日産自動車パワートレイン技術統括グループエキスパートの責任者は、
「従来の鋳造でできる部品と同じものを3Dプリンターで製造しても意味がない。今後は、付加価値をどう見出すかが重要」
と、3Dプリンティングフォーラム 2019の講演で語っています。
参考資料:日経XTECH「日産、エンジン開発で3Dプリンター」
3Dプリンターは高額なため「どのように使うのか?」ということと「導入する価値は何か?」をしっかりと把握しておくことが重要です。
そこで本稿では、
- 3Dプリンターの主要な導入方法
- 3Dプリンターを使う上で必要なもの
- 3Dプリンターの使用手順
など、3Dプリンターの基本的な使い方について解説し、最後に「3Dプリンターを活用する2つの価値」と「製造業での活用事例」をご紹介します。
3Dプリンターの主要な導入方法とは?
3Dプリンターの導入方法には、「購入」・「レンタル」・「出力サービス」の3種類があります。
3Dプリンターの「購入」は海外で進む
矢野経済研究所の市場調査によると、3Dプリンター材料のCAGR(年間平均成長率)は「21.2%」と、市場の急拡大が予想されています。
参考資料:矢野経済研究所「2018年の3Dプリンタ材料の世界市場規模は前年比26.9%増の1,813億44百万円」
一方、富士経済の調査では、製品開発に使われる「金属3Dプリンター」の購入が進むのは海外であり、「国内での購入率はゆるやかな上昇」と予想されています。
参考資料:fabcross「金属3Dプリンター市場、2022年に1595億円規模に拡大——富士経済予測」
金属3Dプリンターは「購入金額が数千万円以上かかり、維持費も高額である」という、特にコスト面での課題があるため、導入に踏み切る企業が少ない傾向にあります。
金属3Dプリンターや選び方については、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
【金属用3Dプリンター徹底ガイド】基礎から人気メーカー7社まで総まとめ
国内で普及するのは「3Dプリンター出力サービス」と予想
新型コロナウイルスの影響で、特に製造業においては投資に後ろ向きになる企業が増えると予想されます。
RICOHが3Dプリンターを導入している412社に対して行ったアンケート調査によると、「業務用3Dプリンター本体の購入価格は100~300万円未満」と答えた企業が最も多いです。さらに活用する上では、材料・サポート材・3Dソフトの費用など、ランニングコストがかかることから、決して安い投資額ではありません。
そのような背景の中、日本で普及が予想されるのは「3Dプリンター出力サービス」です。
MM総研の調査によると、「3Dプリント出力サービスの市場規模」は、2021年には2018年比で約3.2倍に成長すると予想しています。
(出所)MM総研「国内法人における3Dプリンターの導入実態調査」を基に作成
本稿では、3Dプリンターを購入した場合の使い方について解説していますが、「できる限り初期コストをカットしたい」・「試作品製作の用途にのみ使いたい」場合には、購入に比べて出力サービスの方がコストパフォーマンスに優れます。購入前提で進めることなく、自社に見合った導入方法の検討を行うことが大切です。
「3Dプリンター出力サービス」については、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
3Dプリンター出力サービスのメリットとは?製造業での活用事例とおすすめ業者を徹底解説
3Dプリンターを使う上で必要なもの
3Dプリンターを購入し活用する上で、事前に用意すべきものがあります。
①3Dプリンター本体
家庭用3Dプリンターであれば卓上タイプが多くコンパクトですが、業務用3Dプリンターになると大型も存在します。また、造形方式によっては決められた空調設備が必要になるケースがありますので、設置場所の確保も必要です。
おすすめの業務用3Dプリンターや選び方については、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
【製造業向け】おすすめの業務用3Dプリンター7選と選び方を徹底解説!
②PC
PCは主に3Dデータを作成するために使用します。設計作業をスムーズに進行するためにも、一定の性能(CPU、処理速度など)があることが望ましいです。3Dデータ作成ソフトを選ぶ際に、求められるPCスペックを確認すると良いでしょう。
③3D CADソフト
3Dデータを作成するには、「3DCAD」、「3DCG」、「3Dスキャン」の3つの方法があります。その中でも3DCADは、CGやスキャンに比べて詳細な設計ができることから、製造業で広く使われています。
すでに3DCADソフトを使用していれば、基本的に3Dプリンター用のデータ作成ソフトとしてそのまま使用できます。
おすすめの3Dプリンター用3DCADソフトついては、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
【2020年最新版】おすすめ3Dプリンター用3DCADソフト7選
④スライスソフト
スライスソフトとは、3Dデータを3Dプリンターで使用可能な形式に変換するソフトウェアです。購入した3Dプリンターの付属品であるケースが大半で、別途購入する必要はありません。
⑤素材
3Dプリンターは「フィラメント・石膏などの素材を造形していくプリンター」です。予め3Dプリンターに対応する素材を準備しておく必要があります。
フィラメントついては、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
3Dプリンターフィラメントの種類別の特徴と利用用途を徹底解説!!
