iPhone 11に「空間認識に対応した超広帯域チップ」が搭載され、話題となっています。
この技術は「UWB」とも呼ばれ、2000年代前半に次世代の無線通信技術として大きな話題を呼びましたが、日の目を見ることなく市場から消え去っていきました。
しかしUWBは、iPhone 11に搭載されたことで再注目され、今後の普及が期待されています。
本稿では、再び脚光を浴びはじめたUWBについて、導入事例や今後の市場予測にも触れながら、徹底解説します。ぜひ最後までご覧ください。
UWBとは
UWBとは「Ultra Wide Band」の略で、「超広帯域の無線通信技術」を意味します。米国仕様の場合、使用する周波数帯域は、3.1GHzから10.6GHzまでで、帯域幅は7,500MHzとなっており、Wi-Fiで使用されている20MHzと比較して、かなり広い帯域を利用しています。
UWBの歴史
UWBは1960年代にレーダーなど軍事用途で研究がスタートしました。2002年に米国連邦通信委員会(FCC)から民間での利用が許可され、「イメージング」、「車両用レーダー」、「通信/測定システム」の分類で利用されています。2007年および2012年に測位関連の国際規格(IEEE 802.15.4a/f)が制定され、現在に至ります。
UWBの主な仕様
極めて低い消費電力
送信に用いる信号はナノ秒オーダー(10億分の1秒)と短いため、極めて低い消費電力で通信することが可能です。
干渉に強い通信仕様
7,500MHzもの広い周波数帯域を用いるため、既存の無線通信から干渉を受けずに通信することが可能です。
UWBの特徴(BLEとの違い)
導入設備
UWBは電波が届く時間を計測しているため、少ない設置台数で高い精度の計測が可能です。一方Beaconに用いられているBLEは、電波の強弱から位置測位を行うため、複数の発信器を設置する必要があります。
測位精度
Appleが「リビングルームほどの空間で機能するGPS」と表現することもあって、UWBは低消費電力ながら到達距離が30メートル程度、誤差は数十センチという正確な屋内測位を可能とする技術です。その一方、Beaconに用いられているBLEは、到達距離20メートル程度、誤差数メートルです。UWBは到達距離及び誤差ともに、Beaconに用いられているBLEをはるかに超える位置測位技術となっています。
Beaconに用いられているBLEはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
ビーコン・BLEとは?物品管理を大幅に効率化する位置情報サービスを分かりやすく解説!!
Bluetoothとの比較
|
UWB |
Bluetooth |
測距精度 |
10cm~100m |
1m~3m |
通信帯域 |
広い |
狭い |
モジュール価格 |
高い |
低い |
UWBと同じような低消費電力の通信方式としてBluetoohがあります。
2つの通信方式の違いは「測距精度」「通信帯域」「モジュール価格」です。
UWBは超広帯域の無線通信でありながら、測定距離に比例して生じる可能性のある誤差は10cm~100cmとcm単位となります。
非常に高性能な通信技術ですがUWBモジュールはBluetoothモジュールより価格が高く、世界標準化されていません。そのため、地域によって規制が異なります。
その一方で、Bluetoothは狭帯域の無線通信で、測定距離に比例して生じる可能性のある誤差も1m~3mとm単位です。通信距離や精度は落ちてしまいますが、国際標準規格なので地域によって規制を受けることはありません。2つには、このような違いがあります。
Bluetoothについて詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
Bluetoothとは?|位置測位の仕組みをわかりやすく解説-Bluetooth 5.1に追加された方向
UWBによる位置特定の原理
無線通信における測距
無線通信における目標までの距離の測り方は、主に3つの技術(AoA、TOA、RSS)がベースとなっています。3つの技術を見ていきましょう。
AoA(Angle of Arrival)
信号到来角度のことです。複数のアンテナを利用し、それらの受信時間の差から送信機との角度を求め位置を推定します。時刻同期は要求されず推定精度が高い一方、複数のアンテナが必要なことから導入コストが高くなります。
TOA(Time of Arrival)
信号到着時間のことです。電波の到達時間から距離を算出し(距離=光速×時間)位置を推定します。電波を発信する3つ以上の基地局と端末による正確な時刻同期と、高速なサンプリングによって高い推定精度を実現します。UWBはパルスの幅が短く(ナノ秒オーダー)時間分解能が高いため、TOAを用いてセンチメートル単位での測距が実現することが多いようです。
またTOAの応用技術としてTDOA(Time Difference Of Arrival)とTWR(Two Way Ranging)があります。
・TDOA(Time Difference Of Arrival)
到着時間差のことです。基地局と端末の絶対距離を測定するTOAに対して、基地局と端末の距離差を測定する方式で、地図情報と合わせて利用することで位置情報を取得することが可能です。
・TWR(Two Way Ranging)
