業務効率化の実現、生産性向上、コストダウンなどさまざまな理由から、在庫管理業務にIoT技術を取り入れる企業が増えつつあります。今回は、IoTを活用した在庫管理について、導入のメリットや導入時のポイント、各企業の事例を詳しく解説します。
IoTを活用した在庫管理とは
在庫管理は、企業の仕入れや売上に直結する重要な業務です。しかし、同時に以下のような多くの課題や問題を抱える業務でもあります。
- 在庫数が正確に把握できない
- 適正在庫がわからない
- 欲しい商品がどこにあるか見つけにくい
- 記録管理が膨大かつ煩雑
- ヒューマンエラーが多い
上記のような課題や問題点を解決し、在庫管理の精度や業務効率を高める一手として注目されているのが、IoTの活用です。IoTとは「Internet of things」の略称で、あらゆるモノをインターネット(ネットワーク)に接続する技術や仕組みを指します。
在庫管理にIoTを導入することで、在庫数や保管場所などの情報がインターネット上に記録され、必要な情報を視覚的に把握できるようになります。具体的なメリットは後述しますが、リアルタイムでのデータ連携や作業の自動化が可能なため、業務効率アップや作業時間・コストの削減、生産性向上などさまざまな効果が期待できます。
在庫管理にIoTを導入するメリット
在庫管理にIoTを導入することで期待できるメリットを確認していきましょう。
リアルタイムに在庫を把握
エクセルや紙伝票を使った手作業による在庫管理は、在庫数の確認から入力・反映までに時間を要するため、リアルタイムでの在庫数把握ができないという課題がありました。
IoTを活用すれば、在庫の数量やピッキングの状況を、システムでリアルタイムに追えるようになります。在庫の現状が正確に把握できるため、欠品や過剰在庫に陥るリスクを軽減でき、適正在庫の維持もしやすくなります。
時間短縮・コスト削減
IoTを導入することで、在庫管理に関する業務の自動化が可能になります。自動化により、これまで要していた作業時間や人的コストが大幅に削減できるため、業務の効率化が見込めます。
また、従業員がコア業務に集中して取り組めるようになり、企業の生産性向上や従業員のモチベーションアップも期待できます。
管理精度の向上
適切かつ効率的な在庫管理を行うためには、需要予測の精度を高め、適正な在庫量を維持することが不可欠です。精度の高い需要予測を実現するには、担当者の経験や勘だけに頼るのではなく、過去の販売実績等、統計的なデータの活用が重要になります。
IoTを活用すれば、在庫の状態や動きに関する膨大なデータの収集、蓄積が可能になります。在庫管理業務に関するさまざまなデータが可視化されるため、需要予測や在庫管理の精度向上が期待できます。
在庫管理における主なIoTソリューション
在庫管理における代表的なIoTソリューションとして挙げられるのは以下の4つです。
- ビーコン
- UWB
- 重量計
- RFID
それぞれについて詳しく解説します。
ビーコン
ビーコンとは、Bluetoothの信号を利用し、情報発信を行う端末や通信方法を指します。ビーコンの発信する信号を受け取ることで、人やモノの位置情報が把握できる技術で、在庫管理業務にも活用できます。
ビーコンを在庫管理に導入すれば、在庫情報が可視化され、精度の高い在庫管理が可能になります。さらに、アラーム機能を備えたビーコンを利用すれば、誤出荷や盗難などの防止にも役立ちます。
しかし、タグ1枚あたりの単価が高額(数千円程度)なため、航空機部品など一部の製品の管理を除き、在庫管理業務への導入は進んでいないのが現状です。
関連記事:『ビーコン・BLEとは?物品管理を大幅に効率化する位置情報サービスを分かりやすく解説!!』
UWB
UWBは「Ultra Wide Band」の略称で、日本語では「超広帯域無線通信技術」を意味します。元々は軍事用途として研究されていた技術ですが、近年では、Apple社が提供するiPhoneやAirTagの位置測位システムにも採用され、注目を集めています。
UWBの主な特徴は以下の通りです。
- 超高速かつ大容量の通信が可能
- 高精度の測位・測距
- 既存の無線通信からの干渉を受けにくい
- 障害物による影響を受けにくい
- 低消費電力での通信が可能
UWBを活用すれば、倉庫内の在庫の位置を高精度かつリアルタイムに把握できるようになります。ピッキングや棚卸等で在庫を探す手間や時間を大幅に削減できるため、業務の簡略化、効率化が可能になりますが、精度が高い分、導入や運用にかかる費用が非常に高額になる点は注意が必要です。
