在庫を抱える全ての企業において、発注量の調整や利益算出のため、棚卸しが欠かせません。
本稿では、棚卸しの目的や作業方法を中心に、棚卸しの基礎を分かりやすく解説します。
また「もっと詳しく知りたい」方向けに、一部の項目にはより詳細に解説した記事へのリンクを付けました。
「棚卸しの基本をざっと確認しておきたい」、「棚卸しの効率化を考えている」など、皆さまが知りたい情報にフォーカスして読み進めてください。
「棚卸し」とは
棚卸しとは、いわゆる在庫確認のことです。
法律上、在庫を抱えるすべての企業に実施義務がありますので、本稿を読まれている方であれば、既に経験されている方が多いでしょう。
棚卸しの目的
棚卸しの目的は、主に次の3つです。
- 品質チェック
- 発注量の調整
- 正確な利益の計算
それぞれ順番に見ていきましょう。
1.品質チェック
パレットへの積み込みや棚入れの際に、梱包材が破れて商品を傷つけてしまっていることがあります。破損、汚れなど、モノの品質を目視で確認し、「使える在庫数」を把握します。
2.発注量の調整
滞留在庫を確認することで、発注量を調整できます。定期的に棚卸しする目的は、多くの場合発注量の調整のためです。
3.正確な利益の算出
会計上、在庫は資産計上させます。棚卸しで正確な在庫数を把握することは、正確な利益の算出のために必要です。
棚卸しの種類
棚卸しには、「帳簿棚卸」と「実地棚卸」の2種類があります。
帳簿棚卸
「帳簿棚卸」とは、帳簿や専用のソフトウェアを用いて在庫数を管理する方法です。
いわゆる「入出庫管理」にあたります。
取引伝票の数値を会計ソフトへ入力する方法や、ハンディリーダーで製品タグを読み込む方法などがあります。
実地棚卸
「実地棚卸」とは、店舗や倉庫にある製品を実際にカウントし、個数と品質をチェックする方法です。
いわゆる「在庫管理」にあたります。
棚卸しには、プリントアウトした棚卸表に書き込む方法や、ハンディリーダーでチェックした製品タグを登録する方法などがあります。
種類ごとのメリット・デメリット
帳簿棚卸、実地棚卸の特徴をまとめると、以下のようになります。
メリット |
デメリット |
|
帳簿棚卸 |
・常に在庫状態を把握できるため、在庫過多のリスクを抑えられる ・データは一元管理されるため、「在庫データを各製造ラインの管理端末で確認する」といった運用が可能 |
・通常、製品の中身は確認しないため、汚れ、キズ、破損などの把握は困難 ・帳簿の記載ミスや会計ソフトの入力ミスがあった場合、原因追及に時間を要する |
実地棚卸 |
・汚れ、キズ、破損などの製品状態を把握できる ・複雑な手順でなければ、パート、アルバイトによる対応が可能 |
・在庫数が多ければ、その分、人手がかかる ・業務終了後に実施するなど、業務への影響を抑える工夫が必要 |
帳簿棚卸では「在庫管理システム」が、実地棚卸では「RFID」を活用した作業の効率化が進んでいます。
在庫管理システムについては、在庫管理システム・ソフトの選び方のポイントとおすすめソフトを一挙にご紹介!!をご覧ください。
RFIDについて詳しく知りたい方は、RFIDとは?最新動向と活用事例を解説!をご覧ください。
棚卸資産
製造にかかった原価(製造原価)は、「売上原価」と「棚卸資産」に分けられます。
棚卸資産とは、売上に関与してない資産で、いわゆる「在庫」にあたります。
棚卸資産について詳しく知りたい方は、5分でわかる棚卸資産の基礎!種類・仕訳・評価方法を分かりやすく解説をご覧ください。
棚卸表
棚卸表とは、その名の通り「棚卸しの際に使用する帳簿」です。
倉庫や店舗で管理している棚卸資産(製品、仕掛品、貯蔵品など)を、一覧形式で記録します。
保管要件
棚卸表の保管期間は「最低7年間」と、法人税法で定められています。
原則紙媒体での保管になりますが、一定の要件を満たすことで、電子媒体やスキャンでの保管が可能です。
なお、電磁的記録による保存を行う場合には、あらかじめ所轄税務署長に対して申請書を提出し、承認を受けなければなりません。
経理方式
棚卸表に使われる経理方式には、「税込経理方式」と「税抜経理方式」の2種類があります。
