大手の製造会社がスマートファクトリーを実現しているけれど、中小企業は導入できないだろうとDX推進を諦めていませんか?
結論からいうと、中小企業はスモールスタートさせるとDX推進が成功しやすくなります。また、DX推進の手順を覚えておくことも大切です。そこで、今回は製造業DXの取り組み方について解説します。
製造業DXとは
製造業DXとは、デジタル技術を活用してビジネスを発展させていくことをいいます。
- デジタル技術を活用して製造工程の効率化
- 企業文化や風土の変革
- 新たなビジネスモデルの創出
具体的には上記が該当し、ビジネス競争力を上げていくための取り組みです。
製造業DXの実施率
製造業DX推進に取り組んでいる企業は、多くはありません。情報処理推進機構IPA『DX白書2023』によると、製造業で「DXを実施している」と回答した企業は22.8%でした。つまり、5社に1社がDXを実施している状況です。この調査結果から、製造業界はDXが進んでいないことが伺えます。
製造業DXが進まない理由
製造業DXが進まない原因は、7つの課題があるためです。
- DX人材を推進できる人材がいない
- DX推進の予算を確保できない
- DX推進のアイデアを立案できる人がいない
- DX推進の手順がわからない
- DX推進の目的が不明である
- セキュリティ面で不安がある
- 目指したい姿が描けない
つまり、予算・知識・人材が不足していることが足枷となっています。
製造業DXで見込める効果
そもそも、なぜ製造業DXに取り組むべきなのでしょうか?製造業DXに取り組む前に、見込める効果を把握しておきましょう。
顧客ニーズに見合う製品を開発できる
自社製品の開発の初期段階で、技術者や設計者が重視すべきことは「顧客ニーズを把握して、製品をつくること」です。顧客ニーズを正しく把握して自社製品を開発しなければ購入してもらえません。製品を購入してもらえても、クレームが来てしまうでしょう。
現在は営業部門が顧客ニーズを抽出して製品開発部に伝達するケースが一般的ですが、この方法だと情報の抜け落ちが出てしまうこともあります。
このような問題を、AIで解決していくのです。AIのデータ解析を活用すれば、社内に蓄積されたデータを細かく解析して、どのような顧客ニーズがあるかを把握できます。また、社外のデータを分析すれば、市場でどのようなニーズがあるか把握することも可能となります。
業務自動化で生産性が上がる
AIやロボットを活用すれば、製造業務の自動化・省人化が実現できます。ロボットを活用すれば、ヒューマンエラーが起きず、作業品質が安定することも魅力です。
経済産業省『2022年ものづくり白書』でも、5割以上の企業がデジタル技術を活用して生産性が上がったと回答しています。このように、業務自動化で生産性を上げていることも製造業DXの魅力です。
製造工場内のモニタリングができる
IoTやカメラなどセンサー技術を活用すれば、製造工場内のモニタリングができます。
日立製作所のスマートファクトリーのネットワークカメラやセンサーを使用して従業員や設備のデータを収集、生産管理データと掛け合わせて、生産工程の無駄を省く取り組みが注目を浴びました。
このように、工場の設備やシステムをインターネットでつなぐと、設備の稼働状況が的確に把握できて、生産工程の無駄を発見したり、設備管理が効率化できたりします。
労働者不足の問題を解決できる
製造業界の労働者不足の問題は深刻化しています。厚生労働省の有効求人倍率を確認すると、変動はありますが、製造業の有効求人倍率は約2倍です。つまり、1人の求職者に対して2つの仕事がある状況です。
また厚生労働省『2022年ものづくり白書』では、製造業の若者離れが示唆されており、人材難は続くと予測されています。このような労働者不足の問題は、デジタル技術やロボットを活用して業務を自動化することで乗り越えられると考えられます。
運用コストを抑えられる
自社製品の外観検査をAIで自動化したり、ピッキング作業をロボットで自動化したりすれば、その分の人件費を削減できます。デジタル技術を導入する初期コストはかかりますが、運用コストは大幅に削減できます。
製造業DX推進でどの程度の費用対効果が出せるのか、気になる方はベンダーに相談をしてみてください。
製造業DXの取り組み方
製造業DXは効果を得るためにも、下記の手順で取り組むようにしましょう。
- 製造会社の現場の課題を洗い出す
- 現場の課題を解決する方法を探す
- デジタル技術を活用して業務を効率化する
ここでは、各手順について詳しく解説します。
現場の課題を洗い出す
まずは、現場の課題を洗い出していきましょう。なぜなら、現場の課題を洗い出して、どのように解決していくか具体策を考えていかないと、現場から反発が起こってしまうためです。
現場に協力してもらうために、DX推進で解決したい課題と将来像を共有できる状態にしておきましょう。そして、経営者から現場に対して製造業DXに取り組む必要性を説明することで、協力が得られやすくなります。
DX推進チームを結成して解決方法を探す
現場の協力が得られたらDX推進チームを結成します。
製造会社の場合は、システム開発会社やベンダーなどに業務効率化できるシステム導入を依頼するのが一般的です。しかし、現場の課題をどのように改善していくべきか、DXアイデアを出すプロデューサーは必要になります。また、DX推進する上での問い合わせ窓口を担う補佐役も必要です。
プロデューサーの役割を担える人材がいない場合は、DX研修を受講させるなどして育成しておきましょう。
デジタルツールを活用して業務を効率化する
現場の課題を洗い出して解決方法を発見できたら、該当するデジタル技術を導入して業務を効率化していきます。
初めて製造業DXに取り組む場合は、生産管理システムや在庫管理システムなど、既製のシステムを導入するなどスモールスタートがおすすめです。スモールスタートであれば、少ない予算で取り組め、現場の負担も少なくて済みます。現場がデジタル技術に抵抗がなくなってきたら、より大きなスケールの改革に取り組んでいきましょう。
