ピッキング作業の人手不足は深刻な問題となっており、作業負荷を軽減する取り組みが各企業で行われています。例えば、矢野経済研究所は、物流ロボットの国内市場規模が、2030年に1,509億9,000万円(20年比で約8倍)になると予測しています。
参考資料:物流ロボットの市場規模、10年後に約8倍 民間調査
ロボットの導入が進んでいますが、ロボットの導入が正しい方法という訳ではありません。実現したい倉庫モデルをイメージしながら、ピッキング作業の効率化を考えていくことが大切です。そのために、最初にピッキングの種類を把握しましょう。
本稿では、ピッキングの種類別のメリット・デメリットについて解説した後、作業効率化のポイントについても触れていきます。ぜひ最後までご覧ください。
ピッキングとは
ピッキングとは、伝票や出荷指示書(ピッキングリスト)に従って、商品を取る作業のことです。企業によって取扱商品は異なり、小さな商品もあれば台車に載せて運ばなければならない大型商品もあります。また、冷凍食品のピッキング作業は、防寒着を着て冷凍倉庫の中で行わなければなりません。
このように、同じピッキングでも内容は大きく異なります。
ピッキングの種類
取り扱う商品によって、最適なピッキング方法は異なります。ピッキング作業の効率化を実現するために、どのような方法があるかを把握しておきましょう。
ここでは、ピッキングの種類をご紹介します。
メリット |
デメリット |
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シングルピッキング |
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トータルピッキング |
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マルチピッキング |
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デジタルアソートシステム |
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音声認識ピッキング |
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レーザーピッキングシステム |
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シングルピッキング
シングルピッキングとは、出荷オーダーごとに保管場所から、商品を取り出す作業方法です。「摘み取り方式」「オーダーピッキング」とも呼ばれます。
出荷指示書(ピッキングリスト)に従って、倉庫を往復するだけなので、従業員の指導が簡単です。また、出荷オーダーごとに作業するため、商品が混在する心配もありません。しかし、倉庫を往復しなければならないため、作業員の移動距離は長くなりがちで、無駄な作業も多くなります。
トータルピッキング
トータルピッキングとは、複数の出荷オーダーの商品をまとめて摘み取り、仕分け場でオーダー別に仕分けを行う方法です。「バッチピッキング」「総量ピッキング」「種まき方式」とも呼ばれます。
トータルピッキングは、複数の出荷オーダー分の商品をまとめて摘み取るため、倉庫内の移動時間を減らすことができます。そのため、出荷件数が多い場合に向いているピッキング方法です。
倉庫内の往復回数を減らすことができますが、出荷までの工程がピッキング作業と仕分け作業の2つの工程に分けられます。そのため、仕分け作業場を確保しなければなりません。また、複数の出荷オーダーをまとめてピッキングするため、オーダーを溜める必要があります。
マルチオーダーピッキング
マルチオーダーピッキングとは、複数の出荷オーダーの商品をまとめて摘み取り、その場で仕分けをする作業方法です。オーダー単位に用意した折りたたみコンテナをピッキングカートに搭載し、ロケーション順にピッキングして、該当するコンテナに投入していきます。1回の倉庫内歩行で、複数の出荷オーダーのピッキング・仕分けを行うことができますが、誤出荷を招く恐れもあるので注意が必要です。
デジタルアソートシステム
デジタルアソートシステムは、棚や荷揃えボックス上に設置された表示器の指示にしたがって、商品を仕分けていくシステムです。出荷指示書を確認する必要がないので、作業効率があがります。同一商品を複数の出荷先にピックアップする場合に適しています。
音声認識ピッキング
音声認識ピッキングは、音声による「指示」と「確認」で行う作業方法です。バーコードスキャンやキー入力の必要がないため、両手で作業することができます。また、音声指示で作業するため画面確認が不要で、作業速度を上げることができます。そのため、重量物の出荷やフォークリフト出荷などハンズフリーが求められる倉庫で採用されるケースが多いです。
レーザーピッキングシステム
レーザーピッキングシステムは、ウェアラブル端末とレーザーポインタを活用して、作業に必要な情報を自動収集する次世代システムです。
作業効率化だけではなく、作業者の部品取り間違いを感知するため、ヒューマンエラー防止にもなります。また、無線通信を利用するため、棚のレイアウトが自由に変更できるなどメリットが多いです。しかし、通信環境を整えるための導入コストがかかります。
