【最新事例】ブロックチェーン×医療業界について徹底解説!

医療業界では、ブロックチェーン技術を応用した医療変革の動きが加速しています。現状ブロックチェーンによる関連法規は、未整備となっています。しかし、厚生労働省が臨床試験のモニタリング実証にブロックチェーン活用を承認した際に大きな注目を集めました。

なぜ、ブロックチェーンを活用した医療変革が進められているのでしょうか?ここでは、医療業界で研究が進むブロックチェーンについて分かりやすく解説します。

ブロックチェーンによる医療変革の必要性

ブロックチェーンによる医療変革が注目を浴びていますが、何故なのでしょうか?ブロックチェーンによる医療変革について把握する前に、医療改革が求められる背景について把握しておきましょう。

1. 社会保障費の拡大

日本では少子高齢化が急速に高まる中で、社会保障費の拡大が財政を圧迫すると懸念されています。社会保障給付費は増加の一途を辿っています。

経済産業省の資料経済産業省におけるヘルスケア産業政策についてによると、医療給付費は2025年に54兆円。2015年度の39.5兆円から14.5兆円も拡大。介護給付費は2025年度に19.8兆円へ。2015年度の10.5兆円から9.3兆円も拡大すると予測されています。

医療崩壊を招かないためにも、次世代ヘルスケア産業の創出や医療現場の業務効率化の必要性に迫られているのです。

2.医療従事者の深刻な人材不足

医療や介護を必要とする高齢者が増加する一方で、医療従事者の深刻な人材不足は見逃せません一般社団法人日本病院会の報告書2019年度勤務医と医師の働き方に関するアンケート調査によると、医師が充足していると回答した病院は約1割。9割の病院が医師不足の問題を抱えています。

病院の医療機能や地域性、病床規模や院長の考えなどでも変わりますが、多くの病院が医師不足で悩んでいます。医療や介護が必要な高齢者が増加する一方のため、想定される医療逼迫の対策を考えなければいけません。

3.ヘルスケア産業の市場拡大

社会保障費の拡大や医療従事者の深刻な人材不足の問題を解決するために、予防医療の取り組みが始まっています。そのため、ヘルスケア産業市場はさらに拡大していきます。

事業構想大学院大学数字で見るヘルスケア産業の可能性によると、ヘルスケア産業市場は2020年度に26兆円となり、2030年度には37兆円にも伸びると予測されています。ヘルスケア産業とは、病気予防や未病改善、健康増進を目的とした医療機器や健康食品などをいいます。

また、ヘルスケア産業と併用して、ブロックチェーンを活用した高度な医療サービスの提供が行えるように医療改革が始まろうとしているのです。

ブロックチェーンとは

社会保障費の拡大や医師不足などにより、医療崩壊を懸念しなければなりません。医療崩壊の問題を解決するために、健康増進や医療予防の他、高度な医療サービスを提供する必要があります。

高度な医療を提供するために、ブロックチェーンによる医療変革の研究が進められていますが、ブロックチェーンとは何なのでしょうか?ここでは、ブロックチェーンについて分かりやすく解説します。

ブロックチェーンの特徴

ブロックチェーン(blockchain)とは、別名「分散型台帳」と呼ばれています。分散型ネットワークを構築する複数のコンピューターに暗号技術を組み合わせて、取引情報を同期して記録する手法のことをいいます。取引情報をブロック単位にまとめて、コンピューター同士で検証しながら取引情報を蓄積していく仕組みです。

ブロックチェーンのメリット

ブロックチェーンを活用すると、以下のメリットが得られます。

 (1)取引情報の改ざんや不正取引を防げる

取引情報を蓄積する前に、コンピューター同士で検証する作業があります。検証した結果、正当性が認められない場合は、ブロックに取引情報が保存されることはありません。

また、取引情報を記録するブロックにはハッシュ値が格納されており、取引情報を改ざんするとハッシュ値が変更される仕組みです。そのため、誰が取引情報を改ざんしたかを追跡できるようになり高いセキュリティが確保できます。