製造業DXに取り組む上でのコツ
製造業DXに取り組むにあたって、円滑に進めたり、成果を出したりするためのコツを押さえておきましょう。
他社のノウハウを学ぶ
製造業DXに取り組むときに「どのような業務効率化、業務改革を行うべきなのか?」とテーマを見つけることは大変です。このような場合は、同業他社の事例を学び、自社でも取り組めるかで判断していくとテーマを決めやすくなります。そのため、同業他社の集まりなどに参加して、各社のDX関連の施策を聞いてみましょう。
DX人材を育成する
DX推進を成功するためには、デジタルに関する知見を持った人材が必要です。また、社内に導入したデジタル技術を上手に活用するためのITリテラシーを身に付けておく必要があります。そのため、社内でDX研修を行うなど工夫して、DX人材を育成するようにしましょう。従業員がDXに関するスキルを習得すれば、DXを円滑に進めていけます。
補助金や助成金を活用する
DX推進には「システム導入費」「コンサルティング費」「市場調査費」「人材教育費」などがかかります。このような予算を確保できない方は、以下の補助金や助成金を活用しましょう。
- IT導入補助金
- 事業再構築補助金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
中には1,000万円以上の補助金を出してくれるものもあります。DX推進の予算が確保できない場合は、活用できそうな補助金や助成金を探してみてください。
製造業DXを実現するおすすめのツール
製造業DXを実現するためのツールには、以下のようなものがあります。気になるツール見つけたら、導入を検討してみてください。
生産管理システム |
製造業務(計画・生産・販売・在庫・原価・品質)を統合管理して生産性を上げる |
在庫管理システム |
自社商品の在庫状況、入荷・出荷を適切に管理して、販売損失や過剰在庫を防止する |
ECサイト制作システム |
プログラム知識がない人でもECサイトを制作・運用できる |
AI不良品検出ツール |
商品の傷や異物を判別して、不良品検査を自動化する |
RFIDタグ |
複数のタグを一括読み取りして、ピッキング作業を効率化する 入出庫業務、棚卸業務を自動化することも可能 |
設備保管理システム |
工場設備の状況をモニタリングして、必要に応じたメンテナンスを行う |
データ解析ツール |
データ解析して、顧客ニーズに見合う製品開発ができる 需要予測で自社製品の最適な製造数を決められる |
自律搬送型ロボット |
搬送作業などが自動化できる |
製造業DXに取り組む企業事例
実際に製造業DXに取り組んでいる企業はどのような効果が見込めているのか、企業事例で確認しておきましょう。
オリオンビール株式会社
出典元:『オリオンビール株式会社』
オリオンビール株式会社は、ビールや清涼飲料水を製造している飲料水メーカーです。
同社は製造工程のDXではなく、常駐の有人受付を無人化するなど間接業務の省人化を行いました。
以前は工場の受付窓口でお客様に入場証を渡していました。しかし、同社の受付窓口には1日100件以上のお客様が来ていたため、「受付済みのお客様か?」と記憶が曖昧になることがあり、セキュリティ面で課題を感じていたといいます。このような課題を解決するために、無人受付システムを導入することに決めたのです。
受付無人システム上では、担当者に来客の通知が届くようになり、総務を経由することがなくなりました。そのため、スムーズな案内ができるようになり、年間900時間の総務業務を削減できました。システム導入費を差し引いても110万円前後のコストカットができたと述べられています。
ヤマザキマック株式会社
出典元:『ヤマザキマック株式会社』
ヤマザキマック株式会社は、複合加工機、5軸加工機、レーザ加工機まで、幅広い製品を手掛ける工作機械メーカーです。同社は、もともと1つの工場で部品加工から完成品の組立を行っていましたが、第1工場で組立、第2工場で部品加工を行う一体型の生産体制に再編しました。工場で機能を分けて、需給の変動にフレキシブルに対応しようと思ったのです。
しかし、2つの工場間で生産工程を統合するのは一筋縄ではいきませんでした。中でも大変だったのが物流管理だといいます。そこで、物流管理の悩みを、材料や部品にRFIDタグを添付することで解決しました。
RFIDタグを貼っておけば、非接触で長距離通信ができ、「どこに」「何が」「どれぐらい」あるか、リアルタイムで把握できます。このような技術を活用して、在庫最適化を実現しました。
株式会社ファーストリテイリング
出典元:『ユニクロ』
株式会社ファーストリテイリング社はユニクロやGUの店舗を運営しており、DX推進に成功している企業として注目を浴びています。
例えば、商品の配達に欠かせない物流倉庫の有明倉庫では、ロボットを活用して入出荷作業を完全自動化しています。
また、商品にはRFIDタグを取り付けており、無人レジを実現しました。RFIDタグで「バックルームに商品の在庫はどれぐらいあるのか?」「どれぐらいの商品を配送してもらえるか?」などを分析して効率的な運営をしています。
株式会社ファーストリテイリングの製造業DXについて詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
関連記事:『【更新】RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント』
まとめ
製造業DXとは、デジタル技術を活用してビジネスを発展させていくことをいいます。顧客ニーズに見合う製品を開発できたり、生産性向上が見込めたりします。
しかし、製造業界は予算・知識・人材が不足しておりDX推進が進んでいません。このような問題は、DXをスモールスタートすることで解決できます。
この記事を参考に、ぜひ自社に合った方法で製造業DXを実現してみてください。