少子高齢化による労働力不足や人件費高騰により、コンビニなどの小売店舗は深刻な問題を抱えています。
その一方で、キャッシュレスなど新しい技術の登場により、小売業の在り方は見直されています。
例えば、中国やアメリカで注目を集めているものに「無人店舗」があります。
無人店舗には、画像認識や重量センサーなど、最先端のテクノロジーが導入されており、「労働力不足」や「人件費高騰」といった問題の解決策として期待されています。
本稿では「無人店舗」に注目し、どのような形態の無人店舗があるのか、どのような技術が用いられているのか、さらに、無人店舗の現状と将来の展望についてご紹介していきます。
3種類の無人店舗
「無人店舗」は、人手不足解消や従業員の負担軽減、コスト削減などが期待されている店舗形態で、商品決済や店舗管理を店員に頼らずに行える店舗です。
国内外で展開されている無人店舗には、さまざまなタイプがあり、①コンテナ型、②最先端テクノロジー集約型、③スマート自販機の3種類に大別されます。
①コンテナ型店舗
1つ目の「コンテナ型店舗」は、無人店舗の起源であり、中国の「BINGO BOX」が代表的な例です。2017年7月に登場し、無人コンビニブームを巻き起こしました。
十数平方メートルのガラス張りコンテナ内が店舗として活用されています。
店舗は鍵がかけられ、スマホアプリでQRコードをスキャンして入退店を行います。商品管理にはRFIDタグ(ICタグ)が使用され、レジに商品を置けばスキャナーが自動的にRFIDタグを読み取り、Alipayなどのアプリで決済されます。
「RFID」の基礎知識については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
②最先端テクノロジー集約型店舗
2つ目は「最先端テクノロジー集約型店舗」です。BINGO BOXのようなコンテナ型の無人店舗と比べ、画像認識や人工知能(AI)など、最先端テクノロジーを使用した無人店舗です。国内外の多くの事例は、この最先端テクノロジー集約型店舗に該当します。
③スマート自販機型店舗
3つ目は「スマート自販機型店舗」です。中国でコンテナ型無人店舗の導入が減少傾向にある中で、スマート自販機は普及を拡大しています。複数台を併設する場合もあれば、オフィスやショッピングモールに単独設置されるケースもあります。
中国の「X24H」はスマート自販機を6台並べただけの無人店舗で、焼き立てパンや熱々ソーセージ、焼きたてピザ、生絞りオレンジジュース、アイスクリームなど、様々な種類の食材を24時間提供しています。自動的に軽食が調理され、売れ残り商品は4時間毎に破棄されます。ベースが自動販売機なので、使い慣れた我々にとっても不便さを感じることは少ないでしょう。
日本でもスマート自販機が現れています。そのひとつが「無人コンビニ600」です。商品の種類はカスタマイズでき、1つのボックスのなかに約200品目が入ります。商品にはすべてRFIDが取りつけられ、スマホで自動決済可能です。店舗不要でボックスの設置は1台で済みますので、コストは抑えられます。「無人コンビニ600」の設置代金は1カ月あたり最低5万円からです。
参考資料:「無人コンビニ600」| 600株式会社
国内外の無人店舗の事例
ここでは無人店舗の事例をご紹介します。現在主流となっているのは、「②最先端テクノロジー集約型店舗」です。
Amazon Go
Amazon Goの特徴は、RFIDタグの代わりに、AIに基づく画像認識技術を使用し、商品を管理していることです。
天井に吊るされたカメラやセンサー、棚に設置された重量センサー等で、消費者が商品を手にとるまでの行動をトラッキングし、レジでの会計行為が不要で、自動的に決済が行われます。このような会計行為不要の決済システムをアマゾンは「Just Walk Out」というコンセプトとしてまとめています。
アメリカのシアトルにAmazon Go1号店をオープンしたのを皮切りに、2020年2月の段階でシアトルに5店舗、ニューヨークに8店舗、シカゴに7店舗、サンフランシスコに5店舗展開するまでに成長しました。
Amazon Goは、シアトルなどでの運営実績、州ごとに異なる法律の影響、画像認識技術の革新により、2年という短い間に、柔軟にコンセプトを変更しています。
キャッシュレス店舗を禁止する法律が施行されている州の都市では、現金払いに対応したり、AIの画像認識能力の向上によりカメラやセンサーの数が少量で済むようになったりしています。
2020年3月には、仮想カートのAPI群(※1)、カメラやセンサー等の機器、導入支援などを「Just Walk Out」の名でパッケージ化し提供することが発表されました。Amazon Goの取り組みは進化を続けています。