ピッキング作業効率化の8つのポイント
ピッキングの種類と同時に、作業効率化のポイントを把握することも大切です。
ここでは、ピッキング作業効率化のポイントについて解説します。
1.ロケーション表示を簡略化する
倉庫内の商品保管場所を「ロケーション」といいます。商品を保管する棚や箱に番号を割り振り「商品は、1-2-3という場所にある」と番号を表示させます。作業者は指示書(ピッキングリスト)に記載されているロケーション番号を見ながら倉庫内を移動するため、簡略化した数字を割り振るようにしましょう。
2.業務標準化の実施
ピッキング作業者ごとにやり方が異なっていると、経験や実力の差が大きく影響し、作業効率が悪くなってしまいます。また、新人が入社する度にピッキング作業の方法を教育しなければならず、大きな負担になります。このような負担を削減するために、マニュアル化を行いましょう。マニュアル書を作成することで、業務の標準化や作業効率改善が見込めます。
3.作業導線の短縮
ピッキングの作業効率化を図るためには、作業導線の短縮が欠かせません。取扱商品数が多く、倉庫が広い場合は作業導線が長くなりがちです。さらに、作業手順や商品の出荷頻度を考慮していないロケーション設定を行うと倉庫内の移動距離が伸びてしまいます。
このような問題の改善方法として、出荷頻度を考慮したロケーション設定を行い、作業導線を短縮することを心掛けてください。在庫商品の出荷頻度をABC分析し、出荷頻度の高い商品を短い作業導線で摘み取れるようなロケーションにすることが大切です。
4.適切なピッキング手法の選択
ピッキング手法は「シングルピッキング」「トータルピッキング」「マルチオーダーピッキング」の3つの方法が主流です。近年「デジタルアソートシステム」「音声ピッキング」「レーザーピッキングシステム」などの補助道具を使用したピッキングも登場しています。どのような商品を取り扱うかで適切な作業方法は異なりますので、自社に合った方法を選択するようにしましょう。
5.マテハン機器の導入
マテハン機器(マテリアルハンドリング機器)とは、パレットやフォークリフトなど、モノの保管・運搬など業務効率化のために用いられる荷役機器のことを指します。近頃は、操作が簡単なマテハン機器や自動化を実現したロボティクスが開発されています。機能面が充実しているマテハン機器を導入することで、ピッキング作業を効率化することが可能です。
こちらの記事ではおすすめのマテハン機器を紹介しております。ぜひご覧ください。
ピッキング作業効率化!おすすめフォークリフト&ピッキングカート
6.十分な作業スタッフの確保
時期によって作業量に波が出てくることがあります。繁忙期には、適切な人員確保をすることが大切です。繁忙期にも関わらず、作業スタッフ確保できなければ、他のスタッフに大きな負担を与えることになってしまいます。
大きな負荷を与えてしまうと、各作業員の作業スピードが落ちるので注意しましょう。最悪の場合は、作業員の離職につながります。そのため、入出荷に間に合うように作業スタッフを確保しましょう。
7.在庫管理システムの導入
在庫管理システムを導入して「どこに」「何が」「いくつ」あるのかを可視化することも大切です。在庫商品の場所を地図上に表示させる在庫管理システム(LocusMapping)も登場しています。在庫場所や在庫数を在庫管理システムで可視化することで、倉庫内を探し回る必要がなくなります。
8.適切な在庫数を確保
適切な在庫数を確保しておくことは、倉庫内作業に欠かせません。在庫数が多すぎるとピッキングエリアは広くなってしまいます。逆に、在庫数が少なすぎると、在庫欠品で作業が中断してしまうかもしれません。このような問題が起きないように、各商品の出荷頻度をデータ化して適切な在庫数を確保しましょう。
ピッキングシステムの種類
近頃は、作業効率化やヒューマンエラーの防止のためにマテハン機器やピッキングシステムを導入する企業が増えていますが、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、ピッキングシステムの種類をご紹介します。
ハンディターミナル
ハンディターミナルを使用すれば、バーコードをスキャンして瞬時に照合でき、ピッキングした商品の種類や数を確認できます。
必要な作業は、バーコードのスキャンだけなので操作は簡単です。ハンディターミナルを導入すれば、検品作業の確実性と速度を上げることができます。近頃は、バーコードではなく、RFIDタグをスキャンするハンディターミナルも登場して注目を集めています。
RFID
RFID(Radio Frequency Identification)は、無線通信を利用した自動認識システムです。
バーコードは1枚ずつしかスキャンできませんが、RFIDは一度に複数枚読み取ることができます。また、RFIDタグとハンディターミナルの距離が遠くても情報を読み取ることができ、箱の中に入っている商品タグも読み取れるため、検品作業を大幅に短縮できます。
RFIDはこちらの記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
RFIDとは?最新動向と活用事例を解説!
