ユニクロが全商品にRFIDタグ(ICタグ)を導入するなど、アパレル業界ではRFIDが普及しています。しかし、製造業など他業界では、RFID導入にやや高いハードルがありました。
それはRFIDタグが
- 通常のRFIDタグだと金属に貼付すると読み取れなかったこと
- 金属に対応できるタグが高価だったこと
です。
ところが昨今、RFIDタグの需要増加や技術進歩により、通常のタグであれば10円程度、金属対応タグでも100円程度まで下がっています。コストや金属物の問題でRFID導入を見送っていた方々は、もう一度検討してみるのがオススメです。そこで今回の記事では、RFID導入に必要なアイテムとコストに触れた後、RFIDタグの最新価格動向、RFIDの導入事例、RFID導入のポイントについて詳しく解説します。
RFIDとは
RFIDとは?
RFID(Radio Frequency Identification)とは、電子タグの読み書きをするシステムをいいます。システムを構成するアイテムは以下の通りです。
- RFIDリーダー
- RFIDタグ
- ソフトウェア
- PCやプリンターなどの周辺機器
バーコードとは異なり、複数のタグを一度にスキャンできることが大きな特徴です。
RFIDについて詳しく知りたい方は、下記の記事をお読みください。
関連記事:『【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!』
RFIDの特徴・メリット
バーコードからRFIDタグに切り替えると、以下のようなことが実現できます。
- 電波を放つだけで複数のタグデータを一括で読み取れる
- 倉庫の高所にあるタグデータを読み取れる
- 箱の中にある商品のタグデータを読み取れる
- タグが汚れてもタグデータを読み取れる
RFIDに必要なアイテムと導入コスト
|
役割 |
価格 |
RFIDリーダー |
RFIDタグのデータを読み書きする端末 |
ハンディ型:約1~20万円 据え置き型:約1~20万円 ゲート型:100万円以上 |
RFIDタグ |
タグの識別情報を格納する |
約5~10円 |
ソフトウェア |
RFIDタグの識別情報を処理する |
月額型:約0.5万円 買取型:約6万円 |
周辺装置 |
PC プリンター |
約50万円 |
RFIDリーダーの価格は各製品で異なります。どのようなRFIDリーダーが良いか知りたい方は、下記の記事をお読みください。
関連記事:『RFIDリーダーの価格やタイプ別の特徴・価格帯を解説!RFID自体の価格も紹介!』
RFIDタグの最新価格動向
10~15年前は1枚何十円もしていたRFIDタグですが、今では安いと1枚5~10円程にまで下がっています。高額であった金属対応タグもラインナップが増え、1枚100円を切るタグが登場しました。では今後、RFIDタグの価格はどのように変化するのでしょうか?RFIDタグの価格動向は、導入時期を決める上でとても重要なポイントになります。
原材料費を考えると1円以下は難しい?
樹脂フィルムの基盤にICチップとアンテナを配置したものをインレイと呼び、これをラベル状に加工したり、下げ札に入れ込みます。インレイの原料であるシリコンやアルミの材料費を考えるとRFIDタグの価格(インレイ)は1枚2円が限界という意見があります。
ICチップの米国大手メーカーIMPINJ社は、M700という新製品を発表し、チップサイズを40%小さくすることに成功しました。同じくアンテナも小型化してきています。このように性能を維持しながら、ICチップやアンテナを小さくする生産技術の向上が原材料費を抑え、将来的にRFIDタグの価格を押し下げる可能性があるでしょう。
もう一点注意は、発注枚数によってもRFIDタグの価格は大きく変わります。1000万枚を超える発注規模から価格が下がり始め、1億枚を超えると1枚5円に近づいていき、それ以上の値下げの可能性もあります。勿論、耐久性やデータ容量など高い性能を求める場合には価格が上がります。
矢野経済研究所の調査によると、2022年時点では、コロナ禍による景気低迷や半導体不足、ウクライナ侵攻を背景とする原材料の高騰やインフレの影響によって、RFIDタグの平均価格は1枚10.3円程度と発表されています。
東レの低コスト塗布型RFIDタグ
現行のRFIDタグは、ICチップの複雑な製造やアンテナへの取付工程が製造コスト低下の壁になっています。そこで、東レは安価な塗布方法で製造できるRFIDタグの開発に取り組んでいます。電子回路を直接プリントするこの技術によって、従来の5分の1以下のコストで製造できると言われています。
まだ通信距離が20cmであったり、記憶容量が小さく標準規格を満たせないなど、実用化に向けては更なる開発が必要ですが、RFIDの爆発的な普及につながる画期的な取り組みです。このような新たな技術革新が生まれると、RFIDタグの価格が下がる可能性があり、今後の開発に注目です。
参考記事:レジ自動化の普及を加速させる低コスト塗布型RFIDで世界初のUHF帯無線通信を達成
RFIDタグ価格の更なる下落は2025年前後か
経済産業省は、2025年までにコンビニの全商品にRFIDタグを取り付ける「電子タグ1000億枚宣言」を発表しています。RFIDタグの価格が更に大きく下落するには、もう暫く時間がかかると見られています。しかしながら、団塊の世代が2025年頃までに後期高齢者(75歳以上)に達する事により、労働環境の変化が起きます。数年先になってからRFIDの導入を検討を開始するのでは、労働人口の減少と物流量の増加に対応できなくなると懸念されます。経済産業省もシステム刷新で対応するように要請しています。RFIDを導入するかの判断は、タグの価格が下がりきることを待たずに、早めに行う必要があるでしょう。
RFIDの導入事例
