【最新事例紹介】ブロックチェーンを活用したトレーサビリティ実現を基礎から徹底解説

ブロックチェーンは様々なビジネスとの高い親和性があります。その中でも「トレーサビリティ事業」と非常に相性が良く、導入が進められています。

本稿では、ブロックチェーンやトレーサビリティの基礎から、両者の関係性について解説しました。特に、『どのように』トレーサビリティに役立つのかに重点を置いて解説します。

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンの特徴

ブロックチェーンは耐改竄性が高く、分散管理を特徴としたデータベースです。

従来のデータベースとは「情報の保存方法」に大きな違いがあります。

従来データベースは、それぞれが独立したものとしてデータを保存します。対してブロックチェーンでは、データ全体が繋がった形で保存します。

ブロックチェーンではある程度データが溜まると、データのまとまりに変換します。それが「ブロック」です。その後、各ブロックを鎖(チェーン)で結びつけ、データ全体を繋げます。

従来の管理台帳やデータベースには権限を持った管理者と中央サーバーが存在し、管理者は情報を自由に書き換えることができました。一方のブロックチェーンは分散管理を基本とし、権限の大きな管理者は存在せず、運営者と言えど、データを書き換えることができません。

ブロックチェーンは仮想通貨ビットコインの取引管理台帳として生まれ、様々な領域に応用されてきました。

ブロックチェーンのメリット

ブロックチェーン最大のメリットは、その高い耐改竄性です。全体がひと繋ぎのブロックチェーンは途中のブロックを抜き出して、別のブロックに置き換えることができません。

また、ブロックチェーン上の情報は誰でも閲覧することができます。つまり、完全な透明性を持っています。政治や教育の現場を見て分かる通り、透明性は情報の信頼性を高めることが可能です。

現在、上記のような特徴を生かし、様々な用途への応用展開が進められています。

トレーサビリティとは?なぜ必要なのか?

トレーサビリティとは製品が持つ「被追跡能力」です。「製品が持つ能力」という部分を間違えやすいのでご注意ください。

以下のような場合に、該当する製品は「トレーサビリティを有する」と言えます。

・生産者が「どのような経路で誰に届いたのか」を知ることができる場合
・消費者が「どこで作られたのか」や「どのような経路を辿って消費者に届いたのか」を知ることができる場合

生産者が製品をトレース(追跡)する行程は「トレースフォワード」、消費者が生産者へと遡及する行程は「トレースバック」と呼ばれます。

トレースフォワードは製品に不備があったときに製品を追跡、回収すること(自動車のリコールなど)に役立てられます。トレースバックは消費者に安心を与えることが主な役割です。

トレーサビリティについて詳しくは、以下リンクをご覧ください。
トレーサビリティの基礎からブロックチェーン活用まで!食品・医療分野の注目技術を徹底解説 | Locus Journal

トレーサビリティの抱える課題

トレーサビリティは生産者にとっても消費者にとっても大きなメリットがあるように見えます。しかし、その実現に向けては様々な障害が存在します。

情報の信頼性

1つ目の課題は「情報の信頼性」です。

消費者が製品情報をトレースバックし、手に入れた情報は、本当に正しい情報なのでしょうか?製品の作られる過程を一緒になって監視し続ける以外に、情報が正しいことを確認する方法は本質的に存在しません。

情報の信頼性を高める方法であれば存在します。第3者機関に調査と監視を依頼することです。しかしこの方法にはお金が掛かります。

コストとメリットがつり合わないこと

2つ目の課題は「コスト」です。

製品にトレーサビリティを付与するメリットは上述の通り、主に2つあります。「イメージの改善(安心・安全)」と「欠陥や事故が生じた際の被害を少なくすること」です。

損を少なくすることにはメリットが大きいでしょう。よって企業はトレースフォワードには真剣に取り組む場合が多いです。しかし、消費者に安心と安全を与えることがそれほど大きなメリットにならない業界も多く存在します。そこに多額の投資をする企業は稀である、と言わざるをえません。

