3Dプリンターデータの作成方法~医療・製造・アパレル編~

矢野経済研究所が調査した「3Dプリンタ材料世界市場規模推移・予測」では、3Dプリンターの市場は年間約21.2%ずつ成長し続けて、2023年の市場規模は4,750億6,700万円になると予測されています。

この調査結果から分かるように、3Dプリンターは、造形方法の技術革新に伴い、製造業の工作機械の位置付けに近づきつつあります。
実際に、製造現場だけではなく、医療やアパレルなど様々な場所で試作品や治工具などの用途で活用されています。

試作品やカスタマイズ品の造形などで強みを発揮する3Dプリンターは、実際にどのように現場で活用されているのでしょうか?また、3Dプリンターデータはどのように作成するのでしょうか?

本稿では、3Dプリンターデータの活用事例や作成方法について解説します。

3Dプリンターデータ活用事例(医療・製造・アパレル)

まずは、医療・製造・アパレル業界の3Dプリンターデータの活用事例をご紹介します。

医療

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3Dプリンターを活用した医療物資の支援が行われました。医療用矯正器具や骨格模型を手掛ける日本のベンチャー企業「ジャパン・メディカル・カンパニー」は、3Dプリンターのノウハウを活かして、防護具のフェイスシールドを製造しました。

フェイスシールドは、6,000の医療機関に届けられました。また、マスクや人工呼吸器などの3Dデータが無償で配布されるなど、医療物資支援活動の動きが出ています。

参考資料:医療ベンチャーによる最先端3Dプリンタを活用したフェイスシールドの無償プロジェクトクラウドファンディング開始|PR Times

製造

航空機や自動車の部品製造に3Dプリンターが採用され始めています。東京大学発のスタートアップ企業「ネイチャーアーキテクツ」では、メカニカル・メタマテリアル(※1)を3Dプリンターで製造しました。

独自設計技術「Direct Functional Modeling(DFM)」で、ロボットのパーツの試作品を製造しています。従来であれば、パーツを分類して造形する必要がありましたが、機能性を損なうことなく一度の造形で製造が可能になりました。製造業でも、大きな注目を集めています。

※1 Mechanical Metamaterials:弾力や変形の特性が人工的な構造によってコントロールされたものの総称。

参考資料:「Direct Functional Modeling」|Nature Architects inc

アパレル

スポーツ用品メーカー「アディダス」では、ソール部分を各ユーザーに合わせて3Dプリンターで成型する「Futurecraft 4D」を提供しています。

2017年4月に300足を限定で提供したところ好評だったため、量産体制の強化を行いました。アディダスでは、ロボットにより製造を行うシューズ工場技術「Speed factory」をアジア全域の工場で導入し始めています。

参考資料:アディダス、ロボットのシューズ工場「Speedfactory」をアジアで展開| CNET Japan

3Dプリンター利用の流れ

3Dプリンターの活用事例を知って、導入を検討したいと思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

しかし、導入前に気になるのは3Dプリンターの使用方法です。ここからは、3Dプリンターデータ作成から、実際に造形物が完成するまでの工程の流れを解説します。

1. 3Dデータの作成

まずは、3Dプリンターに読み込ませるデータを作成します。

データ作成方法には

(1)3DCADや3DCGのソフトを使用して作成する方法

(2)実物をスキャンする方法

(3)配布データをダウンロードする方法

の3つがあります。

2. STLファイル出力・検証

3Dデータが完成したら、STL形式に変換します。3DCADや3DCGで作成したデータは、そのままSTL形式に変換可能です。STL検証では表面に厚みがないか、穴が空いていないかを確かめます。

(※補足)STL形式とは、Standard Triangulated Languageの略で、三次元形状のデータを保存するフォーマットです。3Dプリンター業界を牽引し続けてきた世界的なリーディングカンパニーである3DSystems社によって開発されたため、多くの3DCADソフトが、STL形式をサポートしています。

3. 造形ツールパスデータへ変換

STL検証を終えたら、機械を制御するためのデータに変換します。3Dプリンターには、様々な出力方式があります。例えば、「材料押出堆積法」では、材料である樹脂を熱で溶かしながら、一層ごとにプリンターヘッドを動かし、材料を積み上げていくことで造形します。

このように、3Dデータを一層ごとにスライスして、3Dプリンターのヘッドを動作させるために、造形ツールパスデータに変換しなければならないのです。一般的に大手メーカーの3Dプリンターでは、専用のスライスソフトが用意されています。

4. 3Dプリントの造形

造形ツールパスデータを3Dプリンターで読み込むことで、造形が始まります。3Dプリンターに読み込む方法としては、3Dプリンターに接続した専用ソフトを動かす方法と3Dプリンターに直接読み込ませる方法があります。

