3Dプリンターフィラメントの種類別の特徴と利用用途を徹底解説!!

2020年1月に矢野経済研究所がプレスリリースしている3Dプリンタ材料の世界市場に関する調査を実施(2019年)」では、3Dプリンター材料の世界市場規模は、2018年から2023年まで年平均21.2%で成長していき、2023年には4,750億6,700万円になると予測されています。

従来はPLA樹脂とABS樹脂が主要フィラメントとして販売され、主に試作品向けに利用されていましたが、最近では3Dプリンターの材料の多様化や高機能化が進み、最終製品向けにも利用されるようになりました。

このような背景があり、3Dプリンター材料の需要は伸びているのです。

本稿では、最新の3Dプリンターの材料(フィラメント)の種類別の特徴と利用用途を解説します。

3Dプリンターのフィラメントとは

フィラメントとは、FDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層法)3Dプリンターの専用材料です。熱可塑性樹脂のため、加熱すると柔らかくなり、冷やすと固まる性質を持っています。3Dプリンターの押出ノズルに挿入することで、加熱されて溶け、押し出されて積層されます。

もともと、FDM(熱溶解積層法)の製法はストラタシス社が開発したものですが、2009年に特許が失効したことをきっかけに、様々なフィラメント材料が開発されるようになりました。

分類

種類

特徴

一般的な利用用途

主要フィラメント

PLA樹脂

植物由来で、生産過程においてカーボンニュートラルという特性を持つ。

家電製品・自動車のパーツ

ABS樹脂

フィラメントの中で最も汎用性が高い。塗装や研磨など後処理も行える。

工業製品パーツ

特殊フィラメント

ポリアミドナイロン樹脂(PA)

フィラメントの中でも高機能で汎用性が高い。

試作品・モックアップ

耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)

安価で生産量が多いポリスチレンにゴムを配合した耐衝撃性を持つ。

食品容器

ポリカーボネート(PC)

透明性と耐衝撃性を持つ樹脂。

スマートフォンのレンズ

ポリエチレンテレフタレート(PETG)

耐熱性や耐寒性、強度に優れていて透明度が高く、染色性にも優れている樹脂。

プラモデル

ポリ乳酸(PLA)

PLA樹脂を改良したバイオプラスチックで、安定したプリントが行える。

自動車のハンドル

ポリアセタール(POM)

耐摩耗性に優れた素材で自己潤滑性があるため、金属の代替品となる。

楽器のパーツ

ポリプロピレン(PP)

耐衝撃性・耐摩耗性・耐久性といった強靭な性質を持つ。

ロボット用ブラケット

ポリビニルアルコール(PVA)

親和性に優れており、接着性や酸素バリア性、造膜性、耐薬品性も持つ。

シューズ

エラストマー(TPE)

耐摩耗性、耐衝撃性、柔軟性、引張強度、耐薬品性に優れ3Dゴム用フィラメントとも呼ばれる。

ホース、パッキン

サポート材

3Dプリンターで試作品を造形する場合に、必要な材料で造形後は取り除く。

その他

PLA樹脂をベースにして、異なる素材を混ぜ合わせたものが開発されている。

3Dプリンター主要フィラメント:PLA樹脂

PLA樹脂(Poly-Lactic-Acid:ポリ乳酸)は、ジャガイモ等に含まれるデンプン等、植物由来のプラスチック素材です。乳酸を重合することで完成した高分子のポリエステル素材であり、石油由来のABS樹脂の代替プラスチックとして使用されることが期待されている樹脂です。

メリット

PLA樹脂は植物由来の樹脂で、生産過程においてカーボンニュートラル(二酸化炭素を排出しない)という環境に優しい性質を持っています。

廃棄処理時も二酸化炭素と水に分解でき、食品用トレイ・農業用フィルム・家電製品部品・自動車部品にも使用されています。また、他の分子と混合させることで、異なる性質を持たせたPLA樹脂の開発も可能です。

デメリット

ABS樹脂と比較すると、PLA樹脂は耐久性や耐熱性に弱く、同等の性能を出すためには成形方法などに工夫が必要でした。

近頃は、PLA樹脂に結晶化促進剤が含まれた樹脂の開発が進んでいるため、従来ほど手間をかけずにABS樹脂と同等の加工のしやすさになりつつあります。

・PLA樹脂が利用可能な造形方式

材料押出堆積法

(FDM)

粉末焼結積層造形(SLS)

マテリアル

ジェッティング

バインダー

ジェッティング

光造形法

(SLA)

HP Multi Jet Fusion

3Dプリンター主要フィラメント:ABS樹脂

3Dプリンター主要フィラメントのABS樹脂は、最も汎用性の高いプラスチック素材です。ABSは、アクリロニトリル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン (Styrene)の頭文字に由来します。使用範囲は幅広く、自動車や家電製品、住宅用建材、家庭用など様々な用途で利用されています。

