慢性的な人手不足、働き方改革の推進など企業を取り巻く環境は刻々と変化しています。変化の大きい中で生き残っていくため、業務改善は多くの企業にとって避けて通れない取り組みとなりつつあります。
業務改善ではまず、業務の現状や問題を正しく把握することが重要です。しかし、従業員へヒアリングを行っているがなかなか本音が聞けないなど、業務改善がスムーズに進まない企業も多いでしょう。
そこで今回は従業員の意見や声を集めるのに最適な「社内アンケート」について紹介します。目的や作成時の注意点、例文などを解説しているので、目を通してみてください。
業務改善におけるアンケートの目的
業務改善とは、自社が抱える問題点を改善し、コスト削減、生産性向上、従業員のモチベーションアップなどを目指す取り組みを指します。効果的・効率的に業務改善を進めるためには、現状を分析し、自社の問題点を把握することが不可欠です。
現状分析や問題把握に有用な手段の一つとして挙げられるのが「社内アンケート」です。アンケートと通じて多くの従業員から幅広く意見を聞くことで、以下のようなメリットが見込めます。
- 業務の現状や課題が可視化できる
- 従業員が不満に感じている点がわかる
- トラブルを未然に防げる
アンケート結果を上手に活かして業務改善に取り組めば、業務改善がスムーズに進むだけでなく、従業員の満足度の向上やモチベーションアップも期待できます。
アンケート作成時の注意点
アンケート作成時に注意すべき点について解説します。回答率を高めて、業務改善に役立つ結果を得るためにぜひ押さえておきたいポイントなので、参考にしてみてください。
匿名性を守る
アンケートを実施する際は、匿名性を守り、個人が特定されない工夫をしましょう。個人が特定できるようなアンケートでは、忖度が起きたり、従業員の本音が引き出せなかったりする可能性があります。
特に性別や年齢、所属などの細かな基本属性、自由記述回答のエピソードや言い回しなどは、個人特定につながる可能性が高い項目です。また、オンラインでアンケートを実施する場合、パソコンの通信履歴から個人が特定されるケースもあります。
アンケート作成時は、個人が特定されるリスクを極力排除し、従業員が安心して回答できるよう注意しましょう。
回答方式や質問の数に気をつける
アンケートで使用される回答方式には、「単一回答」「複数回答」「順位付け」「自由記述」などさまざまな種類があります。それぞれの回答方法の特徴は以下の通りです。質問の内容や、アンケートから得たい情報を考慮して、どの回答方式が適切か判断しましょう。
- 単一回答:用意された複数の選択肢の中から最も当てはまるものを1つだけ選ぶ回答方式です。選択肢を「はい/どちらでもない/いいえ」や1から5までの5段階評価とすると、「どちらでもない」や「3」などの中間評価が選ばれやすくなるので注意しましょう。
- 複数回答:用意された選択肢の中から当てはまるものを全てまたは指定された数だけ選ぶ回答方式です。直感的に選びやすいため好まれる傾向がありますが、回答の真意が掴みにくくなる面もあります。
- 順位付け:複数の選択肢に順位をつける回答方法です。選択肢全てに順位をつける方法(完全順位づけ)や選択肢の中からいくつか回答を選び、それに順位をつける方法(一部順位づけ)があります。
- 自由記述:アンケートの回答者に意見を自由に書いてもらう回答方法です。自由記述は、回答者の生の声や具体的な意見が最も得やすい方法といえます。選択式の回答方法と組み合わせるとより効果的です。
回答を誘導するような質問は入れない
アンケートには、特定の回答に誘動するような質問や、作成者の意図が透けてみえるような質問が含まれないようにしましょう。このような質問を入れてしまうと、回答の幅を狭めたり、回答に忖度が働いたりする可能性が高くなります。
アンケート本来の目的に沿った情報が収集できなくなるリスクもあるため作成時には特に注意が必要です。
シンプルな表現を心がける
アンケートを作成する際は、シンプルでわかりやすい表現を心がけましょう。専門用語や業界用語、略語など、特定の人のみがわかる用語を使ってしまうと、有用な回答が得られないことがあります。
どうしてもアンケートに記載する必要がある場合は、設問の前に該当の用語の解説などを入れるとよいでしょう。
アンケート実施の流れ
社内アンケートは、一般的に以下のような流れで実施されます。
- アンケートを行う目的の明確化
- 目的に沿った質問項目の作成
- アンケート実施
- アンケート結果の集計・分析
- フィードバック
それぞれの手順について詳しくみていきましょう。
アンケートを行う目的の明確化
まずはアンケートを実施する目的を明確にしましょう。目的が不明瞭で、実施の意図がわからないアンケートでは、従業員から有効な回答が得られなかったり、回答率が下がったりするリスクがあります。
なんのためのアンケートなのか、アンケートを行うことでどのような情報を得たいかを明らかにし、従業員にもしっかりと目的や意図を共有することが重要です。
目的に沿った質問項目の作成
