3Dプリンター出力サービスのメリットとは?製造業での活用事例とおすすめ業者を徹底解説

3Dプリンターはビジネスを変革する可能性を秘めており、自動車分野、航空・宇宙分野・ロボティクス分野といった様々な産業分野で導入が進んでいます。

IDCの調査によると、2018年〜2023年の国内の3Dプリンター市場はCAGR(年間平均成長率)2.5%前後で推移する見込みです。

しかし、特に製造業で使用される金属3Dプリンターは、数千万円以上の本体価格と数百万円の年間保守料がかかります。コスト面が課題で導入に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか?

そこで注目が高まっているのが、導入費・維持費といったコスト面の課題を払拭できる「3Dプリンター出力サービス」です。

MM総研の調査によると、2021年には3Dプリンター出力サービスの市場規模は2018年比で約3.2倍に成長し、「国内での3Dプリンターの主要な導入方法になる」と予想されています。

そこで本稿では、3Dプリンターの

  • 出力サービスに注目が集まる理由
  • 出力サービスの基本的な流れ
  • 出力サービスのおすすめ業者

について詳しく解説し、最後に具体的な活用事例をご紹介します。

参考資料:IDC「国内インダストリアル/3Dプリンター市場予測を発表」
参考資料:MM総研「国内法人における3Dプリンターの導入実態調査(2019年5月調査)」

3Dプリンター出力サービスに注目が集まる理由

3Dプリンター出力サービスの人気が高まっているのは、活用するメリットに多くの企業が共感しているためです。

ここでは利用するメリットと、注意すべき点をご紹介します。

「低コスト」・「在庫不要」

3Dプリンターを購入し運用する場合、3Dプリンター本体に加えて、材料、サポート材、3Dソフトが必要です。一般的に業務用3Dプリンター本体の価格は数百万円以上です。装置によっては発する熱で周囲が高温になるため、空調などの設備投資も必要になることがあります。

3Dプリンター出力サービスを利用することで、これらのコストを全てカットできます。機材・設備のメンテナンスも気にする必要がありません。

3Dプリンター事業は、まだまだ発展しています。将来性はありますが、現行の製造方法を置き換えるほどのインパクトがあるかは不透明な部分が多いため、「まずは試作品の製作から3Dプリンターを活用しよう」と多くの企業が考えています。在庫を抱えない出力サービスは、このニーズにぴったりでしょう。

製造業において出力サービスの利用が増えているのは、この手軽さが理由です。

複数発注・大量生産には不向き

出力サービスを利用する場合、単発品であれば良いですが、様々な部品を継続的に発注する場合には注意が必要です。

一例として、3Dayプリンターに依頼した場合の料金は次のようになります。

例:3Dayプリンターに150㎤の製作を依頼した場合(1個)

素材

仕上がり

料金

ナイロン 3~5営業日 40,000円
ABS樹脂 3~5営業日 60,000円

PP(ポリプロピレン)

3~5営業日 90,000円

参考資料:3Dayプリンター「工業用パーツ・治具・試作・研究用品の参考価格」

試作品であれば、数点の製作になりますので、出力サービスのコスト面での恩恵を受けられるでしょう。しかし、大量生産品で利用すると、運用年数が経過するにつれて、購入するよりも高くつく可能性があります。大量生産の段階になったら切削機械に移行するなど、柔軟に対応することが大切です。

3Dプリンター出力サービスの基本的な流れ

3Dプリンター出力サービスの利用はとてもシンプルです。

サービス会社によって大きな違いはなく、基本的には次の6つのステップで進めていきます。

ステップ①:相談・見積

まずは「どのようなモノを作りたいか?」予算・素材・デザインをサービス会社へ伝えます。

素材(フィラメント)については、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

3Dプリンターフィラメントの種類別の特徴と利用用途を徹底解説!!

