業務改革を検討しても「どのように行えばよいかわからない…」と悩んでしまうかもしれません。今後、生産性向上や人材獲得などのために、企業は業務改革の必要性に迫られることもあるでしょう。そのため、業務改革の進め方や成功させるコツを押さえておくのがおすすめです。今回は業務改革(BPR)について詳しく解説します。
業務改革とは
業務改革とは、企業が事業目標を達成するために既存業務のプロセスを見直したり、社内制度を見直したりすることです。
1990年代にアメリカで誕生した考えで、海外ではBPR(Business Process Reengineering)と呼ばれています。1993年にマイケル・ハマー氏とジム・チャンピー氏が書籍「リエンジニアリング革命 企業を根本から変える業務革新」を出して、世の中の人に業務改革の必要性が知られるようになりました。
近年、企業では生産性を上げるために業務を分業化して、各部門が専門業務を行わせるなど業務改革の動きが出てきました。その結果、部門同士が連携できず、同じ業務を他部門で行うなど本末転倒な結果となり、失敗してしまうケースも多く見受けられます。そのため、業務改革の手順を覚えておくことが大切です。
業務改革と業務改善の違い
業務改革と業務改善の違いは2つあります。
ゴール
業務改革は事業目標を達成するために、業務フローや社内制度を根本的に見直すことをいいます。つまり、ゴールは事業目標の達成です。
一方で、業務改善は業務手順を見直して、目先の課題を解決していくことをいいます。つまり、ゴールは目先にある課題の解決です。
労力
業務改革では事業目標を達成するために、組織体制を見直したり社内制度を変更したりしていきます。大きな変更を行うため、従業員の同意を得ながら進めていかなければいけません。業務改革では大きなリターンが得られますが、負担が大きい作業でもあります。
一方で、業務改善は業務中に気になるところを少しずつ改善していくため、業務改革と比較すると負担は少なく済みます。
業務改革のメリット
業務改革に取り組むメリットは6つあります。
- 企業が達成したい事業目標を叶えられる
- QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が高まり顧客満足度を上げられる
- 無駄な業務プロセスを廃止すれば、長時間労働を是正できる
- 仕事と育児、仕事と介護の両立がしやすい職場を作れる
- 社内システムを根本的に見直せば、DX推進しやすくなる
- 働きやすく、働きがいが見込める職場をつくれば、優秀な人材が獲得できる
業務改革のデメリット
業務改革はメリットだけではなく、デメリットもあります。
- 業務改革は組織や業務を根本的に見直していくため、時間や費用がかかる
- 新たな組織体制、業務プロセスを再構築するまで、途中でストップできない
- 業務改革に反発する従業員が出てくる恐れがある
業務改革が注目を集める理由
なぜ、業務改革に取り組む必要があるのでしょうか?次に、業務改革が注目を集める理由をご紹介します。
労働者不足の問題を解決するため
業務改革を行えば、働きやすく働きがいが見込める職場を作れるようになります。ワークライフバランスが取りやすい職場環境を整えられれば、優秀な人材が採用しやすくなり、人材不足に悩まなくて済むようになります。
日本は少子高齢化社会のため、労働者不足が深刻な問題になってきました。日本商工会議所の独自調査では、約6割の企業が人材不足に悩んでいると回答しています。
就職・転職市場は売り手市場となり、1人の求職者を複数の企業で奪い合う時代になってきています。このような時代でも求職者に企業を選んでもらえるように、業務改革を行って働きやすい職場環境を整えましょう。
デジタル技術が発展してきたため
デジタル技術が発展してきて業務が効率化・自動化できるようになり、業務改革が注目を集めるようになりました。なぜなら、自動化・効率化できる業務はロボットに任せたいという企業が増えたためです。
また、企業は事業部制組織から職能別組織に切り替えて、各部門が専門分野の業務を行って連携することで生産性を上げられるようになりました。近年では、営業活動を「マーケティング部門」「インサイドセールス部門」「営業部門」「カスタマーサクセス部門」と分けて、業務を分業化する動きが出ています。
