小売業のビジネスモデルが大きく変わろうとしています。
デジタル技術の発展に伴い、現金やクレジットカードだけでなく電子マネーやQRコードの決済ができるようになり、私たちの暮らしに定着しました。近年では、無人レジを導入する店舗が増え、無人店舗の研究開発も盛んになっています。このように、現場の省人化・効率化を実現する取り組みが積極的に検討されています。
このようにテクノロジーを活用すれば、店舗が抱える課題を解決できて、売上を伸ばしていくことが可能です。今回は小売業界のDX推進方法をご紹介します。経営戦略を見直したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
[はじめに]小売業界が抱える4つの課題
最初に小売業界が抱える4つの課題について解説します。
消費者の購買プロセスの変化
消費者の購買プロセスは、時代に応じて以下のように変化しています。
- マスメディア時代の購買プロセス:AIDMA
- インターネット時代の購買プロセス:AISAS
- SNS時代の購買プロセス:VISAS
- コンテンツマーケティングの購買プロセス:DECXA
DECAXとは電通デジタル・ホールディングスが提唱した購買プロセスモデルで、オンラインを通じて顧客との関係を構築していく方法をいいます。つまり、小売業もインターネットをはじめとしたデジタルテクノロジーを上手く活用していかなければいけません。
購買プロセス |
アプローチ方法 |
Discovery(発見) |
コンテンツを見て商品の存在を認知 |
Engage(関係構築) |
様々なコンテンツを継続的に確認 |
Check(確認) |
商品の詳細情報を受け取って購買意欲が向上 |
Action(行動) |
商品を購入 |
Experience(体験と経験) |
商品の感想を発信して共有 |
エッセンシャルワーカーの不足
新型コロナウイルスなど感染症のリスクがある環境で働く人々をエッセンシャルワーカーと呼びます。エッセンシャルワーカーの労働環境は整備されておらず、希望する方が減ってきており、慢性的な労働者不足に陥っています。
パーソル総合研究所「労働市場の未来推計2030」では、2030年にサービス関連のスタッフは400万人不足すると予想されているのです。そのため、小売業界は少ないスタッフで店舗運営をしていくために、DXに取り組んでいく必要があります。
VUCA時代の到来
新型コロナウイルス感染症の問題で街に人が出歩かなくなり、海外渡航者も減ったことから、小売店は大打撃を受けました。このような予想ができない未来をVUCA時代といいます。これまでの常識が覆されることもあるVUCA時代を生き抜くためには、状況に臨機応変に対応できる経営を行う必要があります。
また、ネットフリックスなどサブスクリプションサービスの登場で、娯楽の嗜好が変化して打撃を受けている店舗も存在します。時代に柔軟に対応するために、積極的にDXに取り組んでいきましょう。
既存システムの老朽化
小売店の中には、POSシステムやバーコードリーダーなど老朽化したシステムを使い続けているところもあります。システムを刷新しなければ、システム導入費を削減できると考える方がいますが、スタッフの労働時間が伸び人件費が嵩むケースが多く見受けられます。
システムを刷新すれば生産性が上がるケースが多いため、比較・検討をしてみましょう。
小売業界が抱える課題を解決するDX
小売業界が抱える課題をご紹介しましたが、これらはデジタルテクノロジーで解決できます。ここでは、小売業界が活用したいDXソリューションをご紹介します。
最新型POSシステム
セルフレジや無人レジなど最新型POSシステムを導入すれば、レジスタッフが不要になります。近年のPOSシステムには、以下のような機能が搭載されています。
[POSシステムの機能]
- キャッシュレス決済
- セルフレジ
- 無人レジ
無人レジを使用して店舗の無人営業化に取り組むコンビニエンスストア「TOUCH TO GO」が登場しました。人材難や人件費の高騰に悩む小売店舗が多い中、無人で運営するスタイルに注目が集まっています。第1号店で行ったアンケートでは、来店客の約88%が「無人決済でよい」と回答。また、無人化によって、約75%の人件費削減効果が見込めています。
また、サブスクリプション型POSシステムの登場により、刷新しやすくなってきました。
RFIDシステム
店舗商品の棚卸しにバーコードシステムが利用されていますが、RFIDシステムに切り替えると業務効率化を実現できます。これまではバーコードを1枚1枚読み取らなければいけませんでしたが、RFIDシステムでは複数のタグを一括で読み取れるようになるためです。
RFIDタグは1枚数十円と高かかったため、バーコードからRFIDに切り替える店舗は多くありませんでした。しかし、RFIDタグが1枚5~10円と低価格になってきたことにより、RFIDシステムを導入する企業が増加しています。
RFIDについて詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
関連資料:『【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!』
関連資料:『【更新】RFIDタグの価格は1円以下を実現!?気になるタグの最新価格動向と導入事例を徹底分析!』
行動分析システム
行動分析システムとは、店舗に来店した顧客の行動を分析するツールです。店舗内の顧客の動きを分析して、滞在時間が長いエリアや滞在時間が短いエリアを把握します。売り場の現状・商品の人気度を把握して、店舗のレイアウトを変更し、顧客のファン化を図ります。
顧客の店舗内行動を分析して、買い物がしやすい導線を作ったり、混雑しているときにレジ可動台数を増やしたりすれば、リピーターを増やせます。また、顧客の年齢・性別を分析すればプライベート商品の開発にも役立ちます。
