統計的品質管理とは?基本の概要から学習方法まで解説

製造現場では、製品品質を均一に製造する必要があります。その理由は、不適合の製品を販売してしまうと事故に発展して、お客様に多大な迷惑をかけてしまうためです。

しかし、製品の品質にはバラつきが出やすい傾向があります。そのため、品質のバラつきの原因を特定して製造現場を改善していかなければいけません。

生産工程の何が製品のバラつきに影響しているかを把握するために「統計的品質管理」が利用されます。統計的品質管理とは何なのでしょうか?どのように品質管理を行うものなのでしょうか?今回は、統計的品質管理について詳しく解説します。

統計的品質管理とは

統計的品質管理(Statistical Quality Control:SQC)とは、収集したデータを解析して品質管理や生産工程を改善していく方法をいいます。

製造現場では「作業者」「機械装置」「材料」「作業方法」など製造に関与するデータを収集して解析します。

統計的品質管理の目的

統計的品質管理は、製品品質のバラつきを抑えるために行います。

一般的に製品の品質は、「材料」「機械装置」「作業方法」「検査方法」の条件を完全に満たせば均一化できます。そのため、各条件のデータを収集して解析して、結果を反映させていくことが重要です。

しかし、それぞれの条件データを収集して分析するのは想像以上に大変です。そのため、サンプルデータを抽出して、条件結果を紐解き改善していきます。このように、サンプルデータから生産工程の実態を推定するために「統計的品質管理」を使用します。

統計的品質管理の効果

統計的品質管理のメリットは、生産工程の実態を細かく把握できるようになることです。

統計的手法を用いてデータを解析していけば、なぜ、製品の品質にバラつきがあるかがわかります。データ解析の結果を参考にしながら生産工程を改善していけば、品質が均一化された製品を大量生産できるようになります。

統計的品質管理の歴史

統計的品質管理の歴史は、1931年のアメリカから始まっています。ノーベル賞の受賞者を何人も輩出しているベル電話研究所の物理学者ウォルター・A・シューハートが、統計品質管理を生み出しました。彼は「生産工程が正常状態なのか?異常状態なのか?」を判断するための管理図を作成しました。彼が作成した管理図は「シューハート管理図」と呼ばれています。

その後、第二次世界大戦で米軍が同性能の武器を製造するために、シューハート管理図を採用したことで、広く用いられるようになりました。当時は主に製造業の現場で活用されていましたが、近年は建設業やサービス業でも利用され始めています。 

統計的品質管理の代表的な手法

統計的品質管理はサンプルデータから生産工程を推定するために使用するものですが、以下のような手法があります。

 

[統計的品質管理の代表的な手法] 

  • 検定と推定
  • 分散分析
  • 実験計画法
  • 相関分析・ 回帰分析
  • 多変量解析法
  • コンピュータ実験

ここでは、各手法について分かりやすく解説します。 

検定と推定

検定と推定

出典元:首都大学東京 第2講 1つの母平均に関する検定と推定

検定と推定とは、標本調査から母集団の特性を推定することをいいます。推定方法には、「点推定」と「区間推定」の2つの方法があります。 

  • 点推定…母集団の特性に最も近い値を推定する
  • 区間推定…点推定値の誤差やバラつきを推定する

※「検定」とは、ある事実を確かめる解析手法を指します。

分散分析

分散分析

出典元:Web教材テーマ一覧 分散分析

分散分析とは、1つの条件に対して繰り返し実験を行って誤差を確認し、その要因を特定することをいいます。実験結果の誤差を生み出している要因を「因子」と呼びます。

1つの因子を取り上げて条件を変えることで、実験結果に誤差が縮まるかを検証していく方法です。

実験計画法

実験計画法

出典元:株式会社クオリティデザイン 実験計画法とは

実験計画法とは効率のよい実験方法を考案し、結果を解析することをいいます。1920年代に統計学者のR・A・フィッシャーが農学試験から着想し発展させました。現在では農業のほか、医学や光学、心理学や社会調査などに応用されている方法です。

相関分析・回帰分析

相関分析・回帰分析

出典元:総務省 ICTスキル総合習得教材 相関と回帰分析(最小二乗法)

相関分析・回帰分析とは、結果となる数値の要因の関係を調べて、各要因の関係を明らかにすることをいいます。

それぞれの要因が結果にどのような影響を与えているかを明らかにするために用いられます。結果に影響を与えそうな要素を洗い出すところから始め、関数を使用して検証していく方法です。

