LPWAとは、新しい用語のように聞こえますが、もともとあった通信方式をまとめた総称です。IoTと共に、要素技術としてのLPWAにも注目が集まり始めました。製造業をはじめ各方面での活用事例も増加しています。
しかしLPWAの特徴や、Wi-Fiなど他の通信規格との違いがよくわからないという方は少なくないでしょう。
本稿では、LPWAについて基本的な内容からわかりやすく解説します。
LPWAとは
まずはLPWAとは何か、そして代表的な通信規格について解説します。
LPWAの概要・定義
LPWA(Low Power Wide Area)とは、少ない消費電力で遠距離通信を実現する無線通信の総称です。LPWAとしての規格があるわけではありません。
主にIoTやM2Mなどのスピードが求められない通信で用いられています。
世界的にも市場は大きく成長しており、物流・資産管理などの産業用途やセキュリティ・スマートビルなどのインフラ用途で用いられています。
LPWAの種類
LPWAは、無線周波数帯の違いおよび免許の要・不要によって、アンライセンスバンドとライセンスバンドに大別できます。現在国内ではアンライセンスバンドが主流です。
アンライセンスバンド(非セルラー系)
アンライセンスバンドは、無線免許が不要な通信を指します。サブGHz帯と呼ばれる920MHz帯(915~930MHz)を使用しており、ノイズに強く長距離通信向きです。
Sigfox(シグフォックス)
仏 Sigfox社が提供する通信方式で、LPWAの代表的なものです。各国1社のみが提供でき、日本では京セラコミュニケーションシステムがサービスを提供しています。1回線あたり年100円からと低額で利用できますが、通信回数制限があり、最大140回/日までしか通信できません。
LoRaWAN(ローラワン)
半導体・機器メーカーなどからなる米 LoRa Allianceが策定した通信規格です。LoRa変調を元にしており、電波干渉を受けにくい特徴があります。電気・水道・ガスなどの検針業務を自動化するスマートメーターで利用されています。
ELTRES(エルトレス)
ソニーが独自に開発したLPWAの通信規格です。通信距離が100km以上と非常に長いのが特徴で、後発ながら国産技術として注目されています。
ZETA(ゼタ)
ZiFiSense社が提唱し、ZETA Allianceが推進している通信規格。Meshネットワーク、マルチホップ通信などが特徴。中継器によるマルチホップ(メッシュアクセス)で従来無線が届きにくい場所へも通信できます。これを活かして、山間部にある錦鯉の養殖池の遠隔管理などにも用いられています。
Wi-SUN
Wi-SUN Allianceが推進している通信規格。通信速度が最大300kbpsと他の方式と比較して速いこと、送受信できるデータサイズに制限がないことが特徴。マルチホップ通信もできます。
ライセンスバンド(セルラー系)
ライセンスバンドとは、無線免許が必要な通信方式です。ドコモやKDDIなど免許を持つ通信キャリアが主にサービスを提供しています。LTEのIoT向け規格であるLTE-M、NB-IoTなどが代表例です。
通信キャリアが確保・提供している周波数帯を利用するため、干渉が起こりにくいのが特徴です。またアンライセンス系と比較してセキュリティ強度が高いです。
LTE-M(LTE Cat.M1)
携帯電話基地局の周波数の一部を利用した通信で、広域エリアをカバーしているのが特徴です。
NB-IoT(LTE Cat.NB1)
NBとはNarrow Bandの略で使用する帯域は180kHz幅。携帯の基地局、空き領域を利用した通信のため、LTE環境が整っている範囲であれば基地局などの新規構築が不要です。
LPWAの比較
LPWAは規格によって特徴が異なります。アンライセンス系ではWi-SUNとZETAがマルチホップ機能を持っているのが特徴です。
アンライセンス系
Sigfox |
LoRaWAN |
ELTRES |
ZETA |
Wi-SUN |
|
帯域 |
920MHz帯 |
920MHz帯 |
920MHz帯 |
920MHz帯 |
920MHz帯 |
推進団体 |
仏 Sigfox |
米 LoRa Alliance |
– |
ZETA Alliance |
Wi-SUN Alliance |
通信距離 |
数~数十km |
数~数十km |
100km以上 |
数km |
1km |
種別 |
公衆網 |
公衆網、自営網 |
公衆網 |
自営網 |
自営網 |
ライセンス系
LTE-M |
NB-IoT |
|
帯域 |
700MHz ~2.1GHz |
700MHz ~2.1GHz |
推進団体 |
3GPP |
3GPP |
通信距離 |
十数km |
十数km |
種別 |
公衆網 |
公衆網 |
LPWAの3つの特徴
LPWAの特徴として、以下の3つが挙げられます。言い方を変えると、下記の特徴を持った通信方式をLPWAと呼びます。
通信距離
LPWAでは、通信方式にもよりますが、1つの基地局で数十kmのエリアをカバー可能です。
