EC在庫と実店舗在庫の一元管理によって、Afterコロナ時代を生き抜く

新型コロナウイルスにより気軽に外出することが難しくなりました。
外出が抑制されることで市場全体に占めるEC販売の割合が増加しており、この傾向は今後も続くと考えられます。

Amazonを始めとするEC販売大手の活躍により、ECサイト運営のノウハウ、方法論は確立しつつあります。
そうした方法論の中で、複数のECサイトを運営している企業、もしくは実店舗とECサイトを並行して運営している企業にとって重要となるのが「在庫一元管理」です。

2015年辺りからその重要性が指摘されていましたが、新型コロナウイルスの影響で「在庫一元管理」の重要性はさらに高まりました。

本稿ではEC事業における「在庫一元管理」の重要性について解説します。ぜひ最後までご覧ください。

新型コロナ時代のEC事業

ECサイトとは?

OECDでは、EC(Electronic Commerce:電子商取引)を以下のように「広義」と「狭義」に分けて定義しています。

広義ECは「物・サービスの売却あるいは購入であり、企業、世帯、個人、政府、その他公的あるいは私的機関の間で、コンピュータを介したネットワーク上で行われるもの。物・サービスの注文はこれらのネットワーク上で行われるが、支払いおよび配送はオンラインで行われてもオフラインで行われても構わない。」

とし、

狭義ECは「物・サービスの売却あるいは購入であり、企業、世帯、個人、政府、その他公的あるいは私的機関の間で、インターネット上で行われるもの。物・サービスの注文はインターネット上で行われるが、支払いおよび配送はオンラインで行われてもオフラインで行われても構わない。」

とされています。

これらの定義に従うと、口頭や書面での受発注が行われる取引はECには含まれず、インターネットを含むネットワークを介してモノ・サービスの取引をすることが、ECの要件と言えるでしょう。

参考資料:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業 (電子商取引に関する市場調査) 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課

ECサイトの売上変動

経済産業省による電子商取引についての市場調査では、2019年のBtoC、BtoB それぞれのEC市場規模の変化は以下のように報告されています。

【2019 年の BtoC-EC 】
市場規模は、19 兆 3,609 億円(前年比 7.65%増)
EC 化率は、 6.76%(対前年比 0.54 ポイント増) 

【2019 年の BtoB-EC】
市場規模は、352 兆 9,620 億円(前年比 2.5%増)
EC 化率は31.7%(対前年比1.5 ポイント増 )

BtoC、BtoB 市場ともにEC分野は順調に拡大しています。

EC販売拡大の要因は大きく2つ考えられます。

第1の要因は、インターネット端末としてPCからスマートフォンへの移行が進んでいることが挙げられます。消費者がスマートフォンからECサイトへ気軽にアクセスできるようになり、ECサイトが消費者の目に留まりやすくなりました。

第2の要因は、物流サービスレベルの向上です。海外製品をECサイトで注文した場合でも、従来より短い期間で商品を受け取れるようになりました。即日配達で商品を受け取れるECサイトも増え、サービスの質が向上していることが分かります。

世界全体のBtoC-EC化率を見ると2019年は14.1%であり、日本国内のEC化は遅れているといえます。これには日本固有の「小売の強さ・利便性」も関係しています。

EC化率の高い中国、米国では都市に人口が密集しておらず、日本に比べると小売店舗の利便性は劣っています。中国、米国では、このような小売の利便性が低かったことがEC化を強力に推し進めた要因であると考えられます。

これまでのEC化率の伸び、新型コロナウイルスの拡大などを鑑みると、日本国内のEC化はさらに進んでいくでしょう。
今後、ECが関わることを前提として、新たなサービスが創出される必要があります。

参考資料:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業 (電子商取引に関する市場調査) 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 

在庫一元管理

在庫一元管理とは?

ECサイトごと、店舗ごとなど、個々の在庫管理を廃し、社内すべてのモノの流れを1つのシステムで管理することが「在庫一元管理」です。

在庫に限らず、受注、出荷状況、メール送受信、顧客情報管理なども包含して一括で管理するシステムは「一元管理」と呼ばれます。

在庫一元管理のメリット

作業効率の向上

在庫を店舗ごとに管理している場合、店舗それぞれで在庫数をまとめ、本部に在庫情報を提出します。本部担当者は送られた在庫情報を整理し、全体の在庫情報としてまとめます。

在庫を一元管理する場合にはこれらの工程を省略できます。
店舗ごとに在庫情報を入力すれば、在庫一元管理システムによって全体の在庫数が算出されます。

データを整理する際の人的ミスやコストを減らし、在庫管理における全体の効率を向上させることが可能です。

・機会損失を減らす

在庫を一元管理することで、リアルタイムに在庫全体の情報を把握できるようになります。また、担当者だけでなく、他のスタッフやサイト運営者も在庫状況を照会できます。

店舗に在庫がない場合は、他店舗の在庫を照会して取り寄せたり、ECサイトへ誘導したりすることで「在庫がなくて買えなかった」という機会損失を防ぐことが可能です。

・素早い分析

近年、より流動的になっている顧客動向に新型コロナウイルスの拡大が拍車をかけ、顧客動向はさらに読み辛くなっています。こうした動向に対応するためには素早くデータを分析し、リソースを再分配することが重要です。

在庫一元管理によってモノの動きを素早く把握し、顧客ニーズの変化を迅速に捉えられるようになります。

・オムニチャネルを実現できる

在庫一元管理は、商品データ、顧客データの一元的管理に繋がり、後述するオムニチャネルのような販売戦略を採ることができるようになります。

オムニチャネル戦略

オムニチャネルとは?