多変量解析法

多変量解析法

出典元:技研商事インターナショナル 多変量解析とは

多変量解析法とは、ある対象から得られた関連データを統合的に要約したり将来の数値を予測したりする解析作業です。

例えば、顧客数や商品単価、店舗数などから将来の売上高を予測するのも多変量解析法に該当します。多くの情報を基に、その関係性を解き明かす方法です。

コンピュータ実験

コンピュータ実験とは、システムを活用して推定や解析を効率化する方法をいいます。近頃は、AIが登場してきて、AI技術を活用して推定や解析を自動化する動きも出てきました。このようなシステムを活用すれば、精度の高い分析ができます。

[事例]トヨタ自動車の統計的品質管理手法

トヨタグループでは、業務における問題を解決する有効なツールとして「SQC」を活用しています。正しい判断をするために、事実に基づくデータ(言語データと数値データ)を解析しているのです。社内に蓄積される大量のデータを可視化して、製品品質にバラつきがないかを判断しています。

また、可視化したデータは社内で共有して、さまざまな人の意見を聞いています。それだけに留まらず、統計的品質管理のあらゆる手法を試していることも大きな特徴です。このように徹底した品質管理の手法で、品質が安定した製品をお客様に提供しています。

統計的品質管理手法の学習方法

統計的品質管理手法は簡単に身に付けられるものではないため、学習が必要です。以下の方法で統計的品質管理手法について学びましょう。

  • 専門書
  • セミナー
  • 研修 

ここでは、3つの中でもおすすめの学習方法をご紹介します。

専門書

統計的品質管理の専門書は書店で購入できます。さまざまな専門書が販売されているため、自分に見合うものを選びましょう。どのような専門書を購入すべきか悩んでしまう方のために、おすすめの書籍をご紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。

■統計的品質管理手法のおすすめの本

<図解>基本からよくわかる品質管理と品質改善のしくみ(著者:西村仁)

品質管理の概略をわかりやすく解説している初心者向けの専門書

品質管理のための統計学~生きた事例で理解する~(著者:川野常夫)

統計的品質管理の計算時方法を事例付きでわかりやすく解説している初心者向けの専門書

上手な機械学習と統計的品質管理の使い方入門I(著者:渡邉克彦

統計的品質管理を機械学習で効率化していく方法が紹介されている上級者向けの専門書

セミナー

統計的品質管理に関するセミナーに参加すれば、講師から教えてもらえます。専門書は古いものを購入すると最新の情報が得られませんが、常に新たな情報で学べることがセミナーの魅力です。

また、参加者と交流ができて人脈を広げられます。そのため、1人では勉強が続けられない方におすすめの学習方法です。

品質管理を中心とする各種の事業推進を行う日本科学技術連盟では、定期的にセミナーが開催されています。セミナー内容に興味がある方は参加してみてください。

■日本科学技術連盟のセミナー内容

  • エグゼクティブセミナー
  • 役員のための品質経営セミナー
  • マハラノビス・タグチ(MT)システム入門コース
  • 現場力強化のための人為ミス防止セミナー
  • ソフトウェアテスト分析手法実践セミナー
  • 臨床試験セミナー統計手法入門コース

研修

企業で統計的品質管理に関する知識や技能を習得できる研修を行えば、人材育成に役立ちます。工本科学技術連盟などで統計的品質管理に関する研修が行われているため、人材育成したい場合は相談してみるとよいでしょう。

■日本科学技術連盟「統計的品質管理(SQC)速習」の内容

  • 統計的品質管理手法の目的などの基本知識を身に付ける
  • 「QC七つの道具手法」「回帰分析」の基本的な考え方を習得する
  • 専用ソフトを使用して実務力を鍛える

まとめ

統計的品質管理は、製品の品質のバラつきを抑えるために行います。

製品の品質は、「材料」「機械装置」「作業方法」「検査方法」の条件が完全に満たされれば均一になります。そのため、何が要因となり製品の品質のバラつきが発生しているのか解析する必要があるのです。この解析に「統計的品質管理」が活用されます。

この記事では、安定した品質の製品を提供することに成功しているトヨタグループの品質管理方法や、統計的品質管理の手法をご紹介しました。これらを習得していけば、製品品質の均一化が目指せます。これを機会に、統計的品質管理について学んでみてください。