ステップ②:3Dデータの準備

3Dプリントするための設計図である「3Dデータ」を準備します。プリンターごとに必要となるデータ形式が異なりますが、STL形式を利用するケースが大半です。

データの作成には、3DCAD、3DCG、3Dスキャンなどを利用します。なお、3Dデータの作成が難しい場合はイラスト・図面などを提出し、3Dデータ制作をお任せできるサービスを利用すると良いでしょう。

ステップ③:3Dデータアップロード

出力サービスの公式サイトに3Dデータをアップロードします。担当者とのやり取りを含め、基本的にすべてオンラインで完結します。

ステップ④:3Dデータチェック・修正

出力サービス会社にて3Dデータをチェックします。データに不備が見られる場合は、修正した後、再度データをアップロードし直します。

ステップ⑤:3Dプリント・後処理

ステップ④までで制作した設計図を元に3Dプリントします。プリント後の後処理フェーズでは、塗装・研磨・接着など、豊富なオプションが用意されていますので、必要に応じて選ぶと良いでしょう。

ステップ⑥:配送

出力サービス会社から発送されます。「24時間365日に対応しているサービス」、「最短翌日発送のサービス」など、サービス会社によって納期に違いがあります。特にスピード納品を希望する場合には、サービス会社ごとの納期の違いを比較すると良いでしょう。

3Dプリンター出力サービスのおすすめ業者5選

ここでは、3Dプリンター出力サービスのおすすめ業者を5社ご紹介します。

①DMM.make/DMM

DMM.makeでは、国内のプリントセンターから日本全国送料無料にて短納期発送する「短納期エクスプレスサービス」が利用できます。(最短3日~)

21台の機材、31種類のフィラメントなど豊富なオプションから選べるため、ニーズに合わせた3Dプリントが可能です。

3Dスキャン、3Dデータ制作代行サービスもありますので、「3Dプリンターを活用したいけど、3Dデータがない」という方にもおすすめです。

②3Dプリンター出力サービス/RICOH

RICOHの公式サイトでは、ギア・配管・建築模型・治具・自動車用パーツなど、豊富な製作事例が確認できます。「どんなものが作れるのか知りたい」と製作事例を探す場合には一度アクセスしてみると良いでしょう。

3D測定、3Dデータ作成、仕上げ加工の豊富なオプションがあり、モデルや形状次第では最短翌日に発送されます。

③3Dプリンター出力事業/JMC

JMCは、1999年からサービスを開始している3Dプリンター出力事業の老舗です。20年以上の豊富な実績を元に、ユーザーのニーズに合わせた最適な3Dプリントを提案してくれます。

「見積りの回答は原則1時間以内」、「24時間365日のフル稼働」、「土日・連休中でも対応可」と、スピード・対応時間で他社との差別化を図っています。

法人限定ですが、手持ちの3Dデータを1回に限り無料で造形・配達してくれるため、一度利用してみるのも良いでしょう。

④3Dayプリンター/株式会社メルタ

3Dayプリンターは、その名の通り「最短3日で3Dプリントを届ける」ことをコンセプトに運営しています。

国内外200社以上の3Dプリントパートナーと提携し、機材の空き時間を活用することで、「3Dプリントの高速提供」を実現しています。取引実績は1,000社以上を超えます。

金属3Dプリントにも対応していますので、試作品の製作から金具・治具の製造まで幅広い用途で活用できます。

金属用3Dプリンターについては、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

【金属用3Dプリンター徹底ガイド】基礎から人気メーカー7社まで総まとめ

⑤受託造形サービス/J・3D

J・3Dは、金属3Dプリント専門の受託造形サービスです。ドイツEOS社製3Dプリンター「EOSINT」を使った高精細な造形を実現しています。

縦・横・高さがそれぞれ250mmまでの造形が可能で、見積りはメーカーへの問い合わせが必要です。

3Dデータ作成には対応していませんので、予めSTLデータを準備しておく必要があります。

3Dプリンター出力サービス活用事例(製造業)

3Dプリンター出力サービスの「製作コストが抑えられる」、「在庫を抱える必要がない」といったメリットを活かして、製造業で様々な活用がされています。

ここでは2つの活用事例をご紹介します。

株式会社タンガロイ/モックアップ製作

利用目的 エンジンブロック展示用モックアップの作成
利用サービス JMC
課題 金属・樹脂製のモックアップを切削工法で製作するとコストがかかる

株式会社タンガロイでは、展示会に利用するモックアップ製作のため、JMCの3Dプリント出力サービスを利用しています。「低コストでの製作が可能になった」・「内部構造が見える素材で作れるようになった」・「エンジンブロックのような複雑な構造のモックアップが短納期で作れるようになった」など、低コストで試作品を製作できる3Dプリント出力サービスのメリットを活用しています。