双方向測距のことです。複数の伝搬時間を測ることで距離を測定します。システムの構成は、送信および受信機能を持った移動機(タグ)に対して2台以上の固定機が必要です。移動機と固定機間の信号往復時間を複数計測することで、位置情報を取得することが可能です。
RSS(Received Signal Strength)
受信信号強度のことです。受信信号強度の強弱により位置を推定します。既存の設備が利用可能なため導入コストは安価で済みますが、屋内環境では干渉により信号の強さが変動しやすいため推定精度は低くなります。
UWBの用途や導入事例
UWBに対応した機器間で無線通信することで、互いの位置や向きの関係を精度良く検知することが可能です。ここでは身近にあるiPhoneでの用途と、Ubisenseのサービスをご紹介します。
iPhoneでの用途
Appleが2019年9月に発表したiPhone 11には、UWBに対応した独自の無線チップ「U1」が搭載されています。無線チップ「U1」が搭載されたことで、デバイス同士の位置推定精度が大幅に上がりました。
デバイス同士の位置推定精度が上がったことで、データ送受信機能の「AirDrop」の使い勝手やAR(拡張現実)での没入感が向上すると言われています。
例えば複数の人がいる空間で「AirDrop」を行う際、共有したい相手のiPhoneに自分のiPhoneを向けると、優先的に相手のiPhoneを認識することが出来ます。
またAR環境のフィールド作りにUWBデバイスを用いると、iPhoneの位置情報が常に精度良く把握出来るため、ユーザーの没入感が向上すると言われています。
Ubisenseのサービス
UWBのサービスを展開している代表的な会社としてUbisenseがあります。本稿ではUbisenseの製品であるRTLSタグの導入事例、位置測位技術、性能とコストについて紹介します。
導入事例
同じ組立ラインで様々なモデルの車両を製造するため、従来はマニュアル操作で電動工具のトルク設定(どのくらいの力で締め付けているかの設定)を実施していました。車体と無線電動工具の両方にRTLSタグを取り付けることで、車体が工具に接近するとトルク設定値が自動送信され、ヒューマンエラーや再作業を削減することに成功しています。
ヨーロッパの各拠点で製造されている機体の胴体や翼などの各仕掛品にRTLSタグを取付けることで、平面図上に現在位置を可視化し、急なスケジュール変更などがあった場合でも迅速に対応することが可能となりました。
無線電動レンチにRTLSタグを取付けることで、トルク値の指定だけでなく、決められた作業空間のみで工具を使用することで、品質向上を実現することが可能となりました。
位置測位技術
導入設備のコスト低減を実現するために、位置特定の原理でも説明したAoA(Angle of Arrival)とTDOA(Time Difference Of Arrival)を組み合わせた測位方式を採用しています。3次元の測位を行うには、TDOAの場合、最低4台のセンサーが必要となるのに比べ、Ubisenseのシステムでは最低2台のセンサーで、数十センチメートルレベルの測位精度が実現可能です。
Ubisenseによると、Beaconに用いられているBLEと比べ導入コストは10倍以上と高価ながら、精度の高い測位が特長とのことです。
(出典)Ubisenseホームページ
今後の市場
UWBの今後は、どうなっていくのでしょうか。ここではUWBの需要予測と、今後期待されるサービスをご紹介します。
需要予測
総務省が出している「超広帯域無線システムの周波数共用技術に関する検討結果」によると、アプリケーション別ではリアルタイム位置測位システム及び無線センサーネットワークの利用が多く、2022年までの予測においても普及台数ベースで年平均成長率10.72%、市場規模で5.21%の伸びが予測されています。
市場規模をエンドユーザー別でみた場合、ヘルスケア、住宅関連および製造業での伸びが大きいです。特に住宅関連や製造業では、屋内測位システムなどでの利用拡大が進むものと考えられています。
期待されるサービス
UWBに対応したサービスの普及が益々楽しみになってきました。ここでは、今話題となっているサービスと今後の注目分野をご紹介します。
Apple製UWBタグ「AirTag」
「AirTag」は、2020年に発売が予測されているUWBに対応したAppleの紛失防止タグです。iPhoneの「探す」アプリから音を鳴らして紛失場所を特定することが出来るほか、落としたアイテムの位置をARを使って特定することが可能とのことです。
注目分野
UWBに対応したサービスは紛失防止だけでなく、顧客動線を可視化し、店舗レイアウトの策定や、POPなどの広告効果の分析が可能なことから、小売業界や自動車業界、モバイル業界など様々な業界で注目されています。
まとめ
消費電力が抑えられ、電波干渉の影響が小さいUWBは様々な業界で活用されていくことでしょう。かつてiPhone 4Sで採用されたことでBluethoothの普及が一気に加速したように、iPhone 11で採用されたことで、UWBの今後の成長が気になるところです。
屋内測位技術には、今回ご紹介したUWB以外にも、Beaconに用いられているBLEやRFIDなどの技術があります。それぞれの屋内測位技術によって、用途の向き、不向きがあります。自社での導入目的に応じて、適した屋内測位技術を選択・検討してはいかがでしょうか。
RFIDはこちらで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。