棚卸差異は、在庫を抱える企業にとって避けては通れない課題の一つとされています。特に、棚卸差異率が高い場合は、企業経営に甚大な影響を及ぼすため、早急な原因特定と対策が必要となります。
今回は、棚卸差異の意味から、棚卸差異が発生する原因、企業に与える影響、具体的な対策方法まで詳しく解説します。
棚卸差異とは
棚卸差異とは、実際の在庫数量と帳簿上の在庫数量に差異が発生している状態を指します。在庫を抱えている企業であれば、どの企業でも起こりえる問題ですが、特に、製品だけでなく多くの部品、仕掛品を扱う製造業や、在庫の種類・量を多く抱えるスーパーなどの小売業で起こりやすいとされています。
棚卸差異による影響
棚卸差異の発生は企業にさまざまな悪影響を与えます。具体的な影響として挙げられるのは以下の通りです。
- 販売機会の損失
- キャッシュフローの悪化
- 生産性の低下
- 顧客満足度の低下
棚卸差異は、経営悪化やブランドイメージの失墜など企業に甚大なダメージを及ぼすリスクがあります。しかし、棚卸差異が見つかっても、詳細な原因特定をしないまま、帳簿上の在庫数を実在庫数に合わせて処理してしまう企業がまだまだ多いのも実情です。
企業が被る影響を最小限にするためにも、棚卸差異は放置せず、原因の特定や、適切な改善策の検討、実施を行うことが重要です。
棚卸差異率の許容範囲
棚卸差異率は、棚卸差異がどのくらいの割合で発生しているかを表す数値で、以下の計算式で求められます。
棚卸差異率 =(実在庫数ー帳簿上の在庫数)/ 帳簿上の在庫数 |
棚卸差異には、棚卸差異率がプラスになる「棚卸差益」、マイナスになる「棚卸差損」の2種類があります。
- 棚卸差益:帳簿上の在庫数より実在庫数が多い状態。帳簿上の数字で判断した場合、本来であれば不要な発注を行ってしまう(余剰在庫の発生)リスクがある。
- 棚卸差損:帳簿上の在庫数より実在庫数が少ない状態。帳簿上の数字で判断した場合、実在庫数以上の注文を受けてしまう(欠品によるキャンセルの発生)リスクがある。
棚卸差益率はできるだけ低いことが望ましいとされています。一般的に、棚卸差益率の許容範囲は5%程度とされており、2%前後を目標値として設定する企業も多くあります。
そのため、棚卸差異率が5%を超える場合は、棚卸差異が発生している原因を早急に特定し、改善策を講じる必要があります。
棚卸差異が発生する原因
棚卸差異が発生する原因は具体的にどのような点にあるのでしょうか。詳しく確認していきましょう。
仕入れミス
一般的に発注や仕入れは、帳簿上の在庫数から数量を決定し、作業を行います。しかし、さまざまな要因から帳簿上のデータに誤りがあるケースも少なくありません。この間違いに気が付かないまま、仕入れや発注を行ってしまうと、必要数と実在庫数が乖離し、棚卸差異の発生を招いてしまいます。
伝票の入力ミス、処理漏れ
従来の在庫管理では、手書きで在庫状況を書き写し、その後エクセルへ入力するといった管理方法が主流とされてきました。しかし、手作業の在庫管理では、作業にタイムラグが生じる、数字の読み間違いや入力間違いなどのミスが起こりやすくなるなど、棚卸差異が発生するリスクが高くなります。
また、入力した伝票の処理を担当者が忘れてしまうといった人為的ミスも数多く発生しています。処理漏れに気づかず、品物や数量が間違ったまま入出庫作業を進めてしまうと、当然ながら在庫数に差異が生じます。
管理ルールの不徹底
在庫管理に関する明確なルールがない、あるいは、ルールはあるものの徹底されていないといった現場では、棚卸差異のリスクが高くなる傾向があります。
特に、返品、破損、サンプル出荷など、トラブルやイレギュラーな事象が発生した場合は、明確なルールがないと、在庫数にズレが生じやすいので注意が必要です。
仕入れ先のミス
棚卸差異の原因は、自社内だけにあるとは限りません。発注した商品と実際に納品された商品が異なる、伝票の数字と実際の納品数が異なるなど、仕入れ先のミスにより棚卸差異が発生するケースも多く存在します。
仕入れ先のミスによる棚卸差異を防ぐためには、納品時に必ず検品を行うなどの対策が有効です。
