【光造形3Dプリンター徹底ガイド】基礎から人気メーカーまで総まとめ

IT調査会社IDCJapanが公表した「国内3Dプリンタ市場支出額予測」では、2021年以降に3Dプリンター市場が大きく成長に転じることが示されています。

新型コロナウイルスによる緊急事態に対応し、3Dプリンターを活用したフェイスシールドやマスク製造事例が多数見られたことから、3Dプリンターの適用範囲は広がり、新たなビジネスが生まれる可能性があると注目されているのです。

主要な3Dプリンターは、光造形と熱溶解に分類されます。本稿では、光造形3Dプリンターの基礎知識から、おすすめの機種や活用事例をご紹介します。3Dプリンターの導入を検討している方は、本稿をぜひ参考にしてください。

3Dプリンターの選び方

造形方式

強度

デザイン性

造形速度

光造形方式(レーザー方式)

伝統的な方式で高精細かつ表面の滑らかな造形物を作成できる

光造形方式(DLP方式)

高速・高精度な造形を行い、細かいパーツなどの造形にも対応できる

熱溶解方式

耐熱性と耐久性に優れており、試作品や治具の造形に適している

×

マテリアルジェッティング

高精細なモデルが造形できるため、精度が求められるパーツに適している

バインダージェッティング

造形速度が速く着色を容易とする

×

×

粉末焼結積層造形

金属素材も使用可能なため鋳型の造形に適している

×

HP Multi Jet Fusionテクノロジー

HP独自の3D造形技術。高速で高精細な仕上がりを実現する

3Dプリンターの造形方式をご紹介しましたが、主要装置は「光造形」と「熱溶解」に分類できます。この主要な2つの造形方式の違いについて詳しく把握することが、3Dプリンターを導入する上で大切です。

光造形と熱溶解の違い①:原理

光造形は液体樹脂(レジン)に光を照射して硬化させていきます。光造形で使われるレジンは、素材によって「エポキシ系樹脂」と「アクリル系樹脂」の大きく2つに分かれます。

熱溶解は、熱で溶かしたフィラメントをノズルから押し出して、一層ずつ重ねていきます。ノズルがXYZの3軸に移動する装置が多いです。熱溶解の3Dプリンター装置を導入する場合は、専用フィラメントが指定されている装置か、市販のフィラメントも使える装置かの確認を忘れずにしましょう。

光造形と熱溶解の原理は異なりますが、光造形の方が重力が偏らないため精度が高いです。従来は、光造形の3Dプリンターは高価でしたが、近年、熱溶解と同価格で入手できるものが増えています。

フィラメントの詳細は、こちらの記事で詳しく解説しています。

3Dプリンターフィラメントの種類別の特徴と利用用途を徹底解説!!

光造形と熱溶解の違い②:造形精度

造形精度の大きな違いは、光造形では積層跡が残らないことです。

熱溶解は、フィラメントを溶かして一層ずつ積み重ねていきます。そのため、細かな線の積層跡が残ってしまいます。しかし、光造形は液体樹脂に光を照射して硬化させていくため、積層跡が残りません。

また、積層ピッチ(※1)で比較すると、熱溶解が0.05mm~0.3mmまで調整可能なのに対して、光造形は0.01mmまで調整可能です。そのため、光造形の方が造形精度は高く滑らかな造形物を製造する場合に適しています。

※1:積層ピッチとは、1層の大きさをいいます。一般的に積層ピッチが細かいほど造形時間は長くなりますが、キレイな造形ができます。

光造形と熱溶解の違い③:サポート設定

ラフト(※2)・サポートを設定してプリントすることができますが、光造形は硬化してしまうので、ラフトと造形物が一体化してしまいます。熱溶解であれば、ラフトと造形物が一体化しても、問題なく剥がすことができます。光造形では、造形物とラフトの間に空間を設けて、サポート材でつなぐ必要が出てくるため、造形が難しく感じられるでしょう。

※2:ラフトとは、浮き台のことをいいます。ラフトの上で造形することにより剥がれにくく、狂いがなく造形することができます。しかし、ラフトを除去しにくい形状もあるため、注意しなければなりません。

光造形3Dプリンターとは

光造形と熱溶解の違いが理解できた上で、次に、光造形3Dプリンターの特徴をご紹介します。

光造形3Dプリンターの種類

光造形3Dプリンターには「SLA」と「DLP」の2種類のプリンターがあります。

(1)SLA方式

SLA(レーザー方式)は、”Stereolithography Apparatus”の略称で、各レイヤーにレーザーで描画をしていきます。そのため、造形時間がかかりますが、高精細で緻密な造形が可能です。

・高精細で緻密な造形ができる

・造形時間がかかる

・材料交換時にクリーニングが必要

・常に液体を満たす必要がある

(2)DLP方式

DLP(光方式)は、Digital Light Processingの略称で、プロジェクターで一括露光を行い、樹脂面を硬化させていくことで高速造形します。プロジェクターの光はピクセルによって構成されるため、ギザつきが発生します。

