「ビーコン」という言葉をご存知でしょうか?
ビーコンは元々、のろしやたき火といった「位置」と「情報」を伴う伝達手段のことを意味していました。
船舶や航空の世界では「無線信号を受けて位置情報を取得する装置」という意味で日常的に使われています。
私達の身の回りではあまり聞き慣れない「ビーコン」ですが、スマートフォンやウェアラブル機器の普及、世の中のIoT(Internet of Things)化に伴い、私達の身近でも、ビジネスシーンでも、その仕組みが活用され始めています。
本稿では、私達の身の回りで使われ始めた「ビーコン」について「ビーコンとは何か」や「どのように活用されているか」など、徹底解説します。
ビーコンとは何か?
ここではビーコンの仕組みやサービスの概要をご紹介します。
ビーコンとは
ビーコンとは「発信機からの信号をモバイル端末などが受信し、位置や距離情報、個体識別情報を取得する設備」のことです。GPSのように人工衛星からの信号ではないため、屋内外を問わず情報を取得することが出来ます。
無線通信には、近距離無線通信技術の1つであるBLE(Bluetooth Low Energy)が使われています。
スマートフォンで用いられるビーコンサービス
スマートフォンでは、iOS 5.0以降、Android 4.3以降でビーコンに対応しています。
身近な例では、店舗のクーポン券を受け取ることができる「LINEビーコン」や、AR技術を使用したゲームである「Pokémon GO Plus」などがあります。
ビーコンに使われる無線技術
ビーコンで使われているBLEの正式名称は、”Bluetooth Low Energy”です。
Bluetooth 4.0から追加された仕様で、ボタン電池1つで数年間使用できます。”Low Energy”という文字通り、低電力に特化した無線通信技術です。
以下では、Bluetoothについて見ていきましょう。
Bluetoothとは
Bluetoothとは、近距離でデジタル機器のデータをやり取りする無線通信規格の1つです。Bluetooth対応している機種であれば、どのようなメーカーのものでも使用できます。
Bluetoothの歴史
Bluetoothの開発は、1990年代後半から、PCの周辺機器を無線接続するために、エリクソン社の社内プロジェクトとして始まりました。その後、IBM、インテル、東芝、ノキアといった、通信・コンピュータ業界の大手企業が開発に加わり、技術仕様が策定されていきました。
2019年にはバージョン5.1が発表されています。
Bluetoothの主な仕様
通信距離は、電波強度によってClass 1(約100m)、Class 2(約10m)、Class 3(約1m)の3つに分かれています。しかし、日本国内の電波法では電波強度がClass 1の半分までしか使えないため、実際には数10mが使用可能範囲です。
通信速度は、最大24MbpsでWi-Fiの約1/25の速度ですが、通信するデータ量と同時接続できる機器が少ない(最大7台まで)ため、消費電力を抑えて通信が出来るというメリットがあります。
通信に使う周波数帯域は、Wi-Fiや電子レンジと同じ2.4GHz帯です。干渉を避けるために、Bluetoothでは周波数ホッピングという技術を用いて通信を行います。1MHz毎に分けられた79個のチャンネルをランダムに使い分けることで、干渉の影響を低減しています。
BLEとは
BLEの開発経緯
BLEは2009年からBluetooth 4.0に追加された仕様ですが、Bluetoothとの互換性はありません。スマートフォンなどモバイル端末の急激な普及に伴い、省サイズ、省エネルギーで低コストな無線通信への需要が高まった事が開発の背景にあります。
BLEの主な仕様
通信速度の規格値は2Mbps、1Mbps、500kbps、125kbpsと定められている一方、通信距離の規格値は定められていません。BLEは消費電力を抑えることに注力して設計されているため、通信速度と通信距離はトレードオフの関係になります。
通信速度を上げれば通信距離が短くなり、通信速度を下げれば通信距離が長くなります。例えば、通信速度を125kbpsにした場合、通信最大距離が400mになると言われています。
通信方式にはブロードキャストとコネクションと呼ばれる2つの通信方式があります。
ブロードキャストは、あるBLEデバイスから複数のBLEデバイスに対して、一方的にデータ送信する方式です。BLEデバイス間でペアリングが行われていない為に、暗号通信がサポートされず、単一方向のデータ送信しかできません。
コネクションは、BLEデバイス間でペアリングが行われた後にデータを送受信する方式です。暗号通信がサポートされていることで、双方向のデータ通信が可能です。
BluetoothやBLEの市場規模
