製造業界における「トレーサビリティ」を基本から計測の観点まで徹底解説

製造業界でトレーサビリティは、企業信用力を担保するためにも必要不可欠です。近頃は、製造情報だけではなく、映像やIoT、RFIDなどの最新テクノロジーを活用して、トレーサビリティを強化する企業も増えてきています。製造業界で必要とされるトレーサビリティとは何なのでしょうか?この記事では、製造業界のトレーサビリティについて分かりやすく解説します。

製造業界で注目のトレーサビリティとは

まずは、製造業界で注目を浴びるトレーサビリティについて分かりやすく解説します。

トレーサビリティとは

トレーサリビティ(Traceability)とは、部品や製品をロット番号やバーコードで識別できる状態にして「いつ」「どこで」「誰が」を追跡できるようにする仕組みのことをいいます。

製造業では、原材料の調達から、製造、販売までを追跡できる状態にすることをいいます。これらの仕組みを整えることによって、製品に問題が起きた場合の迅速な対応が行えるようになるのです。近年、製品の品質向上に加えて安全意識が高まってきているため、製造業でトレーサビリティが浸透してきています。

トレーサビリティの種類

トレーサビリティは、(1)チェーントレーサビリティ(2)内部トレーサビリティに分類されます。

(1)チェーントレーサビリティ

チェーントレーサビリティとは、原材料の調達から製造、販売までの段階的な行動を把握できる状態をいいます。各段階の行動を追跡できるため、製造者側は製品がどこに届けられたのかが分かります。また、消費者側でもどこで製造されたのかが把握可能です。

製品に欠陥が生じた場合にも、その製品を「いつ」「どこで」「誰が」製造したのかを追跡できるため、同時期に製造された製品回収の作業が容易となります。このような仕組みが整えられている製品であれば、安心して購入することができるでしょう。

実際に、トレーサビリティは信頼性の高い製品であることの指標となり、表示偽装などの消費者不安を払拭するためにも必要なものです。

(2)内部トレーサビリティ

内部トレーサビリティとは、企業や工場など特定の範囲に限定して、製品情報を追跡する仕組みをいいます。例えば、原材料の調達から製品出荷までの工場内の作業内容や検査結果、寸法情報などを紐づけて活かすことで、業務効率化や生産性の向上、品質の向上に役立てられます。

トレーサビリティの必要性

トレーサビリティは、製品に欠陥や不具合があった場合に、原因解明や対策を講じるために必要なものです。例えば、製品に欠陥が見つかった場合に迅速な対応ができなければ、消費者からの信頼を失ってしまうでしょう。従って、トレーサビリティの仕組みを構築することは、企業信用力の担保にもなるのです。

製造業界でトレーサビリティを導入するメリット

トレーサビリティについて理解して頂けたと思います。なぜ、製造業界でトレーサビリティを導入するべきなのでしょうか?ここでは、製造業界でトレーサビリティを導入するメリットについて解説します。

リスク管理の強化

製品の製造過程が追跡できれば、欠陥が発生した場合に、速やかなリコール対応ができます。

近頃では、小さな不具合でもリコールに発展するケースが増えてきており、製品に対する消費者の目は厳しくなってきています。そのため、欠陥や不具合が発生した原因や影響範囲の特定が遅れてしまうと、企業損失に繋がってしまうのです。

しかし、トレーサビリティを十分に確保していれば、結果や不具合の際に迅速に対応できるなどリスク管理の強化が行えます。

欠陥防止対策支援

製品の欠陥や不具合の発生は、適切な検査が行われなかったことを意味します。同じような欠陥や不具合の発生を防止するためにも、原因解明することが大切です。

原因解明をする際にもトレーサビリティが役立ちます。製造工程を追跡していけば、原因を特定できます。失敗例から学ぶ姿勢は、製造現場の欠陥防止対策として非常に重要なことです。

品質意識の向上

製造工程を追跡できるトレーサビリティでは、中間工程における責任を明確にできます。製造会社の中には、最終工程の責任把握だけで満足するところもあります。このような考えに至ると、製品品質の低下やスタッフのモチベーション低下、競争力の低下を招いてしまうでしょう。

トレーサビリティで各工程の責任を明確にすることで、製造工程全体での品質意識の向上が図れます。

顧客満足度の向上

消費者は製品購入だけではなくサポート体制なども含めて企業を評価します。問い合わせに対して迅速に対応してくれる企業であれば、信頼が寄せられ、安心して製品を購入することができます。

トレーサビリティで製造工程を追跡できるようにしておけば、欠陥・不具合の原因を速やかに特定することができ、消費者を安心させられるため、顧客満足度の向上にもトレーサービリティは欠かせません。

企業イメージの向上

消費者は安心・安全に使用できる製品を求めています。トレーサービリティの仕組みを構築して製造工程を追跡できる状態を維持することは、安心や信頼に欠かせません。トレーサビリティの仕組みを整えておけば、安心・安全に配慮した企業としてイメージの向上が図れます。

製造業界トレーサビリティの管理方法

製造現場でトレーサビリティを構築することは非常に重要です。実際に、どのように製造工程を管理していくのでしょうか?ここでは、トレーサビリティによる管理方法をご紹介します。

各段階において製品の識別単位を定める

製造会社がトレーサビリティを構築する場合は、まず識別単位を決めていきます。識別単位とは、追跡、遡及の単位となり、個体・個別製品を単位とすることが多いです。

また、製造会社の場合は、生産工程や加工、流通の各段階で変化が起こる箇所で識別単位の設定が変わることもあります。

識別記号のルールを定める

識別単位を特定できるように識別記号を割り当てていきます。この識別記号は重複しないことが大切です。複数の取引先から製品を受け入れる場合は、各取引先の製品の識別記号のルールを統一しておけば、情報管理がしやすくなります。