デジタルカート
デジタルカートは、ピッキングカートにパソコンやバーコードスキャナーが搭載されたカートです。作業者は、パソコン画面の作業指示に従って作業を行います。6間口から12間口まで可変式間仕切りが搭載されているデジタルカートが多く、複数の出荷オーダーの検品を一度で行う際に適しているピッキングシステムです。
ロボット
ピッキング作業の効率化が図れるマテハン機器の中には、棚を作業者の待機場所まで持ってくる運搬ロボットが大きな話題を集めていますが、このようなマテハン機器を導入すれば、作業者の倉庫移動時間を短縮できます。
ピッキングロボットは以下の記事で解説しています。ぜひご覧ください。
ピッキングロボットで作業時間を1/4に!物流業界の救世主を徹底解説!
RFIDのピッキング効率化ソリューション
ピッキング作業を効率化するピッキングシステムは、新たなソリューションが続々と登場していますが、その中でも注目を集めているのがRFIDです。従来のRFIDタグの価格は100円以上しましたが、1枚10円程度とRFIDタグの価格は下がってきています。実際にRFIDのピッキングシステムを利用すれば、どれぐらいの効果が見込めるのでしょうか?
ここでは、RFIDの魅力をご紹介します。
RFIDタグ:商品情報の一括読み込み
商品ごとに固有IDが登録されたRFIDタグは、複数枚のタグを遠隔から、一括で読み取ることができます。また、箱の中に入っている商品のRFIDタグも読み取れるので、検品作業を短縮することができます。
Locus Mapping
LocusMappingは、RFIDタグを貼り付けてハンディリーダーをかざすだけで、「何が」「どこに」「どれだけ」あるのかデジタルマップ上に表示できる在庫・物品管理システムです。店舗、倉庫、工場など様々な現場で、在庫・物品の管理を効率化して非生産的な時間を短縮したり、商品の位置情報を活用した革新的なマーケティングを可能とします。
デジタルマップ上に商品が可視化されることで、ピッキング作業者が、どこに行けば良いのかがすぐに分かります。このようなソリューションを用いることで、ピッキング効率化が進むでしょう。
RFIDの価格は「RFIDタグの価格は1円以下を実現!?気になるタグの最新価格動向と導入事例を徹底分析!」
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でも詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
Locus Mapping x Picking Tagで広いエリアもピンポイントに!探索・ピッキングを効率化
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まとめ
本稿では、ピッキングの種類や作業効率化についてご紹介しました。実現したいモデルを明確にして、どのようなソリューションを導入すべきかを検討してみてください。
様々なピッキングシステムが登場している中でも、RFIDは特に注目を集めています。バーコードでは実現できない、タグの遠隔からの、一括読み込みを行うことができます。ピッキング作業の効率化を検討している方は、ぜひ導入を検討してみてください。
以下の記事では、RFIDを導入したユニクロを例に、RFID活用のヒントをご紹介しています。ぜひご覧ください。
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