AI需要予測システム
AI需要予測システムとは、過去の売上や関連データから、各商品がどれぐらい売れるかを予想できるシステムをいいます。
小売業は気温や曜日で売れやすいもの、売れにくいものがあるでしょう。また、天気でも商品の売れ行きは変わります。AIを活用して精度が高い需要予測ができれば、過剰在庫や廃棄ロスがなくなり、利益を出していけるようになります。
また、需要予測をもとに自動で発注業務を行うなど業務効率化を図ることも可能です。
ECサイト運営システム
ECサイト運営システムとは、ECサイト制作の知識がない方でもECサイト運営ができるシステムです。販売商品を投稿するだけでなく、スタッフのコーディネートを投稿したり、商品説明を動画でできたりする画期的なシステムが登場しています。
どのようなコーディネートが人気か、スタッフの貢献率を可視化できることも大きな特徴です。そのため、ECサイト運営を検討している企業だけでなく、店舗に貢献しているスタッフを正当に評価したい企業からも支持を集めています。
チャットボット
チャットボットを導入すれば、カスタマサポートの一次対応を自動化できて、オペレーターの業務負荷を減らせます。「商品を買ったけれどサイズが合わなかったから返品をしたい」「受注生産型の商品の予約方法が知りたい」などの回答を自動化できます。
近年、ChatGPTを搭載したチャットボットが登場し、顧客の質問に対してより高度な受け答えが可能になってきました。柔軟な回答ができるチャットボットを導入すれば、顧客対応の品質が上げられます。
配送ロボット
顧客体験を上げるために、配送サービスを提供する店舗が増えてきました。ドローンや完全自動運転トラックなどを使用した無人配送サービスの実用化も進められています。配送ロボットを活用すれば、人員を増やすことなく付加価値サービスを提供することが可能です。
例えば、アメリカの小売り最大手であるウォルマート社では、倉庫業務をロボットにお任せしています。また配送トラックや配送ドローンの完全自動運転に取り組んでおり、今後の動向が注目されています。
[小売業]DXに成功している企業事例
実際にDX推進に取り組んでいる企業はどのような効果が見込めているのでしょうか?ここでは、DXに成功している企業事例をご紹介します。
1店舗につき作業時間15.7時間を削減(株式会社コックス)
出典元:『株式会社コックス』
イオングループの株式会社コックスはアパレル店舗「ikka」を運営しています。同店舗では棚卸作業で1枚1枚の商品タグを読みとっていましたが、商品タグの多さから、従業員の負担になっていました。
この問題を解決するために、バーコードシステムからRFIDシステムに切り替え、商品タグを一括で読みとることにしたのです。その結果、1店舗当たり15.7時間の棚卸業務時間を削減することに成功しました。棚卸業務を効率化できた分、接客などのコア業務に専念できています。
大きな効果が見込めたため、2021年には190店舗にRFIDシステムを導入しました。
過剰発注や廃棄の損失を防止(株式会社キリン堂)
出典元:『株式会社キリン堂』
株式会社キリン堂は、関西を中心とするドラッグストアチェーンです。同社は牛乳や老父など消費期限が短い商品を扱っており、店舗の品数は約2万点。需要予測が外れて値引き販売で利益が出せなかったり、品切れで販売機会を逃したりしてしまっていました。
この問題を解決するために、AI需要予測を導入しました。AI需要予測システムを活用して、「天候」「曜日」「店舗の立地場所」から来店客数を分析したことで、過剰発注や廃棄による値引き販売など損失を防ぐことに成功しました。
大きな成果が見込めていることから、同社は約370店舗にAI需要予測システムを導入しています。
惣菜の値引きや廃棄を1割削減(イオン株式会社)
出典元:『イオン株式会社』
イオン株式会社はイオンモールやマックスバリュなどを経営している会社です。同社はAIを活用した業務プロセスの改革を行っています。
イオンモールなどのスーパー業務では、生鮮食品や惣菜のロス問題を抱えていました。同社は商品の売れ行きに応じて売価変更し、商品の売り切りを図っています。しかし売価の変更は担当者の勘と経験に頼っており、適切な割引率やタイミングを見極めることが難しいと悩んでいたのです。
そこで、約350店舗のスーパーに売価分析システム「AIカカク」を導入しました。AIを活用して惣菜の値引き額を決めたところ、値引きや廃棄ロスで発生する損失額を1割削減することに成功しました。
労働者不足の問題を解消(株式会社ファミリーマート)
出典元:『株式会社ファミリーマート』
株式会社ファミリーマートは、大手コンビニチェーン店です。同社は東京都内と埼玉県内に無人コンビニを出店しています。店内に48個のカメラやセンサーを設置しており、商品陳列棚から取った商品や戻した商品、買い物カゴに入れた商品を把握しています。これらのデータを元に決済することが可能です。
また、ロボットの導入を開始し、陳列作業の自動化にも取り組んでいます。陳列作業のミスは遠隔操作で修正するなどの工夫で、無人コンビニを実現しています。
同社は2024年末までに、約1,000店舗の無人コンビニをオープンさせることを目標に掲げているため、動向をチェックしておきましょう。
まとめ
小売業が抱える課題を解決するためには、DX推進が欠かせません。既存システムを刷新したり、新たなシステムを導入したりすると、生産性が向上します。また、過剰在庫や品切れによる販売機会の損失の悩みも抱えずに済むようになります。小売店舗の販売を強化したいと考えている方は、これを機会に小売業DXに取り組んでみてください。
当社はRFIDを活用した小売業DXの導入支援を行っています。この記事を読んで、RFIDに興味を持った方は、こちらのコンテンツもご参照ください。