アンケートを行う目的が定まったら、質問項目の作成にとりかかります。作成の際は、回答者がストレスを感じないよう、質問の数や質に配慮しましょう。具体的には、記述式の回答は10程度にとどめる、曖昧な表現は避け、ストレートでわかりやすい質問を作成するなどが挙げられます。
また、質問の作成とあわせて、アンケートの対象範囲(全従業員、特定の部署、特定の従業員など)もあらかじめ決めておくとよいでしょう。
アンケート実施
アンケートの実施方法には、紙に印刷したアンケートを配布して回答してもらう、オンライン上で回答してもらうなどの方法があります。
どちらにも利点はありますが、回答、集計、分析などのしやすさを考えると、オンラインでのアンケート実施がおすすめです。オンラインであれば、回答が必須の項目や回答方式を事前に設定しておけるので、記入漏れや回答方法の間違い(単一選択なのに複数選んでしまうなど)を防げます。
アンケート結果の集計・分析
集まったアンケート結果を集計し、分析を行います。まずは質問ごとに回答数や比率を集計しましょう。集計が完了したら、回答結果と年齢、性別、勤務年数、役職などの任意の属性を組み合わせて結果の分析を行います。
アンケートの集計・分析の結果は、表やグラフを活用してまとめると、自社の抱える問題点や、従業員が感じている課題点などが把握しやすくなります。
フィードバック
従業員へアンケート結果のフィードバックを行います。集計結果とともにアンケート全体の総評や、今後の取り組みなども公表するとよいでしょう。集計結果を全体に公開することに支障がある場合は、誰にどこまで伝えるかもあわせて決めます。
自分たちの声が業務改善に役立っていると従業員に伝われば、今後アンケートを行う際にも協力が得やすくなります。
アンケート項目の具体例
アンケート作成時に役立つ具体的な質問例を紹介します。汎用性の高い質問例を紹介していますので、自社でアンケートを作成する際の参考にしてみてください。
基本情報についての質問項目例
従業員の基本情報を問う項目です。
- 性別
- 年齢
- 勤続年数
- 所属部署
- 役職
基本情報はアンケート収集を行う際に重要な項目です。基本情報に答えることで個人が特定されるおそれがある場合は、年齢や勤続年数に幅を持たせたり、所属部署や役職等の聞き方を工夫したりするのがおすすめです。
また、ジェンダーの多様性に配慮して、性別には「答えたくない」「その他」などの項目を設けておくとよいでしょう。
仕事についての質問項目例
実際の業務についての質問です。
- 現在の業務で負担に感じていることは何ですか?
- 業務量は適切ですか?
- ムダだと感じる作業は何ですか?
- マニュアルは適切ですか?
- 業務の担当者は適切だと感じますか?
業務の現状把握や、従業員が感じている「ムリ・ムダ・ムラ」などの課題を見出すために重要な項目です。さまざまな回答方式を組み合わせて、できるだけ具体的に答えてもらえる工夫をしましょう。
上司や部下についての質問項目例
業務に直接関係する上司、部下についての質問です。
- 上司(部下)との相性が良く、互いに信頼できる関係ですか?
- 上司は公正な評価をしていると感じますか?
- 上司はあなたの仕事量を把握していますか?
- 部下の仕事量を適切に把握していますか?
- 上司から自分の成長につながるフィードバックや指導を受けることができますか?
業務の属人化やブラックボックス化は、互いの業務量を把握していない等、上司と部下の関係性から引き起こされるケースも多くあります。選択式や必要に応じて自由記述も設けながら、両者の関係性を把握していきましょう。
社風についての質問項目例
職場環境や周囲の人間関係、制度に関する質問です。
- 周りの人とサポートし合えていますか?
- 周りの人の発言・意見を尊重できているチームだと感じますか?
- 社内の人間関係は良く、互いに相談しあえる雰囲気がありますか?
- 休暇は取りやすいですか?
従業員の満足度や働きやすさを測る項目です。満足度などを5段階評価で回答してもらうと、集計や分析がしやすくなります。「どちらでもない」等の曖昧な評価をなくしたい場合は、中間評価を選択肢から外した4段階評価を取り入れるのもおすすめです。
コンプライアンスについての質問項目例
差別やハラスメント、情報管理など、コンプライアンスに関する質問です。
- 会社の業務プロセスは法令を遵守した健全なものですか?
- 性別、年齢、国籍などで差別的な発言をされたことはありますか?
- ハラスメント対策が適切に行われていると感じますか?
- セクハラ、パワハラなどの心配なく働けていますか?
- 会社の機密情報は適切に管理されていますか?
法令が遵守されているか、企業活動が健全に行われているか確認する項目です。違反や問題がある場合、早急に対応を求められる項目なので、自由記述なども活用し、従業員の意見を集めましょう。
まとめ
業務改善に社内アンケートを活用すれば、業務の現状や自社の抱える問題点が正確に把握しやすくなります。現場の従業員の声を聞くことで、上層部だけの話し合いだけではわからなかった問題や課題が見つかるケースもあるでしょう。
アンケートは目的を的確に捉え、わかりやすく、答えやすいものを作成するのがポイントです。適切なアンケートの作成、調査実施、フィードバックを通して、効果的な業務改善を実現させましょう。