IoTの国内市場規模はRFIDの普及で10兆円を突破するか?

  • 3月 1, 2022
  • IoT
IoT

「第4次産業革命」とも呼ばれるIoTを活用した産業分野のデジタル化が、日本のみならず世界各国で急速に進んでいます。

国内の工場では「スマートファクトリー」を進める企業が増えており、特に製造業や物流業に携わる方であれば、「デジタル化を進める上で、今後のIoTの市場動向を抑えておきたい」と考えていらっしゃるのではないでしょうか?

そこで本稿では、

  • IoT市場規模と展望

  • 国内の産業用IoT市場が拡大する理由

に触れ、さらにIoT市場拡大のカギを握るとされる「RFID」を詳しくご紹介します。

IoTの市場規模と見通し

IDC JAPANの調査によると、2020年の国内IoT市場規模は6兆3,125億円で、その後、年間平均成長率は10.1%で推移し、2025年には約10兆1,902億円になる見通しです。

 

市場規模

2020年

6兆3,125億円(実績)

2021年

約6兆9,500億円

2022年

約7兆6,519億円

2023年

約8兆4,247億円

2024年

約9兆2,785億円

2025年

約10兆1,902億円

また、総務省の統計調査結果によると、2019年度のIoTデバイスは約253.5億個で、2022年度には約348億個になる見込みです。とくに医療(画像診断装置やヘルスケア機器)、産業用途(オートメーション、検査・計測機など)で大きく市場が拡大すると予測されています。

国内の産業用IoT市場が拡大する理由

国内では少子高齢化に伴う働き手の減少に対応するため、業務の効率化が求められています

とりわけ製造や物流においては、製造ラインをアナログで運用する際に多くの人手が必要です。IoTを活用して工程をデジタル化し作業人数を削減できれば、近い将来に直面するであろう労働問題に備えられます。

昨今は「エッジコンピューティングなどの処理を高速化する技術」、「産業用IoTプラットフォームの充実」、「ブロックチェーンによるセキュアなデータ環境」、「5G(高速、大容量、多数同時接続)」など、IoTを取り巻く技術革新が進んでいます。

「エッジコンピューティング技術」「IoTプラットフォームの充実」「IoT×ブロックチェーン」については以下3つの記事に分けて、詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

IoTの鍵になる「クラウドコンピューティング」「エッジコンピューティング」とは?最新動向をご紹介!!

【2020年最新版】IoTプラットフォームとは?違いや選び方をわかりやすく解説

5分でわかるIoTとブロックチェーンの関係性!国内の活用事例とあわせて徹底解説!!

時代のニーズと技術革新の相乗効果で、工場をデジタル化する「スマートファクトリー」を推し進める企業も増えており、今後さらに広がっていく見込みです。

世界に目を向けても、米国、欧州、中国など世界各国が産業のデジタル化に力を入れています。

今後、製造業・物流業におけるIoTを活用したデジタル化は、市場競争力を保つ上でも避けて通れない投資となるでしょう

IoTの市場拡大を支えるRFIDの普及

産業用IoTの中でも特に注目されているのが「RFID」です。

「RFID(Radio Frequency Identification)」とは、情報が埋め込まれた「RFIDタグ(ICタグ)」と、近距離無線通信によって情報をやり取りする技術です。

矢野経済研究所の調査によると、2018度に383億円だったRFIDの市場規模は、2020年は431億円、2023年には516億円に達すると予想しています。

【RFIDの市場規模】(基準値/2018年:383億円)

年度

2019

2020

2023

金額

408億円

431億円

516億円

2018年度比

1.06倍

1.12倍

1.34倍

参考資料:矢野経済研究所「RFIDは383億円市場に、物流業界では動き鈍い」

RFIDについて詳しく知りたい方は「RFIDとは?最新動向と活用事例を解説!」を参考にしてください。

RFID市場の拡大が期待されている背景には、次の2つの理由があります。

RFIDが注目される理由①:コンビニへの導入

2017年4月18日、経済産業省は2025年までにコンビニの全商品にRFIDタグを取り付ける「電子タグ1000億枚宣言」を発表しました。

RFIDタグについて詳しく知りたい方は、以下の記事を、ぜひご覧ください。

RFIDタグの失敗しない選び方〜タグメーカーを一挙紹介〜」

国内大手コンビニ3社(セブンイレブン、ファミリーマート、ローソン)の店舗数は、2020年3月時点で50,000箇所を超えています。現在は商品管理にバーコードが使用されていますが、これがすべてRFIDタグに置き換われば、RFIDタグの流通量は膨大な数になるでしょう。