5. サポート材の除去

3Dプリンターを使用した造形物には、底面にサポート材が付いています。このサポート材がなければ、固くなる前に、せり出した部分が落ちてしまうため、サポート材は重要な役割を担っています。

そのため、造形物が固まってから、サポート材は除去してください。造形物からサポート材を手で剥がしたり、工具などを用いたりして剥離します。もしくは、専用の溶解液を使用して、サポート材を溶解する方法もあります。

6. 仕上げ加工

3Dプリンターの造形物は、表面加工することもできます。表面研磨を行えば、滑らかな仕上がりになります。また、造形物の後加工としてネジ加工なども行えるので、お好みに合わせて仕上げ加工をしてみてください。

3Dデータを作成する3つの方法

3Dデータの作成には「自身で作成」「スキャン」「配布サイトの利用」の3つの方法があります。ここでは、それぞれの特徴に触れた後、詳細な作成方法について解説します。

1.自身で作成

自身で作成する方法には、3DCADと3DCGの2種類があります。3DCADは、寸法が正確に測れるため、機械部品や自動車の部品の作成に向いています。その一方で、3DCGはフィギュアなどの曲面が多い製品向きのソフトウェアです。

3DCADと3DCGは有料ソフトとフリーソフトがあるため、初めて利用する方はフリーソフトを試してから、有料ソフトに切り替えることをおすすめします。

2.スキャン

既製品を所有している場合は、スキャナー機能を利用してデータ取得を行えます。スキャンで3Dデータを作成する場合は柔軟性に乏しいことがデメリットですが、短時間で3Dデータを取得できるというメリットもあります。

そのため、既製品を大量生産したい場合などに活用される機会が多いです。近頃では、低価格帯のスキャナーも販売されています。

3.配布サイトの利用

3DCADや3DCGの操作方法が分からずに、自分で3Dデータを作成できない場合は、配布サイトからダウンロードする方法もあります。既にデータを作成している人から、データを受け取れます。

商用利用はできませんが、3Dプリンターの性能を試してみたい方や試作品の開発に活用してみたい方におすすめです。また、数多くのデータが配布されているため、アイデアも得られるでしょう。

-3Dプリンターのおすすめフリーソフト 

3DCADソフト

ソフト名

特徴

STL出力

対応OS

Fusion 360

基本機能、アセンブリ、図面、レンダリング、解析の機能を備えている

Windows/Mac

DesignSpark Mechanical

コマンドの種類が限られているため、初心者でも簡単にデータが作成できる

Windows

FreeCAD

オープンソースのため商用利用可能で、自由に機能拡張ができる

Windows/Mac/Linux

Creo Elements

ハイエンドモデルであるCreo Elementsのフリー版

Windows

Tinkercad

初心者向けのクラウドベースのCADソフト

Windows/Mac/Linux

3DCGソフト

ソフト名

特徴

STL出力

対応OS

Blender

モデリングだけでなく、アニメーション・レンダリング・スカルプティング・シミュレーションと高性能なソフト

Windows/Mac/Linux

Sculptris

映画やゲームCGに使用される「ZBrush」の体験版に相当するソフト

Windows/Mac

Metasequoia

キャラクターのモデリングに特化した日本製の3DCGソフト

Windows/Mac

3Dプリンターデータ作成方法(1)自身で作成

データ作成方法には3つの方法があると説明しました。ここでは、まず、自身で3Dプリンターデータを作成する方法をご紹介します。

3DCADを利用してデータを作成する

3DCADは、体積・表面積・質量・重心などの測定に長けており、デジタル環境でプロトタイプを作成することができます。3Dプリンターのデータを作成する場合は、1つ1つのフィーチャーを組み合わせていきます。フィーチャーとは、円錐や立方体のデータであり、このデータを組み合わせることで3Dデータが完成します。

3DCGを利用してデータを作成する

3DCGはフィギュアのデータ作成に向いており、数字で制御して、3Dプリンターデータを作成します。数値で操作していくため、曲面を自由に描くことが可能です。自由な形を設計することができますが、3DCADと比較すると寸法面は粗くなってしまいます。

