【最新事例も紹介】働き方改革に重要な生産性向上を実現!

2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されていることは、皆さんご存知でしょう。大企業と中小企業で時期に差はあれど、5日間の有給休暇取得の義務化、「同一労働・同一賃金の原則」の適用など、2021年には一部を除いたほとんどの項目が適用されています。

さらに法律以外の部分でも、働き方改革に取り組む企業が増加しています。新型コロナウイルス感染症予防対策の一環として政府がテレワークを推進したことで、オフィス廃止、完全リモートワークに踏み出す企業も出てきました。

多くの企業でさまざまな取り組みが進められていますが、働き方改革とはそもそも何を改革することなのでしょうか。これだけ身近な言葉になった今でも、働き方改革とは何かよくわからないという人は少なくないでしょう。

働き方改革をわかりにくくしている原因のひとつが、企業側と働く側との視点の違いです。本稿では改めて働き方改革とは何かを整理した上で、生産性向上を目指す企業側の視点に経った働き方改革について、簡潔に解説します。

働き方改革について 

働き方改革とは、働く人たちが介護や子育てなどさまざまな事情に応じて多様で柔軟な働き方ができるようにするための取り組みです。2017年3月に政府が「働き方改革」実行計画を発表、2019年から順次計画実現に向けた一連の施策が実施されています。

もともと改革とは、従来の制度などを変えて、よりよいものにすることを指します。つまり、働き方改革とは、より良い働き方ができるように法律やしくみを変えたり、補助金でサポートしたりすることです。

具体的には、残業時間の見直し、フレックスタイム制の拡充といった労働時間法制の見直しや、正社員と非正規社員との格差解消といった雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を進めています。

働き方改革については、こちらの記事で詳しく解説しています。➡︎(Link to /work-style-reform)

生産性とは

前項で紹介したとおり、働き方改革とは基本的には働く人の視点に立った改革です。しかし働き方改革で社員が働きやすい環境が整うことで、良い人材が集まる、生産性が向上するなどの効果が得られると考えられています。また長時間労働を是正するためには生産性向上が欠かせません。

そのため企業にとっても働き方改革が重要な経営課題として捉えられているのです。

生産性とは、材料や労働力などの投資に対して、より良い成果を得る度合いを指します。1の投資に対して2の成果よりも、同じ投資で4の成果のほうが「生産性が高い」と言えます。

生産性向上に関する調査研究や提言活動を行っている日本生産性本部では、「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」と紹介しています。

ここからは、生産性について基本から解説していきます。

生産性の種類

生産性は、何を評価するかによって労働生産性、資本生産性、全要素生産性の3つに分類されます。一般的に生産性と言った場合には、労働生産性を指すことがほとんどです。しかし他の2つの指標も重要なものですので、ここで改めて確認しておきましょう。

労働生産性

労働生産性とは、労働という切り口で評価した生産性を指します。わかりやすく言い換えると、「会社または工場で、社員一人当たりが産みだす成果」のことです。付加価値額÷労働力で表すことができます。

資本生産性

資本生産性とは、資本という切り口で評価した生産性を指します。わかりやすく言い換えると、「自社の保有している機械や設備といった資本で、どれだけ成果を生み出したか」を示す指標です。

全要素生産性

全要素生産性とは、生産のために投入した要素全てに対して、どれくらい生産したかを示す指標を指します。Total Factor Productivityの頭文字を取ってTFPとも呼ばれます。

生産性の測り方

自社で生産性向上を実現したいと考えるのであれば、まずは基準となる現在の生産性を把握することが必要です。

ではどのように生産性を測ればよいのでしょうか。

生産性を把握する方法には大きく分けて物的生産性と付加価値生産性があります。。実際にどれくらい生産性が向上したかを測る場合や、生産能力の推移を把握したい場合には、物量を単位として測定した物的生産性が用いられます。企業が投入した投資に対して、どれくらい利益を上げたかを測る場合には、売上高から原材料費や外注加工費などの経費を除いた付加価値を単位として計測した付加価値生産性が用いられます。

一般的に用いられるのは、付加価値生産性のほうです。

生産性向上=業務の効率化ではない

誤解されやすいのが、生産性向上と業務効率化とはイコールではない点です。日常的には同じような意味で用いられることも多いのですが、2つの言葉が指す内容は異なります。

生産性向上とは、最小の原材料・労働力といった投資でいかに高い効果を得るかを目指す取り組みを指します。一方業務効率化とは、業務における無駄な部分を明らかにして、それを削減する取り組みを指します。

業務効率化を実現することは、結果的に生産性向上に繋がるため、「業務効率化は生産性向上を実現するための手段のひとつ」と言うことができます。

生産性向上が求められる背景

では、なぜ生産性向上が求められているのでしょうか。ここでは労働市場における人材不足と国際社会での競争という2つの要因に絞って解説します。

労働市場における人材不足

まずひとつ目が、労働市場における人材不足です。国内では少子化による労働人口減少が起きており、多くの業界・企業で働き手不足が課題になっています。企業が社員を確保できずに事業を継続できず倒産する「人手不足倒産」も増え、問題は深刻です。

2021年には新型コロナウイルス感染症拡大の影響で出生数が過去最少を更新、通年で80万人を切る可能性も出てきました。定年退職後のシルバー世代や子育て中の女性など多様な働き手を参画させたとしても、今後労働人口の減少は改善が難しくなっています。

国際社会での競争

もうひとつが、国際社会での競争力低下です。日本では長い間、生産性向上を目指してQC活動などの地道な取り組みを進めてきました。しかし現在日本の生産性は海外と比較して非常に低いことが指摘されています。

