働き方改革やコロナ禍、生産年齢人口の減少など、企業を取り巻く環境は劇的に変化しています。競争力を維持し、さらなる生産性向上を目指すため、「業務改善」の必要性を感じている企業は多いのではないでしょうか。
今回は、そもそも業務改善とはどのようなものか、注目される背景や期待できるメリットについて解説します。業務改善の具体的な進め方やポイント、代表的な手法についても触れていますので、参考にしてみてください。
業務改善とは
業務改善とは、現状の業務が抱えている課題点や問題点を洗い出し、見直すことで、生産性の向上を目指す改善アプローチを指します。業務改善を行う目的は、業務効率化、品質・売上の向上、経営の安定など企業によって異なります。
もともとは製造業を中心に取り組まれてきた概念ですが、近年では、人手不足や労働環境の変化により、さまざまな業界、企業で業務改善の必要性が叫ばれています。
業務改善が注目される背景
業務改善が注目される背景には、生産年齢人口の減少、労働環境の変化への対応など外的な要因が挙げられます。
- 生産年齢人口の減少
内閣府が発表した「人口減少と少子高齢化」の資料によると、日本の生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)は、1990年代より徐々に減少し、2065年には約4,500万人になるとされています。2020年と比較すると、約2,900万人の減少となり、総人口に占める割合は50%程度まで低下し、人手不足がより深刻化する可能性があります。無駄な業務を減らし、生産性向上を目指す業務改善は、生産年齢人口の減少に伴う企業の人手不足を解消する一手として重要視されています。
- 労働環境の変化への対応
長時間労働の是正、多様な働き方の受け入れなど、働き方改革の推進に伴い、企業を取り巻く労働環境は刻々と変化しています。変わりゆく労働環境の変化に対応するためにも、業務改善による業務効率化や標準化は欠かせない取り組みです。
以上のような点から、業務改善は近年特に注目を集め、実際に業務改善に取り組む企業も増えています。
経費削減との違い
業務改善と混同しやすい言葉に「経費削減」があります。どちらもムダを省くという点は共通しますが、業務改善と経費削減では目的や対象とするものが異なります。
経費削減では、コストカットによる利益率の向上を大きな目的としています。例えば、以下のような取り組みが、経費削減に効果的です。
- 電気料金の節約のために、LED電球などの省エネ製品に切り替える
- カラー印刷ではなくモノクロ印刷を行う
経費削減の場合、削減対象が見つかれば、比較的容易に問題解決が可能な点も特徴です。
一方、業務改善では、現場で起きている問題や改善点を見直し、生産性アップや労働環境の改善、サービスや品質の向上を量ることが大きな目的です。つまり、企業経営の効率化に関わるすべての業務を改善対象としています。そのため、課題や問題の大きさによって解決まで長い時間がかかったり、想定通りに改善が進まなかったりするケースも多々あります。
業務改善における「QCD」と「4M」とは
業務改善を効果的に行うために欠かせない要素として挙げられるのが「QCD」と「4M」です。それぞれの意味や、業務改善時の活用方法について解説します。
QCD
QCDは、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の頭文字を組み合わせた言葉で、モノやサービスを提供し、利益を上げるために重要な要素を表しています。
これらの3つの要素はトレードオフの関係にあるため、どれか1つだけが改善しても成功とはいえません。例えば、高品質のものを作れるようになったがコストが高くなってしまった、製造により多くの時間が必要となってしまったなどの例が挙げられます。
業務改善を行う際は、どのようなポイントを重視するかをしっかりと定めつつ、3要素のバランスをうまく保ちながら改善計画に着手していくことが重要です。
4M
4Mとは、Man(ヒト)・Material(モノ)・Machine(設備)・Method(方法)の頭文字を組み合わせた言葉で、業務を行う上で欠かせない要素を表しています。
4Mを重視すれば、漏れなく効率的・効果的に業務改善を進められるでしょう。具体的には、それぞれ以下の観点に注目し、業務を見直すことで改善点や課題点が見つかりやすくなります。
- Man(ヒト)
従業員の能力(スキル)、人数、モチベーション、適正など
- Material(モノ)