※1 :API(アプリケーションプログラミングインターフェイス)とは、汎用性のある機能拡張を実現する関数やオブジェクトの集まりのこと。APIを活用すると、外部のアプリやシステムと連携することが容易になります。
株式会社トライアルカンパニー
福岡市に本社を置く株式会社トライアルカンパニーは、IT技術を活用し小売業に変革をもたらしています。
「コンテナ型店舗」のようなRFIDタグの利用や、Amazon GoのようなAIをはじめとする最新テクノロジーがトライアルカンパニーの店舗に導入されています。
パナソニックと共同開発した「ウォークスルー型RFID会計ソリューション」では、RFIDタグが貼付された商品をエコバッグに入れたまま消費者が会計レーンを通るだけで、自動精算されます。
カメラや電子プライスカードを利用する「スマートストア」では、賞味期限に合わせて自動値引きを行うダイナミックプライシングが行われています。
最新技術により、店員の作業が大幅に削減され、店舗オペレーションの省人化を実現しています。
参考資料:業界初のウォークスルー型RFID会計ソリューション実証実験を開始||PR Times
TOUCH TO GO
JR東日本は「お客様へのサービス向上、従業員の働き方改革や人手不足の解消」を図ることを目的に、AIなどを活用した無人店舗の実証実験を実施しています。
JR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社の合弁で設立されたTOUCH TO GOは、2020年3月に、高輪ゲートウェイ駅構内に、無人AI決済店舗をオープンしました。
この店舗は、ウォークスルー型のキャッシュレス店舗で、AIによる商品管理や自動決済を行っています。
TOUCH TO GOは、個人識別ができる交通系ICカードを活用することで、利用客の情報を集め、より最適なサービスが提供できるようになるでしょう。
参考資料:高輪ゲートウェイ駅 無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」がサービス開始 商品は手に取るだけ!“ウォークスルーの次世代お買い物体験|TTG
ローソン
コンビニ大手のローソンは人手不足解消のために、AIや画像認識など、最新テクノロジーの導入を進めています。2020年に実験を開始した「レジレス店舗」もその1つです。
入退店には専用アプリによるQRコードのスキャンが必要で、購入商品管理には棚につけたセンサーや画像認識技術が使用されているそうです。
参考資料:レジなし実験店「ローソン富士通新川崎TSレジレス店」実験開始|LAWSON
無人店舗の問題点
小売店を運営する企業からすると、レジ業務などをスタッフに頼らない無人店舗は、人件費の削減や労働力不足の解消につながり、メリットが多いように思われます。
しかし、上記で取り上げた「コンテナ型店舗」や「最先端テクノロジー集約型店舗」では、いくつかの問題が顕在化しています。
「コンテナ型店舗」の問題点
・消費者の利便性が高まっていない
コンテナ型無人店舗で最も問題視されているのは、消費者にとって利便性が上がっていないことです。
消費者側からすれば、スマホを取り出しQRコードで入退店を行うなど、面倒な操作が発生しています。そのため、従来からある有人店舗のほうが便利だと感じられてしまい、コンテナ型無人店舗の売上は伸びませんでした。
コンテナ型無人店舗の代名詞でもあったBingo Boxは最盛期には数百店舗を抱えていましたが、今や数店舗にまで減少しています。
「最先端テクノロジー型店舗」の問題点
・カメラやセンサーのシステム導入コストが高い
最先端テクノロジー集約型店舗を支えるのが、カメラやセンサー、AIといったシステム機器です。Amazon Goの場合、多数のカメラやセンサーを組み合わせる必要があり、1店舗あたり1億円を超えることもあります。
以上のように「利便性を向上できていない」や「費用対効果が見合わない」といった問題が発生しています。
ただし、最近ではこれらの問題を解決できるようなソリューションが登場しています。アメリカのスタートアップ企業である「Standard Cognition」の場合、入退店時の顔認証の省略ができるので煩雑な操作が省けます。また、商品へのRFIDタグ貼付や重量センサー、多数のカメラ設置が不要なため、無人店舗の投資額はかなり抑えられ、1店舗220万円程度で出店できるそうです。
無人店舗の将来
これまで様々な問題も含めて無人店舗をご紹介してきました。では、無人店舗は今後どうなると予想されるでしょうか?