法律上はどちらの方式を選択してもよく、要件を満たすことで併用も可能です。
棚卸表について詳しく知りたい方は、【2020年最新版】棚卸表とは?種類とポイントを徹底解説!をご覧ください。
参考資料:国税庁『法人税法 No.5930「帳簿書類等の保存期間及び保存方法」』
参考資料:国税庁「No.6375 税抜経理方式又は税込経理方式による経理処理」
棚卸しの進め方
ここでは、棚卸しの進め方をご紹介します。
①工程管理
棚卸しの工程管理には、「一斉棚卸」と「循環棚卸」の2種類があります。
一斉棚卸
仕入れとピッキングを止め、全ての在庫に対して一斉に棚卸しする方法です。
一時的に流通や生産がストップします。しかし、特定日のみの作業になることから、「時間や人員を調整しやすい」メリットがあります。夜間に実施するといった、通常業務に影響させない調整も可能です。
循環棚卸
区切ったロケーションごとに棚卸作業を行う方法です。
一斉棚卸に比べて、「一回ごとの作業負荷を減らせる」ことがメリットです。時間に余裕を持たせることで、人員調整もしやすくなります。コンビニエンスストア・病院など、24時間稼働している施設で、業務と同時平行で進める場合に適しています。
②進捗管理
棚卸しの進捗管理には、「タグ方式」と「リスト方式」の2種類があります。
タグ方式
あらかじめ在庫が保管されている棚に、連番管理された「棚札(タグ)」を貼付ける方法です。
担当者が品目・個数を確認後、棚卸表に記入し、カウントが終わった棚の棚札を回収します。
すべてに棚や現物に棚札が貼り付けられているので、漏れなくカウントできます。
多くの企業で採用されている、一般的な棚卸作業の方法です。
リスト方式
在庫管理システムから出力されたリストと、実際に保管されている棚卸資産の数量が一致しているか確認する方法です。
リストの数量と一致しない場合のみ、詳細な確認を行います。循環棚卸に適した方法です。
③方法
棚卸しの方法は、主に「手書き」、「バーコード」、「RFID」の3種類があります。
①手書き
プリントアウトした棚卸表に手書きで記入していく方法です。道具が要りませんので、部分的な在庫の棚卸しをする際に適しています。
②バーコード
2020年時点、ほとんどの商品がバーコードで管理されています。商品タグ(バーコード)をハンディリーダーで1点ずつ照合しながら棚卸しを行います。
③RFID
RFIDは、「遠隔から一括でタグ情報を読み取れる」特徴を持ちます。
バーコードのように、商品タグに近づけ読み込むことも、1点照合も必要ありません。バーコードに比べて、照合作業を大幅に減らせます。
経済産業省は「コンビニ電子タグ1,000億枚宣言」を発表しており、将来コンビニの商品がバーコードからRFIDに変わる可能性があり、注目が高まっています。
参考資料:経済産業省『「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定しました~サプライチェーンに内在する社会課題の解決に向けて~』
実際の棚卸手順
一般的に、以下のステップで棚卸しを実施します。
日常業務
①日々の入出庫にて、帳簿棚卸(入出庫管理)を行う
②実地棚卸の実施計画を立てる
※売上原価の確定が必要になる決算前に実地棚卸を行う企業が多い
実地棚卸当日
③必要な人員を配置
④帳簿棚卸のデータを集計し、理論在庫(帳簿上の在庫)を確認
⑤作業員が受け持ち場所の棚卸しを行い、棚卸表に在庫数を記入
⑥帳簿棚卸と実地棚卸の在庫数を照らし合わせて、両者に差異がないことを確認
⑦両者の間に差異があった場合、その原因を調査
棚卸資産の評価方法
棚卸資産の評価方法は、「原価法」と「低価法」の2種類に分けられます。
企業はいずれかの評価方法を選択し、継続的にその方針で期末在庫を評価します。
①原価法
「原価法」とは、棚卸資産の購入時に支払った金額を元に期末の金額を評価する方法です。棚御資産を仕訳した帳簿価額で評価します。
②低価法
「低価法」とは、原価法による評価か期末時価のうちいずれか低い方を選択し、評価する方法です。直近で材料費が大幅に値上がりしたケースなど、時価のブレが大きい場合に利用されます。
棚卸しを効率化するには?
