[最新動向]医療業界で導入・強化が進む「トレーサビリティ」とは?

医療現場の業務効率化や安全・安心な医療サービスの提供のために、トレーサビリティの運用を強化する動きが広がってきています。2021年4月から、GS1コードの表示方法が変わるなど関連法規も変更となりました。また、米国では医療器材にRFIDの電子タグを貼付して、トレーサビリティを強化する新たな動きが出ています。

このトレーサビリティとは何なのでしょうか?この記事では、トレーサビリティについて分かりやすく解説します。

医療業界におけるトレーサビリティとは

まずは、医療業界で運用強化されているトレーサビリティについて分かりやすく解説します。

トレーサビリティとは

トレーサビリティとは、医療現場で利用される医薬品や医療機器、医療材料などの製造・流通・服用・使用・廃棄に至るライフサイクルの流れを追跡できる仕組みのことをいいます。医療現場のライフサイクルを追跡することにより、医療の効率化や医療の安心・安全を確保できます。

トレーサビリティで実現できること

トレーサビリティで実現できることは3つあります。

(1)医材の消費状況の把握

「いつ」「どこで」「何を」使用したのか情報が蓄積されるため、診療のエビデンスとなります。また、医材を使用した情報はリアルタイムに蓄積されていくため、医材の消費トレンドを把握することも可能です。そのため、需要予測に活用できます。

(2)在庫管理の効率化

リアルタイムで医材の在庫状況が把握できるため、過剰在庫や過少在庫の状況を把握して、医材の購買の適正化が図れます。また、有効期限間近な在庫を把握できるため、優先的に使用する医材から使用するなどの適切な対応も可能です。RFIDを活用すれば、遠隔操作で在庫状況を把握できます。

(3)保険請求の効率化

従来は、医材の手書き伝票を電子カルテにスキャンして保存していましたが、記載漏れの点検が不完全などの問題がありました。

トレーサビリティを導入すれば、患者の診察・治療に使用した全ての医材が把握できるようになります。電子カルテと手術部門システムへの指示、記録、承認、登録が行えるようになるため、保険請求の原則を遵守するための設計・構築ができます。

トレーサビリティの必要性

医療材料などの製造・流通・服用・使用・廃棄に至るライフサイクルの流れを追跡しています。医療現場の業務効率化や安心・安全な医療サービスの提供が行っていくためにもトレーサビリティは必要です。

現在は、トレーサビリティは義務化になっていませんが、厚生労働省では、患者の安全に繋がるのであれば義務化を含めて行っていくべきと見解が寄せられています。

医療業界におけるトレーサビリティの規格・法規制

2021年度からは調剤包装単位毎ではなく、販売包装単位毎の表示が必須です。このように、医療業界におけるトレーサビリティの規格・法規制は変化しています。そのため、最新のトレーサビリティの規格・法規制について理解を深めておきましょう。

GS1ヘルスケア協議会とは

GS1ヘルスケア協議会は、医療安全や物流効率化、業務効率化、トレーサビリティの確保、医療防止を図るために発足されました。GS1ヘルスケア協議会の具体的な活動は下記の通りです。

  • 国際標準規制研究部会:国際動向を見据えて、病院での医療安全システムの導入を推進
  • 医療ソリューション研究部会:医療現場に役立つシステムの開発
  • 企画・広報推進部会:GS1コードの活用を促進するための広報活動

トレーサビリティの規格・法規制とは

バーコードや電子タグ等の製品識別技術を活用して、医療業界の発展に貢献しているGS1ヘルス協議会。従来からGS1コードの表示はされていましたが、2021年度から調剤包装単位ではなく、販売包装単位での表示が必須となりました。トレーサビリティを強化するために法規制が変更されました。

GS1ヘルス協議会は、医療現場に役立つシステムの開発や厚生労働省と折衝しています。トレーサビリティの規格・法規制を整えているため、機関の動きをチェックしておくことをおすすめします。

GS1ヘルスケア協議会で定められているコード表示

GS1ヘルスケア協議会が促進しているGS1コードの詳細は以下の通りです。

(1)医薬品へのバーコード表示

GS1コードの調剤包装単位への表示は2008年に開始されました。2021年4月からは、販売包装単位に有効期限や製造番号の表示が必須となります。

調剤包装単位(アンプル)

アンプルなどの調剤包装単位には、2009年9月からGS1データが表示されるようになりました。

調剤包装単位(PTPシート)

PTPシートなどの調剤包装単位には、2015年7月からGISデータが表示されるようになりました。

医薬品販売包装単位

販売包装単位には、2015年7月からGISデータが表示されるようになりました。2021年4月から、GISデータバー(製造番号・有効期限・商品コード)の表示が必須となります。

(2)医療機器等へのダイレクトマーキング

 手術用器具などに使用される医療機器には、GS1の直接印字が必須とされており、2020年までに順次行われる運びとなっています。

製造業者が直接印字する場合はGTIN、医療機関が独自に直接印字する場合はGIAIと使い分けが命じられているので注意してください。また、医療機器への電子タグの貼付が進んでおり、RFIDを活用した医療機器の管理を徹底化する動きも出てきています。

医療業界のトレーサビリティ管理のメリット

医療業界では、医材管理のためにトレーサビリティを強化する動きが出ています。トレーサビリティを強化すると、どのような効果が見込めるのでしょうか?ここでは、トレーサビリティ強化のメリットについて解説します。

