在庫管理は、在庫を抱える企業にとって重要な業務の一つであると同時に、さまざまな問題や課題が発生しやすい業務ともいえます。今回は、在庫管理の改善に役立つ具体的な方法や、改善に成功した4社の企業の事例を詳しく紹介します。在庫管理業務が抱える問題を解決し、業務改善を行いたいと考えている方は、ぜひ目を通してみてください。
在庫管理とは
在庫管理とは、原材料や製品など必要な資材を、必要なときに、必要な量、必要な場所へ供給できるよう、適切な在庫量を維持する活動を指します。
在庫は企業にとって資産にあたるため、在庫管理は企業経営を左右する重要な業務の一つといえます。
関連記事:『在庫管理とは?基本から効率化するツールまで徹底解説』
在庫管理が抱える課題
在庫管理は、企業の仕入れや売上を左右する重要な業務です。しかし、同時にさまざまな課題や問題を抱えやすい業務ともいえます。ここからは、在庫管理を行う上で、課題や問題として上がりやすいポイントを詳しく確認していきましょう。
在庫過不足の発生
在庫の数量を正しく把握できていないと、適切な量の発注が行えず、在庫の過不足が発生するリスクが高くなります。
余剰在庫が増えると、保管場所の圧迫、管理コストの増大など、経営資源の無駄な消費につながります。反対に在庫が不足すると、顧客からの発注に対応できないなど、販売機会の損失を引き起こします。
このように、在庫の過不足は経営悪化や黒字倒産の原因にもつながるため、注意が必要です。
データと実際の在庫数が合わない
数え間違いや入力ミス、ルールの不徹底や整理整頓不足、仕入れ先のミスなど、さまざまな原因から実際の在庫数とデータ上の在庫数に誤差が発生するケースがあります。
在庫数に差異が生じると、前述した在庫の過不足の場合と同様、販売機会損失やキャッシュフローの悪化など、企業経営に多大な影響を及ぼします。
また、棚卸時に在庫差異が発覚した場合、棚卸のやり直しや差異が発生した原因の究明が必要になります。時間やコストが余分にかかるのはもちろん、従業員にも多大な負担がかかります。
ヒューマンエラーの発生
在庫管理は、入出荷のたびに頻繁に在庫数が変動するため、ヒューマンエラーやミスが起こりやすい業務です。特に以下のような現場では、カウントミスや入力ミスなどのヒューマンエラーが発生する可能性が高いとされています。
- 手作業等、アナログな手法で在庫管理を行っている現場
- 扱う在庫の数や種類が多い現場
- 在庫管理業務のルールが徹底されていない現場
ヒューマンエラーが起きると、不良在庫が発生する、在庫の処分・廃棄が必要になるなど、企業に大きな損失を与えるリスクが高くなります。そのため、在庫管理のシステム化や管理ルールの徹底等、ヒューマンエラーやミスが起こりにくい仕組みを構築することが重要です。
属人化の発生
在庫管理は業務内容が幅広く、かつ、高い精度が求められる業務です。そのため、特定の担当者の勘や経験、知識に頼って業務を行う、いわゆる属人化が起こりやすい業務ともいえます。
業務の属人化がすすむと、以下のような、さまざまなデメリットやリスクに直面する可能性が高くなります。
- 担当者の休職や退職により業務が停滞する可能性がある
- 特定の従業員への作業負担が増加し、業務効率が低下する
- ノウハウやナレッジの共有がされない
- 業務のブラックボックス化が発生する
特に、人手が足りない企業や在庫管理のルールが明文化されていない企業は属人化が発生しやすくなるため、注意が必要です。
在庫管理を改善する方法
在庫管理が抱える問題を解消すれば、業務の効率性は格段に向上します。ここからは、在庫管理の業務改善に役立つ具体的な方法を紹介します。
在庫数を確認する
在庫管理業務を改善するためにまず、欠かせないのが、在庫の現状把握です。倉庫や店舗にどの商品がどれくらいあるか、過不足は発生していないかなど、在庫の状況をしっかりと確認しましょう。
在庫の状況が正確に把握できれば、現時点での在庫管理が抱える問題や課題が見つけやすくなり、その後の対策も講じやすくなります。
適正な在庫設定を行う
効果的、効率的な在庫管理を行うためには、適正在庫を設定し、その在庫量を維持することが重要です。適正在庫とは、欠品が出ない最小限の在庫数を指します。
適正在庫は、在庫回転率や在庫回転期間など、過去の実績やデータ、需要予測分析などを参考に決定するのが一般的です。適正在庫の設定とあわせて、日次業務で在庫数の確認を行えば、在庫数の差異にも気づきやすくなります。
在庫の削減を検討する
設定した適正在庫数を既存の在庫数が上回る場合は、適正値に近づくよう在庫の削減を実施しましょう。
在庫の削減に着手する際は、不良在庫の処分だけでなく、需要予測精度の向上や、リードタイムの短縮、生産計画の見直し等、在庫の流動性を高める施策もあわせて検討するのがおすすめです。
作業の標準化を行う
在庫管理業務の属人化を解消するには、作業の標準化に取り組むことが有効です。標準化することで、担当者の経験や勘、知見に依存する必要がなくなり、誰でも一定のレベルで業務を遂行できるようになります。
作業の標準化を行う際は、現状の業務フローの分析および見直しを行い、マニュアルなどを作成し、従業員へ情報の共有を行うことが重要です。
