在庫管理業務に従事する人の多くは、在庫を最適な状態に保ち、欠品や過剰在庫のリスクを回避したいと考えるでしょう。しかし、現実的には、理想通りにはいかない、さまざまな要因から在庫整理がうまく進まない、人力だけではできることに限界があると感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、在庫最適化がうまく進まない原因や最適化を実現するための方法、役に立つ手法など、在庫最適化の基本となる内容について詳しく解説します。
在庫最適化を妨げる要因
在庫最適化を実現するためには、まずは在庫最適化を妨げる要因を把握しておくことが重要です。詳しく確認していきましょう。
需要予測精度が低い
需要予測とは、自社の商品やサービスが将来どの程度必要とされるか予測を立てる手法です。適切な在庫管理を行う上で欠かせないものであり、精度の高い需要予測が実現できれば、在庫の最適化、業務の効率化、コスト削減など、さまざまなメリットが見込めます。
精度の高い需要予測を行うためには、過去の需要実績や販売データだけでなく、需要に影響を与える天候や市場動向といった外部要因など、さまざまな面を考慮する必要があります。
しかし、多くの企業では、外部要因がほとんど考慮されず、過去の販売・出荷実績、在庫数のデータだけを用いた精度の低い需要予測分析が行われているのが実情です。また、有効なデータの不足やデータ処理能力の不足、イレギュラーな事態の発生なども、需要予測精度の低下を招く要因とされています。
需要予測分析の精度が低いと、在庫の入荷と実需要に乖離が生じ、欠品による販売機会損失や、過剰在庫によるキャッシュフロー悪化などのリスクも高くなります。
管理する製品数が多い
管理すべき製品数が多いほど、在庫の配置や倉庫スペースの確保、商品サイクルのコントロールといった在庫管理業務は複雑かつ困難になります。
一つひとつの商品の需要予測や在庫分析にかける時間が十分に取れないケースも多く、現実の在庫状況と予測分析値に大きな誤差が生じる可能性も高くなります。
在庫管理に関する考え方の相違
立場や担当する業務等によって同じ社内でも在庫管理に関する考え方が相反するケースがあります。
たとえば、実際に顧客と接する営業担当者は、欠品や在庫僅少による販売機会の損失や、顧客の競合他者への乗り換えを防ぐため、在庫の種類や量はできるだけ多く持っておきたいと考えます。
一方で経営層は、保管コストの増大や廃棄損失リスクによる資金繰り悪化を防ぐため、在庫を最低限に抑えておきたいと考える傾向があります。
こういった意見の食い違いに在庫管理担当者が悩まされる点も、在庫管理がうまくいかない要因の一つと考えられています。
在庫最適化を実現する方法
在庫最適化を実現するためには、どのような取り組みを実施すればよいのでしょうか。具体的な方法やポイントについて確認していきます。
在庫の可視化
在庫の適正化を目指すには、「現品(何がどこにあるか)」と「情報(在庫の数量の記録)」の両方の可視化を行うことが重要です。在庫状況が可視化できれば、欠品や過剰在庫などのリスクを防ぎ、業務効率化やコスト削減、倉庫スペースの節約などのメリットが期待できます。
在庫状況の可視化は、目視と手作業で確認してエクセル管理するだけではなく、バーコードやQRコードを含めてなど、さまざまな方法で実現が可能です。手作業で対応が難しい場合は、在庫管理システムや、RFIDなど作業の効率化に役立つツールの導入を検討するのもおすすめです。
適正在庫の把握
適正在庫とは、欠品を出さない最小限の在庫数を指します。在庫最適化を実現するためには、自社の適正在庫の把握が欠かせません。
適正在庫の算出には、「在庫回転率」「在庫回転期間」「交差比率」「需要予測」などの指標が役立ちます。これらの指標に加え、在庫管理に関する豊富な経験や知識、高いスキルのある人材がいると、適正在庫の見極めはよりスムーズに進みます。
- 在庫回転率:
一定期間内に在庫がどの程度入れ替わったかを示す指標です。一般的に、数値が大きいほど売れ筋商品であり、数値の小さいほど在庫として抱えるリスクが高い商品とされています。
関連記事:在庫回転率とは?計算方法や適正在庫の考え方、改善方法まで徹底解説
- 在庫回転期間:
