【金属用3Dプリンター徹底ガイド】基礎から人気メーカー7社まで総まとめ

3Dプリンターは、産業用から一般家庭用まで、様々な装置や材料が開発されています。従来の主な材料は樹脂でしたが、近年、金属を用いた材料が登場しており、航空・宇宙分野の構造材の造形に活用されるようになりました。

アメリカ国立標準技術研究所は、3Dプリント技術の研究開発のために740万ドル(約8億円)もの資金を投下し、金属用3Dプリンター実用化に向けた研究を行っています。中国でも大学を中心に開発が進んでいます。その結果、1台1億円以上の価格設定が導入の障壁となっていた金属用3Dプリンターが、低価格で導入できる時代が到来しました。低価格になり、様々な企業から注目を集めている金属用3Dプリンターの魅力を本稿でご紹介します。

金属用3Dプリンターが注目を集める理由

造形データを入力すると、その形状の部品を造形できるのが3Dプリンターです。1層ずつ断面形状を造形し、重ねていくことで立体化するため金型は不要です。材料を削る従来の加工方法では難しい構造も、3Dプリンターであれば製造できるため、大きな注目を集めています。

なぜ、これまで普及することがなかった「金属用3Dプリンター」が注目を集めているのでしょうか?

金属用3Dプリンターが普及していなかった要因

アメリカの調査会社ウオーラーズアソシエイツの「Wohlers Report 2018によると、2017年の金属用3Dプリンター世界出荷台数は、1,800台程度で3Dプリンター全体の1%にも至りません。

3Dプリンター市場の大半を占めるのが樹脂の造形に対応している機種で、簡易装置であれば、数万円で購入できます。その一方で、金属用3Dプリンターは、実製品への組み込みを意識するあまり、大型品の加工や高速加工を狙った装置が大半でした。1台1億円以上する価格設定が導入の障壁になっていたのです。

金属用3Dプリンターが注目を集めている理由

高価格の装置であるが故に導入の障壁があった金属用3Dプリンターですが、国内外のメーカーが小型で低価格の装置販売を開始しました。

3Dプリンターでの製造は、人件費や材料費を押さえて、低コストに早く製造が行えるメリットがあるため、製造が中止された部品の製作や、生産ラインのオートメーション用ツール、鋳造の機能的プロトタイプなどの製造に活用したいという企業が注目し始めています。

航空機用に拡大する金属積層製造技術

実際に、全日空のエンジンブレード(※1)が金属積層製造技術で製造されています。従来一体型だった成形品が、金属の積層製造により、内部をラティス構造(※2)にする成形が可能となり軽量化を実現しました。従来のエンジンブレードより軽量化されるため、羽の根元にかかる力が軽減でき、破損に強くなります。また、表面が腐食した場合でも、内部には及ばないというメリットもあります。

このような金属積層製造技術は、航空機用だけではなく、宇宙分野にも適用されており、米国航空宇宙局(NASA)は、ロケットエンジン用ターボポンプの製造を開始しています。

(※1)エンジンブレードとは、高温高圧ガスのエネルギーを回転エネルギーに変換するための回転機です。高温ガスの噴流の中で大きな力を受けながら高速回転する過酷な環境に晒されるため、高強度な耐熱合金による高精度かつ加工難度が高い部品です。

(※2)ラティスとは「格子」を意味します。金属構造体の中に、ラティスを挿入することで強度を高めたり、軽量化したりすることができるので、ラティス構造化は注目を集めています。

金属用3Dプリンターの基本情報

次に、航空用や宇宙用など、産業用として普及し始めた3Dプリンターの基本情報を解説します。

金属用3Dプリンターとは

金属用3Dプリンターは、立体物の造形データを参考にして、金属を加工し試作品や製品を造形する装置です。3Dプリンターが優れているのは、造形データを用意すれば精密な部品を製造可能で、生産性の向上が期待できる点です。

金属用3Dプリンターの特徴

【メリット】

・従来の成形加工や切削加工では実現できない形状を造形できる

・大量生産でも少量生産でもコストが変わらないため、小ロットの作成ができる

・試作品・製品の製造を、自動化することができる

・工具などの必要な備品を製造することができる

【デメリット】

・造形データを作成するのに時間がかかる

・ひとつの製品を作成するの時間がかかるため、大量生産には不向き

・材料の金属粉末や装置が高価である

・造形精度が低い

(※注意:装置の性能の向上、低価格化は進んでいます)