識別単位毎に分別方法を定める

識別単位を決めたら、意図しないものが混入しないように分別方法を定めていきます。具体的な分別方法としては、ラインを用いた連続生産で複数のラインがある場合は、ライン別に分けるのもひとつの方法です。また、ラインを使用する時間帯に分けるなどの方法があります。

遡及可能性(追跡可能性)を確保する

原料の識別単位と仕入先を対応づける方法を定めて、仕入先への遡及可能性を確保します。同時に、製品の識別単位と販売先を対応づける方法を定めて、販売先への追跡可能性も確保できるようにしましょう。

内部トレーサビリティの確保する

原料の識別単位と、原料からできる半製品、および製品の識別を対応づける方法を定めておきます。原料や部品が統合されたり分割されたりするときには、作業前の識別単位と作業後の識別単位とを対応づけましょう。

識別単位の添付方法を定める

識別記号のルールに沿って、製品に識別記号を添付する方法を決めていきます。例えば、スタンプで識別番号を印字する方法やラベルを貼り付ける方法などがあります。製品に適した添付方法を選びましょう。

読み取り情報を保管する媒体を定める

トレーサビリティの情報の記録方法や保管媒体を定めます。識別番号を目視して手書きで記録する、バーコードをハンディターミナルで読み取ってパソコンに記録するなど、様々な方法があります。

手順を確立させる

上記の流れを見直して、手順を確立させます。「いつ」「どこで」「だれが」作業を行ったのかを追跡できる体制を整えましょう。また、各スタッフにトレーサビリティに対する理解を深めてもらうために、識別番号や、一連の作業、記録すべき情報や記録方法などの手順書を作成しておきます。

製造業界におけるトレーサビリティ導入の課題

製造現場のトレーサビリティによる管理方法を説明しましたが、想像以上に大変です。どのようなことが難しく感じてしまうのでしょうか?ここでは、トレーサビリティ導入の課題について解説します。

問題の要因特定に時間がかかる

生産ラインの各工程では、良品条件と呼ばれる製造条件が採用されており、前工程のどの部品(ロット)を使用して、製品を製造したかという紐づけしか行われていないことが多いです。そのため、ロットで不具合が発生した場合のリコール回収は速やかに行えますが、問題の解明追求には検査結果や製造条件をチェックする必要があり時間がかかります。

時間的制約に関するチェックが難しい

製品工程の中には、すぐに後工程を通らないと製品の品質の低下を招く場合があります。その一方で、一定時間が経過してから後工程をしなければならない場合もあります。このような時間的制約に関する条件をチェックすることが難しいです。

投資額が高額になる

古い設備だと、工場内にネットワークが敷設されていないこともあります。ネットワークを構築するだけでも投資額は高額となるでしょう。また、場合によっては機械制御のPLCを最新の設備に置き換えることも必要です。そのため、投資額が高額過ぎて導入できないという悩みを抱える企業も多いです。

製造業界のトレーサビリティシステム提供会社

実際に製造現場のトレーサビリティを強化したいと思われた方のために、注目を浴びるトレーサビリティシステムをご紹介します。ぜひ、導入を検討してみてください。

映像ソリューション:富士ソフト

近頃は、検査画像や組立工程の人の動きを動画で保存している製造会社も増えてきました。しかし、これらのデータを蓄積すると膨大な量となり、オンプレミスでもストレージでもコストが増加してしまいます。

富士ソフトは、ストレージが増加してもデータ破損しないように、画像や映像を劣化させることなく高い圧縮率で保存できる画像・映像ソリューションを提供しています。圧縮したデータでもAI活用が可能なため、画像認識による品質管理など品質向上に役立つと注目を浴びるソリューションです。

 IoTロシューション:オムロン

オムロンは、工場機械をIoTで接続して設備稼働の可視化が行えるIoTソリューションを提供しています。設備稼働情報を収集することで、稼働実績や稼働状況の可視化が行えるのです。また、不稼働時間の分析を行えば、稼働率向上のために取るべき対策が見えてきます。

オムロンのIoTソリューションは、現場改善に役立つ情報が得られると注目を浴びるソリューションです。

RFIDソリューション

小型コンピュータRaspberry PiとRFIDを組み合わせると、リアルタイムのトレーサビリティが実現できます。RFIDはデータの読み取りや書き込みができるソリューションです。そのため、現品票にRFIDを付けておき、前段階の工程に関する情報を読み込む、自工程完了時に製造条件を書き込むなどして、製造工程を紐づけていくことができます。

RFIDの電子タグは初期投資額が高いですが、遠隔でも読み込みが可能で、一括操作ができるなどのメリットがあるので注目を浴びているソリューションです。

まとめ

今回は、製造業のトレーサビリティについて解説しました。トレーサビリティは以下の理由から企業にとって必要不可欠なものとなっています。

  • リスク管理の強化
  • 欠陥防止対策支援
  • 品質意識の向上
  • 顧客満足度の向上
  • 企業イメージの向上

従来のトレーサビリティの方法以外にも、映像解析やIoT、RFIDなどのテクノロジーを活用してトレーサビリティを強化する企業も増えています。トレーサビリティを強化することは、企業信用力の担保にもなるため、これを機会に検討をしてみてください。