このような業務分業化は、デジタルツールで情報が連携できるようになったため増加傾向にあるといえます。
VUCA時代に対応できるビジネスを作るため
新型コロナウイルス感染拡大など予測ができない出来事が起きたり、革新的なサービスが続々と登場したりするようになりましたが、このような時代をVUCA時代と呼びます。このような時代を生き抜くためには、従来のマネジメント手法を変えなければいけません。
例えば、新卒一括採用、終身雇用制度などのマネジメントが主流でしたが、時代の変化に柔軟に対応しなければいけません。必要に応じてフリーランスを起用するなどリスクヘッジしておくことも大切です。なぜなら、そのときの環境や状況に応じた、組織体制が柔軟に作れるようになるためです。
このようにVUCA時代に生き残る企業を作るためにも、業務改革が注目を浴びています。
レガシーシステムの脱却が求められているため
政府は、企業のDX推進に向けてさまざまな施策を展開しています。
例えば、DX推進に取り組んでいる上場企業の株は「DX銘柄」と扱われて投資家から資金調達しやすくなります。このようなメリットがある他にも、生産性を上げるために各企業でDX推進が行われるようになりました。
しかし、DX推進に取り組む際にレガシーシステムの脱却が求められるようになってきました。古いシステムを新しく刷新して、連携しやすくしたりメンテナンスしやすくしたりする動きが出てきています。このような影響もあり、業務改革が注目を浴びています。
業務改革の進め方
業務改革で失敗しないために、正しい手順を覚えておきましょう。
[業務改革の進め方]
- 業務改革のゴールを設定する
- 業務改革する上で妨げになるものを洗い出す
- 優先順位を付けて妨げになるものを取り除く
- ビジネスプロセスを再設計する
- 新たなプロセスで業務を回す
ここでは、各手順について詳しく解説します。
業務改革のゴールを設定する
まずは、業務改革のゴールを設定しましょう。なぜなら、業務改革のゴールを設定することで、どのような施策を打つべきか明確にできるためです。
例えば、従業員の平均労働時間を20分短縮することをゴールに設定した場合は、ムダな業務を廃止したりロボットで自動化したりする施策がよいでしょう。その一方で、顧客満足度を20%上げるためには、24時間365日対応できるチャットボット窓口や、LINEで気軽に相談できる窓口を開設する施策がおすすめです。
このようにゴールによって施策が異なるため、どのような目標を達成したいかを考えていきましょう。
業務改革する上で妨げになるものを洗い出す
業務改革のゴールを設定したら、目標を達成する際に発生する課題を洗い出していきます。
例えば、全従業員の労働時間を20分短縮する目標を立てたとき、業務量と業務時間を数値で把握しなければいけません。その際に、従業員の業務量に偏りがあることに気づくかもしれません。
このように、業務改革する上で妨げになるものを洗い出していきます。
優先順位を付けて妨げになるものを取り除く
次に、妨げになるものを取り除いていきます。どの問題から解決すべきか優先順位を付けて、妨げになるものを取り除いていきましょう。
例えば、同じ業務を繰り返し行っている場合は1つにまとめることで効率化できます。また、業務が属人化して、その人しか対応できず止まる場合は、マニュアルを作成すれば問題を解決していけるでしょう。このような方法で、業務の妨げを取り除いていきます。
ビジネスプロセスを再設計する
業務改革で妨げになるものを取り除いたら、新たなビジネスプロセスを再設計していきます。
例えば、全従業員の労働時間を20分短縮することをゴールに定めた場合は、どのような業務を廃止、効率化できるかを考えていきます。必要に応じてITを活用したり、アウトソーシングを活用したりしましょう。
プロセスを根本的に見直して、目標達成を目指していきます。
業務改革を進める際のポイント
業務改革の進め方をご紹介しましたが、効果を得るために以下のポイントを押さえておきましょう。
業務改革の必要性を共有する
業務改革を行うときは、経営者が従業員に対して「なぜ、業務改革に取り組む必要があるのか?」を説明する場を設けましょう。なぜなら、業務改革で組織体制、社内制度、業務プロセスを見直すと従業員の負担が重くなるためです。
