スマートファクトリーとは?実現に必要な2つの要素と成功事例をご紹介!!

「スマートファクトリー」という概念が提唱され、多くの企業がその実現のために動き出していますが、未だ国内での成功事例は多くありません。明確な成功モデルが見えないため、ほとんどの企業は足踏みをしているのでしょう。

スマートファクトリーの実現に必要なのは「明確な目的意識」と「スモールスタート」です。

本稿では、「スマートファクトリーとは何なのか」、「何をもたらすのか」をご紹介し、その実現方法を具体例を出しながら紹介していきます。

スマートファクトリーとは? 

スマートファクトリーは、ドイツが提唱した「インダストリー4.0」を具現化した工場です。工場内部のあらゆる機器にセンサーを取り付け、データを取得し、そのデータを活用することで業務プロセスの最適化を継続的に実現します。

あらゆる機器をインターネットに接続することで、製品の品質や機器の稼働状態を常にモニタリングし、工場内を「可視化」します。また、各機器から集めた膨大な情報 (ビッグデータ)をAIによって分析、可視化することで、業務プロセスを改善し、品質や生産性を継続的に向上させることができます。

スマートファクトリーが求められる背景

スマートファクトリーが求められる背景には、ドイツが進める国家プロジェクト「インダストリー 4.0」があります。

「インダストリー 4.0」 は「第4次産業革命」と訳されます。工場内外のあらゆるモノをインターネットに接続し、生産ライン全体の効率化を目指す取り組みです。ドイツがインダストリー 4.0 を提唱した後、日本やアメリカでも、情報通信技術を活用した新たな産業構造実現のための施策が相次いで発表されました。

ドイツにおけるインダストリー 4.0 は、低賃金労働者のパフォーマンスを引き上げ、自国の技術力を最大限に活かすための側面もあります。

日本が置かれた状況もドイツに似ており、製造業に関する高い技術力を持ちながら、人的資源をうまく活用できなかったため、アメリカや中国に後れをとっています。

しかし、日本にとってインダストリー 4.0 が必要な理由は「技術力を最大限に生かすため」だけではありません。10年後、20年後に日本は「超高齢社会」を迎え、人手不足や、技術継承の困難な時代を迎えます。そうした状況のもと、人件費の安い海外メーカーに対抗するためには、1人あたりの生産性を高めなければなりません。

参考資料:ものづくり人材の確保と育成

加えて、日本の代表的なメーカーで実践されてきた「日本型カイゼン」が限界を迎えていることも理由の1つです。「日本型カイゼン」は、現場の創意工夫によりコスト削減や品質向上を図る取り組みで、日本企業の強みの1つでした。

しかし、長年のカイゼン活動によって、各部署の製造現場は最適化され、これまでの延長線上にはカイゼンする余地が残されていない、という現場が存在します。

これら課題の打開策としてインダストリー 4.0 の産業構造に期待が集まっています。インダストリー 4.0 では、これまで感覚に頼っていた職人の技を、AI等の先端技術によって可視化し、技術継承を容易にすることで、人材不足の解消が期待されます。また、「製造現場の一部署」という部分的な最適に留まらない、製造ライン全体としての最適化が可能です。

このインダストリー 4.0 実現の核となるのが「スマートファクトリー」です。情報を有意義に活用するためには、まず、工場の中の情報を拾い上げる仕組みが必要となります。

「インダストリー4.0」の詳細については、こちらの記事でも説明していますので、ぜひご覧ください。

参考資料:インダストリー 4.0 とは? デジタルトランスフォーメーションによって実現する全体最適

スマートファクトリーがもたらす価値

企業は、スマートファクトリーの実現のレベルに応じて、様々な恩恵を受けることができます。ここでは、スマートファクトリー実現のレベル毎に、どのような恩恵を受けられるのかを解説します。

レベル1:データの収集・蓄積

工場のスマート化の最初の段階は、データ収集のための機器の設置や、適切なデータ管理システムの構築です。これにより、以下のようなことが可能となります。

・人的ミスや機器の故障の早期発見、原因の究明ができる。

・在庫量や発注の状況をモニタリングすることで、欠品防止や無駄な在庫の削減につながる。

レベル2:データの分析、予測

収集した大量のデータをAIで分析することがレベル2です。勘や経験による意志決定を排し、データから導かれる予測を元に、方針を定めることができるようになります。

・人的ミスや機器の故障が起きやすい箇所を分析し、頻度を予測する。

・機器の保全に必要な費用と、設備の故障によって発生する費用から、合理的な点検頻度を見積もり、機器保全に必要なコストを削減する。

・設計仕様の変更に伴う費用と利益を見積る。

・熟練者とその他作業員の違いを言語化、数値化する。

レベル3:データによる相互制御

スマートファクトリーが目指す究極的な段階です。AIが分析、予測した結果をもとに、各機器が自律的、分散的に意思決定を行い、全体として最適な稼働を実現します。

・設計仕様の変更をコンピュータ上でシミュレーションし、瞬時に生産ラインに反映させる(デジタルツイン)。

・生産スピードを落とすことなく、大量生産用ラインの上で、顧客のオーダーメイドに対応する(マスカスタマイゼーション)。

・在庫量と出庫数の予測から、足りない材料を自動で発注し、欠品や余剰在庫を防ぐ。

・生産ライン全体の生産完了予定時間を最短化するように、計画を随時変更、通知し、リソースを再配分する。

「デジタルツイン」の詳細については、こちらの記事で説明していますので、ぜひご覧ください。

参考資料:デジタルツインとは|メリットや課題、製造業における活用事例を解説

スマートファクトリーの実現に必要な2つの要素

スマートファクトリー実現に必要な2つの要素について解説します。

スモールスタート

スマートファクトリー、インダストリー 4.0 が目指すゴールは「全体最適」です。しかし、効果が明確でないシステムを一度に導入することは困難です。

経済産業省が示す「スマートファクトリーロードマップ」では、費用対効果が大きな部分に的を絞って、小規模から導入することを勧めています。

参考資料:「スマートファクトリーロードマップ」

ただ導入して終わるのではなく、導入効果を都度評価し、計画通りの効果が得られなかった場合には、計画を改善することも必要です。導入による手応えを数字で感じることができれば、企業全体として、スマートファクトリー導入への意識は高まっていくでしょう。