金属用3Dプリンターの材料の特徴と利用用途

名称

特徴

利用用途

鉄鋼系

マルエージング鋼

高硬度で、高い靭性と機械的性質を持っている折損対策に最適な特殊鋼

航空・宇宙分野の構造材

硬く強く、しなやかな伸びや引っ張りにも強いという性質を持っている

鋳造部品

ステンレス

クロムを含んでいるため、錆を防止する効果がある

工業用部品

アルミニウム系

金属材料の中でも安価で軽量で高い強度を備えている

フレーム

チタン系

優れた耐食性を示して腐食せず、人体に親和性を持っている

イヤホン・スマホカバー

インコネル系

非常に硬い材質で耐熱に優れている

航空宇宙・自動車の耐熱部品

銅系

金属の中で汎用性が高い

工業用パーツ

金属用3Dプリンターの造形方式

金属粉末を原料に用いる場合、樹脂のように低温では溶融せず、光で固めることもできません。このような問題を解決するために開発されたのが、パウダーベッド方式とパウダーデポジッション方式です。

方式

使用熱源による方式

材料形態

パウダーベッド方式

(粉末床溶融結合)

レーザー方式

合金粉末

電子ビーム方式

合金粉末

パウダーデポジッション方式

(指向性エネルギー積層)

レーザー方式

合金粉末

アーク放電方式

合金ワイヤー

パウダーベッド方式

原材料となる金属粉末を一定の厚さで敷き詰めていき、造形したい部分を(1)レーザー方式や(2)電子ビーム方式で溶融します。積層厚分移動後に2層目の金属粉末を敷き詰めて、同じく造形したい箇所を溶融します。このような工程を繰り返して、目的の形状を造形します。

(1)レーザー方式

パウダーベッド方式の装置では、レーザーを使用することが多いです。スピードは電子ビームより劣ってしまいますが、幅広い金属(ステンレス系・ニッケル系・クロム系)の使用が可能です。

(2)電子ビーム方式

電子ビーム方式では、高融点金属の造形に適しているため、産業分野に応じた材料が利用できます。電子ビームの熱変換効率は高く、エネルギーの80%以上が熱源に変換されるため、高速造形を実現できます。スピードは早いですが、精度はレーザーよりも劣ります。

パウダーデポジッション方式

製造したい形状を造形するために、ノズルから噴出して積層する方式です。熱源で金属を溶融しながら造形し、パウダーの除去作業は必要ありません。しかし、造形可能な形状はヘッドが到達できる場所に制約されるのが欠点です。このパウダーデポジッション方式には(1)レーザー方式や(2)アーク放電方式があります。

(1)レーザー方式

レーザーが局所的に加熱し、加工光学ヘッドのノズルから細かい金属粉末が噴射されます。粉末は溶けて母材と結合します。必要に応じて、多数の層を重ね合わせて構築することも可能です。加工光学ヘッドが自動制御で加工品の上を移動することで、線・平面および特定の形状が形成されます。

(2)アーク放電方式

金属ワイヤー先端のアーク放電により、金属ワイヤーを溶融して、これらを積層することによって造形します。装置価格や材料費が比較的安いという特徴を持っています。

近年、FDM方式(熱溶解積層方式)の3Dプリンターで金属の対応も可能となってきました。FDM方式では、熱可塑性樹脂材料に金属の粉末を入れます。とても便利な方式ですが、金属の密度が低くなることや収縮率が課題となっています。FDM方式は、今後の技術発展が期待されます。

金属用3Dプリンター造形プロセス

次に、金属用3Dプリンターの造形プロセスを解説します。

造形ファイルの準備 

3Dプリンター専用のソフトウェアにデータを読み込みます。造形姿勢、サポート設計、応力解析、ラティス構造(格子)化、溶融条件、走査パス(※3)、スライス化等を設定して造形ファイルを作成後、装置に転送します。

(※3)走査パスとは、レーザーの走査軌跡のことをいいます。走査パスを設定することで装置が動きます。

3Dプリンターデータの作成方法につきましては、こちらで詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

3Dプリンターデータの作成方法~医療・製造・アパレル編~

 装置の準備

金属粉末(材料)と造形プレートを装置内の造形モジュールにセットします。3Dプリンターの装置に付属されているバキュームを利用して、真空引きとアルゴンガスの充填を繰り返し、装置内部の酸素濃度を下げていきます。酸素濃度が規定値まで下がったら、造形開始です。

3Dプリンターで印刷

造形ファイル作成時に設定した積層厚分の金属粉末が、造形ステージ上に敷かれ、造形ファイルに沿ってレーザー走査し、金属粉末を溶融します。レイヤリングとレーザー走査が繰り返されていき、造形物が作られます。造形が完了したら、金属粉末に埋もれた造形物を造形プレートごと取り出します。

おすすめの業務用3Dプリンターや選び方については、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

【製造業向け】おすすめの業務用3Dプリンター7選と選び方を徹底解説!

