティ対策が必要になります。

以下の記事で、どのようなセキュリティ対策を実施すれば良いのかを、具体的に解説していますので、ぜひご覧ください。

2020年以降に求められるIoTセキュリティとは?セキュリティの重要性と具体的な対策を徹底解説!

情報漏洩の恐れがある

サイバー攻撃を受けると、IoT機器が乗っ取られて、個人情報が流出するリスクもあります。医療機関では、氏名、性別、年齢、体温、病歴といった、個人属性に密接に関わる情報を収集しているため、これらの情報が洩れてしまうと大きな被害となります。

導入が難しい分野もある

業務上の課題の解決、ベネフィットをもたらす技術として注目を集めているIoTですが、既存システムや業務とのすり合わせが難しい分野もあります。システム構築に振り回される傾向があり、想像以上に難しいという悩みを抱えている医療機関も多いです。

特に医療分野では、遠隔操作での手術が可能な遠隔医療ロボットが登場していますが、遠隔操作での手術は医師への法整備が進んでいないため、外科治療への導入が難しいです。

IoTに精通する技術者がいない

モノ同士がデータのやり取りをするためには、安定した接続が必要になります。接続が不安定だと、通信が途切れてしまうトラブルに繋がる可能性も考えられます。その際に、精通する技術者がいなければ診療を中断しなければなりません。しかし、IoTに精通する技術者を医療機関で採用するのは難しい現状があります。

導入コストが高い

モノ同士を接続して制御するためには、高度なシステム構築が必要となります。システム構築するためには、多額の初期投資が必要になり、最新機器を操作する社員の教育コストも発生します。また、メンテナンスマニュアル作成にもコストがかかるため、導入コストを考慮しなければなりません。

医療業界におけるIoTの活用事例(国内)

実際に医療業界では、どのようなIoT機器が利用されているのでしょうか?ここでは、国内の医療業界におけるIoTの活用事例をご紹介します。

1.IoTデバイスによるリアルタイムな体調管理:FiNC

FiNCは、AIがトレーナーとして適切な美容や健康メニューを厳選してくれる美容・健康トレーニングアプリで、ダイエットや健康的なカラダづくりを目的として多くの人に利用されています。

2018年には「GooglePlayベストオブ2018 自己改善部門大賞」を受賞し、美容・健康トレーニングアプリとして、国内No.1のダウンロード数を記録しました。スマートフォンを利用してリアルタイムな体調管理ができるとして、高い評価を集めています。

参考資料:Finc(株式会社 FiNC Technologies)

2.患者見守りシステム:Y’s Keeper

院内の患者の安全管理には、細心の注意を払わなければなりませんが、それを可能にしてくれる患者見守りシステムがY’s Keeperです。

Y’s Keeperは、病院内に受信機を定点で配置し、送信機を持った患者が入ってはならない場所に移動した際、アラートを表示させ危険を知らせてくれるモニタリングシステムです。移動履歴も管理できるため、事故を未然に防ぐことができます。

参考資料:Y’s Keeper (株式会社ワイズ・リーディング)

3.ウェアラブルデバイス:EMC Healthcare株式会社

ウェアラブルデバイス「CALM-M Class」は、活動量、睡眠、脈拍、心拍、心電位などの患者バイタルを取得することができます

バイタルのデータ分析をし、アラートが必要な状態や患者状態の変化を捉えます。データはシステムに蓄えられていくため、施設内でも在宅でもオンライン上で患者を見守ることが可能です。

参考資料:CALM-M Class(EMC Healthcare株式会社)

4.遠隔診療:オンライン診療CLINICS

遠隔診療とは、医師と患者が距離を隔てたところでインターネットなどの情報通信技術を用いて診療を行う行為のことをいいます。オンライン診療CLINICSは、オンライン予約から診療、会計、アフターフォローまでを実現するオンライン通院システムです。

CLINICSを導入すれば、ビデオチャットによる診察が実施でき、診療待ち時間を減らすことができます。患者は、医療機関へ行く必要はないため、利便性が大幅に向上します。