3DCADと3DCGの違い

結論からお伝えすると、3DCADは設計用ソフトウフェアで、3DCGは作図用ソフトウェアです。従って、製図の目的が異なります。

3DCADは、寸法を正確に測ることを得意としているソフトため、建築物や自動車の部品のモデル作成に利用されることが多いです。

その一方で、3DCGは曲面を描くことを得意としているソフトのため、アニメやゲームのキャラクターを作成する際に利用されることが多いです。

3Dプリンターデータ作成方法(2)スキャン

次に、スキャナーを使用して3Dプリンターデータを作成する方法をご紹介します。

3Dスキャナーには3種類がある

立体物の形状をデータ化できる3Dスキャナーは、3種類に分類できます。

1.接触式3Dスキャナー

接触式3Dスキャナーは、センサーやプローブ(探針)で現物に接触して、その接触点の凹凸を測定し座標を取得するものです。そのため、探針が入りこめない形状の測定は行えません。また、測定できるサイズに制限があるため、大きな物のスキャンには不向きです。測定に時間はかかりますが、非接触式では測定できない物を測定できるため、接触式3Dスキャナーも多く使用されています。

2.非接触式3Dスキャナー

3Dプリンターの普及で注目されているのが、非接触式3Dスキャナーです。光投影法やレーザー光切断方式など、いくつかのスキャニングの方式がありますが、一般的な原理としては、光線を対象物に当て、反射する時間差や反射角度を解析してデータを取得します。

3.X線CTスキャナー

接触式・非接触式は現物の表面しかスキャンできませんが、X線CTスキャナーは内部形状を測定できます。そのため、電極の内部や携帯電話の不良箇所の検査などの非破壊検査などに活用されます。とても便利な装置ですが高価な機器です。

実物をスキャンして、データを作成する

3Dスキャナーでレーザー照射したり、センサーを対象物に当て、3次元の座標データを取得していきます。取得した座標データをPCに取り込み、付属のソフトウェアを使用して3Dデータへ変換します。

完成した3Dデータには、抜けやノイズがあるため、市販のソフトウェアで修正します。複雑なモデリングが必要ないため、3DCADや3DCGの高度な技術は必要ありません。しかし、スキャンの精度は、機器のスペックに左右されるため、スキャナーは慎重に選ぶことが大切です。

据え置きタイプとハンディタイプを使い分けると効果的

非接触式には、据え置きタイプとハンディタイプがあります。据え置きタイプの3Dプリンターで読み取れないデータは、ハンディタイプの3Dプリンターで補完することで、高い精度のデータが作成できます。ハンディタイプは、手振れなどで精度が劣ってしまうため、あくまでも補完的な役割で使用することをおすすめします。

3Dプリンターデータ作成方法(3)配布サイト

最後に、データをダウンロードできる配布サイトをご紹介します。

製造業向けの3Dデータが取得できる「Instructables」

Instructablesは、ものづくりプロジェクトを世界中の人と共有できるコミュニティサイトです。プロジェクトを投稿できるだけではなく、興味があるトピックを探して改造したり、アイデアを出したりすることも可能です。様々なシーンに合わせたアイデアが投稿されており、製造業向けの3Dデータを取得することもできます。

エンジニアをサポートする目的で誕生した「Grab CAD」

GrabCADは、100万人を超えるエンジニアが登録するクラウドコミュニティです。3Dプリンターメーカーのストラタシスが運営しています。GrabCADで公開されている3Dデータは、エンジニアだけではなく様々な業界から注目されており、ゼネラル・エレクトリックやティファニーなども製造開発に活用しています。

作成した3Dデータの販売も行える「Cults」

Cultsは、フィギュアなどのアート作品が多いサイトで、有名な映画やアニメのキャラクターを忠実に再現した3Dデータが格納されており、クリエイター同士のコミュニケーションが盛んに行われています。作成したデータは無料提供だけではなく、販売も行えるので、クリエイターから人気を集めている配布サイトです。

デザイナーと協業できる「Cubehero」

Cubeheroは、GitHub for 3D printから誕生した3Dデータ配布サイトです。コミュニティでは、デザイナーと繋がることができ、協業できるようになっています。デザイナーに対するリクエスト機能も備わっているので、希望するデータ作成の依頼もできます。

世界最大級の3Dデータ共有サイト「Sketchfab」

Sketchfabは、3DモデルのためのYouTubeと呼ぶことができる世界最大級の3Dデータ共有サイトです。ライブラリの中では、200万種類のオブジェクト(物体)を提供しているため、様々なものを製造できます。また、アプリをインストールすれば、現実世界に置かれた仮想オブジェクトを簡単に見ることもできます。

まとめ

今回は、3Dプリンターデータの作成方法をご紹介しました。「自身で作成」・「スキャン」・「配布サイトの利用」の3種類のデータ作成方法を把握しておけば、導入する機材の目途が立ちます。

既に3DCADや3DCGを操作しているのであれば、データをSTL形式に変換して、3Dプリンターに読み込ませるだけで造形が行えます。

また、スキャナーや配布サイトを上手に活用すれば、試作品の製造工程を削減することも可能です。

ぜひ、3Dプリンターの導入を検討をしてみてください。