メリット

3つの成分を化学的に配合しているABS樹脂は、見た目は光沢があり、外観も美しいです。そのため、現代の工業製品に多く使用されています。また、表面加工や塗装、印刷などの後処理が行えるプラスチックとしても重宝されています。

デメリット

ABS樹脂は汎用性が高いですが、石油由来の樹脂のため、加工中に独特の臭気を発します。また、耐光性に弱く、紫外線下で強度が劣化しやすいです。

・ABS樹脂が利用可能な造形方式

材料押出堆積法

(FDM)

粉末焼結積層造形(SLS)

マテリアル

ジェッティング

バインダー

ジェッティング

光造形法

(SLA)

HP Multi Jet Fusion

3Dプリンター特殊フィラメント

PLA樹脂はABS樹脂と比較すると、耐熱性や耐久性が弱いです。そのため、成形物を製造する場合は、ABS樹脂が利用されるのが一般的でした。しかし、特殊フィラメントが開発されたことで、3Dプリンターの利用の幅が広がりました。

木の質感を再現できたり、ブロンドの質感を再現できるものまで登場しています。

以下では、特殊フィラメントをご紹介します。

ポリアミドナイロン樹脂(PA)

3Dプリンター用材料の中で、高機能で汎用性が高い材料がポリアミドナイロン樹脂です。工業用の過酷な条件下でも使用できる、高耐熱性や耐久性を向上させた、エンジニアリングプラスチックとしても有名です。厚くプリントすれば、耐衝撃性に優れたパーツとして使用することができ、薄くプリントすると衣類などに使用することができます。

耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)

ポリスチレンは、プラスチック素材の中でも古い歴史を持ちます。1930年に工業化されて以来、安価で生産量が多いプラスチック素材としての地位を確立しています。また、軽量で剛性が高く、透明性にも優れているため、5大汎用樹脂としても知られています。

このポリスチレンにゴムを配合して、耐衝撃性を大幅に強化したのが耐衝撃性ポリスチレンです。ゴムを配合しているため、透明性はなくなりますが、耐衝撃性は大幅に向上しています。

ポリカーボネート(PC)

ポリカーボネート樹脂は、高い透明性と難燃性、プラスチックでは最高の耐衝撃性を持つエンジニアリングプラスチックです。ガラスと同程度の透明性を持つため、カメラレンズ等にも使用されます。

透明樹脂のポリエチレンやアクリルと比較すると50倍程度衝撃に強いです。また、紫外線にも強いため、屋外で使用できることも魅力です。割れることはありませんが、傷は付きやすいので、取り扱いには注意が必要です。

ポリエチレンテレフタレート(PETG)

ポリエチレンテレフタレートは、ペットボトルに使用される素材です。また、フリースなどにも使用されています。耐熱性や耐寒性、強度に優れ、透明度も高いといった特性を持っており、強靭で耐薬品性もあります。

3DプリンターのPETGは、ABS樹脂とPLA樹脂の良いところが組み合わさったもので、耐久性があり、加工がしやすい素材として人気を集めています。また、ABS樹脂やPLA樹脂に近い価格で購入できるため、コストパフォーマンスに優れた樹脂として知られています。

ポリアセタール(POM)

ポリアセタールは、耐摩耗性に優れた素材で、自己潤滑性があります。また、高い温度安定性を持ちます。そのため、金属の代替品として使用されることが多いです。

主な利用用途としては、ギアやベアリングなどの回転物や、グリップやフックなどの耐久性が必要なパーツ類です。近頃は、木管楽器や金管楽器のパーツにも使用されています。

ポリプロピレン(PP)ライクレジン

ポリプロピレンは、耐衝撃性・耐摩耗性・耐久性といった強靭な性質を持つ素材です。しかし、3Dプリンターの材料としては再現性が低いため、物性を発揮したい場合はポリプロピレンライクレジンが使われます。

ポリプロピレンライクレジンは、UV硬化樹脂で、光造形法の3Dプリンターの材料として使用することができます。光造形法3Dプリンターは滑らか、高精細な仕上がりが可能で、見た目も質感も本物のポリプロピレンの機能、質感を作ることができます。

ポリビニルアルコール(PVA)

熱可塑性樹脂のひとつで、融点は約200℃前後、耐熱温度は40~80℃、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルを鹸化して作られる樹脂材料です。親水性が強く、水に溶ける特徴を持ったプラスチックです。

また、水溶性プラスチックですが、接着性や酸素バリア性、造膜性、耐薬品性に優れており、耐久性の強い被膜を得ることができるため、フィルムなどにも使用されています。

エラストマー

エラストラマーは、3Dプリンター用ゴムフィラメントとも呼ばれます。他のフィラメント材料にはない、耐摩耗性、耐衝撃性、柔軟性、引張強度、耐薬品性に優れる素材です。

造形が難しいという弱点があり、金型や鋳型を使用して行われるのが一般的でしたが、熱可塑性ポリウレタンを配合することで造形の効率化が可能となりました。

サポート材

サポート材とは、3Dプリンターで試作品を造形する場合に必要な材料で、造形後は取り除く部分です。空中に浮かんだ形を造形する場合、それを支える土台がなければ、造形物は落下してしまうため、一時的にサポート材を置いてプリントします。造形物が固まった後にサポート材を取り除きます。