棚卸差異への対策
棚卸差異への対策として有効な方法は以下の通りです。
- 業務のルール化
- 日次棚卸の実施
- みなし出庫の導入
- 在庫管理システムの活用
- アウトソーシングの活用
それぞれの方法について詳しく解説していきます。
業務のルール化
棚卸差異は、多くの場合、ミスや漏れなどのヒューマンエラーから発生します。ヒューマンエラーをゼロにすることは事実上困難です。しかし、業務ルールを作り、ルールを遵守して作業行えば、ヒューマンエラーの削減は可能です。
業務ルールを作る際は、ミスが起きる原因を明確にし、再発防止のための具体的な方法を盛り込むことが重要です。在庫の保管方法や保管場所といった日常業務に関するルールだけでなく、トラブルやイレギュラーな入出庫に関する作業ルールも細かく決めておきましょう。
ルールが決定したら、業務マニュアルを作成し、従業員がいつでも確認できるようにしておくのがおすすめです。マニュアルは、文字だけでなく、表や図、写真などを活用し、視覚的にもわかりやすく作成すると、より良いでしょう。
日次棚卸の実施
棚卸業務を四半期に一度程度実施しているという企業は多いでしょう。しかし、棚卸から次の棚卸までの期間が長いと、棚卸差異が発生していてもすぐに気が付けないというリスクがあります。
棚卸差異を早期に発見、対処するためには、日次棚卸を導入するのが効果的です。日次棚卸とは、当日の入出庫数と在庫数を確認する作業を指します。一日の業務終了間際に日次棚卸を実施することで、在庫のズレが起こりにくく、万が一差異が発生した場合も原因の特定や早急な対応が可能になります。
みなし出庫の導入
みなし出庫とは、伝票処理を行わない出庫方法を指します。通常であれば、伝票処理を行った上で入出庫を行いますが、みなし出庫では、伝票処理はせず、実績の確認により出庫を管理します。
みなし在庫の導入により、伝票処理が不要になるため、業務効率アップが見込めるのはもちろん、処理漏れや記載ミスといった棚卸差異に繋がるヒューマンエラーの減少も期待できます。
在庫管理システムの活用
在庫管理システムの導入も、棚卸差異への対策として効果的です。在庫管理システムとは、在庫管理に関するさまざまな機能を搭載したITシステムです。
在庫管理システムを活用することで、リアルタイムでの在庫状況把握や、在庫の一元管理が可能になります。在庫の状況がすぐに確認できるため、処理漏れやミスが早期に発見でき、棚卸差異の発生を抑制できます。
さらに、ハンディターミナルやRFIDタグなどを併せて活用するのも有用です。伝票の作成や処理など、在庫管理に関わる業務が自動化できるため、ヒューマンエラーの削減に繋がります。
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アウトソーシングの活用
適切な在庫管理方法がわからない、在庫管理に多くの人員を割けない、棚卸差異の解消方法がわからないなど、在庫管理に関する課題を抱えている場合は、アウトソーシングを活用するのもおすすめです。
アウトソーシングを活用することで、管理業務に自社のリソースを割く必要がなくなるため、従業員が本来の業務に専念できるようになります。
近年では、在庫管理や棚卸業務に精通したアウトソーシング業者も増えつつあります。自社の課題や、かけられるコストなどに合わせて、適切なサービスを選択しましょう。
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まとめ
棚卸差異は、キャッシュフローの悪化や販売機会損失、生産性の低下など、企業にさまざまな悪影響を及ぼします。特に棚卸差異率が5%を超える場合は、早急に発生原因を特定し、適切な対策を講じる必要があります。
棚卸差異を防ぐためには、業務ルールの明確化、日次棚卸やみなし在庫などの導入により、ヒューマンエラーを防ぎ、棚卸差異の発生にすぐに気づける体制を整えることが重要です。
手作業の在庫管理では、棚卸差異を抑制できない、在庫管理にリソースを割きたくないという場合は、在庫管理システムの導入や、アウトソーシングの活用も有効です。