後処理

3Dプリンターの造形で、機械加工と同等の仕上がり精度は期待できません。金属用3Dプリンターを活用すると材料種類によって異なりますが、Ra:4~10μm程度(※4)の粗さや表面うねりが出てしまいます。装置では超えられない精度があるため、研磨をするなど後処理を行わなければいけません。

(※4)Raとは、「算術平均粗さ」のことをいいます。測定器を使い、表面の凸凹の平均値を基準線として、その区間の基準線からの距離の平均値を算出します。

金属用3Dプリンターのおすすめメーカー

最後に、金属用3Dプリンターのおすすめメーカーをご紹介します。

3D Systems

3D Systemsは、Phenix Systems社やLayerWise社など50社以上の3Dプリンターメーカーを買収している大手メーカーです。豊富な商品ラインナップを取り扱っており、DMPシリーズではクラス最高の酸素濃度を実現しています。酸化を防ぐ真空チャンバは人気の仕様です。

また、ソフトウエアやアプリケーションも販売しているため、提案力を持っています。そのため、3D Systemsの3Dプリンターは、航空宇宙・自動車・ヘルスケア・エンターテイメントなど多くの業界で使用されています。

EOS

1989年に、Dr.Hans J Langerがドイツに設立したメーカーです。3Dプリンターの精度・スピード・品質・コストのバランスを追求した製品開発をする姿勢は、安心して使える3Dプリンターとして定評があります。また、レーザー焼結法(SLS)とDMLS直接金属レーザー焼結で世界一の市場シェアを誇ります。

1993年には、NTTデータエンジニアリングシステムと販売代理店契約を締結しており、日本国内でも約160台以上の3Dプリンターが導入されています。海外製品の保守点検は懸念があるかもしれませんが、保守点検サービスも充実しているため、多くの信頼を集めているメーカーです。

松浦機械製作所

有名な展示会に登場する「LUMEX Avance25」を開発している日本の金属3Dプリンターのパイオニアです。松浦機械製作所の3Dプリンターの大きな特徴は、高速切削加工です。後処理されているので、深彫金型などでは放電レスで作ることができます。また、レーザー照射条件を変更することで、通期率を自在に制御可能で、ベント機能を持つ金型を一体で造形できます。

2017年には「LUMEX Avance-60」を発表。この3Dプリンターであれば大物試作部品も造形が可能です。エンジンブロック制作を90時間で造形できる実例は大きな注目を集めています。

DMG森精機

DMG森精機は、金属積層造形技術の価値を高めるため、トポロジー最適化の研究をしているメーカーです。トポロジー最適化とは、任意の3Dプリンターに重荷などの条件を与えることで、ソフトウェア側が自動で強度を損なわないように、最適な材料分布を見つける処理のことです。

人の発想による設計では想像できない形状を実現できることが大きな特徴で、トポロジー最適化は3Dプリンター技術との相性が良く、造形品の軽量化などで効果を発揮します。研究は2018年から開始されており、まだ製品化されていませんが、今後の開発が期待されています。

ヤマザキマザック

ヤマザキマックの3Dプリンターは、航空宇宙やエネルギー、医療分野で使用されている素材単価の高い難削材部品で効果を発揮で発揮します。また、摩擦攪拌(かくはん)接合技術(※5)と切削加工を融合した3Dプリンターも販売しており、切削加工から接合までを1台で行えるハイブリッド複合加工機として注目を集めています。

ヤマザキマックの接合技術は、材料以外の素材を用いず、材料も溶融しないことから変形や歪みがなく、異なる材料の接合も可能です。

(※5)摩擦撹拌とは、突起の工具を回転させながら強い力で押し付けることで材料を軟化させ、複数の材料を一体化させる接合技術のことをいいます。

オークマ

オークマ社は、日本で初めて金属加工を完結できる3Dプリンター「MU-6300V LASER EX」と「MULTUS U3000 LASER EX」を発売したメーカーです。他のメーカーも金属用3Dプリンターを発売していましたが、レーザーを用いた焼き入れ工程ができるとして注目を集めました。

ミラーリング・旋削・研削加工・焼入れ・金属積層造形をワンストップで行えるので「究極のワンチャッキングマシン」と呼ばれており、高精度である点でも注目を集めています。

アスペクト

アスペクト社は、大型の高温粉末床溶融結合式の3Dプリンターを開発・製造・販売しているメーカーです。独自開発の3Dプリンター「RaFaElⅡ550‐HT」は、多様な材料に対応しており、微細加工と共に大きなワークサイズに対応している装置として注目を集めています。

今までは、分割するしか造形できなかった試作品を、まとめて造形できることができます。

まとめ

これまで、金属用3Dプリンターは、実製品への組み込みを意識するあまり、大型装置で高価格でした。しかし、各社の研究・開発によって高性能で小型化、低価格で導入できる装置が登場してきています。

金属用3Dプリンターを活用すれば、試作品・製品の製造をオートメーション化することができ、生産性を上げることができるでしょう。今回は、おすすめの金属用3Dプリンターをご紹介しましたが、導入前には自社に合った導入事例の確認をおすすめします。

ぜひ、これを機会に金属用3Dプリンターの導入を検討してみてください。