日本生産性本部が2020年末に公開した調査結果によると、就業者一人当たり労働生産性は主要先進7カ国で最下位でした。そのうち製造業に注目した労働生産性は98,795ドル(1,094万円/為替レート換算)で、OECDに加盟する主要31カ国中16位、ドイツや韓国を下回り、アメリカの約2/3でした。(日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2020」)

世界で日本企業の競争力を高めるためには、生産性の向上が非常に重要な課題です。

働き方改革による生産性向上とは

前項で紹介したように、働き方改革と生産性向上には強い関係性があります。生産性向上実現の手段というと業務効率化ばかりに目が行きがちですが、労働時間の削減や多様な働き方が生産性向上に影響することがわかっています。

政府が提言する、生産性向上に必要なこととは

『平成29年度 年次経済財政報告』では、「長時間労働是正と柔軟な働き方の導入による生産性向上」として、国際的には労働時間が短いと生産性が高い傾向にあることや、長時間労働の是正や多様な働き方が労働生産性を高める経路であることについて触れています。さらに企業アンケートの結果からは、長時間労働是正策とテレワークとの組合せを実施すると生産性を向上させる効果が高いと結論づけています。

つまり、生産性向上のためには、働き方改革と業務効率化の両方をバランスよく進めることが効果的だと言うことができます。

業務効率化と生産性向上のための具体的なステップ

どのように業務効率化を進め、生産性を向上させていけばよいのかは、多くの企業が抱える課題でしょう。ここでは業務効率化を進めるためのステップについて解説します。

業務内容を書き出し、業務フローを見直す

業務効率化において、まず実施すべきなのは「現状を把握する」ことです。現場担当者に作業内容や工数、発生頻度などを確認しながら現在の業務を棚卸しして、ムリ、ムダ、ムラがないかを洗い出します。

ムリ・ムダ・ムラだと思われる場所を見つけたら、そのフローを改善するためにはどうすればよいかを見直します。

業務を可視化して、進捗を確認する

洗い出した業務は、マニュアル化するのもよいでしょう。業務が可視化されることで、問題点や改善策が見つけやすくなります。またマニュアルがあれば進捗管理もしやすくなります。

重要度の高い業務に集中できる環境をつくる

事業に直結し、利益を生むための業務をコア業務、業務自体は利益を生まない業務をノンコア業務と呼びます。ノンコア業務の効率化を進めることで、社員が重要度の高いコア業務に集中できる環境が整います。

ITツールを積極的に導入する

ノンコア業務のなかでも、定型化しやすい(マニュアル化できる)業務、発生頻度が多い業務、単純業務は、業務効率化がしやすい業務です。RPA、AI、クラウドサービスなどを積極的に導入し、効率化、自動化を推進します。

生産性向上のための事例

多くの企業が生産性向上のための取り組みを進め、成功させています。ここでは代表的な例として、良品計画、東京スター銀行、日本航空、ファイザーの事例を紹介します。

良品計画 ー マニュアルで業務平準化・可視化を図り効率性向上

無印良品で知られる良品計画では、店内での商品陳列のやり方や店舗・本部業務のベストプラクティスを『MUJIGRAM』というマニュアルにまとめ、業務の平準化を図っています。

全ての社員がMUJIGRAMに沿って接客・業務を行うことで、常に最善の行動がとれ作業のムダがなくなりました。さらにどの店舗・どのスタッフでも同じように高いサービスを提供できるようになり、顧客満足度も向上し売上が倍増。社員の定時退社率が93.9%という高い数値を達成できました。

さらにMUJIGRAMは現場スタッフが意見を出し合って改善するシステムになっているため、改善を行う職場環境づくりにも貢献しています。マニュアルにより業務標準化・可視化を実施した事例です。

東京スター銀行 ー TV会議システムの導入により商機拡大

東京スター銀行では、ローン相談を希望する顧客に対応するためTV会議システムを導入し、専門スタッフがいない店舗でも専門的な相談に対応できる体勢を整えました。

今までは、一部の店舗にしかローン担当スタッフがいなかったため、ローン相談を希望する顧客が来店しても対応できず、別の店舗へ行ってもらう必要がありました。TV会議システム導入によって顧客対応が円滑になり、ローン成約率が全体で約1割上昇したほか、担当者不在の店舗でもローンを成約するようになりました。顧客サービスを向上した上で生産性向上も実現した事例です。

日本航空株式会社 ー 職場環境整備で社員の働きやすさ・満足度向上

日本航空では、17時30分以降には電話やメールを禁止し、20時には完全に退社するというルールを決めたことで、社員の時間外労働を削減しました。

また2015年からはフリーアドレスを導入、多様な働き方に対応できる職場環境を整えたことに加えてマネジメント方法も変わったことで、生産性も向上したと言います。働きやすい環境の整備で社員満足度を高めると同時に残業時間の削減を達成した事例です。

ファイザー株式会社 ー オンラインツール導入で教育を効率化

大手医薬品メーカーのファイザーでは、新規採用した社員向けの教育を効率化することでコスト・時間の削減を実施しました。

同社では世界150カ国以上、約10万人の社員が世界中に分散しているため、教育コストの軽減が課題になっていました。そのためSaaS型のeラーニングシステムを導入、共通の教育を実施することで大幅なコスト削減と効率化を実現しました。

まとめ

企業にとって働き方改革とは、社員が働きやすい環境を整え、自社の生産性を向上させることがゴールです。そのためには積極的にクラウドサービスや各種ツールを導入しつつ、多様な労働環境整備と業務効率化の両方を行うことが重要です。

現在は働き方改革という言葉ばかりが先行して、何から取り組めばいいかわからないという企業の担当者もいることでしょう。ぜひ本稿を参考にして自社の競争力を高める手段のひとつとして働き方改革に取り組んでいただければと思います。