診察前後に、患者はオンラインで体調情報や医師への質問などを登録するため、実際の診療の際に参考情報として使用でき、診療後は患者の自宅に薬を配送することができるサービスです。

参考資料:オンライン診療CLINICS(株式会社メドレー)

5.AI画像診断支援技術:Doc+AI(ドクエイ)

AI画像診断支援技術とは、CTやMRI、病理画像などの医療画像を中心に、多様な医療ビッグデータを活用して、独自の人工知能アルゴリズムで病気を判定していく技術です。

エムスリー株式会社は、医療用画像診断支援AIオープンプラットフォーム「Doc+AI(ドクエイ)」の構築を開始。「Doc+AI」は、AIやIoTを用いることで世界中の医療用画像診断支援AIアルゴリズムを使用して、全疾患の画像診断支援を可能とすることを目指し構築されているプラットフォームです。

2020年現在は、新型コロナウイルス感染症疑い症例の診断を支援するため遠隔による胸部CT検査画像の無償画像診断支援サービスの運営も行っています。

参考資料:Doc+AI(株式会社オプティム)

6.業務効率化:RecoFinder

RecoFinderは、UHF帯RFIDタグ(ICタグ)を用いて常時監視を行います。電波の照射範囲を限定させる技術を活かした通過検知システムです。検知された管理対象物のRFIDタグ情報を瞬時に記録することができるため、シームレスな情報のやり取りが可能となり、業務工数削減が可能となります。

RecoFinderは、医療機器使用者の利便性の向上を図るとともに、機器管理情報を確実かつリアルタイムに取得できる環境を整えることができます。

参考資料:RecoFinder(帝人株式会社)

医療業界の業務効率化に貢献するRFIDについて詳しく知りたい方は「RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!」を参考にしてください。

医療業界IoT市場動向と活用事例(海外・米国)

医療先進国である米国の医療業界のIoT事情はどうなっているのでしょうか?ここでは、米国の医療業界IoT市場動向と活用事例をご紹介します。

米国でのIoT市場動向

IoT化が進んでいる米国では、GAFAのヘルスケア関連の投資が相次いで発表されました。2019年11月は、Googleが約2,000億円でFibit社を買収しました。Apple Watchの競合デバイスのFibit(Google Pixel)は、Googleもヘルスケア事業に本格参入したシグナルです。

また、AppleもApple Watchのデバイスを基盤にヘルスケア事業を伸ばそうとしており、モルガン・スタンレー証券は、2027年までにアップルのヘルスケア事業は約31兆1,300億円になる、と予測しています。Amazonでは、バーチャルクリニック「Amazon Care」、Facebookも予防医療「Preventive Healeth」などのサービスを展開しています。

アメリカの市場調査会社Grand View Researchの調査では、米国のヘルスケア市場は2022年には約44兆円に達すると予測されています。

参考資料:Grand View Research「米国の病院におけるIoTの活用状況」

米国でのIoT活用事例

米国の医療機関ではIoTが積極的に導入されています。心拍数や子宮の動きをワイヤレスでモニタリングできる「Novii」や、通信患者の服薬を管理する「Philips Medication Dispenser」、院内で高価な医療機器の位置を可視化する「AirFinder」などが導入されています。

また、「Google Glass」を利用したアイウェア型の医師のサポートシステムも整っており、患者のデータに瞬時にアクセスが可能など、日本の病院の一歩先を進んでいるようです。

《まとめ》

今回は、医療業界のIoT市場動向と活用事例をご紹介しました。医師不足や医療費の増加など医療格差が問題視されている日本ですが、この問題を解決する策として大きな注目を集めているのが、IoTです。

IoTを活用すれば、生活習慣病の防止や遠隔診療による地域の医師不足の解消ができる可能性があります。他にも、日々の業務を効率化できる画期的な機器が続々と登場しています。

積極的にIoTを導入すれば、より良い医療提供が行えるでしょう。ぜひ、本稿を参考にしていただき、IoT導入を検討してみてください。