業務上で必要なデバイス類やソフトウエア、各種ツールなど
- Machine(設備)
業務体制、サーバーやネットワーク環境、機械・工具など
- Method(方法)
ワークフロー、採用手法・手順など
業務改善で期待できる効果・メリット
業務改善を行うことで得られる効果、メリットにはどのようなものがあるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
コスト削減
あらゆる業務を見直し、無駄な業務の廃止や効率化が進めば、不要なコストの削減も期待できます。例えば、業務改善の一環としてペーパーレス化を進めれば、これまでかかっていた紙代やインク代、資料の保管コスト、郵送代などの削減が見込めるでしょう。
また、業務削減とあわせて、業務の標準化やマニュアル化を実施することで、人材育成にかかる時間的コストや残業代などの人件費の削減にもつながります。
生産性の向上
正しい業務改善は、生産性の向上につながります。生産性の向上とは、自社の持つ経営資源を有効活用し、大きな成果や付加価値を生み出すことです。
業務改善により、無駄な業務が削減できれば、従業員一人一人が本来の仕事に集中できる環境が生まれます。効率よく仕事ができ、成果も出しやすくなるため、必然的に生産性アップや品質向上が期待できます。
労働環境の改善
業務改善は労働環境の改善にも役立ちます。業務を見直し、従業員にムリを強いていた業務や、不要な業務の削減が進めば、従業員の負担が減り、より自分のパフォーマンスを発揮しやすくなります。
従業員一人一人が本来の力を発揮できるようになり、生産性が上がれば、企業が給料アップの検討や長時間労働の是正などに取り組みやすくなる点もメリットです。従業員のモチベーションや満足度の向上にもつながり、定着率アップも期待できます。
業務改善の進め方
業務改善は一般的に以下のようなフローで進めていきます。
- 業務の棚卸し・可視化
- 問題点・課題点の洗い出し
- 改善計画の策定
- 計画の実践
- 振り返り
各工程について詳しく解説します。
①業務の棚卸し・可視化
業務改善を行う際、最初に取り組むのが「業務の棚卸し」と「可視化」です。業務の内容や使用しているシステムなどはもちろん、担当する従業員や関連する部署、発生するタスクや作業にかかる時間まで見える化し、業務の全容を把握することが大切です。
全体像がはっきりしないまま業務改善を進めてしまうと、思わぬところに影響が出たり、狙った効果が得られなかったりする可能性が高まります。棚卸しや可視化は業務改善の中でも、特に難しく、かつ、全ての土台となる重要な工程です。十分に時間をかけ、慎重に取り組みましょう。
②問題点・課題点の洗い出し
業務の全体像が明らかになったら、問題や課題の洗い出しをしていきましょう。業務フロー全体を見て、無駄な工程はないか、特定の人や部署に偏った部分はないかなどの検討をしていきます。
見つかった問題、課題は、以下のようなポイントに注目して事前に分析をしておくと、以降の作業が手戻りなくスムーズに進みます。
- 業務の関係者(担当者・担当部署)
- 問題、課題の原因
- 問題発生時の影響範囲や発生のタイミング
- 想定される解決策
③改善計画の策定
問題点や課題点が明確になったら、改善の取り組みに向けた計画を立てていきます。いくつもの課題改善を同時に進めたり、無計画に着手してしまったりすると、失敗の原因となりかねません。そのため、必ず、改善の優先順位や具体的な工程・スケジュールなどを明確にしてから業務改善に着手しましょう。
優先順位を決める際は、比較的容易に進められ、かつ高い成果が見込めるものから着手すると効果的です。計画を立て終わったら、関係者と十分に内容を共有し、計画を進めていきましょう。
④計画の実践
改善計画の策定が完了したら、いよいよ計画を実行に移します。計画実行の際は、定期的な進捗確認やKPI(重要業績評価指標)による効果測定も同時に行いましょう。
実際に改善計画に取り掛かってみると、想定通りに進まないことも多々あるでしょう。そのような時は、無理に進めるのではなく、計画の見直しや立て直し等を検討することも重要です。
⑤振り返り
改善計画の工程が一通り完了したら、以下の点を中心に、結果のモニタリング、分析、フィードバックを行いましょう。
- 課題は解決したか
- どの程度の効果があったか
- 想定した効果と実際の効果に差はあったか
- 計画通りに進んだか
- 計画通りにいかなかった部分とその原因
