デジタルピッキング(DPS)とは?メリット・デメリットなど基本を解説!

「総合マーケティングビジネス富士経済」が調査した「次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展望2017」では、2025年の次世代物流システム市場は約8,496億円になると予測されています。2016年度が約4,000億円のため、2倍以上の成長です。実際にインダストリー4.0を具現化した先進的な工場が増えており、このような工場は「スマートファクトリー」と呼ばれ大きな注目を集めています。スマートファクトリーとは、あらゆる設備、機器をインターネットに接続し、製品の品質や機器の状態をモニタリングできるようにした「工場」を指します。

スマートファクトリーには製造業務を効率化する秘訣があり、本稿では特に「デジタルピッキング」のメリット・デメリットについて解説します。ぜひ参考にしてください。

デジタルピッキングとは

 

まずは、デジタルピッキングの基本概要について解説します。

■デジタルピッキングとは

デジタルピッキング(Digital Picking)とは、物流センターの商品棚に取り付けられたデジタル表示器の指示に従って、表示された商品の個数をピッキングする仕分け作業のことです。作業者はライトが点灯している商品棚に向かって、表示個数を取りに行くだけなので、商品知識や作業知識を持っていなくとも、短時間でミスなく作業が行えます。従来のリストピッキングと比較すると大きな作業効率化が可能です。

リストピッキングとデジタルピッキングの違い

 

リストピッキング

デジタルピッキング

STEP1

伝票読み

ピッキング

STEP2

商品探し

STEP3

ピッキング

STEP4

再度伝票読み込み

STEP5

伝票消し込みチェック

台車に表示された指示内容に従って商品を取りに行き、台車の各間口に仕分ける台車ピッキングを「ピッキングカートシステム」、商品棚のデジタル表示器の指示に従って商品を配置することを「デジタルアソートシステム」と呼ぶように、デジタルピッキングシステムには様々な種類があります。

■デジタルピッキングの特徴

便利なデジタルピッキングの特徴をまとめると下記の通りです。

メリット

デメリット

・ヒューマンエラーの防止

・ペーパーレス化によるコスト削減

・生産性向上

・教育期間の短縮化

・進捗管理の可視化

・導入コスト

・保管場所の変更不可

・トラブル発生時の復旧対応

 

■ピッキングの仕分け方法

デジタルピッキングを深く理解するためにもピッキングの仕分け方法を学びましょう。
ピッキングの仕分け方法には

(1)シングルピッキング
(2)トータルピッキング

の2通りの方法があります。

(1)シングルピッキング
シングルピッキング(SinglePicking)は、出荷内容に合わせて商品をピッキングする方法です。別名「摘み取り方式」とも呼ばれます。注文内容に合わせた正確なピッキング作業に効果を発揮します。

メリット

・注文内容に柔軟に対応できる

・初心者でも対応しやすい単純明快な仕組み

・商品種類が多くて出荷件数が少ない場合に効果を発揮する

デメリット

・1回のピッキングで、作業場と倉庫を往復するため移動距離が長くなる

・商品数に見合ったピッキングスペースの確保が必要になる

 

(2)トータルピッキング
トータルピッキング(TotalPicking)は、まとめてピッキングした後に仕分け作業する方法です。別名「総量ピッキング」「バッチピッキング」「種まき方式」とも呼ばれます。トータルピッキング指示書を発行して、作業員全員の動きを揃えて出荷までの全体の流れをまとめるのが業務効率化のコツです。商品種類の数が少なくて出荷件数が多い場合に効果を発揮します。

メリット

・まとめて作業準備をするため、作業効率化を図れる

・商品の探索時間・移動距離・移動時間を短縮できる

・商品種類が少なくて出荷件数が多い場合に効果を発揮する

デメリット

・まとめて作業できる作業スペースが必要になる

・事前準備をするため、急な追加や内容変更の対応が難しい

・出荷依頼件数が多くなければメリットを活かせない

どれが早い?ピッキングの種類の解説とスピードアップ方法を大紹介

デジタルピッキングの運用方法

次に、デジタルピッキングの運用方法をご紹介します。
デジタルピッキングの運用方法には、

(1)固定表示器
(2)無線表示器
(3)ハンディターミナル

の3つの方法があります。

(1)固定表示器

商品棚や台車に表示器を設置して、表示器が点灯した所から、表示される個数分だけの商品をピッキングします。ピッキングリストを確認しながら作業するリストピッキングと比較すると業務効率化ができます。

(2)無線表示器

固定表示器は配線工事が必要となるため、フリーレイアウトが行えません。フリーレイアウト必須の場合は無線表示器を活用します。表示器以外の機器(スキャナー等)も無線対応にすることで、固定設備無しのピッキングシステムを構築できます。

無線表示器と商品を紐づけることが必要になるため、商品マスターにて固定登録する方法と、商品と表示器をスキャンして登録する方法があります。固定表示器と比較するとコストが掛かりますが、現場設置工事費用は安く抑えられます。