複数の販売チャネルの境界をなくし、それぞれを統合した小売戦略をオムニチャネルと呼びます。ここでの「オムニ(omni)」とは「あらゆる、すべての」を意味する接頭辞で、「チャネル(channel)」とは「販売経路」を指します。

オムニチャネル型の販売戦略を取ることで、従来よりも顧客のニーズに寄り沿った接客ができ、サービスレベルの向上が期待されます。

店舗やECサイトなど複数の販売経路で商品を売り出す戦略を「マルチチャネル(multi-channel)」と呼びますが、オムニチャネルは各販売経路の間の境界を統合していることが特徴です。

以下でオムニチャネル型の販売戦略を具体的に紹介していきます。

オムニチャネル型の販売戦略

チャネル選択の自由度を高める

従来のマルチチャネル型の販売形態では、店舗に在庫がない場合、顧客には店舗に商品が到着するまで待ってもらうか、諦めてもらうしかありませんでした。しかしオムニチャネル型の販売形態であれば、他店舗の在庫やECサイトの在庫を確認し、顧客を別のチャネルへと誘導することができます。

顧客がECサイトで注文をする場合にも、商品をすぐに受け取りたい場合は店舗に行って受け取る、店舗に行くのが面倒な場合は郵送してもらう、など顧客が任意にサービスの形態を選択することができます。

このように顧客にチャネル選択の幅を与え、チャネル間の自由な移動を可能にすることで、サービスの質を高めることができるのです。

・製品とサービスの相互連携

資生堂グループは製品とサービスを相互に繋げる試みをしています。

店舗で化粧品(製品)を販売するときには、化粧方法等の有益な情報をSNSで発信するアカウントを紹介したり、ビューティーコンサルタントに相談できるサービスを提案したりすることで、製品とサービスを相互に連携させます。

これまでのマルチチャネル型の販売形態では、商品とサービスが互いを宣伝しても、その効果を明確に数値化できていませんでした。流入経路が明確でなく、売り上げと顧客情報を結び付けて分析することができなかったためです。

顧客情報を一元管理することで、「店舗Aの誘導が、店舗Bでの製品購買に繋がった」「店舗Cでの宣伝で、ECサイトの流入が増えた」など、各店舗での取り組みが可視化され、適切な相互連携が可能となります。

参考資料:資生堂公式オンラインショップ | 化粧品・コスメの通販 | ワタシプラス/資生堂

同様の戦略はシューズ販売のABC-MARTや、ベビー用品販売のアカチャンホンポでも実施されています。

・ポイントの一元化による顧客の囲い込み

顧客情報をグループ内で一元化して管理することで、ECと店舗、またグループ内で有効な共通のポイントを導入することが可能となります。

顧客は自身の利益を最大化するためにグループ内で商品を買う頻度が高くなるため、グループ内に顧客を留めることができます。

こうした取り組みは、イオングループ、セブン&アイ・ホールディングス、楽天グループなどで実施されています。

在庫一元管理のために必要なこと

オムニチャネル型の販売戦略を実施するためには、まず「在庫一元管理」が必要です。そして、在庫一元管理を実現するには、より正確な在庫管理、リアルタイムな在庫管理が必要となります。

例えば、数量の把握が曖昧で、情報に即時性がない(例えば1週間前の在庫の情報しかない)場合には、「○○日以内に取り寄せられます」と断言できません。あるいは、商品の取り寄せに長い時間を必要とするでしょう。いずれの場合もサービスの質が著しく低下します。

オムニチャネルの効果を十分に発揮するためには、在庫一元管理に正確性とリアルタイム性が不可欠です。

しかしながら、正確でリアルタイム性の高い在庫管理は、在庫管理のための労力とトレードオフの関係にあります。正確に在庫管理しようとすると人手が必要です。

これら在庫管理に必要な労力を大きく低減する方法の1つとして、RFIDが挙げられます。

RFIDとは無線通信技術を活用したシステムです。大手アパレルブランドの多くがRFIDを導入して、在庫管理を効率化しています。

こちらの記事では、ユニクロから学ぶRFIDの活用例を詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。

RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント

まとめ

スマートフォンの普及や新型コロナウイルスの拡大に伴い、市場のEC化は益々進展していくことでしょう。

こうした時代の流れに乗り、新たにECへと舵を切る際には、「在庫一元管理」が効果を発揮します。

在庫一元管理はオムニチャネル型の販売形態を可能にしますが、在庫一元管理を行うためには、「正確」で「リアルタイム」な在庫管理という土台が必要です。

「正確でリアルタイム性の高い在庫管理」を構築するため、在庫一元管理を導入する際には、RFIDの導入も同時に検討してみてはいかがでしょうか。
こちらの記事ではRFIDを詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。

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