循環棚卸とは?一斉棚卸との違いや目的、効率化の方法を徹底解説

棚卸は、自社が抱える在庫や資産状況を正確に把握するために欠かせない業務です。しかし、従来の一斉棚卸では、人員の確保が難しい、業務がストップするため、売上や利益への影響が大きいと感じている方も多いかもしれません。

 

今回は、近年採用する企業が増えつつある「循環棚卸」について解説します。一斉棚卸との違いから、メリットデメリット、具体的な手順や効率的に進めるポイントまで詳しく解説するので、参考にしてみてください。

循環棚卸とは

循環棚卸は、在庫を保管場所や商品の種類、作業日などの項目に分け、順番に棚卸作業を行う方法を指します。英語では、サイクルカウント、サイクルカウンティングとも呼ばれ、一斉棚卸とともに実地棚卸手法の一つとして知られています。

 

循環棚卸の大きな特徴は、通常業務を行いながら棚卸作業が実施できる点といえます。棚卸の際、対象となるエリア、商品の入出庫を止めるだけでよいので、全体のオペレーションを止めることなく、棚卸が実施できます。

 

近年では、ECサイトの需要拡大、コンビニや工場など24時間休みなく稼働する業態業種の企業の増加から、循環棚卸を導入する企業も増えつつあります。

 

循環棚卸の目的

循環棚卸は、業務を停止することなく、自社の資産状況を正確に把握し、利益および税額を明らかにするために行われます。棚卸作業中でも営業が続けられるため、一斉棚卸が難しい業種、業態の企業でも効率的に棚卸が実施できます。

 

万が一、棚卸が適切に行われなければ、決算書の内容と実態に乖離が生じ、正確な財務情報の把握が困難になります。そのため、循環棚卸を行う際は、在庫差異が生じないよう、丁寧な作業が求められます。

 

大手企業などでは、実証手続(勘定科目の虚偽記載を検出する目的で行われる検証)のため、棚卸に監査人が立ち会うケースも少なくありません。

 

循環棚卸と一斉棚卸の違い

実地棚卸手法は、大きく「循環棚卸」と「一斉棚卸」の2種類に分けられます。

 

  • 循環棚卸:在庫を特定の項目ごとに分け、順番に棚卸作業を行う方法
  • 一斉棚卸:全ての在庫を一斉に棚卸する手法

 

一斉棚卸は、これまで多くの企業で採用されてきた一般的な実地棚卸手法です。年末や会計期末に行われることが多く、実施時には、入出荷業務など、全てのオペレーションを停止する必要があります。

 

他の作業を止めて棚卸を行うため、循環棚卸と比較して、作業に集中できる、より精度の高い在庫情報を得られるなどのメリットがあります。しかし、業務が完全にストップしてしまうため、業務効率の低下が懸念される点や、通常より多くの人的リソースが必要となる点が、一斉棚卸のデメリットといえます。

 

循環棚卸のメリット

循環棚卸のメリットは以下の通りです。

 

  • 業務を止めずに行える
  • 少人数で実施可能
  • 原因不明の在庫差異を防止

 

順番に確認していきましょう。

 

業務を止めずに行える

循環棚卸の最大の特徴は、営業を行いながら棚卸が実施できる点です。

 

循環棚卸の場合、一斉棚卸のように全オペレーションを止める必要はなく、対象となるエリアの入出荷を止めるだけで、棚卸作業が実施できます。そのため、売上に与える影響が少ない、業務停止による業務効率低下や販売機会損失を防げるなどのメリットが見込めます。

 

少人数で実施可能

循環棚卸では、棚卸する商品やエリアによって作業日時が分けられます。一斉棚卸のように大規模な人員を割かなくても、少人数で棚卸し業務に対応できる点が循環棚卸の特徴です。特に、従業員が少ない企業や、曜日や時間によって作業可能な従業員数に変動がある企業は、循環棚卸を採用すれば、人員の確保がしやすくなります。

 

必要最低限の人数で対応できるため、他の業務へ与える影響が小さい点や、棚卸にかかる人件費を抑えられる点も循環棚卸のメリットとして挙げられます。

 

原因不明の在庫差異を防止

循環棚卸では、短い期間ごとに、商品やエリアを限定して棚卸を行います。そのため、在庫差異の発生に気づきやすく、在庫差異を解消する対策を早いタイミングで実施できるという特徴があります。

 

原因のわからない在庫差異が長期間放置されると、販売機会の損失や、企業の信用力低下など、さまざまなリスクに繋がる可能性があります。また、大規模な在庫差異が発生した場合は、業務を全て停止し、一斉棚卸を行う必要がある等、時間やコストが余分に必要となる可能性もあります。

 

定期的な棚卸作業を実施することで、原因不明の在庫差異を防止し、エラーが発生した場合でも迅速な対応が取れる点は、循環棚卸のメリットの一つといえるでしょう。

 

循環棚卸のデメリット

循環棚卸のデメリットや注意点について解説します。

 

棚卸作業の長期化

商品やエリアを分けて、順番に棚卸を行う循環棚卸の場合、全ての商品の棚卸が完了するまでに相応の時間を有します。

 

倉庫の規模によっては、棚卸作業が終わるまでに、数か月から1年という時間がかかるケースもあるため、短期間で在庫状況を把握したいという企業には不向きな手法といえます。

 

また、棚卸期間が長くなれば、その分コストや必要な人員の確保が必要になります。効率的に循環棚卸を行うためには、業務プロセスの改善や効率的な作業スケジュールの立案等の対策が有効です。

 