棚卸しには大きく対象物が2つあります。1つは在庫、もう1つが固定資産です。
現在在庫の棚卸しは、「棚卸表への手書き」か「バーコードの照合」のいずれかで行うケースが大半です。
しかし、対象物分のチェックが必要になりますので、膨大な数の繰り返し作業が発生します。今後の物流量増加に伴い、更なる作業負荷になるでしょう。
固定資産に関しては、例えば製造業における治具、工具などは棚で管理されていることは稀です。一般的に、治具であればフロアに直置き、工具は壁掛けか工具箱に保管されています。
これらもまた点数が多く、棚卸しの手間がかかる作業です。
モノの数が多い場合、棚卸しに「1点照合」がつきまとう限り、効率化にはどうしても限界があります。
そのような中、棚卸しを効率化できると期待されている2つの方法をご紹介します。
方法①:アウトソーシング
1つ目は、棚卸しをアウトソーシングする方法です。
昨今は、様々な棚卸代行業者が登場しており、独自のサービスを展開しています。
棚卸しを完全アウトソーシングすれば、自社のリソースをまるごとカットできます。
棚卸代行業者については、製造業で棚卸代行サービスを活用するメリットとは?おすすめ業者9選をご紹介!をご覧ください。
方法②:RFIDの活用~1点照合からの脱却~
もう1つは、既にアパレルを中心に普及しているRFIDの活用です。
RFIDは「離れた場所から、一括で」タグ情報を読み込める特徴を持つため、「1点照合」から解放されます。
モノの数が多いほど、RFIDタグを導入する恩恵を受けられるでしょう。
棚卸しへの具体的な効果については、RFIDタグの活用により、棚卸し作業において年間437人日の工数を削減!をご覧ください。
モノ探しの時間短縮で更なる効率化を
しかし、棚卸しの効率化を考えた時にはもう1つ考えなければならない課題があります。
それはモノ探しにかかる時間です。
倉庫内の保管場所をロケーション(地番)と言います。
毎回、ロケーションにモノがあれば問題ありません。しかし、「ピッキング中に、作業者が誤ってモノを別の場所に移動した」など、人為的ミスによってモノを見失うことがあります。
特に物流センターは、アルバイトスタッフがピッキングを担当するケースが多いため、ミスは一定の確率で発生するでしょう。
モノの所在がわからなければ棚卸しに余分な時間がかかります。棚卸しを効率化するためには、モノの探しの時間を短縮する必要があります。
この問題を解消する一例として、RFルーカス株式会社が提供する「Locus Mapping」があげられます。
このサービスでは、RFIDタグの情報がビジュアルとして表示され、一目でモノの位置が分かります。
モノの位置が素早く特定できれば、後は照合作業のみです。前章でご紹介した方法と合わせて検討することで、「棚卸しの効率化」を実現できるでしょう。
まとめ
多くの企業では大小に関わらず在庫を抱えています。
企業の利益を正確に算出するためには、在庫状況を把握する「棚卸し」が欠かせません。
棚卸しを効率化する方法として、近年は「RFID」がアパレルを中心に普及しています。
近距離で1点ずつ照合を行うバーコードとは異なり、「離れた場所から、一括でタグ情報を読み込める」特徴を持つため、棚卸しの効率を格段に向上させる可能性を秘めています。
「棚卸しを効率化・省力化したい」と考えている方は、これらのソリューションの活用を検討するとよいでしょう。
以下の記事ではRFIDを積極的に活用しているユニクロの例をご紹介しています。ぜひご覧ください。
RFIDタグを導入したユニクロから学ぶ他業界RFID活用のヒント