医療機関のメリット

「いつ」「どこで」「何を」使用したかの情報が蓄積されるため、診療のエビデンスとして医療機関で活用できます。また、紛失や使途不明の物品が生じた場合、RFIDなどの電子タグを貼付しておけば、物品の所在が明確にすることも可能です。トレーサビリティは、医療サービスの品質向上と業務効率化に役立ちます。

メーカーのメリット

トレーサビリティの情報を活用すると、医療機関での医材の消費トレンドを早く把握することができます。情報を活用することで需要予測や生産計画が行えます。

また、医材の臨床での使用状況が分かるため、新たな医療機器の開発にも活用が可能です。製品に欠陥・不具合があった場合は、製造工程を遡って確認できるため、欠陥が生じた理由などを明らかにすることができます。

卸業者のメリット

 医療機関の在庫状況を把握できるため、過剰在庫や過少在庫の状況把握を通して、適切なタイミングで医材の納品が可能となります。また、医材に欠陥や不具合が発生した場合に、即座に回収することができます。全国の回収進捗状況を一元管理できるため、大変便利です。

医療業界のトレーサビリティ管理の課題

医療業界でトレーサビリティを強化すると、さまざまなメリットが得られます。しかし、課題もあるため注意しなければなりません。実際に、どのような課題が出てくるのでしょうか?ここでは、トレーサビリティ強化の課題について解説します。

ロット番号やシリアル番号の入力が難しい

電子カルテの普及率は80%を超えており、情報が電子化されていれば、GS1コードの入力は容易であると考えられることが多いです。かし、現在の電子カルテにはGS1コードを読み取る機能がありますが、ロット番号やシリアル番号まで記録する機能がありません。

バーコードを用いて、ロット番号やシリアル番号を入力しなければいけなかったり、電子カルテマスタに登録されていない医材ではエラーが出たりなどの問題が生じます。また、診療中にバーコードを読み取るなどの作業は難しいことが課題として挙げられています。

マスタ間で不整合が起こりやすい

電子カルテは、さまざまなシステムが組み合わさって構成されています。処置オーダーシステムや手術オーダーシステム、医事会計システムなどがあります。各システムごとに物品マスタのデータが保存されていますが、登録漏れや登録ミスなどで、マスタ間の不整合が起こりやすくなります。

医療機関・ディーラー・卸売業者の連携がされていない

メーカーと卸売業社は、MD-NETを利用したEDIを用いた取引が主流となっています。また、卸売業者と医療機関の間は、FAXや電子メールなどによって取引が行われています。このように3者間での連携がされていないことが、トレーサビリティ強化が難しいと言われている理由です。

医療機器のRFIDによる管理

医療業界でトレーサビリティ強化を図るには、さまざまな課題が挙げられますが、先進国ではRFIDを活用して強化を図る動向に注目が集まっています。実際に、どのような強化方法なのでしょうか?

医療機器管理に関する海外動向

米国では、カテーテルやインプラントに代表される医療機器の管理をRFIDで行うことが決定されました。非接触による情報認識・照合が行えるRFIDの特性を活かして、業務効率化と安全・安心な医療サービスの提供が行われようとしています。(この動向に関しては、一般社団法人の米国医療機器・IVD工業会が発表したものを参考にしています。)

-RFIDによる医療機器管理方法

先進国ではRFIDによる医療機関の管理方法を以下の手順で行っています。

(1)RFIDタグ貼付対象医材の選定

RFIDタグを貼付する医材を選定します。選定方法は医療機関によって異なりますが、金額が高い医材や、針付き縫合糸やガーゼなど対寧に挿入する医材にRFIDタグを貼付するとよいです。

(2)手術別医材供給方法の設定

医材を患者別・術識別に手術室に供給方式を設定します。入庫・出庫・棚卸作業はRFID読み取りで省力化を図り、在庫と消費デートの突合ができるようにしましょう。

(3)RFIDタグが読み取れるかを確認

RFIDタグの読み取りに問題がないかを確認してください。現場に精通したメーカーによるシステム構築が必要なため、専門のベンダーに相談をしてください。

(4)病院情報システムと連携・運用

病院のシステムとの連携をして、マスタ連携をさせましょう。

RFIDによる医療機器管理のメリット

医材の製造や出荷工程では、確実な製品管理が必要です。しかし、1回に取り扱う数量が多いため、業務は難航してしまうことが多いです。このような問題も、一括読み取りができるRFIDを活用すれば、大幅の製品管理業務の効率化が見込めます。

また、医材を紛失してしまった場合でも、RFIDの電子タグを読み込めば、探索することも可能。そのため、探索時間を短縮することができます。

まとめ

医療業界でも、安心・安全な医療サービスを提供するためにトレーサビリティ強化の動きが始まっています。トレーサビリティを強化すれば、医材の製造から消費までのライフサイクルが分かるようになります。蓄積したデータを利活用して、医療材料の開発やなどにも活かすことが可能です。そのため、医療現場・メーカー・卸売場にメリットをもたらします。

また、米国では、RFIDを活用した医療現場のトレーサビリティが行われ始めています。RFIDを活用すれば、棚卸業務の自動化や医療器材の紛失時の場所特定なども行えるので便利です。

RFIDを活用したトレーサビリティ強化を図りたい場合は、現場に精通したメーカーによるシステム構築が必要となります。