棚卸差異がでやすい

循環棚卸では、通常の業務や営業活動を行いながら、棚卸作業を実施します。商品が流動する中での作業となるため、特に手作業で棚卸を行う場合、在庫数の数え間違いなどのミスが起こりやすくなります

 

また、対象エリアや商品を順番に棚卸するため、作業期間が長期間になればなるほど、情報が古くなったり、数値にずれが生じたりする可能性も高くなります。

 

高度な在庫管理が必要

循環棚卸は、定期的な在庫点検と分析が必要となる棚卸手法です。循環棚卸をスムーズかつ適切に進め、在庫差異の発生を防ぐためには、日頃から厳密な商品在庫管理を実施することが求められます。

 

特に、商品の入出庫が激しい業種や、在庫管理に十分な人材や時間が確保できない企業の場合、手作業による在庫管理ではミスやエラーが起きやすくなります。ミスやエラーを防ぎ、循環棚卸を効率よく実施するためには、在庫管理業務のプロセス改善や、在庫管理システムの導入が効果的です。

 

循環棚卸の作業手順

循環棚卸は、一般的に以下の手順で実施します。

 

  1. 棚卸実施計画を立てる
  2. 棚卸対象エリアの入出庫を停止
  3. 棚卸対象エリアの在庫実数をカウント
  4. 在庫実数と帳簿上の在庫数の在庫差異を算出
  5. 在庫数量を確定
  6. 棚卸対象エリアの入出庫を再開

 

1つのエリアの棚卸を終えたら、次のエリアで手順2から6までを同様に行います。

 

在庫差異が発生した場合は、原因を特定し、改善策の検討・実施を行うことも重要です。在庫差異の発生要因に応じた適切な対策が行えれば、棚卸業務の効率化、在庫管理業務の精度向上が期待できます。

循環棚卸を効率化する方法

循環棚卸を効率的に行うためには、どのような対策や準備をすればよいのでしょうか。ここでは、具体的な方法を4つご紹介します。

 

責任者を配置する

循環棚卸を行う際は、必ず作業の責任者を配置しましょう。責任者には、循環棚卸の知識や経験があり、在庫管理業務や在庫の保管場所等に精通している人材が適任です。

 

責任者が中心となり、作業スケジュールや、作業時の業務マニュアルを作成することで、棚卸作業の質やスピードの向上が期待できます。

 

責任者を選任する際は、責任者に業務負担が偏りすぎないよう、業務範囲を明確にすることも重要です。

 

作業ルールを設ける

従業員の経験や能力に依存したり、実施日によって手順や方法が変わったりするのを避けるため、事前に棚卸業務に関するルールを設けましょう

 

統一されたルールを設定し、そのルールに沿って作業を進めることで、業務効率アップはもちろん、作業の質の向上や、ミスの軽減も期待できます。カウント方法や記入、入力方法等、誰が見てもわかりやすいルールが設定できれば、業務の属人化の解消や、従業員の教育等にかかるコストの削減にも繋がります。

 

作業ルールは定期的に見直し、実際に棚卸業務に従事するスタッフが運用しやすいものに適宜修正をしていくことも重要です。

 

在庫管理システムを導入する

循環棚卸のデメリットでも触れたように、適切かつ効率的な循環棚卸を行うためには、日頃から高度な在庫管理を実践することが不可欠です。

 

しかし、従来のエクセルや紙の帳簿を使った手作業による在庫管理では、入力ミスやカウント間違いなどのヒューマンエラーが起きやすく、棚卸のやり直しや余剰在庫の膨大などのリスクも高くなります。

 

このようなリスクや課題の解消に役立つのが在庫管理システムの導入です。在庫の状況や入出庫の状況を一元的に管理できるシステムを導入すれば、在庫情報がリアルタイムに把握でき、在庫差異の抑制にも繋がります。棚卸業務もスムーズに進められるため、時間やコストの削減も期待できます。

 

在庫管理システムの選び方について詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。

関連記事:在庫管理システム・ソフトの選び方のポイントとおすすめソフトを一挙にご紹介!!

アウトソーシングを活用する

棚卸作業に充てられる人員が確保できない、棚卸に関するノウハウや経験がないなど、自社で棚卸を実施するのが難しい場合は、アウトソーシングを活用するのもおすすめです。

 

アウトソーシングを活用すれば、商品在庫数量の集計、商品在庫の売価と数量の集計、バーコードやRFIDのタグ貼りや台帳作成など、棚卸業務に関わる一連の作業を全て代行してくれます。人材の確保や作業時間の捻出を考える必要がなくなるため、棚卸業務にかかる負担が軽くなり、従業員が本業に専念できるようになります。

 

また、棚卸の経験に長けた専門業者に依頼することで、精度の高い棚卸が期待できる点や、第三者による客観性の高い棚卸が実現する点もアウトソーシング活用のメリットといえるでしょう。

 

棚卸代行サービスについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。

 

関連記事:製造業で棚卸代行サービスを活用するメリットとは?おすすめ業者9選をご紹介!

まとめ

循環棚卸は、業務を止めることなく、少人数で実施可能な棚卸手法です。従来の一斉棚卸のように、多大な人的リソースを割く必要がなく、業務の停止による生産性低下を避けられるため、導入を進める企業も増えつつあります。

 

循環棚卸を効果的かつ効率的に行うためには、在庫管理システムを導入し、普段から精度の高い在庫管理を行うことが不可欠です。棚卸業務の質の向上や、業務の属人化を防ぐため、責任者の配置や作業ルールを明確にしておくのも効果的です。

 

近年では、棚卸業務に精通した専門業者も増えているため、自社だけで対応が難しい場合は、アウトソーシングを積極的に活用するのもおすすめです。