続く作業は、範囲の拡張です。拡張の方向性は3つあります。

  1. データを収集→分析→制御・最適化へ深化させていく。
  2. 工場の一部分→工場の全体→仕入れ・アフターケアなどの製造の全体へ広げる。
  3. 導入したシステムを他の目的にも応用させる。

導入したシステムをどのように拡張していくかを決める際に重要なのは「費用対効果」です。簡単に拡張でき、効果の大きな場所(自社の抱える大きな課題の解決)へ向かって拡げるのが良いでしょう。

経営層のコミット

スマートファクトリー実現に必要な、もう1つの要素は、「経営層が強い目的意識を持ち、全体を意識してスマート化を推進すること」です。

導入したシステムを拡張するときには、他のシステムとの間でコミュニケーションエラーが起きやすくなります。無計画にスマートファクトリーの導入を進めれば、システムが上手く立ち行かず、修正には多大な時間と費用が必要になるでしょう。そうした事態を防ぐためにも、スマートファクトリー化を始める前から、経営層が全体像を意識した計画を立て、経営層主導で推進していかなければなりません。

スマートファクトリー化は「技術を導入する」だけで実現できるものではなく「経営改革」なのです。

以下では、RFID導入によるサプライチェーン改革について図解しています。ご参照ください。

参考資料:With/Afterコロナのサプライチェーン改革とは?押さえるべき4つの最新トレンド

スマートファクトリーの導入成功事例

スマートファクトリーの導入に成功した国内企業を例に、導入の道筋を考えていきます。

武州工業

武州工業は「一個流し」という特殊な製造工程を特徴とするパイプ加工企業です。一個流しは顧客のオーダーに柔軟に対応できることを強みとしますが、発注を受けてから完成までの時間(リードタイム)が長く掛かることが課題でした。「リードタイムの短縮」という課題を解決するため、武州工業はリアルタイムに生産を管理するシステムを導入しました。

管理対象は、在庫、出退勤状況、生産指示、工程不良などです。リアルタイムに生産状況を管理し、無駄を省くことで、72時間だったリードタイムを3分の2の48時間まで減らすことに成功しました。使用したのは市販のタブレットやPCのみです。システムを自社開発したため、システム導入に掛かる費用を低く抑えられたそうです。

更に、システムを各自が持つスマホと連携させることで、機器稼働状況管理へとシステムを拡張し、より生産性を高めることができました。

参考資料:65年つづく黒字経営! 自社開発ITを駆使する武州工業の先進的ものづくり│GEMBA

IBUKI

IBUKIは金型メーカーで、人手不足と時代の移り変わりの早さによって、高い技術力を若手に伝えられないことが課題でした。製品価格の見積もりや不具合の分析においても、ベテラン技術者と若手の間には大きな差があり、重要な工程はベテランの勘や経験に依存していたそうです。

若手技術者の生産性、ひいては会社全体としての生産性を高めるため、IBUKIが導入したのが、言語解析を組み合わせたAIソリューション「ORGENIUS」です。ORGENIUSは、多くのセンサーから集めた情報、及び、職人自身への詳細なヒアリングから、職人の感覚的な知識を視覚化し、若手との技術共有を可能にしました。

「ORGENIUS」は、技術の伝承という目的だけでなく、見積もり算出、不具合分析、機器間の差や環境差の分析にも応用されました。

参考資料:オープンイノベーションで、破綻寸前からの大復活劇――職人の暗黙知をAIで見える化した金型業界の風雲児「IBUKI」│GEMBA

各社とも、IoTやAIを少しずつ導入していき、導入したシステムを他の領域へ拡張することで、1つずつ課題を解決していきました。経営陣が明確な目的意識を持ち主導したことも共通しています。

IoTプラットフォームの活用 

スマートファクトリー化にはセンサー技術や情報処理技術が不可欠です。必要とするセンサー技術、情報処理技術が自社に足りない場合には、IoTプラットフォームを活用することで費用を抑えつつ、スピーディに導入できる可能性があります。

IoTプラットフォームは、IoTセンサー、アプリケーション、ネットワークなどをパッケージ化したIoTのための「土台」のことです。システム拡張に際し、システム間でコミュニケーションエラーが起きると、修復に多大な費用と時間が掛かりますが、IoTプラットフォームはシステム間や設備間でコミュニケーションエラーが起きないように設計されているため、スムーズにIoTを導入し、拡張していくことができます。

ただし、システムの中身を理解しなければ、更なるシステムの拡張は不可能です。導入については慎重に検討しましょう。

参考資料:【2020年最新版】IoTプラットフォームとは?違いや選び方をわかりやすく解説

まとめ

スマートファクトリー実現のためには、経営層が全体計画を明確に意識し、スモールスタートすることが必要です。実現のために技術や知識が足りないなら、IoTプラットフォームという形で、それらを補うことができます。

自社の課題を明確にし、IoTやAIの活用でそれらを解決する道筋を描くことが、スマートファクトリー実現の最初の一歩となるでしょう。