実は、まだ日本での取り組みは進んでいませんが、無人店舗を活用することは企業・消費者にとって、非常に大きなメリットがあります。無人店舗はメーカーや小売業などの企業や消費者に、従来にはなかった「購買動態データ」や「買い物体験」を提供するプラットフォームになりえます。以下で詳しくご紹介します。
企業にとってのメリット
企業にとって無人店舗を導入する最大の価値は、「来店客の様々な情報を収集できること」です。入店時のID認証や画像認識で「誰がその商品を購入したのか」や「一度手にとったものの買わなかったものは何か」など、従来のPOS情報では取得できなかった情報が収集できます。これらの情報を科学的に分析して、マーケティング活動に活かすことができるでしょう。メーカーや小売業からすれば無人店舗は「店員が不要な生産性の高い店舗」であるのと同時に「商品をリアルチャネルでより良く販売するためのツール」と言えます。
消費者にとってのメリット
消費者にとって無人店舗は、購買体験を一変させる存在です。棚に置いてある商品を自分のカバンに入れ、そのまま店舗から出るだけで良くなるからです。「行列でうんざりする」といったストレスから解放されます。
また、自身が頻繁に通う店舗であれば購買データが蓄積され、最適な商品が入荷され、提供されることも可能になるかもしれません。「最適なタイミングで、自分が思いもしなかったような最適な商品が提供される」そのような未来がやってくるかもしれません。
現状、レジを通さず、店舗を出るだけで済むということは技術的に難しいこともあります。そのような場合はユニクロが一部店舗に導入しているRFIDタグを使った「無人レジ」も1つの選択肢になるでしょう。
「RFIDユニクロ」については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント
新しい生活様式でのメリット
新しい生活様式とは、新型コロナウィルスを想定した生活様式のことで、キーワードは「うつさない」・「もらわない」です。
参考資料:政府広報オンライン「新しい生活様式を身につけましょう」
感染予防のため、多くの小売業では「非対面」・「非接触」の販売を行っています。対面販売においては、アクリル板の設置や従業員のフェイスシールドの着用などは見慣れた光景となりました。
日本国内では、ワクチン普及にしばらく時間を要する見込みです。無人店舗を活用することで、店舗・顧客ともに対面での空気感染リスクを下げられるメリットがあります。
しかし、万が一、顧客がウイルスを所持している場合、触れた商品には一定時間ウイルスが潜伏します。接触感染を防止するためにも、入店前の手指のアルコール消毒や検温の徹底を自動化する仕組みが欠かせません。
その他、「マスクを着用しないで来店する」、「大人数で来店する」など、有人店舗ではスタッフが目視で防止できる課題にも、無人店舗で運用する場合には注意が必要です。
まとめ
最初の無人店舗が登場してまだ3年しか経っておらず、スタイルの変化も随所に見られます。ただ「Just Walk Out」というコンセプト自体は一貫しています。
「無人店舗の将来」でもご紹介したように、無人店舗は単なる省人化のツールでなく、マーケティング活動にも活用することが期待され、大きな可能性を秘めています。
無人店舗に関心ある小売の方だけでなく、製造業などの皆様にも、参考になれば幸いです。