業務改善は一度取り組んだら終わりではありません。効果的な業務改善を実現させるためにも、実践と振り返りを継続的に行い、ノウハウや経験を蓄積していくことが重要です。
業務改善の代表的な手法
業務改善にはさまざまな手法があります。今回は、その中でも「業務マニュアルの作成」「ITツールの導入」「アウトソーシングの活用」という3つの代表的な手法について解説します。
業務マニュアルの作成
マニュアルのない業務や、明文化されていないルールや決め事が多いと、業務の属人化を引き起こす可能性があります。担当者が自己流で業務を進めてしまったり、特定の担当者に業務が偏ったりする事態も起こりえます。
そのような事態を解消するため、各業務のマニュアルを整備することが重要です。誰でも同じクオリティで業務ができるよう、業務を標準化し、わかりやすく明記します。マニュアルを作ることで、作業手順を思い出すなどの無駄な時間が短縮でき、教育や研修にかかる負担も軽減できます。
ITツールの導入
ビジネスチャットツールやプロジェクト管理ツールなど、業務改善に役立つITツールは多数存在します。アイデアや自社努力だけでは解決できない課題や問題に直面した場合は、ITツールの導入を検討するのもおすすめです。
ITツールの導入には当然ながらコストや手間がかかります。しかし、自社の悩みに合う適切なツール選択ができれば、一気に業務改善が進み、大きな効果が得られる可能性が高まります。
アウトソーシングの活用
単純な定型業務やノンコア業務は、社内で担当せず、アウトソーシングを活用するのも有効な手段です。従業員がコア業務に専念できるため、業務効率やパフォーマンスの向上も期待できます。
特に、「人手不足により適切な人員配置ができない」「定型業務に忙殺され、コア業務に割ける時間が少ない」といった問題を抱える企業の場合、アウトソーシングの活用で一気に業務改善が進むケースも多く見られます。
業務改善を進める際の注意ポイント
業務改善をスムーズに進め、より高い効果を得るためにはどのような点に注意すればよいのでしょうか。業務改善に着手する際に気をつけたいポイントについて紹介します。
業務改善の意図を伝える
業務改善を成功させるためには、トップや経営層だけでなく、現場の従業員一人ひとりが当事者意識を持つことが重要です。目的や意図が不明確なまま、取り組みだけを進めてしまうと、従業員からの協力が得られず、計画が頓挫したり、期待した効果が得られなかったりする可能性が高くなります。
そのため、まずはトップや経営層が業務改善の意図や意義をしっかりと従業員に伝える必要があります。従業員に業務改善を自分事と捉えてもらえれば、有用な情報や取り組みへの前向きな姿勢が得やすくなります。
合理的に進めすぎない
業務改善は、業務の合理化や効率化を目的として行います。しかし、現場の実情をしっかりと把握しないまま、合理性ばかりを優先して業務改善をすすめるのは避けましょう。現場の従業員から反発が起きたり、そもそも取り組み自体が的外れだったりする可能性が高くなります。
業務改善をすすめる際には、その業務にあたる従業員から十分なヒアリングを行い、課題や問題を明らかにした上で、改善計画を立てましょう。
継続的に取り組む
一口に業務改善といっても、その取り組みには小さなものから大きなものまで存在します。すぐに効果が感じられるものもありますが、多くの場合、改善効果を実感するまでに相応の時間を要します。そのため、業務改善に着手する際は、短期的な成果を求めすぎず、長期的な視点を持つことが重要です。
また、業務改善は継続して取り組むことで、より大きな成果が上がる可能性が高くなります。一度やったら終わりではなく、繰り返し業務改善に取り組めるような仕組みや環境を作り上げることもポイントです。
まとめ
人手不足や働き方の多様化など、企業を取り巻く労働環境はどんどん変化しています。変わりゆく中でも、企業の競争力を維持し、生産性向上や品質・売上アップを目指すため、業務改善は今後ますます必要な取り組みとなるでしょう。
業務改善は、一朝一夕で達成できるものではありません。また、方法を誤ると思ったような成果が上がらない可能性も高くなります。業務改善の進め方や注意すべきポイントをしっかりと理解し、自社にあった取り組みを進めましょう。
業務改善のアイデアの出し方や、具体的な成功事例を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。
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