製造業に身を置いている企業の担当者であれば「スマートファクトリー」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか?
製造業にとって、工場は心臓部であり、その心臓部へのIoT取り込み、「スマートファクトリー化」は国をあげて取り組まれています。
[参考記事]
「経済産業省によるスマートものづくりの取組」
国を上げて取り組まれている「スマートファクトリー」化ですが、そもそも「スマートファクトリーとは?」「IoTとスマートファクトリーの関係性は?」「スマートファクトリー化によって、どんなメリットがあるのか?」と思われている方も多いのではないでしょうか?
そこで本稿では、IoTとスマートファクトリーについて、具体的な事例を交えながら、実際の導入ステップをご紹介します。
スマートファクトリーとは
「スマートファクトリー」とは、IoT技術を活用して工場内のあらゆる設備や器具のデータを収集し分析をすることで、新しい付加価値を生み出す仕組みを持つ工場を指します。
「スマートファクトリー」は、ドイツで生まれたインダストリー4.0に端を発し、国内でも2010年代中頃から活発に取り組まれています。日本式カイゼンのアプローチからもスマートファクトリー化は有効有用で、既に多くの製造現場で導入、または導入検討されています。
IoT技術によって実現するスマートファクトリー
まず始めに、IoTを使った製造現場システムの大枠を見てみましょう。IoTは様々なデータを取得して有効活用するものですが、システムの全体像は概ね下記のような形にまとめられます。
①各種のセンサーを生産現場の設備や製品に取付け、製造工程における様々な情報を取得
例:・設備の稼働率の取得
・部品の個体識別番号を管理し製品への部品の組み込みをトレース
②センサーより取得した情報をクラウド等に作ったデータベースに蓄積(ビッグデータ化)
例:センサーから取得したデータを工場内のサーバーを介して、
クラウドのデータベースに送信
IoTセンサーについては、こちらの記事に詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
「IoTセンサーとは?IoTに不可欠なセンサーの役割と活用事例|Locus Journal」
③データを統計的な手法により解析して、問題点や改善点を洗い出し有効活用
例:・部品や製品を工場、物流とつなげてトレースし、製品の在処をどこからでも見える化
・設備の稼働状況をリモートで監視し、予防保守につなげる
上記のように、各機器をIoTで連携した仕組みを取り入れた工場をスマートファクトリーと呼びます。
このスマートファクトリー化は先進的な企業に始まり、経済産業省も導入支援しており、中堅、中小企業でも必要となっている取り組みです。
スマートファクトリー化では、大きな課題として「人材不足」を解消するべく様々な効率化が図られてきました。その後、各種のソリューションが出そろってくるのに従い、現在、下記のような成果が得られています。
・作業効率、作業精度の上昇
・稼働監視の遠隔化による運用コスト削減
・部品から製造の各工程、物流までを含めた
トレーサビリティの実現による品質管理、顧客満足度向上
・収集したデータの活用による業務の自動化、業務の構造見直し
・省エネによるコスト削減
これらスマートファクトリーによる業務の変革は、ビジネスに新たな価値をもたします。IT技術でビジネスにより良い価値を生み出す、デジタルトランスフォーメーションの考え方にもつながっています。
IoTの製造業・工場における導入ステップ
工場へのIoTを組み込んだシステムの導入は、大きく3つのステップに分けられます。「可視化」、「制御」、「自動化」の3ステップを確認していきましょう。
①「可視化」
最初のステップである「可視化」とは、目に見えない工場内の稼働状況や製品、ラインの状態などあらゆる情報をデータ化し、リアルタイムな状況把握と業務分析を実現させることです。
1.各種センサーを工場内外に設置
2.データベースにデータを収集、蓄積(ビッグデータ)
3.収集したデータをまとめて、生産状況などをグラフ化し見やすい形に加工して利用
4.蓄積したデータを統計的手法で分析
5.傾向や状態を可視化して利用
②「制御」
制御は可視化した情報をもとに、設備や機器の動作を制御するステップです。例をいくつかあげてみます。
・可視化で部品の生産に時間が掛かる傾向が見えた場合、組み立てラインは部品供給が遅れると判断し一時的に停止
・湿度をセンシングし、製品に不具合が出やすい湿度になったら自動で空調を調整
・設備の連続稼働時間を蓄積したデータから取得し、適切な予防保守のタイミングを見極め
③「自動化」
自動化のステップでは、可視化で蓄積したデータを機械学習にかけて効率的な業務を導きだし、人工知能による制御の自動化を図ります。人の手による作業を減らし効率化やミスの防止などに役立てます。
IoTの導入には大きなコストが必要となることもあります。一度に工場の全てをIoT化しようとすると、初期投資も大きくなり導入準備にも時間がかかってしまいます。そういったリスクを避けるべく、IoTはスモールスタートで「まず動き出すこと」が大切になってきます。