最新の「Bluetooth市場動向2020」によると、Bluetoothに対応したデバイスの出荷台数は2019年から2024年まで年平均成長率8%で推移し、2024年時点で年間62億台出荷されると予測されています。
またBLE対応デバイスの2020年〜2024年累計出荷台数は75億台にのぼり、無線技術のスタンダードになると予想されています。そのうち17.5億台が位置情報サービス機器として出荷され、探索、資産追跡、道案内、入出荷管理といったサービスへの展開が予測されています。
ビーコン(BLE)の導入事例
ビーコン(BLE)がこれから普及しそうなことは分かりました。では今現在、具体的にどのようなサービスが展開されているのか気になるかと思います。
ここでは、製造業と物流での導入事例をご紹介いたします。
株式会社明電舎
社会インフラシステムや産業用モーターを製造する明電舎では、作業者と仕掛かり品にビーコンを装着し、位置情報をもとに作業進捗を可視化するシステムを導入し、経験と勘を頼りに現場判断で行っていた製造工程の改善を推進する取り組みを行っています。
数字に現れたムダな作業を省くことで、約40%のリードタイム削減に成功しました。
今後は収集したデータを分析し活用することで、さらなる効率化を目指すそうです。
工場のスマート化は製造業全体の課題であり、明電舎はスマート化のスモールスタートをしている良い例でしょう。
ネスレ日本株式会社
ビーコン管理プラットフォーム「Beacapp」を利用した例です。
ネスレ日本の島田工場では、トラックの長時間待機が問題になっていました。トラックドライバーが不足する中での長時間待機は損失が大きく、何か解決策はないかということで、ビーコンを使用したソリューションに白羽の矢が立ちました。
ネスレ日本島田工場では、受付の際にトラックドライバーにビーコンを付けたカードを配布し、位置情報・ステータス情報を工場側で把握します。工場側担当者は、トラックの状況に合わせて出荷準備を行うことで、トラックの待機時間を3割削減することに成功しました。
参考記事:100個のBeacon Card と壁に固定したiPhoneで、トラックのステータスを可視化
BluetoothやBLEの今後
BluetoothやBLEは、今後どうなっていくのでしょうか。ここではBluetoothの最新規格と、注目の技術を紹介したいと思います。
Bluetooth 5.1の登場
2019年1月、新規格となるBluetooth 5.1に方向検知機能が追加されることが発表されました。この方向検知機能は、受信側もしくは発信側のいずれかでアンテナを増設することで実現されます。具体的な検出方法を見てみましょう。
1)受信側で増設するケース
受信側のデバイスで複数のアンテナ、発信側のデバイスで単一のアンテナを使うケースです。複数の受信側アンテナと発信側アンテナまでの距離がそれぞれに異なることを利用して、受信用デバイスは発信側アンテナの方向や位置を検知します。受信エリア内に入っていきたタグを認識し、追跡するようなサービスに使用することが可能です。
2)発信側で増設するケース
発信側のデバイスで複数のアンテナ、受信側のデバイスで単一のアンテナを使うケースです。複数の発信側アンテナが座標位置のようなデータを受信側アンテナに送ります。このデータを利用して、受信用デバイスは発信側アンテナの方向や位置を検知します。スマートフォンなどのデバイスを手にとって移動しながら、屋内の目的地を正確に検出するようなサービスに使用することが可能です。
従来のBluetoothの規格ではリアルタイムな位置検出の精度はメートル単位でしたが、最新の規格ではセンチメートル単位で確認出来るようになります。これによって、倉庫の物品位置をリアルタイムに確認したり、GPSが届かない屋内商業施設での経路案内が行えるようになります。
電池レスのタグ
大量のモノの位置情報を管理するには、RFIDにように安価で電池レスである必要がありました。しかし、2019年にイスラエルのベンチャー企業Wiliot社から、電池レスで動作するBluetoothタグが発表されました。Willot社はAmazonやSamsungから3,000万ドルの資金調達をしており、業界では非常に注目されています。
2020年後半にはパイロット製品がリリースされる予定になっていて、アパレル業界での商品管理の効率化や、顧客の購買体験の高度化に期待が寄せられています。
まとめ
ビーコン(BLE)の仕組みがビジネスの様々なシーンで活用されるようになりました。幅広い分野で活用が検討されていますが、少ない消費電力により対応デバイスを小型化できるため、ビーコンは特に製造業で使用されることになりそうです。大量のモノを扱う製造業でビーコンを活用すれば、モノを管理する時間を大幅に削減できます。
製造現場全体をIoT化するには、コストや時間がかかり過ぎてしまいます。
本記事で紹介したような、効果的な分野からスモールスタートで取り組まれてはいかがでしょうか。