3Dプリンターの使用手順(6ステップ)
ここでは、3Dプリンターの使用手順を解説します。
ステップ①:3Dデータの作成
まずは、「3DCAD」・「3DCG」・「3Dスキャン」のいずれかの方法で、3Dデータを作成します。
内部構造まで詳細に設計したいのであれば「3DCAD」、デザイン重視で設計したいなら「3DCG」、物体のサイズが大きく、計測データが少ないのであれば「3Dスキャン」を使用すると良いでしょう。
3Dデータの作成ついては、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
ステップ②:STLファイル出力・検証
3Dプリンター用データとして一般的に使われるSTLファイルを作成します。作成後は「厚みがあるか」・「穴が空いていないか」など、3Dプリントの失敗を避けるための検証を行います。
なお、「3Dプリンター用3DCADソフト」にはSTLファイルの充実した検証機能が搭載されていますので、3DCADソフトを新調したいと考えている方は活用すると良いでしょう。
ステップ③:造形ツールパスデータへ変換
造形ツールパスデータとは、3Dプリントを行うためのデータです。3Dプリンターの付属品である「スライスソフト」を使用して作成します。
ステップ④:3Dプリントの造形
ステップ①~③を元に3Dプリンターが自動で造形を行います。造形時間は造形方式やサイズによって異なります。金属3Dプリントの受託サービスを手掛けるJ・3Dの公式サイトには、「造形時間は、30分から200時間と、造形物によって大きく違います」と掲載されています。
ステップ⑤:サポート材の除去
3Dプリントでは造形物を固定するために「サポート材」を使用します。プリント後は、造形物からサポート材を手で剥がしたり、道具を使うなどして、サポート材を取り除きます。
ステップ⑥:仕上げ加工
必要に応じて研磨・塗装などの仕上げ加工を行います。しかし、表面の仕上げは造形物を傷つけないために注意して実施する必要があります。
製造業で3Dプリンターを活用する価値とは?
ここまでお伝えしてきたように、3Dプリンターを使うためには準備すべきものがあり、複数の工程を経て製造が完了します。
決して、全てが手放しで完成する訳ではありません。
さらに、3Dプリンターは実際のモノが出来上がるまでには時間を要しますので、「大量生産」には不向きです。
では、なぜ製造業で3Dプリンターを導入する動きが広がっているのでしょうか?
これには大きく2つの理由があります。
スピーディーな試作品開発が可能になる
RICOHが3Dプリンターを導入した412社に行ったアンケートによると、約6割の企業が「試作品製作のために導入した」と答えています。
3Dプリンターは、3Dデータを読み込ませることで自動で製作が完了するため、スピーディーな試作品開発が可能です。
また、新型コロナウイルスの影響で「人員を削減しつつも、これまでの製造量を維持したい」と、製造の自動化に対する新しいニーズが生まれています。
自動で製品が出来上がる3Dプリンターを活用することで、人の作業を機械が代行する仕組みを構築できるでしょう。
With/Afterコロナで求められるサプライチェーン短縮への活用
With/Afterコロナのトレンドとして、生産拠点を国内に戻す「地産地消」の動きが予想されています。
With/Afterコロナのサプライチェーン改革ついては、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
With/Afterコロナのサプライチェーン改革とは?押さえるべき4つの最新トレンド
しかし、これまで海外に生産拠点を抱えていた企業が国内に戻すとなると、設備費用やサプライチェーンの再構築など、膨大な費用や手間がかかります。供給量が低下することも懸念されるでしょう。
3Dプリンターを活用し、生産を自動化すれば、大きな設備投資を必要とせず、全く新しいビジネスモデルでの生産を進めていけます。
資金調達においては、デジタル化を推進するための支援制度を活用することで、資金援助を受ける方法もあります。一例として、申請が通ることで最大1億円の補助金を受けられる「ものづくり補助金」を活用する企業が増えています。
製造業での3Dプリンター活用事例5選
ここでは製造業での3Dプリンターの活用事例を5つの業種別にご紹介します。
①自動車分野
GMの自動車には30,000個/1台を超える部品が使われているそうです。自動車分野では、部品製造の一部を3Dプリンターに置き換えることで、次世代型の自動車開発を目指す動きが見られます。
【自動車分野での3Dプリンター活用例】
企業 |
事例 |
GM | Autodeskと提携し、次世代車の軽量化を目指す |
フォード |
Carbonと提携し、最終用部品開発を実施 |
BMW | 3Dプリンターで100万個超の自動車部品を製造 |
ベンツ |
3Dプリンターでクラッシックカー用部品を製造 |
トヨタ |
3Dプリンターで量産用アルミダイカスト金型を製造 |
日産 |
3Dプリンターでシリンダーヘッド試作品を制作 |
ホンダ |