・高速な造形ができる

・造形体積分の材料のみで造形できる

・ギザつきが発生する

・材料交換が比較的簡単である

光造形3Dプリンターのメリット

・微細で高精細な造形ができる

光造形は液体樹脂に光を照射して硬化させていくため、積層跡が残らず表面が滑らかです。また、光造形の積層ピッチは0.01mmまで調整可能なので、微細で高精細な造形ができます。また、熱溶解とは異なり、液体状の関係で樹脂が高温にならないため、熱収縮による反りなどの心配もありません。

・一括露光による高速造形ができる

光造形は、光が高速に照射されるため、1個造形する場合も複数個造形する場合も印刷時間は変わりません。そのため、バリエーションデザインや同時に複数プリントなど、複数の造形物を製造する場合に優れた生産性を発揮します。

・多種類の樹脂が使用できる

光造形では、一般的なプロトタイプだけではなく、エンジニアリングレジンの使用も可能です。強度や耐久性に優れるものから、高耐熱のものまで、さまざまな機能性プロトタイプに使用できるため、幅広い用途に活用できます。

光造形3Dプリンターのデメリット

・太陽光で硬化が進み、壊れやすくなる

光造形で使用する材料は、紫外線硬化樹脂のため、太陽光が当たると硬化する恐れがあります。そのため、レジン(樹脂)の保管にも注意しなければいけません。粘度・遮蔽・温度など適切な状態で取り扱う必要があります。

・洗浄などの後処理が必要

光造形は、液体の樹脂を使用しているため、造形モデルに付着した余分な樹脂を洗浄して除去する必要があります。洗浄・サポート除去・二次硬化・研磨・塗装などの後処理が必要となることが欠点です。

・換気できる場所に設置しなくてはならない

光造形用レジンは強烈なニオイを放ちます。純正レジンは性能が良いですが、大抵の人が気になるニオイです。また、レジンの揮発成分は身体に有害なので保護マスクや換気をして使用しなければなりません。そのため、光造形3Dプリンターは、換気の良い場所に設置してください。

光造形3Dプリンターの造形プロセス

次に、光造形3Dプリンターの造形プロセスをご紹介します。

1.造形データを3Dプリンターに読み込む

3次元データを作成し、STLフォーマットに変換します。サポートデータやスライスデータを作成後、3Dプリンターに造形データを読み込ませます。

2.プラットフォームが液体に浸かる

プリントが開始すると、プラットフォームが硬化レジン(液体)に浸っていきます。

3.レーザービームが照射され固められる

レジンタンクの下から光が照射されていき、レジンが硬化し一層目が造形されます。一層目の造形が終わると、ビルドフォームが上にいき、余分なレジンを落とします。この繰り返しによって、造形データに沿ってプリントされていきます。

4.サポート構造を取り除く

光造形にもサポート構造ができますが、専用のサポート材はなく、使用するレジンと同じものでサポート構造が作られます。サポートに該当する部分を除去すると、造形物の表面にサポート除去痕が残るため、紙やすりなどを利用して研磨していきます。

5.後処理(洗浄)を行う

光造形は、レジンが液体であることから、造形物にも余分なレジンがこびりついています。このレジンを落とすためには、イソプロピルアルコールやエタノールなどの溶剤に浸して洗浄を行っていきます。洗浄時間は10~20分程度で、長時間溶剤に浸すと溶けてしまうので注意が必要です。

6.後処理(二次硬化)を行う

光造形の層の間は、目に見えないレベルで半硬化の状態です。二次硬化を行うことで、この半硬化の状態が完全に固まります。標準的なレジンは二次硬化の必要はありませんが、エンジニアリング用レジンであれば、二次硬化の後処理が必要です。

7.後処理(研磨)を行う

光造形で完成させた造形品を研磨や塗装することで、更に美しい仕上がりとなります。

最新機種でおすすめの産業用光造形プリンター

各3Dプリンターメーカーから、続々と産業用光造形プリンターが販売されています。ここでは、最新の光造形3Dプリンターをご紹介します。

XYZプリンティングジャパン:PartPro150xP

PartPro150xPの特徴は、ポリゴンミラー・UVレザー・レンズから成る独自開発レーザースキャニングユニットを搭載していることで、従来比約2倍の高速造形が実現できます。

また、特殊コーティングを施したレジンタンクも魅力で、従来製品と比較して約2倍の長寿命化も実現し、ヒーティング機能など造形の安定性と品質も向上させた3Dプリンターです。