(3)ハンディターミナル

固定表示器によるデジタルピッキングとハンディターミナルを利用するハンディピッキングを併用することにより、初期投資を抑えることができます。出荷頻度の高い商品は固定表示機によるデジタルピッキングを行い、出荷頻度の少ない商品はハンディターミナルでピッキングするという企業も多いです。

デジタルピッキングシステムの種類

商品知識や作業知識を持っていない作業者でも、短時間でミスなく作業が行えるデジタルピッキングは、大きく4種類に分類できます。

(1)デジタルピッキングシステム

デジタルピッキングシステム(Digital Picking System:DPS)は、デジタル表示器を利用して、ピッキングするための作業支援システムです。商品棚にデジタル表示器を取り付けて、作業者はランプが点灯している商品棚に向かい、表示機の指示に従って商品を取り出します。

メリット

・作業員の経験やスキルに関係なく、作業を標準化できる

・作業の生産性と精度を大幅に向上できる

・作業進捗の可視化や作業実績データを活用できる

デメリット

・棚レイアウトが難しい

・配線工事が難しい

・故障時の復旧が複雑になる

 

(2)デジタルアソートシステム

デジタルアソートシステム(Digital Assort System:DAS)は、無線型デジタル表示器を使用することにより、棚レイアウトの変更が可能となります。仕分け作業の省力化・省スペース化・効率化に向いているデジタルピッキングシステムです。

メリット

・作業員の経験やスキルに関係なく、作業を標準化できる

・棚レイアウトを変更できる

・作業進捗の可視化や作業実績データを活用できる

デメリット

・導入コストが高い

・商品配置やブロック構成が複雑になる

 

(3)音声認識ピッキングシステム

音声認識ピッキングシステムは、音声による指示(アナウンス)と音声による確認(応答)によるピッキング方式です。ハンズフリーで作業を行えるのが音声認識ピッキングシステムの大きな特徴となっています。効率が良いことから、欧米では急速に普及しています。

メリット

・作業員の経験やスキルに関係なく、作業を標準化できる

・棚レイアウトを変更できる

・作業進捗の可視化や作業実績データを活用できる

デメリット

・運用のノウハウが必要になる

・話癖や騒音による認識率の低下

 

(4)レーダー型ピッキングシステム

レーダー型ピッキングシステムは、スマホ上に表示されるレーダーを指示器として利用した次世代ピッキングシステムです。デジタルピッキングでは、配線の煩わしさが問題として発生しますが、このような問題を解消します。また、RFIDタグを利用すれば、一括読み込みやピッキングミス防止にも繋げられるなど、これまでのピッキングシステムを上回るとして大きな注目を集めています。

メリット

・作業員の経験やスキルに関係なく、作業を標準化できる

・棚レイアウトを変更できる

・大幅な生産性の向上を狙える

デメリット

・導入コストが高い

・運用のノウハウが必要になる

【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!

RFID x Picking Tagで広いエリアもピンポイントに!探索・ピッキングを効率化

RFルーカス社の「Locus Mapping」と、株式会社エスケーエレクトロニクスの「Picking Tag」を連携した活用方法です。

Picking Tagは、配線がなく太陽電池で稼働するため、電池交換のメンテナンスが不要で、RFIDタグを内蔵した無線方式が採用されています。これによって、従来のデジタルピッキングシステムが抱える、配線や電池交換の課題を克服しています。ただし、広いエリアでは、光るPicking Tagが離れていると、目視で確認できないこともありました。
そこで、Locus Mappingと組み合わせれば、ピッキングタグに搭載されたRFIDタグを読み取って、棚位置を自動登録し、広いエリアでも、Picking Tagのある棚を瞬時に特定できます。また、管理対象物にRFIDタグを貼付しなくても活用できることが特徴です。詳しくは、以下のオンラインセミナーアーカイブ動画をご参照ください。

デジタルピッキングの導入事例

次に、各業界のデジタルピッキングの導入事例をご紹介します。

物流業界

日本通運では、物流業界の労働力人口減少問題に対応できるように、生産性向上のための倉庫オペレーションの省力化を目指しています。これまで、従業員に頼る部分が多かったピッキング作業を自動化することで、作業者の負荷軽減に取り組んでいます。
作業者がハンズフリーでピッキングできる機能や、AMR(物流倉庫向け協働型ピッキングアシスタントロボット)によるピッキング作業ボックスの運搬など、ロボティクス企業と連携しながら質の高いオペレーションを実現しています。

参考資料:先端機器で人手不足解消や生産性向上へ=日本通運

食品業界

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、オンラインストアによる食品販売が拡大しています。このような機会を逃さないために、ネット食品の物流革命を起こそうとしているのが米国のウォルマートです。

ウォルマートのスーパーに併設された物流倉庫には、試験運用中のロボット物流システム「アルファボット」があります。アルファボットが、顧客が注文した食品を迅速に取り出してピッキングステーションに運び、運び出された食品をスタッフが梱包して駐車場で待っている顧客に届けるサービスをスタートしました。
ウォルマートは、ピッキング速度向上による、新たなビジネスの構築に成功しています。