在庫が1回転するまでにかかった期間を示す指標です。数値が小さいほど、在庫として抱える期間が短く、売れ筋商品であることを意味します。
- 交差比率:
在庫がどれだけの利益をあげているか、投資効率を示す指標です。数値の高い商品ほど、効率よく利益を生み出す商品であることを意味します。
- 需要予測:
自社の製品やサービスが、将来的にどの程度利用され、どの程度売上を確保できるかを予測することを指します。予測分析方法や計算方法について詳しく知りたい方は以下の記事を確認してみてください。
関連記事:需要予測の手法とは?基本の流れから具体的なやり方まで解説
在庫削減の実施
過剰在庫が発生している場合は、在庫の削減策を検討する必要があります。在庫の削減方法としては主に「在庫の種類の削減」「ロットの削減」「リードタイムの短縮」「作業工程の見直し」などが挙げられます。
- 在庫の種類の削減
在庫回転率が極端に低い商品や、在庫回転期間が長すぎる商品がある場合は、値下げ販売や処分など、在庫削減の取り組みを検討しましょう。特に在庫として抱える商品が多すぎる場合は、注意が必要です。
- ロットの削減
過剰在庫になりがちな商品がある場合は、一度に購入するロット数を削減するのも有効です。顧客からのオーダーが見込めない商品のロット数を減らすことで、倉庫内の平均在庫数が減り、在庫適正化が実現しやすくなります。
- リードタイムの短縮
リードタイムとは、各工程のはじまりから終わりまでにかかる所要期間を指します。在庫削減を実現したい場合は、特に発注リードタイム(発注から納品までにかかる時間)を見直すのが有効です。
発注リードタイムは短ければ短いほど、早いスパンで次の商品の仕入れができることを意味します。市場の動向を確認しながら仕入れができるため、倉庫内の在庫数の減少や、過剰在庫の削減に繋がりやすくなります。
- 作業工程の見直し
製造業の場合、一般的に、作業工程が多い商品ほど、原材料や半完成品などの仕掛品の在庫が増えます。仕掛品が増えれば、当然ながら社内の在庫スペースは圧迫され、効率的な在庫管理がしにくくなります。
工程数の多い商品がある、倉庫に占める仕掛品の割合が高い等の問題がある場合は、仕掛品を減らすため、注文から納品までの手順がよりシンプルになるよう見直すとよいでしょう。
在庫最適化を支える基本的な手法
適切な在庫管理を行うために活用されている手法は数多くあります。ここからは、在庫最適化を目指す際に覚えておきたい基本的な手法や考え方を6つ紹介します。
ABC 分析
ABC分析は、売上などの評価軸をもとに、在庫商品の重要度や優先度を評価する手法です。重点分析とも呼ばれ、欠品や過剰在庫などのリスク軽減のために用いられます。
ABC分析の大まかな流れは以下の通りです。
- 分析に必要なデータを用意する
- 商品ごとの売上構成比を算出する
- 累積構成比をもとに3つグループ分けする
重要度、優先度で分類したグループごとに在庫管理の方法を変えることで、効果的な在庫管理の実現を目指すのがABC分析の大きな目的といえます。
需要予測
前述した通り、需要予測は自社の製品やサービスが将来どのくらい利用されるか、どのくらい売上が見込めるかを予測する分析手法です。
需要予測を行う際は以下の手順で進めていきます。
- 予測分析の方法を決める
- 計算方法を決めて、数値を算出する
- 予測と実績を比較する
予測分析の方法には、過去実績に基づく統計的予測、専門家の意見や知見に基づく予測、市場調査に基づく予測、ビッグデータを活用したAI予測などさまざまなものがあります。
また、予測値算出の際は、使用するデータの種類や量等に応じて、「算術平均法」「回帰分析法」「移動平均法」「指数平滑法」「加重移動平均法」などの計算式を使い分けます。難易度や複雑さ、予測値の精度が計算方法によって異なるので、自社に適したものを選択しましょう。
近年では、ITツールやAIを活用した需要予測を取り入れる企業も増えています。できるだけ効率的に需要予測を行いたい、需要予測の精度が上がらない、ヒューマンエラーの発生を抑えたいなど、需要予測について課題や問題を抱えている場合は、需要予測ツールやAI導入も有効な一手といえます。
資材所要量計画 (MRP)