参考資料:JMC「製作事例一覧」

株式会社ユニテック/部品欠品・廃番への対応

利用目的 部品欠品・廃番への対応
利用サービス RICOH
課題 数十年前の部品で在庫がなく、メーカー欠品で手に入らない

株式会社ユニテックは、欠品・廃番に対応するため、RICOHの3Dプリント出力サービスを利用しています。「図面と現物のみで形状を再現でき、在庫を抱える必要がなくなった」・「顧客へ提案できる製品の幅が広がった」・「部品欠品や廃番への対応ができるようになった」など、在庫を抱える必要のない3Dプリント出力サービスのメリットを活用しています。

参考資料:RICOH「3Dプリンター出力サービス(実績・事例)」

3Dプリンター出力サービスを活用したサプライチェーン短縮の動き

国際的な運送会社であるUPSは、2014年から3Dプリンター出力サービスを手掛けています。スタートした当初は6箇所だった3Dプリントの出力拠点は、現在では100か所以上に上ります。

しかし、「物流会社にとっては、拠点数を増やすことで長距離輸送が減り、収益減につながる可能性があるのでは?」と疑問が沸きます。

UPSは他社が先にプラットフォームを作るのを恐れ、このサービスを始めたのだろうという見立てがあります。「3Dプリント会社と提携することで、一定のマージンを得る」といった、長距離輸送以外での利益確保へシフトしたのかもしれません。

また、世界最大の航空貨物輸送会社FedEx(フェデックス)も、3Dプリントサービスを計画しており、海外では3Dプリント拠点に物流会社が名乗りを挙げるケースが見え始めています。

国内では、DMMが日立物流、佐川急便と共同で日立物流京浜物流センター内に3Dプリント造形サービス「DMM.make3Dプリント」の生産拠点を開設しています。

昨今は新型コロナウイルスにより、サプライチェーン短縮のため、「地産地消」の動きが進んでいます。また、海外に工場を置いて製造を行う「オフショアリング」から、生産拠点を国内に戻す「リショアリング」にトレンドが移る可能性もあります。

With/Afterコロナの最新トレンドについては、こちらの記事で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

With/Afterコロナのサプライチェーン改革とは?押さえるべき4つの最新トレンド

3Dプリンター出力サービスであれば、「生産在庫の不要化」、「長距離輸送の不要化」、「流通在庫の不要化」を満たすため、With/Afterコロナのサプライチェーン構築に効果が期待できます。

国内ではまだ大きな兆候は見られませんが、3Dプリンターを活用したサプライチェーン短縮の動きがあるかもしれません。

参考資料:UPS「3D Printing Services」
参考資料:ビジネス+IT「米輸送会社「UPS」が「運ばない」物流に変える? 3Dプリントのビジネスモデル」
参考資料:Fabbaloo「FedEx And The Future Of Logistics」
参考資料:野村総合研究所「デジタル化に伴う国際物流ニーズの減少と物流事業者の取るべき戦略」
参考資料:PRTIMES「【DMM.make3Dプリントサービス】株式会社日立物流、佐川急便株式会社と共同で日立物流京浜物流センター内に生産拠点を開設」

まとめ

3Dプリンター出力サービスは、「3Dデータ」を用意さえすれば活用できます。

メーカーによっては、3Dデータ制作から対応してもらえるケースもありますので、まずは委託範囲を明確にすることが大切です。

活用事例でご紹介したように、モックアップや欠品・廃番への対応など、製造業において3Dプリンター出力サービスを活用する動きが広がっています。

しかし、3Dプリンターの活用においては、「購入」・「レンタル」・「出力サービス」の内、どの方法が自社にとって最適かをチェックすることが大切です。

出力サービスと並行して、「購入」・「レンタル」のメリット・デメリットも忘れずにチェックしましょう。