また、業務の抱える課題や問題に応じて、在庫管理システムなどのITツールの導入や、アウトソーシングを活用を検討するのも有用です。
ロケーション管理を行う
在庫管理の効率化を図るため、在庫のロケーション管理を導入する企業も増えています。ロケーション管理とは、在庫の保管場所に住所(ロケーション)を割り振り、管理する手法です。
ロケーション管理を行うことで在庫の保管場所や数量が把握しやすくなります。在庫を探索する時間が短縮できるため、作業効率の向上や、従業員の負担軽減も期待できます。
ロケーション管理には、「固定ロケーション」「フリーロケーション」「ダブルトランザクション」の3種類の方法があります。それぞれの管理方法やメリット、効果が出やすい倉庫の特徴は以下の通りです。
管理方法 |
メリット |
効果が出やすい倉庫 |
|
固定 ロケーション |
決められた場所に決められた商品を置く |
保管場所がわかりやすく、管理しやすい |
商品数の少ない倉庫 定番商品を多く扱う倉庫 |
フリー ロケーション |
空いたスペースに商品を保する 保管場所は固定しない |
倉庫スペースを有効活用できる |
消費期限のある商品を扱う倉庫 商品の入れ替わりの早い倉庫 |
ダブル トランザクション |
ピッキングとストックのエリアを分けて管理 |
保管効率・作業効率の向上が期待できる |
商品の出荷頻度が高い倉庫 1オーダーでの出荷量が少ない倉庫 |
ロケーション管理を導入する際は、自社の扱う商品の特徴や、数量、種類等を考慮して、適切な手法を選択することが重要です。
ハンディターミナルを利用する
ハンディターミナルは、携帯性に優れたデータ収集端末装置です。端末の上部や背面に搭載されたリーダーで、商品に貼られたバーコードやQRコード、RFIDタグなどを読み取り、商品情報や在庫情報のデータを取得します。
ハンディターミナルの主なメリットは以下の通りです。
- 在庫情報をリアルタイムで把握できる
- ヒューマンエラーを削減できる
- データの一元管理が可能
- 業務時間の削減や業務効率向上につながる
近年では、防爆モデルや冷凍タイプ、メディカルタイプなど業界業種に特化した機種や、スマートフォンタイプ、タブレットタイプなどさまざまな種類のハンディターミナルが誕生しています。必要な機能をカスタマイズできるものもあるため、自社の業務や扱う商品の特徴に合わせて選択できる点もメリットといえるでしょう。
関連記事:『ハンディターミナルとは?基本機能や種類・メリットを詳しく解説!』
在庫管理システムを導入する
在庫管理システムとは、入出庫や返品の管理、棚卸等、在庫管理に関わるさまざまな機能を備えたITシステムを指します。
在庫管理システムを活用することで、これまで手作業で行っていた業務の自動化や効率化が見込めます。また、在庫情報の一元管理やリアルタイムでの在庫情報の把握ができるため、欠品などによる販売機会損失の回避や過剰在庫の抑制にも役立ちます。
在庫管理システムには、業界に特化したタイプや、機能やコストを抑えたタイプなど、さまざまなものがあります。システム選定の際は、自社の扱う製品の種類や特徴、必要な機能、コストなどを考慮して比較検討するとよいでしょう。
関連記事:『在庫管理システム・ソフトの選び方のポイントとおすすめソフトを一挙にご紹介!!』
RFIDを導入する
RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波による無線通信を使って、情報の読み取り・書き込みを非接触で行う自動認識技術を指します。私たちの身近なところでは、交通系ICカードやユニクロの無人レジなどでRFIDの技術が活用されています。
RFIDの主な特徴は以下の通りです。
- 非接触で情報の読み取りができる
- 同時に複数のタグを一括で読み取りできる
- 障害物がある、箱に入っているなど、タグが視認できない場合でも読み取りができる
- 汚れや摩擦などに強い
- データの書き換え、更新が可能
在庫管理業務にRFIDを活用すれば、在庫確認の迅速化や、在庫管理の正確性の向上が見込めます。また、タグを読み取るだけで誰でも簡単に在庫確認が可能なため、業務の属人化や、ヒューマンエラーの削減も期待できます。
関連記事:『【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!』
在庫管理の改善成功事例
在庫管理の改善に取り組み、業務効率化やコストダウンに成功した企業は数多くあります。ここでは、近年特に注目度の高いRFID技術を活用し、改善に成功した企業の事例を4つ紹介します。
株式会社ファーストリテイリング
年間13億着以上の衣類を製造・輸送・販売する同社の中核ブランド「ユニクロ」の事例を紹介します。ユニクロでは、在庫管理において以下のような課題を抱えていました。
- 在庫がどこにどれだけあるかの把握が困難
- 在庫を把握するのに多大な人員、コスト、時間がかかる
- 生産・物流・販売の各工程で在庫情報の共有ができていない
- ヒューマンエラーの発生