資材所要量計画は、1970年代にアメリカで提案された製造業における生産管理手法です。「必要なものを」「必要なときに」「必要なだけ」調達できるよう、購買・生産計画を立て、その計画に沿って、在庫管理や製造を行う手法で、導入することで在庫の最適化や在庫管理業務の効率化が見込めます。
資材所要量計画は、一般的に以下の流れで進めていきます。
- 基準生産計画を立てる
- 総所要量を算出する
- 正味所要量を算出する
- 発注する
資材所要量計画は手動でも策定できます。しかし、生産計画、部品表、在庫情報など、さまざまな情報を用意する必要があり、非常に手間がかかります。より効率的かつ正確な資材所要量計画を策定したい場合は、専用のシステム等の導入を検討するのがおすすめです。
発注点管理
発注点とは、この在庫量を下回ったら発注を行うという在庫水準を指します。発注点を決めておくことで、発注のタイミングが明確となるため、発注業務の属人化防止、安定した在庫管理の維持などのメリットが見込めます。
発注点管理の方法には、あらかじめ決めた期間ごとに必要量の発注を行う「定期発注方式」と、在庫があらかじめ決めた量を下回った際に発注を行う「定量発注方式」の2種類があります。それぞれにメリット、デメリットがあるため、導入時は自社にどちらの方法が適しているか慎重に検討しましょう。
また、発注点は一度決めたら終わりではなく、需要や市場の変化に合わせて定期的に見直すことが重要です。適切な発注管理ができるよう、四半期ごと、半年ごとなど、見直しをルール化しておくとよいでしょう。
永久在庫システム
永久在庫システムとは、購入、販売といった在庫の変化を即時かつ継続的に記録する在庫管理システムを指します。定期的な実地棚卸によって在庫情報を記録する「定期在庫システム」と違い、永久在庫システムでは棚卸を行わなくても、実際の在庫が帳簿在庫に正確に反映されるという特徴があります。
永久在庫システムには、バーコードやRFIDと、それを読み取る販売時点管理 (POS) システムやスキャナーが多く利用されています。在庫状況がリアルタイムに把握できるため、在庫予測が立てやすく、過剰・欠品などのリスクにも気づきやすい点は、永久在庫システムの大きなメリットといえるでしょう。近年では、倉庫や小売業界をはじめ、永久在庫システムを採用し、在庫管理を実施する企業が増えつつあります。
安全在庫(バッファー在庫)
安全在庫(バッファー在庫)とは、天候や季節、流行といった不確定な需要変動よる欠品を防ぐため、通常必要な在庫に加え、最低限保持しておく在庫を指します。安全在庫量は基本的に以下の方法で求められます。
1. 安全在庫係数の設定
欠品許容率(許容できる欠品割合)から算出します。Excelの「NORMSINV関数」を利用すると容易に求められます。
「安全在庫係数=NORMSINV(1-欠品許容率)」
2. 標準偏差の算出
過去の在庫使用量の標準偏差を算出します。Excelの「STDEV関数」を利用すると容易に求められます。
「1か月の標準偏差=STDEV(1か月あたりの出庫数)」
3. リードタイムの算出
発注リードタイム(注文から納品までにかかる期間)と発注間隔(発注してから次に発注するまでの期間)を算出します。
4. 安全在庫の算出
以下の計算式により算出します。
「安全在庫係数×標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)」
安全在庫が適切に設定できれば、余剰在庫の回避、保管コストや人件費の削減、欠品等による販売機会損失の防止など、多くのメリットが期待できます。
まとめ
在庫の最適化は、経営の安定、利益向上、業務効率化など企業に多くの利益をもたらします。そのため、自社の在庫管理業務が抱えている課題や問題をしっかりと把握し、企業全体で最適化へ向けた取り組みを行うことが重要です。
在庫の最適化は、在庫の可視化、適正在庫の把握、余剰在庫や不良在庫の削減など、さまざまなアプローチで実現が可能です。近年では、在庫最適化の実現に役立つシステムやサービスも多数誕生しています。自社だけで取り組むには限界がある、より効率的に在庫最適化を目指したいという場合は、システムやサービスの導入を検討するのもよいでしょう。