ここでは、RFIDの導入事例をいくつかご紹介します。
BEAMS
RFIDの導入以前は、商品の検品・仕分けは、バーコードでスキャンする工程を踏んでいました。これら工程を効率化すれば、接客などの顧客サービスに割ける時間が増えると考え、RFIDの導入を決定しました。導入の結果、時間は「1/10」に減ったと言います。BEAMSは、導入を決めてから1年後には運用を開始しています。自社に必要な機能のみに絞って導入したことで、既存業務への影響を最小減に抑え、スピーディーな導入を実現しました。
豊田通商
自動車部品の棚卸しにかかる時間を短縮したいと考え、RFIDの導入を決定しました。部品の包装箱にRFIDタグを取付け、リーダーでの照合を行っています。導入の結果、時間は「1/8」に減ったと言います。なお、取り扱っている自動車部品は金属製品が多いため、RFIDタグ、RFIDリーダーの選定は、複数メーカーの製品を比較しながら入念に行ったそうです。また、棚の高い位置にある商品の棚卸しのため、AGV(無人搬送車)を活用するなど、RFIDと他の技術を組み合わせた活用を行っています。
佐川グローバルロジスティクス
同社と取引のあるアパレルチェーンのコーエンとのサプライチェーンを強化することと、物流業界の人手不足に対応すること、この2つの目的のため、RFIDの導入を決定しました。これまで手動で行っていた検品業務を改善するために、ゲート式の読取り機を設置し、ゲートを通過することで自動検品が行われる仕組みを構築しました。導入の結果、入荷時間は「1/8」、出荷時間は「1/9」に減ったと言います。
費用対効果を高めるポイント
企業ごとにRFIDのシステム構成や活用方法は異なります。RFID導入のポイントは、「最も解決したい課題を明確にすること」です。今回取り上げた事例の中で、BEAMSの担当者は次のように語っています。「RFIDの導入は難しく考えないこと、万能ではないことを知っておくことが大切だと思います。導入範囲を明確にすることで、自社に見合った導入ができるのではないでしょうか。」自社の課題、クライアントの方向性などを総合的に勘案し、最適な導入方法を検討することが大切です。次章では、RFIDを導入して費用対効果をアップする方法をご紹介します。
ロケーション管理で費用対効果アップ
費用対効果をアップさせるためには、RFIDの活用方法を広げることがポイントです。例えば、棚卸しや入出荷検品だけではなく、アイテム探索に活用することです。アパレル業界ではバックヤードから商品を探す時間、物流業では倉庫で荷物を探す時間、製造業では工場で機器・部品・工具などを探す時間が該当します。これらの時間を削減することは、人件費の削減に直結し、費用対効果アップが大いに期待できます。
しかしながら、課題もありました。それは、「RFIDは複数のタグを瞬時に一括で読み取れるものの、RFIDタグの位置を正確に特定することが難しい」ことです。従来、RFIDタグの位置特定は、タグから発信される電波をリーダーで受信して、電波の強弱を確認しながら行います。タグに近づくにつれてリーダーの受信音が大きくなることで位置が分かる仕組みです。この仕組では周囲に複数のタグがあると反応を示すものの、正確な位置特定はできないという課題がありました。
Locus Mapping
前項の課題を解消するための製品を一つご紹介します。すでにメディアでも取り上げられている、日米欧中で特許を取得している技術を使用した、RFルーカス社の「Locus Mapping」です。この製品の最大の特徴は、「RFIDタグの正確な位置情報が分かること」です。瞬時にモノの位置を自動取得してデジタルマップに表示できる新たな在庫・物品管理システムで、独自の電波位相解析によって、RFIDタグの正確な位置をレーダー表示することもできます。ロケーション管理に優れた機能が搭載されていますので、RFID導入における費用対効果のアップに貢献してくれるでしょう。
また、フォークリフトにリーダーとアンテナを外付け設置して、作業・巡回しながら在庫・物品を読み取ることで、在庫管理を自動化することができます。製造・物流現場では、棚卸、入出庫管理、ロケーション管理などを自動で行えるため、在庫管理業務の大幅な時間・コスト削減や、所在を含めたリアルタイムな在庫情報の取得が可能となります。
生産・工程管理で作業実績を可視化
RFIDの活用は在庫・物品管理にとどまらず、生産・工程管理に活用することができます。対象物や作業指示書にRFIDタグを貼付し、各工程にリーダーとアンテナを設置することで、誰が、どの工程で、どれくらいの作業に取りかかり、完了しているのか、リアルタイムにデータを自動取得します。作業日報などわずらわしい紙の管理が不要になり、効率的に現場の作業状況を可視化します。
製造現場だけではなく、レンタルなどの循環物流のように倉庫で様々な工程が発生する現場でも活用できます。そして、最適な人員を割り当て、現場教育に活かすことで生産性をアップします。
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まとめ
RFIDタグの価格が下がるにつれ、アパレル業界以外でもRFIDの導入を検討する企業が増えています。しかし、導入ケースによってはコストがネックになることもあります。そのため、「導入範囲を明確にし、できる限り費用対効果を高められる方法を検討すること」が大切です。最後にご紹介した「Locus Mapping」やRFIDの生産・工程管理は、費用対効果を高める方法の一例です。複数メーカーのハンディリーダーに対応していますので、リーダーと合わせて検討することのがおすすめです。RFIDの導入は、今回ご紹介したRFIDタグの価格動向を踏まえ、導入の費用対効果を高める方法を把握しながら、自社に合った導入プランを検討していきましょう。以下の動画も参考にしてみてください。