このような課題を解決し、サプライチェーン全体の効率化、無駄の排除を実現させるために導入されたのがRFIDでした。具体的に行われたのは、商品名や価格、サイズが記載された下げ札にRFIDを貼り付け、全ての商品の動きを把握する方法です。
下げ札にRFIDを貼り付けることで、在庫がどこにどれだけ存在するかが瞬時に把握できるようになり、工場、倉庫、店舗での情報共有もしやすくなりました。また、RFIDを導入したことで、棚卸や検品などにかかる作業時間、コストの削減、販売機会損失の防止、売上向上など、在庫管理が抱えていた課題や問題の解消に成功しました。
関連記事:『【更新】RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント』
東日本旅客鉄道株式会社
東日本を中心にした鉄道旅客事業を行う東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)横浜支社の事例を紹介します。
JR東日本では、物品や資料の保管管理にエクセルや紙伝票を用いたアナログな手法を採用していました。出庫や棚卸作業の際は、保管物の情報を人が目視で確認する必要があり、在庫管理業務にかかる工数や、従業員にかかる負担の大きさが課題となっていました。
アナログ管理による課題の解決と、業務の自動化、効率化のため、同社では2019年から、物品資料の保管管理業務にRFIDを導入しました。
RFIDを導入することで、大量の物品・資料の中から必要なものの位置を瞬時に特定できるようになりました。結果として、入出庫作業で80%、棚卸作業で90%、探索作業で60から80%の業務効率化が実現しました。また、習熟度や経験値によるオペレーションミスの懸念がなくなった点や、従業員負担の軽減、倉庫スペースの有効利用につながった点もRFID導入の功績といえます。
関連記事:『【東日本旅客鉄道株式会社】入出庫/棚卸し/探索の作業時間の60~90%を削減!』
株式会社ZIP
ベネッセホールディングス(進研ゼミ)をはじめ、さまざまな企業の物流支援を行う株式会社ZIPの事例を紹介します。
株式会社ZIPでは、ユーザーのニーズに合わせてパーソナライズされた書類やDMの発送を行うことで、顧客満足度の向上を図ってきました。しかし、顧客ニーズの多様化による書類封入作業の複雑化がすすみ、社員の業務負担や運用コストの増大を課題として抱えていました。
自社の抱える課題を解決し、業務の属人化解消、コスト削減を目指すために導入されたのが、RFIDタグと在庫・物品管理システム「Locus Mapping」でした。「Locus Mapping」は、RFIDをハンディターミナルで読み取ることで、在庫や物品の位置情報を自動取得し、デジタルマップ上に表示できるシステムです。
同社では、これらを主に、中間・期末の棚卸作業時と、毎月実施する処分物の探索作業に活用し、業務の効率化や自動化を図りました。結果、年間約320万円のコストダウンを実現し、従業員の作業工数・業務負担の大幅な削減にも成功しました。
関連記事:『RFIDタグの活用により、棚卸し作業において年間437人日の工数を削減!』
バロックジャパンリミテッド
「MOUSSY」や「SLY」など、国内外に700以上のアパレル店舗を構え、26を超える国に卸売を行う「バロックジャパンリミテッド」の事例を紹介します。
バロックジャパンリミテッドでは、倉庫管理システムを導入し、在庫のロケーション管理を実施していました。しかし、仕分けや検品など、主となる業務は従業員が手作業で行っていたため、ヒューマンエラーやミスによる在庫差異が発生していました。
在庫差異による販売機会損失等の課題を解説するために導入されたのが、より高い精度で在庫探索できるRFルーカス「P3 Finder」でした。P3 Finderは、3Dレーダーで在庫の場所を平面だけでなく、垂直方向に高精度に表示できる探索力に優れたRFIDソリューションです。バロックジャパンリミテッドでは、このP3 Finderを倉庫および店舗に導入しました。
結果、これまで従業員の勘や経験、知識に頼っていた商品探索が、誰にでも容易にできるようになり、欠品状態が大幅に削減されました。また、探索業務にかかる従業員の作業負担が減った点もP3 Finder導入の大きな成果といえます。
関連記事:『P3 Finderの導入により倉庫や店舗で発生していた欠品の大幅削減に成功』
まとめ
在庫管理は、企業経営を左右する重要な業務である反面、多くの課題に直面しやすい業務とされています。特に手作業やエクセルでの管理など、アナログな手法で在庫管理を行っている企業は、ヒューマンエラーが起こりやすく、在庫の過不足や在庫差異が発生しやすいため注意が必要です。
在庫管理の業務改善を効率的に進めるためには、在庫管理システムや、RFID・ハンディターミナルといったITシステムやツールの活用が特に有効です。
システムやツールを導入する際は、自社の在庫管理業務が抱える問題や、扱う商品の種類や特徴、従業員の意見等、さまざまな点を考慮して、比較検討を行いましょう。自社に適したシステム・ツールの導入ができれば、在庫管理業務の改善がスムーズかつ
効果的に実現できる可能性が高まります。