 (2) 取引情報の透明度が高い

ブロックチェーンで保存された取引内容は、インターネット上に公開されます。取引情報の削除や改ざんは行えないため、どのような取引が行われているか時系列での確認が可能です。このような取引情報の追跡をトレーサビリティと呼びますが、過去の取引を遡れるため取引情報の透明度は高くなります。

(3) システムダウンがしにくい

自社内のサーバー上に取引情報を蓄積していくと、中心部のサーバーがダウンしてしまうことがあります。そうなると、サーバー復旧までサービスが利用できません。しかし、ブロックチェーンであればP2P方式(複数のコンピューター間で通信を行う方式)採用により、システムダウンがしにくくなります。

(4) 管理運用コストが安い

ブロックチェーンは複数のコンピューターによって、データが保存・管理されています。これらを一元管理するとしたら莫大なコストがかかります。高性能なサーバーの購入費用だけではなく、保守や管理費用もかかります。しかし、P2P方式であれば、複数のコンピューターに取引情報を保存していくため、管理運用コストを削減できます。

ブロックチェーンのデメリット

ブロックチェーンには、デメリットもあります。

(1)記録データを削除できない

ブロックチェーン上では、保存された取引情報の削除が行えません。削除したい情報が取引情報に承認されて保存されてしまった場合も削除できないことがデメリットとなります。そのため、住所や年齢、氏名などの個人情報を安易に登録してはなりません。

(2)処理能力が遅くなる

P2P方式を採用するブロックチェーンは、複数のコンピューターが繋がっている状態です。複数のコンピューターで同時に処理が行われるため、処理能力が遅くなることもあります。1つのブロックを生成するために時間を要するため、1時間あたりの処理能力が遅くなります。

(3)関連法規の未整備

日本では、2017年4月1日に「改正資金決済法」が施行されて、仮想通貨が暗号資産として定義されました。仮想通貨にもブロックチェーン技術が使用されていますが、ブロックチェーンを利用したサービスに関する関連法規は未整備です。

日本では合法だとしても、他国では違法とされることも珍しくないため、注意する必要があります。

医療変革にブロックチェーンが適している理由

ブロックチェーンの仕組みについては理解して頂けたと思います。次に、医療変革にブロックチェーンが適している理由について把握しておきましょう。

整合性がある

ブロックチェーンでは、基になる記録は1つであるため、データベースによってデータが異なるという問題は発生しません。データの重複や改ざんの恐れがないため、整合性のあるデータにアクセスできます。

患者情報を追跡できる

ブロックチェーンで保存したデータは削除できません。時系列で患者情報が蓄積されているため、過去の施術内容や病歴などを追跡・検証することができます。過去の情報を把握した上で、診察・施術をすることにより、医療サービスの品質向上が見込めます。

データ所有できる        

ブロックチェーンのデータは所有できます。所有者は、誰がアクセスできるかを選択することができるため、患者自身が個人データを管理できます。また、診察や診療を受ける際に、個人データへのアクセスを許可することも可能です。

ルールが明確である

医療分野では、データの規格やマスター記録がなく、データの書式も各医療機関で異なります。そのため医療提携する際などに苦労します。しかし、ブロックチェーンを活用すれば、患者情報の保管・管理にルールができるため、このような不満を払拭できます。

分散型

データベースのコピーが複数の場所に保管されるため、管理の必要がなくなります。取引情報の改ざんの心配もなく、アクセスした人物を確認できるなどセキュリティ面でも安心できます。

医療×ブロックチェーンで解決できる課題

医療業界でブロックチェーンを活用すると、どのような問題を解決できるのでしょうか?ここでは、医療業界がブロックチェーンで解決できる課題についてご紹介します。

医療サービスの品質向上

正確な診断を行いたいと思う医師が多いでしょう。ブロックチェーンを活用していけば、患者側の診察・施術歴が把握することができます。これまで不透明だった情報が透明化されることで、医療サービスの品質向上につなげられます。