工場内の費用対効果が高いところやボトルネックになっている課題の対応から導入し、その効果の高さを示すことで、さらなる導入に繋げていきましょう。
すべてのステップを一度に導入できなくても、データの収集から始めて、有効性が示せれば、次のステップに進めることができます。実証実験を行って、データを揃えることで自社上層部の理解を得て、予算獲得につなげるパターンも一般的です。
IoTの製造業・工場における活用事例6選
ここまで、工場、製造業へのIoTの概要と導入のステップについて説明してきました。ここからはIoTソリューションの具体的な事例6選をご紹介します。
ICかんばんで製造実績収集
トッパン・フォームズは自動車部品メーカーの製造ラインのIoT化を行いました。かんばんを使った製造実績の収集業務に対し、ICかんばんを導入し、データ取得、蓄積の仕組みを加えて、生産状況の可視化を行いました。
さらに、収集したデータにより生産日報の作成を自動化しています。このICかんばんはRFID技術を利用して構築しています。
[参考記事]
「製造業界×RFIDテクノロジー」
キーボードエミュレーション対応RFIDリーダー・ライターで工程管理
こちらもトッパン・フォームズの事例です。自動車部品メーカーの製造ラインでの工程管理にICかんばんを導入しました。
このICかんばんを作るにあたりキーボードエミュレーション対応RFIDリーダー・ライターを利用し、工場内でRFIDのICかんばんを作成しました。
既存のバーコードをRFIDに置き換えることで、影響を最小限にして短納期・低価格でのかんばん読み取り率向上を実現しています。
[参考記事]
「製造業界×RFIDテクノロジー」
RFIDリーダーライターについて、こちらの記事に詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
「RFIDリーダーの価格や選び方を解説!最新のスマホ搭載型ハンディリーダーを一挙紹介」
IC帳票・ロケーション管理用ICタグで完成車両のロケーション管理
トッパン・フォームズはIC帳票、ICタグを利用して自動車メーカーの完成車のロケーション管理を行い、リードタイムの短縮を実現しました。
従来のバーコードでは精度の低かったフロントガラス越しの読取りを、IC帳票とすることで克服しています。
また、車両上のIC帳票と保管ヤードの駐車枠に取り付けたRFIDタグの紐づけを行うことで、車両のロケーションを正確に把握しています。
[参考記事]
「製造業界×RFIDテクノロジー」
合わせてRFID位置情報については、こちらの記事に詳しくまとめていますので、
ぜひご覧ください。
「RFIDの位置情報で探し物が見つかる!?入出荷・棚卸だけではないRFIDの新たな活用法」
配線レス設備動作情報収集アプリ「生産性見え太君」 ~スマホを設備に取り付けて設備稼働実績収集 ~
武州工業株式会社では、スマホを工場内の設備に取り付けるだけで実績収集ができる、「生産性見え太君」を開発しました。
スマホは設備と配線する必要はなく、センサーとしての働きと実績収集処理を実現しています。設備稼働状況、作業状況の可視化、遠隔監視と各種製造ラインで幅広く利用可能です。
[参考記事]
配線レス設備動作情報収集アプリ「生産性見え太君」
リモートで製造ラインの稼働監視、故障予防診断を実施
三菱重工工作機械株式会社はIoTにより製造ラインのリモートでの稼働監視、故障予防診断の仕組みを作り上げました。製造ラインの設備、機器よりデータを収集することで、離れた地点から工場の稼働を監視することに成功しています。設備の稼働停止時間の削減を行い、生産改善へつなげています。
[参考記事]
「工作機械IoTクラウドデータサービス|ロボット革命イニシアティブ」
IoTで省エネを実現 ~自然エネルギーを検知して有効利用~
YKK AP株式会社黒部荻生製造所では富山湾から吹く風を検知し、夏季の空調に取り入れることで省エネを実現しました。
風向・風速・温度・湿度等をセンシングし、快適性として可視化。窓の開閉と空調設備の制御につなげています。
[参考記事]
「自然エネルギーを活用した生産工場の省エネ」
まとめ
製造業では、今後世界と競争していくために工場へのIoT導入、スマートファクトリー化は必要不可欠と言えるでしょう。
IoT導入、スマートファクトリー化は品質、効率、他部門や他工場との連携といった恒久的な課題に、メスを入れる大きな機会です。
またスマートファクトリーで得たデータを解析し、有効な活用を行うことで新たな価値を創造するデジタルトランスフォーメーションへも繋がっていきます。
業務をしっかりと分析し、IoTを上手に取り入れて、スマートファクトリーに取り組んでいきましょう。
IoTを工場へ導入し、スマートファクトリー化を進めるにあたり、自社の場合、どこから取組めばよいか判断しづらいかもしれません。
一度、自社生産現場の業務を整理し、ノウハウ、知見を持ったシステムベンダーに相談してみてはいかがでしょうか?
業務の改善、効率化を進め、新たな価値をもった工場を生み出す手助けとなるでしょう。