その他

PLA樹脂はABS樹脂とは異なり、造形する場合には緻密な金型のコントロールが必要になります。しかし、PLA樹脂をベースにして、異なる素材を混ぜ合わせることで、全く異なる質感を3Dフィラメントで再現する開発が進められています。木の質感を再現できるフィラメントや、銅粉を混ぜ合わせることができるフィラメントなどが開発されています。

3Dプリンターフィラメントの主要メーカー

3Dプリンターフィラメントの主要メーカーは、以下の通りです。

株式会社北陸エンジニアプラスチック 

北陸エンジニアプラスチックは、2015年に国内初3Dプリンター用フィラメントの製造販売を開始したメーカーです。汎用樹脂から特殊な樹脂の素材・加工品を幅広く取り扱っています。100%国内生産のため、安心・安全に使用することができ、ムラのない高品質な仕上がりとなるフィラメントを販売しています。

イムテック株式会社 

イムテック株式会社は、モリブデン・タングステン・タンタル・ニオブ・インコネル・チランなどの精密加工を得意としているメーカーです。新素材を始めとする研究開発にも取り組んでおり、様々な産業に関連製品を販売するとともに、技術サービスを提供しています。フィラメントの開発も積極的に行っているメーカーです。

株式会社システムクリエイト 

株式会社システムクリエイトが販売しているPolymaker社製フィラメントは、7段階の品質管理プロセスのもと生産されている、最高品質のフィラメントです。3Dプリンターの詰まりが起きにくいように設計(Jam-Freeテクノロジー)されており、全てのデスクトップ熱融解式積層3Dプリンターで使用することができます。素材の種類も多く、様々なシーンに活用できるフィラメントを取り扱っています。

エンズィンガージャパン株式会社 

エンズィンガージャパン株式会社は、3Dプリンターへの豊富な対応実績を持つメーカーです。炭素繊維強化、帯電防止、導電性、LDS機能など特殊な樹脂にも対応しており、顧客の要望ごとに、カスタム素材の開発も行っています。

株式会社ウエストワン 

株式会社ウエストワンは、世界中のハイエンドでニッチな分野で活躍する企業を支援してきました。高い技術とユニークな製品を有し、世界へ進出する意志と希望のある企業に対し、最適な支援をする企業の役割を担い、3Dプリンターフィラメントの開発も行っています。ドイツ・米国・中国に生産拠点を持っており、世界各地のプリンタメーカーとのネットワークを築いています。

フィラメントに関してよくある質問

フィラメントに関心を持つ方から、よくある質問をご紹介します。

Q.フィラメントは自作することができますか?

フィラメントは自作できます。オランダのメーカー3devoのフィラメント・エクストルーダーには繊細なセンサーが内蔵されており、材料の加熱や材料の厚みを測るなど、全ての工程を自動調整することができます。

これらのカスタム機材を活用すれば、異なる材料を組み合わせてカスタムし、全く新しい材料のフィラメントを作ることも可能です。既存のフィラメントに満足できない場合は、新しいフィラメントを自作してみても良いでしょう。

Q.劣化が早いフィラメントの保存方法を教えてもらえますか?

3Dプリンターの素材によって異なりますが、PLA樹脂は湿気に弱いです。湿気を含んだPLA樹脂を使用すると、プリント出力中にプチプチと音を立て吐出不良になり、ノズル詰まりの原因になってしまうことがあります。これをフィラメントの劣化といいます。一度、湿気を含んでしまうと劣化の原因になるため、乾燥剤を入れた袋などに保管しましょう。

Q.異なる色のフィラメントを混合することはできますか?

2018年頃から、異なる色のフィラメントを混合することができる3Dプリンターが発売されるようになりました。Crane Quadは、CMYK材料を組み合わせることで、任意のカラーミキシングを可能とした3Dプリンターです。理論上50,000色まで再現ができるだけでなく、個々のフィラメントが有する特性を活かし、全く新しい単一物体を造形することもできます。

まとめ

ABS樹脂が3Dプリンターフィラメントとして汎用性が高く普及をしていましたが、カーボンニュートラルの特性を持つPLA樹脂が誕生しました。また、PLA樹脂の他分子を配合した、新たなフィラメントが続々と登場しています。

最近では、異なるフィラメントを混合できる3Dプリンター機器やフィラメントを自作できる機器も登場しています。このように、汎用性が高まるにつれて3Dプリンター市場は、毎年伸びています。ぜひ、新素材のフィラメントに注目をしてみてください。