「そこまでして安心と安全を消費者に与えるメリットがあるのか?」というわけです。故に、トレースバックのための取り組みは遅々として進みません。

もちろん、食品関連業界では食の安全・安心に高い関心が集まっているので、トレーサビリティ事業が大きく進展しています。

トレーサビリティ実現に対するブロックチェーンの寄与

先に述べた「トレーサビリティ実現に向けた2つの課題」に対して、ブロックチェーンは明確な解決手段を持っています。

耐改竄性 & 透明性 → 情報セキュリティ向上

従来、食品偽装が疑われ、資料提出を指示されたとき、「やばい!」と感じた事業者は資料を改竄することができました。消費者はいつでも自由にトレース情報を確認できるわけではないので、製品の欠陥が発覚してからでも改竄をするまでに十分な時間的余裕がありました。

ブロックチェーンを管理台帳として使う場合、後からデータの改竄を行うことができません。また、ブロックチェーン上の情報はいつでも閲覧でき、消費者は製品の行方をいつでも監視できます。

入力時に意図して事実と異なる情報を入力することは依然として可能です。しかし、情報の信頼性が大幅に向上することは間違いありません。

また、第3者機関に調査と監視を依頼する必要もなく、運営コストも安いので、トレーサビリティ実現に向けた金銭的障壁を大きく下げることができます。

消費者はより大きな安全と安心を、生産者と小売業者はより多くの利益を得ることができるでしょう。

トークナイゼーション → データ提供インセンティブ

企業にとって、トレースフォワードはメリットが大きいけれど、トレースバックはメリットが少ないことは課題の1つでした。これはデータ提供のインセンティブ(利益、報酬)が低かったためです。

データを作り、提出することもただで出来るわけではありません。製品の辿った経路を記録し、入力する行程には時間も人手も必要です。故に、トレーサビリティ実現は中々進みませんでした。

ブロックチェーンは多くの企業が嫌がるトレースバックに対しても、大きなメリットを提示します。要は情報提供が利益に繋がれば良いわけです。

そのための仕組みが「トークナイゼーション(英:Tokenization)」です。トークン(Token)とは、兌換性を持つ有価証券、つまり仮想通貨を指します。

株式企業を支える株式とは「企業の方針に口出しする権利」をトークンにしたもので、国にお金を貸した際には「債権」というトークンが貰えます。ブロックチェーンは仮想通貨ビジネスから始まったために、仮想通貨運用と相性が良く、多くの技術を蓄積しています。

トレーサビリティ事業においては「情報提供」に対してトークンを支払います。つまり、データを沢山提供することで利益を上げられる仕組みを構築することが可能です。こうした仕組みは、データ提供のインセンティブを生み出します。

トレーサビリティ × ブロックチェーンの最新事例

伊藤忠商事

大手総合商社伊藤忠商事は、天然ゴムのサプライチェーンに関するトレーサビリティ事業にブロックチェーンの導入を進めています。

原料生産者から、輸送業者、加工業者、タイヤメーカーまでがブロックチェーンで構成された同一の管理台帳に記帳し、情報を共有します。

製品に問題が生じた場合には、速やかに対応に当たることができます。また、多人数が同時にアクセスする台帳であるにも関わらず、高い耐改竄性を持ちます。

参考資料:ブロックチェーンを活用したトレーサビリティ実証実験について|プレスリリース|伊藤忠商事株式会社

ウォルマート

近年、米国では食品リコールや食品偽装の影響を受け、食の安全への関心が高まっています。こうした背景のもと、小売最大手のウォルマートはブロックチェーンを食の安全・安心の実現に活用しています。

ブロックチェーンの活用により、トレースバックに必要な時間は大幅に短縮され、購入したマンゴーの原産地を「2.2秒」で追跡することができるようになりました。

参考資料:ブロックチェーン技術を活用した食品トレーサビリティ【事例㉗】 | ブロックチェーン・ビジネス事例 | BLOCKCHAIN-BUSINESS

まとめ

ブロックチェーンは様々な用途展開が進められています。その中でも、高い透明性と耐改竄性を必要とするトレーサビリティ事業は特に相性が良い分野です。

トレーサビリティ事業は、今後益々進展するブロックチェーン導入の足がかりとなるでしょう。