参考資料:ネット食品に「スピード×効率性」の物流革命 ウォルマートがロボ活用

製造業界

島根富士通では、従業員と機械による協調生産によって、安定した品質の商品を生み出すことに成功しています。ノートパソコンとタブレットの部品を同じラインに流して生産する「混流生産」が採用されており、部品置き場から部品をピッキングし、同じラインに流して組み立て、試験に合格したら梱包して発送するという流れになっています。
部品をピックアップする際、カートに装備されたタブレット画面の指示に従って部品を見つけて、従業員の腕に装着されたウェアラブル端末で部品のRFIDを読み取っているそうです。この仕組みによってヒューマンエラーを防ぐことに成功し、素早く大量の製品製造に成功しています。

参考資料:匠の工場「島根富士通」で見た、人と機械によるスマートものづくりの現場

アパレル業界

アパレル業界大手のファーストリテイリングは、ダイフク・MUJIN・ExotecSolutionsSASと業務提携し、国内外の拠点で倉庫自動化に着手しています。MUJINのピッキングロボット技術を導入し、さらにExotec Solutionsとの提携により、サプライチェーン全体の改革が進められているのです。
リードタイムの短縮によって必要なものだけを製造し、顧客が望む商品を届け、在庫問題の改善を目指した動きが取られており、大きな注目を集めています。

参考資料:ファーストリテイリング、ロボット活用で倉庫完全自動化とサプライチェーン改革に挑む

自動車業界

トヨタL&Fは、スマート物流の取り組みとして自動運転機能付きフォークリスト「Rinova AFG」とモバイルロボット「AiR」を開発して大きな話題を集めています。今回、発表されたフォークリフト「Rinova AFG」は有人運転・無人運転を切り替えられるフォークリフトになっており、無人運転時には床に貼られた磁気テープに沿って移動し、パレットの受け渡し・収納・引き出しが可能です。そのため、ピッキング担当者は指定場所まで動かなくて済みます。
また、モバイルロボット「AiR」は、自律走行と人追尾機能を備えたベースユニットの上に、ピッキングや清掃、搬送など用途に合わせたユニットを取り付けることでマルチに使えるとして、注目を集めています。

参考資料:トヨタL&F、次世代スマート物流に向けた物流ロボット公開 自動運転フォークリフト&AMR

デジタルピッキングのシステムメーカー5選

デジタルピッキングシステムを紹介しましたが、実際に導入を検討している方に、おすすめのデジタルピッキングシステムメーカーをご紹介します。

アイオイ・システム

アイオイ・システムは世界シェアNo.1を誇るデジタルピッキングシステムメーカーです。国内外の物流・製造現場での作業効率と正確性向上の支援をしており、世界50ヵ国以上、300万台以上の納入実績を誇ります。独自開発した「AI-NET」は、極性のない2本の線で電力とデータを送ることができる省配線ネットワークシステムとして大きな注目を集めています。

アトムエンジニアリング

物流に関するハードウェア・ソフトウェア・アプリケーションの開発・販売をしているメーカーです。コンサルティング及び各種システムの設計・開発・取り付け工事・保守にも対応しており、レイアウトフリーな環境下でピッキング作業ができるデジタルピッキングシステム「digipica」も高いシェア率を誇ります。

シャープ

シャープは、独自集中制御システム「AOS」や汎用性の高い小型機体を開発しており、業界に見合ったソリューションを提供するシステムメーカーです。ピッキングシステムだけではなく自動搬送装置なども開発しています。

スノーピークビジネスソリューションズ

在庫管理システムやハンディターミナルを活用したシステム開発を行っているシステムメーカーです。創業以来、750社2,000案件のシステム導入を行ってきており、自動車・食品・医療・製造・物流など幅広い業種の導入実績を持っています。また、提案依頼書が不要というのが大きな強みとなっています。

日立物流ソフトウェア

日立物流ソフトウェアは、スマートフォン・タブレット・ロボットなどを活用した多彩なロジスティクスITを一筋で開発しているシステムメーカーです。日立物流の3PL事業拡大と共に歩んできた多彩なノウハウを活かした提案を得意としており、提案・設計・構築・導入・保守に至るまで一貫した幅広いITサービスで国内屈指のロジスティクスIT企業と信頼されています。

《まとめ》

本稿では、スマートファクトリーでも活用されているデジタルピッキングについて解説しました。 デジタルピッキングの中でも、音声認識ピッキングシステムやレーダー型ピッキングシステムなど、次世代ピッキングシステムが登場しています。
自社が、どのようなことを現場で実現したいのか、どのシステムであれば実現できるのかを踏まえて、導入するシステムを選んでみてください。

本稿では「デジタルピッキング」システムを中心に紹介してきましたが、近頃は「ピッキングロボット」にも注目が集まっています。「ピッキングロボット」は以下の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。

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