また、商品検品、店員のレジ打ち(バーコード読み取りが不要)、賞味期限チェックなど、あらゆる工程がRFIDタグを起点とした流れに変わります。

RFIDタグのみならず、検品に必要なリーダーやセルフレジなどの精算機の需要も増えていくことでしょう。RFIDタグ対応のスマホ用精算アプリが登場するかも知れません。

現時点では、大量の商品一つ一つにRFIDタグを貼り付ける技術が未発達であることや、RFIDタグが1枚1円まで下がる必要があることなど、クリアしなければいけないハードルはあります。しかし、低コストの塗布型RFIDタグの開発が進められるなど、実現される日が近いかもしれません。

コンビニでの導入が成功すれば、スーパーやデパートなどあらゆる業界への広がりも予想されます。

RFIDが注目される理由②:いずれバーコードはRFIDに置き換わる?

期待されるのはコンビニだけではありません。

国内のほとんどの商品はバーコードで管理されています。「クリーニングの衣類」、「図書館の蔵書」、「郵便物」、「製造工具・金具」、「輸血パック」など、数えればキリがありません。

バーコードで管理されている商品を検品する場合は、専用のリーダーを用いて、一点ずつ照合する必要がありますので、人手や時間がかかることが課題になっています。

RFIDタグには「一括読み取りができる」・「離れた場所からでも検知できる」という特徴があります。

バーコードをRFIDタグに置き換えれば、ダンボールなど遮蔽物の外からでも商品をまとめて検品できますので、圧倒的な時間短縮になります。

数年前まではRFIDタグの価格は高価でしたが、現在は一枚10円を切るタグも登場していて導入しやすい環境が整っています。タグの価格が下がれば、RFIDタグの導入を進める業界や企業は今以上に増えることでしょう。

「バーコードをRFIDタグに」この流れはアパレル業界を中心に各業界へ広がっています。

RFIDタグの価格について詳しく知りたい方は「IoTの国内市場規模はRFIDの普及で10兆円を突破するか?」を参考にしてください。

IoT市場拡大の要!RFIDの活用事例5選

ここでは、RFIDの活用事例を5つご紹介します。

①ユニクロ/全商品をRFIDタグで管理

ユニクロの無人レジを利用された方も多いのではないでしょうか?

ユニクロは全商品にRFIDタグを取り付けていて、無人レジが設定されている店舗であれば、精算かごに商品を入れて画面に表示された金額を入金するだけで精算が完了します。

精算情報はPOSに反映されます。店舗の出入り口にはRFIDタグを検知するセンサーが設置されていて、未精算の商品が無いか逐一チェックしています。

ファーストリテイリングを始め、BEAMS、ユナイテッドアローズ、シップス、ジャーナルスタンダード、アーバンリサーチ、オンワード、earth music&ecology、CIAOPANIC TYPY、Nike、アシックス、AZUL、無印良品などでも導入されるなど、アパレル業界でのRFIDの普及が進んでいます。

ユニクロにおけるRFIDの活用事例については、以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント

②大日本印刷/RFIDを活用したダイナミックプライシング検証実験

「ダイナミックプライシング(DP)」とは、ダイナミック(動的)にプライシング(価格調整)を行うことです。

大日本印刷は、2019年2月、経済産業省・新エネルギー・産業技術総合開発機構とダイナミックプライシングの共同実験を行いました。

商品に取り付けたRFIDタグの情報を分析し、商品の売れ行きや在庫状況を逐一チェックし、価格調整を行います。

閉店前のスーパーで、売れ残った商品に値下げシールが貼られるのをイメージすると分りやすいと思います。

顧客ニーズに応じ、動的に価格を調整することで、売上アップや売れ残り防止の効果が期待できます。

実用化されれば「在庫状況に応じたセール案内をタイムリーに顧客へ届ける」など、顧客と一体になった購買活動が可能になるでしょう。

参考資料:流通ニュース「DNP/RFIDでリアルタイムに価格・広告配信による購買率変化を検証」

③凸版印刷/ICかんばんで製造ラインの進捗の可視化を実現

工場の製造ラインは、現場に置かれているホワイトボードなどに進捗状況を手書きで記入することで情報を共有する、アナログ管理のケースも多いです。この場合「現場監督が逐一把握できない」、「全体の作業の進捗が見えにくい」などの課題がありました。