関連記事:『UWBがiPhoneに搭載!UWBの位置測位について優しく解説します』
重量計
重量計とは、その名の通り、物の重さを計測する機器を指します。在庫管理の現場では、重量計にIoT技術を組み合わせたIoT重量計の導入をすすめる企業も増えています。
IoT重量計を使えば、小さな部品、液体、粉、紙など、モノの形状を選ばず、正確な在庫数の把握、管理が可能になります。
近年では、マットタイプのIoT重量計も数多く誕生しています。たとえば、スマートショッピング社の提供する「スマートマット」は、サイズ展開が豊富で、複数のマットを組み合わせることで、数百キロから1トン程度の重さにも対応できます。
また、マットを置くだけで容易に導入が可能なため、大規模な倉庫だけでなく、小さな店舗やオフィスなどでも利用しやすい点も、大きなメリットといえます。
RFID
RFIDは、「Radio Frequency Identification」の略称で、電波による無線通信を用いて、非接触で情報の読み取りや書き込みを行う自動認識技術です。
障害物があっても読み取りが可能、複数のタグの一括読み取りができる、RFIDタグが汚れに強いなどの特徴から、在庫管理の現場で採用する企業が増えています。
RFIDの具体的な活用手順は以下の通りです。
- RFIDタグを在庫や保管場所に取り付ける
- 取り付けたタグを専用リーダーで読み取り
- 読み込んだデータをソフトウェアで確認・管理
RFIDを活用すれば、入出荷検品や賞味・消費期限管理、棚卸など、これまで手間や時間のかかっていた業務の効率化や作業精度の向上が期待できます。
ビーコンやUWBと比較するとタグ一枚あたりの単価が非常に安価(10円程度)である点や、ラベル型や金属対応型、セラミックス型など、さまざまなタイプのタグが選択できるのもポイントです。 低コストかつ、どのような商品を扱う現場でも採用がしやすい点から、現状では、RFIDが在庫管理に最も適したIoTソリューションであるといえるでしょう。
関連記事:『【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!』
在庫管理にIoTを導入する際のポイント
在庫管理にIoT技術を導入する際には、どのような点に注意すればいいのでしょうか。検討時や導入前後に確認しておきたいポイントについて解説します。
現場の負担を考慮する
IoTデバイスやシステムを導入すると、これまでの業務の内容や工程が大きく変化します。IoTの導入により、かえって現場の負担が増大した、業務効率が低下した等のリスクを避けるためにも、現場の従業員が使いやすいツールの選定を行うことが重要です。
また、導入前に研修やセミナー等を実施し、現場の従業員の理解を得ておくことや、導入後に適切なフォローアップを行うことも、IoT導入を円滑にすすめるために抑えておきたいポイントです。
費用対効果を検証する
IoTデバイスやシステムの検討時には以下の点を明確にしておくとよいでしょう。
- 自社が抱える在庫管理における課題・問題
- IoT導入の目的
- 導入・運用にかかるコスト
- IoT導入により期待できる効果
特にコストと期待できる効果については、数値化し、定量的に分析するのがおすすめです。事前に検討しておくことで、かけた費用の割に狙った効果が得られなかったなどの事態を回避できます。
他社への導入実績や事例を確認する
IoTデバイスやシステムを比較検討する際は、事前に他社の導入実績や事例を確認しておきましょう。特に、自社と同じ業界業種の企業や、近しい業種の企業の事例がある場合は必ず目を通しておくのがおすすめです。
事例を確認することで、導入時の課題や、実際の運用、トラブル時の対応などのイメージが掴みやすくなります。また、IoTの導入に成功している企業の事例を参考にすれば、検討時間の短縮やIoT活用に関するアイディアの抽出にも役立ちます。
在庫管理×IoTの導入事例
さまざまなIot技術の中でも、在庫管理において特に注目されているのが、タグが安価で導入しやすいRFIDの活用です。ここでは、RFIDの導入により在庫管理の最適化に成功した企業の事例をご紹介します。
株式会社ファーストリテイリング
ファーストリテイリング社の展開するアパレルブランド「ユニクロ」では、サプライチェーン改革の一環として、2018年からRFIDを貼り付けた商品タグの導入を行いました。RFIDが採用された主な理由としては以下の点が挙げられます。