造形サイズ・造形速度・造形精度の向上した産業用3Dプリンターですが、価格は39万8,000円と産業用の中では安価であるため注目を集めています。

Nexa3D:NXE400

NXE400の特徴は、Nexa3D独自の潤滑剤サブレイヤー光硬化(LSPc)技術を活用することで、精度や解像度を損ねることなく、超高速造形を実現できることです。国内市場にある同等の光造形3Dプリンターの6倍の速度を実現します。また、最大16ℓの部品を連続的にプリントすることも可能です。

また、3Dプリンター付属のソフトウェアのUI設計も考慮されており、印刷工程が簡素化できるなど、支持を集めています。(※販売価格:要お問い合わせ)

Carbon:L1 Printer

L1Printerの特徴は、互換性に優れており、大量生産向けに設計された大型3Dプリンターであることです。

Carbon社は、スポーツ用品メーカーのadidasやRiddell、自動車メーカーSpecializedと提携しており、3Dプリント技術を採用した最終製品をサポートしているメーカーです。また、2019年3月からは、歯科用統合テクノロジーのパッケージ化を開始するなど、さまざまな業界での製造実績を持ちます。

L1Printerは、3年契約で年間25万ドル(約2,680万円)と高額な産業用3Dプリンターですが、製造のオートメーション化の実現ができる光造形3Dプリンターです。

Formbles:Form3

Form3の特徴は、光造形の新方式であるLFS(Low Force Stereolithography)を採用しており、LPUと呼ばれるレーザー発振器と反射型ユニットに、レジンタンク底面を柔軟性のある材料に変更したフレキシブルタンクによって、底面と造形物の剥離による造形物への負荷が軽減されることです。

造形物の仕上がりにムラができにくくなり、高品質な造形が実現できる装置ですが、価格帯が57万5,000円(税別)と光造形プリンターの中では安価で、導入しやすさが魅力です。

武藤工業:ML-100

武藤工業の特徴は、UV光を使用するDLPを採用していることです。吊り下げ型の積層方式を採用することで、コンパクトサイズの装置でありながら、高精度の造形を可能にしました。

製造業での部品試作や高解像の宝飾デザインなどの緻密な造形に適しています。また、USBメモリー経由で造形データを取り込んでプリントができるため、PCの常時接続が不要です。価格帯は230万円(税別)となりますが、持ち運びや操作方法の利便性と緻密な造形を求めたい人に適しています。

有名企業の光造形プリンター活用事例

3Dプリンターの適用範囲は広がり、新たなビジネスが生まれる可能性があると注目を集めていますが、既に有名企業では3Dプリンターが活用されています。ここでは、有名企業の光造形プリンターの活用事例をご紹介します。

メルセデス・ベンツ社:医療機器の生産サポート

2020年3月27日のメルセデス・ベンツ社のニュースリリースで、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、3Dプリンターを活用して医療機関を支援することが発表されました。

同社では、約30年前から付加製造技術の開発・活用を実施しており、多様な手法の3Dプリンターを保有し、年間15万個の部品を製造しています。この生産技術を活用した医療機器生産で支援することが表明されています。

参考資料:メルセデス・ベンツのニュースリリース

ニューバランス社:アスリート向けシューズの開発

スポーツシューズメーカーのニューバランス社は、3DプリンターメーカーFormlabsと提携して、3Dプリントスニーカー「FuelCell Echo Triple」の発売を開始しました。

新しい独自のフォトポリマー樹脂を採用した弾力性のある格子状のミッドソールから構成されており、高い耐久性・伸張性・長寿命を実現し、従来の製造方法を用いて生産されるソールよりも10%の軽量にも成功しています。

多くのランナーが、数百マイル走るたびにシューズを買い替える問題に対処しようという発想から生まれた製品です。

参考資料:ニューバランス社のニュースリリース

フィジーク社:レーシング用サドルの開発

フィジーク社は、3Dプリントテクノロジーを採用したレーシング用サドル「ANTARES VERSUS EVO 00 ADAPTIVE」を販売開始しました。シームレスにデザインされたゾーンクッション・サポート性・パワー伝達を兼ね備えた全く新しいパッドを採用しています。

このパッドは、最先端テクノロジーである3Dプリントを用いています。格子状のエラストマー(※3)から作られているため、従来のサドルと比較すると約60%もの圧力低減が可能となり、安定性と重量配分が大きく向上している製品です。

※3:エラストマーとは、ゴム弾性を持つ素材のことをいいます。

参考資料: Antares Versus Evo 00 Adaptive- Welcome to the future

まとめ

今回は、光造形3Dプリンターについて解説しました。高速な造形が可能で、高精細の造形物が製造できます。従来は、熱溶解方式の3Dプリンターが主流でしたが、光造形方式の3Dプリンターの低価格化が進み、導入しやすくなりました。

新型コロナウイルスの影響で医療機器支援が3Dプリンター技術で行われ、3Dプリンターの価値が再認識されています。最新の3Dプリンターは、高性能の装置が多く登場しており、有名企業も導入しているため、技術が実証されていると考え良いでしょう。これを機会に導入の検討をしてみてください。