「N-BOX」シリンダーブロックのアルミ鋳造用金型を製造 |
3Dプリンターは大型の造形には向いていません。そのため、自動車のボディ・タイヤなどのパーツではなく、エンジンブロックといった小型化や軽量化が求められるパーツの製造に活用されています。
②航空・宇宙分野
航空・宇宙分野でも3Dプリンターを活用する動きが見られます。
この分野は、気圧や温度といった過酷な条件に対応するため、「破損など、絶対にミスが許されない設計」が求められます。
3Dプリンターは3DCADで制作したイメージをそのままに表現できます。昨今の金属3Dプリンターの精度が向上していることもあり、海外を中心に実用化が進んでいます。
【航空・宇宙分野での3Dプリンター活用例】
企業 |
事例 |
ボーイング | ボーイング777Xの機体に300個の3Dプリント部品を備えた新型エンジン「GE9X」を搭載し、初飛行(2020年1月25日) |
エアバス |
客室内部品やパイロンに金属3Dプリンティングによる部品を導入 |
ボンバルディア | 鉄道事業で3Dプリンターを活用。航空分野への展開を検討中 |
JAL |
東京天王洲アイルに3Dプリンターなどのイノベーション体験ができる施設「JAL INNOVATION lab」を新設 |
NASA |
火星探査機「ローバー」の部品を3Dプリンターで製造 |
エアバスの担当者は、「従来の製造方法に比べて30~50%軽く、製造期間も短縮された。材料コストもカットできている」と3Dプリンターの成果を述べています。
新型コロナウイルスの影響で航空業界は大きな打撃を受けており、より安価で効率の良い製造方法を模索しています。コスト面でのメリットが高い3Dプリンターを活用する動きは、今後増えると予想されます。
参考資料:株式会社 旭リサーチセンター「金属積層造形技術(3Dプリンタ)の最新動向」
③ロボティクス分野
ロボティクス分野では、主に「パーツ製作」での活用が広がっています。
株式会社イクシスリサーチでは、現場のニーズに合わせた「保守用ロボット開発」のため、3Dプリンターを活用しています。
「従来は、顧客ごとのニーズに対応すると、製作費・日数がかかり、ビジネスの拡大と相反するとの課題がありました。3Dプリンターを活用することで、顧客重視の開発ができるようになりましたし、何よりも試作品の提案の幅が広がりました。」と担当者は語ります。
「3Dプリンターは設計データがあれば製造できる」との特徴があるため、ロボットのカスタマイズにも柔軟に対応できます。
参考資料:3Dプリンター活用事例「株式会社イクシスリサーチ 」
④産業機器分野
無人搬送機、クレーン、ベルトコンベア、プレス機といった産業機器においては、他の分野と同様に「パーツ製作」に3Dプリンターが活用されています。
一例として、Thogus社では試作品の開発から自動機の開発まで3Dプリンターを活用しています。
「3Dプリンターを使うことで低コストで、かつスピーディーな試作品開発が可能です。また、多くのフィラメントをテストすることができ、最適な素材を検証する上でも重宝しています。」とThogus社の担当者は語ります。
大きさにもよりますが、小型の試作品であれば3Dプリンターでは数時間で製造できるケースがありますので、試作品開発のスピードを大幅に向上させることが期待できます。
⑤コンシューマー製品分野
コンシューマー製品分野では、活用事例が豊富です。
フィギュア、アンティークなどを始め、様々な事例があります。
【コンシューマー分野での3Dプリンター活用例】
企業 |
事例 |
アシックス | 3Dスキャンで足の計測を行い、3Dプリンターで試作品を制作 |
サーモス |
3DCADで魔法ビンを設計し、3Dプリンターで試作品を制作 |
豊丸産業 | 3DCADでパチンコ台の部品を設計し、3Dプリンターで試作品を制作 |
企業においては、「スピーディーな試作品開発」のために3Dプリンターを活用している傾向にあります。
まとめ
3Dプリンターの導入費用は、プリンター本体だけで数百万円かかります。金属3Dプリンターに至っては、購入に数千万円以上、年間の保守費用は数百万円に上ります。機械は大型なので、設置場所への配慮も必要です。
金属3Dプリンターや選び方については、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
【金属用3Dプリンター徹底ガイド】基礎から人気メーカー7社まで総まとめ
国内の製造業では、3Dプリンター出力サービスを活用する動きが予想されていることもあり、購入を検討する際には、「レンタル」・「出力サービス」と比べた場合の費用対効果を検証することが大切です。
「3Dプリンター出力サービス」については、こちらで詳しく説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
3Dプリンター出力サービスのメリットとは?製造業での活用事例とおすすめ業者を徹底解説
ぜひ、今回の記事を参考に3Dプリンターの基本的な使い方を抑え、3Dプリンターの価値や事例を確認することで、自社に最適な導入方法の選択にご活用ください。