- RFIDタグの貼り付けなど新たな作業が発生しない
- 価格が安価で使い捨てが可能
RFIDを導入することで、在庫がどこに、どれだけあるかが瞬時に把握でき、生産、物流、販売の各工程で情報共有がしやすくなりました。これにより、これまで在庫把握のために要していた人員、時間、コストの大幅な削減に成功し、ヒューマンエラーの改善・防止にも繋がりました。
また、RFIDの一括読み取りから精算まで可能な無人レジをあわせて導入することで、店舗で課題となっていたレジ待ち行列が解消され、顧客満足度の向上やレジ業務の効率化が実現しました。
関連記事:『【更新】RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント』
東日本旅客鉄道株式会社
東日本旅客鉄道・横浜支社では、物品や資料が以下のようなアナログな手法で管理保管されていました。
- 手書き帳票の作成・貼り付け
- エクセルへの入力
- 目視による物品・情報確認
- 人による不明物の探索
鉄道会社という性質上、物品や資料の正確かつ厳密な管理が求められる同社では、在庫管理に多大な工数がかかる点や、従業員への負担が大きい点が課題とされていました。アナログ管理を脱却し、在庫管理を自動化・デジタル化するために、導入されたのがRFIDと資産管理システムでした。
在庫管理にRFIDとシステムを導入したことで、作業工数の大幅な削減が実現しました。具体的には、入出庫作業で80%、棚卸作業で90%、探索作業60%から80%の業務効率化に成功しました。
また、属人的なオペレーションミスの懸念がなくなった点や、倉庫スペースの有効活用ができるようになった点も、RFID・システム導入の成果として挙げられます。
関連記事:『【東日本旅客鉄道株式会社】入出庫/棚卸し/探索の作業時間の60~90%を削減!』
株式会社ZIP
1991年の創業以来、株式会社ベネッセホールディングスが提供する進研ゼミの発送代行や、さまざまな企業のEC事業の商品発送代行サポートを行う株式会社ZIPでは、在庫管理において以下のような課題を抱えていました。
- ニーズの多様化による書類封入作業の複雑化
- 労働生産人口減少による慢性的な人手不足
- 手作業による運用コストの増加
- 作業の属人化
RFIDは、上記のような課題を解決し、コスト削減、従業員負担の軽減を実現するため導入されました。RFID導入の決め手となったのは、低コストで導入運用が可能な点、物の向きに左右されず情報の読み取りが可能な点でした。
同社では、年2回の棚卸作業時、および毎月実施する処分物の探索作業にRFIDを活用し、年間約320万円のコストダウンに成功しました。
関連記事:『RFIDタグの活用により、棚卸し作業において年間437人日の工数を削減!』
バロックジャパンリミテッド
「MOUSSY」や「SLY」といった人気アパレルブランドの生みの親であり、日本をはじめ、アメリカ、中国、韓国など世界的に店舗展開を行うバロックジャパンリミテッド社の事例を紹介します。
同社の物流倉庫では、倉庫管理システムを導入し、在庫のロケーション管理を行っていました。しかし、仕分けや検品等の作業は人が手作業で行っていたため、以下のような課題を抱えていました。
- ヒューマンエラーやミスが発生しやすい
- 棚卸差異の発生による販売機会損失
- 在庫探索が従業員の経験や勘に依存
- 在庫探索にかかる従業員負担が大きい
このような課題を解説するため、同社ではRFIDに加え、探索力に優れたRFルーカスの「P3 Finder」を倉庫および店舗に導入しました。
P3 Finderの導入より、商品の水平、垂直方向位置を高精度かつリアルタイムで把握できるようになりました。経験や勘に頼らずとも、誰でも容易に在庫の探索が可能となり、欠品の大幅な削減や、従業員の負担解消に繋がりました。
関連記事:『P3 Finderの導入により倉庫や店舗で発生していた欠品の大幅削減に成功』
まとめ
在庫管理にIoT技術を取り入れれば、これまでの在庫管理が抱えていた課題や問題を解消し、業務の効率化、コストダウン等を実現できる可能性が高くなります。
在庫管理に有効なIoT技術は多様化しており、サービスごとに特徴やメリットが異なります。IoTの導入を検討する際は、自社の在庫管理が抱える問題や、現場で働く従業員の声、期待する効果や、かけられるコストを踏まえ、自社にマッチする適切なサービス選択を行いましょう。