工場は数十人、多ければ数百人の作業員が同時に作業を進めますので、手書きの運用では情報共有に限界があります。

凸版印刷は、製造データをデジタル管理する「ICかんばん」を開発。製品に取り付けられたRFIDタグをリーダーで読み込むことで、製造状況を逐一把握できる仕組みを実現しました。

製造ラインが可視化されれば、現場を動き回らずに作業の進捗を確認できます。何かと多忙な現場責任者の業務負荷を抑えることにも繋がるでしょう。

参考資料:自動車部品メーカーさま 製造実績収集システム導入事例(トッパン・フォームズ株式会社)

RFIDリーダーの価格や選び方について、ご興味がある方は、こちらの記事をご覧ください。

RFIDリーダーの価格や選び方を解説!最新のスマホ搭載型ハンディリーダーを一挙紹介

④富士通/洗えるリネンタグ

多くのクリーニング店舗は、受付と実際にクリーニングを行う場所が分かれています。受付では、顧客から預かった衣類にバーコードが印字された紙を一枚ずつホチキス止めし、まとめてクリーニング業者に依頼します。

クリーニング業者は一枚ずつ検品する必要がありますし、クリーニング完了後は店舗でもう一度一枚ずつ検品する必要があります。

このような中、富士通フロンテックは「洗えるRFIDソフトリネンタグ」を発表し、2019年3月時点で累計1億3000万枚を販売しています。

洗濯やドライクリーニングを複数回行っても繰り返し使えることが特徴で、紙に比べるとコストパフォーマンスが抜群に良いです。検品は専用のリーダーをかざすだけなので、バーコードに比べて検品にかかる時間を大幅に削減できます。

クリーニング業界はまだまだバーコードが多い状況です。洗えるRFIDタグの価格が下がれば、アパレル業界に広がりを見せているように、クリーニング業界にも広がっていくことも大いに考えられます。

参考資料:UHF帯RFIDタグ(富士通フロンテック株式会社)

⑤RFルーカス/RFIDでモノの位置を正確に把握

これまでご紹介してきたRFIDですが、ある一つの課題を抱えています。

それは「リーダーではRFIDタグの正確な位置情報を特定できない」という点です。

モノの数が少なければ目視で確認できるので問題ありません。しかし、例えば製造業における工具や店舗のバックヤードなど、管理するモノの数が増えるほど場所の特定に時間がかかっていました。

この課題を解消すべく登場したのが、RFルーカスの「Locus Mapping」です。

Locus Mappingでは、モノの正確な位置がデジタルマップ上に表示されます。探索時には対象物に近づくにつれて検知音が大きくなる仕組みなので、画面・音の両面からモノ探しをサポートしてくれます。

モノ探しの時間を大幅に削減できるため、「製造業の部品管理」、「棚卸し」、「バックヤードでのモノ探し」など様々なシーンで利用されています。

まとめ

IoT市場は、産業用IoTデバイスの需要増を中心として拡大を続ける見込みです。

その中でもRFIDは、今回ご紹介したような実験段階の製品やサービスが多い状況です。そのため、本格的に市場に出回れば、IoT市場拡大の起爆剤となる可能性を秘めています。

RFIDの普及状況によっては、2022年までにIoTの市場規模が10兆円を突破する可能性は十分にありえるでしょう。

RFIDは「2025年までにコンビニの全商品に貼られる見込み」、「RFIDタグの価格が下がっている」、「バーコードからRFIDに切り替える業界が増えている」などの要因が重なり、市場に追い風が吹いている状況です。

導入しやすい環境が整っていますので、RFIDの導入に興味がある企業は一度ベンダーに相談してみると良いでしょう。