医療データの所有

ブロックチェーンを活用すれば、患者自身が医療データを所有できるようになります。データ所有者は自由に公開できるような権利を持っているため、医療データを他の医療機関に見せることが可能です。

患者データを自由に持ち運び、再利用できるようになると、他院での診察・施術を受ける際にも診察・施術歴を見せることができます。

非効率な転機業務の合理化

18万軒の医療機関が存在しており、各医療機関で預かっている患者データは統合されることなく、各データベースに格納されています。医療機関間でのデータ移転も行われません。クリニックと薬局で、同じ患者の情報を重複して記載するなどの非効率な転記業務もブロックチェーンを活用すれば効率化できます。

保険請求審査の効率化

ブロックチェーンを活用すれば、保険の不適切な請求や払い戻しの問題を最小化することができます。医療機関の保険審査は複雑です。医療書類と承認ルールを照合しなければいけませんが、患者側がデータ所有者となることで保険請求審査の効率化が図れます。

医療×ブロックチェーンの導入事例

国内では、ブロックチェーン活用は研究段階です。しかし、海外では医療業界のブロックチェーンの導入事例があります。実際の導入事例を把握しておくことで、イメージしやすくなるでしょう。ここでは、先進国の医療業界のブロックチェーンの導入事例をご紹介します。

海外事例:エストニア共和国

エストニア共和国ではデジタル社会が進んでおり、国民IDカードの取得が義務づけられています。医師は患者情報にアクセスする際に、国民カードが必要となります。このような仕組みを整えることで、国民IDカードに誰がアクセスしたかのログが記録されるようになっているのです。何か問題が発生した場合は、過去の履歴から追跡することも可能です。

エストニアでは、X-ROADと呼ばれるデータ公開システムが整備されており法整備も進んでいます。国民IDカードに、医療情報や疾患情報などを蓄積して、高度な医療サービスの提供や新医療へ利活用されています。

国内事例:サスメド

国内では、ブロックチェーンの研究段階です。大きな注目を集めているのが、サスメド株式会社。新技術等実証制度に基づき、臨床試験のモニタリングでブロックチェーンを活用することを発表。国立研究開発法人国立がん研究センターの臨床試験で研究が行われています。

サスメドは、ブロックチェーン技術を実装した臨床試験向けのシステム開発を行い、臨床試験の効率化を目指しています。この研究が進めば、新薬の早期開発などにも役立ちます。

補足:国内でブロックチェーンは研究段階

海外ではブロックチェーンに関する法整備やシステム導入が進んでいます。国内ではブロックチェーンの研究が行われている段階ですが、さまざまな研究をしています。

iBSEN

医療現場に散在する医療情報を集約・解析・可視化することで、医療従事者の労務軽減が行える患者管理システムを開発中。

ヘルスノード

ブロックチェーンによる個人情報保護・改ざん防止が行える医療エコシステムを開発中。(※インドのAKT Health Analyticsと共同開発)

プラテクス

ブロックチェーンを活用した医療情報共有システムを開発中。アプリケーションで利用することが可能。

《まとめ》

国内では少子高齢化が進み、深刻な医師不足の問題を抱えています。医師不足の一方で医療・介護を必要とする高齢者が増えるため、医療崩壊を招く恐れがあるのです。また、地方になるほど医師不足は深刻な問題となっています。このような問題を解決するのが、ブロックチェーン技術です。

患者自身がデータ所有者になれるため、医療機関に自由に情報開示が行えます。医療機関側では転記業務や保険審査などの業務効率化が行えるため、業務負担も大幅に減らすことができるのです。また、蓄積された医療データは臨床試験や新薬開発に活かせます。このように、ブロックチェーンによって、従来の医療が大きく変わろうとしているのです。

国内では研究段階ですが、海外では導入が始まっています。国内でブロックチェーンが活用されるのも遠い未来ではないでしょう。ぜひ、医療業界のブロックチェーンの動向に注目しておきましょう。