従業員の中には、業務改革に反発する人もいるでしょう。このような従業員が現れたら、相手の意見を聞くなど相互理解の場を設けて、相手に業務改革の必要性をわかりやすく伝えることを心がけると、賛同してもらいやすくなります。
現場の声を取り入れる
業務改革は「〇〇改革プロジェクトを始める」とトップダウン形式で行われることが多く見受けられます。このようなトップダウン形式で業務改革を行うと「経営陣は現場の業務について理解していなくて、無理な命令を出している」など不満を持たれてしまう恐れがあります。
また、トップダウン形式だと、従業員が受け身になりがちです。そのため、業務改革の計画を立てるときは、現場の声を取り入れるようにしましょう。
外部コンサルティングに相談をしてみる
生産性を上げるために、業務改革に取り組みたいけれど、何から始めればよいかわからないと悩んだら、コンサルティング会社に相談をしてみましょう。
例えば、DX推進支援を得意としている会社に相談をすれば、どの箇所をITで効率化できるかを教えてもらえます。また、取り組む上での注意点なども把握しているため、コンサルティングを受けると安心してDX推進に取り組めるようになるでしょう。
業務改革に成功した企業事例
業務改革に取り組むと、どのような効果が見込まれるのでしょうか?ここでは、RFIDを活用した業務改革の成功事例をご紹介します。
RFIDについて詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
関連記事:『【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!』
保管物の管理業務を60%削減(東日本旅客鉄道株式会社)
東日本旅客鉄道株式会社は、日本の鉄道会社です。同社は社内倉庫の保管物の管理を厳密・正確に行わなければいけず、時間がかかっていました。そこで生産性向上をゴールに定めて、社内倉庫の保管物の管理プロセスを大きく変えることにしました。
RFIDを活用して、瞬時に「どこに何があるか」を判断できるような状況を作り、60~90%の業務効率化を実現したのです。RFIDで保管物の場所がリアルタイムに分かるようになったため、固定ロケーションである必要がなくなり、フリーロケーションに切り替え倉庫全体のスペース削減にも成功しました。
年間320万円分の工数を削減(株式会社ジップ)
株式会社ジップは、ベネッセが提供する進研ゼミの発送代行や、大手企業のECサイトの商品発送代行をサポートしている会社です。
同社は、ユーザーニーズの多様化に応えるために、顧客に合わせた封入パターンで梱包、配送しています。手間がかかりますが、そのサービスが強みとなっています。
しかし、人材採用が難しくなってきたため、封入サービスが難しくなってきました。そこで、倉庫の管理業務を効率化して、従業員の負担を減らそうと考えたのです。RFIDで倉庫管理業務を効率化したことで、年間320万円分のコストを削減することに成功しました。
ビジネス機会の損失を防止(株式会社バロックジャパンリミテッド)
バロックジャパンリミテッドは、21ブランドを取り扱うアパレルブランドです。物流倉庫では、倉庫管理システムを使い商品をロケーションで管理していました。
しかし、仕分けや検品などは人が行っていたので、ヒューマンミスが発生していました。倉庫管理システム上の商品数と現場の商品数が合わないなどが現場で起きていて、あるはずの商品が見つけられず、販売チャンスを逃してしまう課題を抱えていたのです。
このような課題を、RFIDで解決しました。商品をリアルタイムで探し出せるツールRF Finderを使用することで、倉庫にある商品を瞬時に取り出せるようにし、ビジネス機会の損失を防止しています。
まとめ
業務改革とは、企業が事業目標を達成するために既存業務のプロセスを見直したり、社内制度を見直したりすることです。業務改革に取り組めば、生産性が上がり、顧客満足度や従業員満足度の向上が期待できます。ただし、業務改革は大がかりな取り組みとなり、途中で投げ出すわけにはいきません。そのため、正しい手順を理解した上で業務改革を進めていきましょう。
この記事を読み「業務改革の方法がわからない」「ITを活用して業務改革したい」と思った方は、ぜひ当社にお気軽にご相談ください。