消費電力
LPWAでは、ボタン電池1個で数年稼働できるほど消費電力が少ないのが特徴です。
通信速度
LPWAでは、数十bps~1Mbps程度の通信速度です。Wi-Fi(1Gbps~数Gbps)など他の通信方式と比較すると非常に低速です。
LPWAと他通信規格との違い
私たちが日常的に用いている通信としてはWi-Fiがよく知られています。これは機器を無線でネットワークに接続する通信方式で、ノートパソコンでインターネット接続する場合などに用いられます。このような用途では、途中で途切れずに高速で通信できることが重視されます。
一方、LPWAでも同じように、機器を無線でネットワークに接続します。LPWAの主用途であるIoT機器は、時には山中の池から何キロも離れた事務所までデータを届ける必要があります。
データを一定の頻度で伝達できればよいため、カバーエリアが広くて長距離を低電力で通信できる機能のほうが重視されます。
そこで、他の通信規格との違いを見てみましょう。どれも機器とネットワークを無線で接続する規格ですが、速度や距離に大きな差があるのがわかるでしょう。
Wi-Fi(IEEE 802.11ax) |
BLE(Bluetooth Low Energy) |
Zigbee(IEEE 802.15.4) |
LPWA(Sigfox) |
|
通信速度 |
最大9.6Gbps |
10Kbps程度 |
20k~250kbps |
100bps(上り)/600bps(下り) |
通信距離 |
100m~500m |
最大600m |
最大30m |
数~数十km |
省電力性 |
△ |
〇 |
〇 |
◎ |
なぜLPWAがIoT、M2Mの通信に向いているのか
IoTとは、センサーで取得したデータを加工して通知や機器操作などを返す技術です。近年製造業、サービス業、農業などさまざまな分野で活用が進んでいます。
IoT、M2Mについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
https://blog.rflocus.com/what_is_iot/
https://blog.rflocus.com/m2m/
IoT機器間の通信では、スピードよりも省電力性や距離の長さが求められます。電源やWi-Fiが確保できない場所に設置することも多く、また電池交換が頻繁に行えないこともあります。
またIoTでは多くのセンサーが必要になるため、低コストでの運用も不可欠です。
そのため、ボタン電池1個で数年もたすことができ、遠距離でも通信できるLPWAの特性は非常にIoTに適した通信だと言えます。
LPWAの利用シーン・利用例
LPWAの利用シーンとして、2つの事例を紹介します。前者はアンライセンス系のSigfox、後者はライセンス系のLTE-Mを採用したIoT事例です。
【世界最大手のガラスメーカーAGCのLPWA(Sigfox)活用事例】
AGCは製造したガラス輸送に用いる鉄製のパレットにIoTモジュールを搭載した「パレットIoTシステム」を独自開発。2020年3月より約1400台を国内で運用開始しました。
同社では同システムの運用により、毎年約1割が回収不能になるパレットの紛失を防止。パレットの位置、在庫、滞留情報を把握して輸送計画に反映させることによる輸送効率向上などを目指しています。
【自動車部品製造会社の旭鉄工によるLPWA(LTE-M)活用事例】
旭鉄工は工場機器のシリンダーに磁気センサを設置し、サイクルタイムと設備の稼働割合データを自動収集。データを元にしたさまざまな改善策の実施により、サイクルタイムは0.7秒削減、設備可動率は12.5%改善できました。その結果残業時間も削減でき、金額換算では年に100万円の効果がでました。
同社では取得したデータを現場作業者の目に入るように、あえて手書きでボードに記入しました。
LPWAの課題と今後について
製造業でも活用の期待が高まるLPWAは、IoTの普及とともに今後さらに利用が拡大していくと見られています。アンライセンス系では安価なモジュール開発や新利用モデル、ライセンス系でも安価なプランが登場するなど選択肢が増えています。
今後の課題は、選択肢が多様化したことで、利用者が目的や用途に応じて上手に使い分けていくことが必要になることです。そのためLPWAについての理解を深めることが求められます。
またアンライセンス系サービスでは、セキュリティに弱く、重要度の高い通信には適さない点に留意する必要があります。それを踏まえた上で利用者は、アンライセンス系のLPWAを利用していきましょう。
まとめ
LPWAはIoTで欠かせない技術であり、製造業にとっても活用範囲が広い通信方式です。FA・スマートファクトリーを実現するには、高速・低遅延のローカル5Gなど使い分けして運用していくことが重要です。
LPWAはライセンス系、アンライセンス系で大きく異なります。さらに通信方式ごとにそれぞれ特性が異なるため、本稿や提供社の資料などを参考にしつつ、自社の用途に応じて最適なものを選択することが必要です。