製造現場にある「人」「機械」「材料」「製造方法」をまとめて「4M」と呼びます。製造現場の4Mの条件に応じて製品の品質は変わるため、各要素の条件を変更した際の変化を把握しておく必要があります。4Mの条件変更の管理は、どのように行うべきなのでしょうか?今回は品質管理の鍵を握る4Mの管理方法について、わかりやすく解説します。
品質管理における「4M」とは
4Mとは、製造現場で製品の品質管理を正確に行うために欠かせない4つの要素をいいます。
- Man(人)
- Machine(機械)
- Material(材料)
- Method(製造方法)
上記の4つの要素の頭文字が「M」のため、「4M」と呼ばれています。ここでは、それぞれの要素について詳しく解説します。
Man(人)
Man(人)は、現場の作業員を指します。
製品の品質を一定に保つためには、現場の作業員の能力の維持が欠かせません。現場の作業員を変更すると、製品の品質にバラつきが生じたり生産数が低下したりします。このように、作業員毎の製品品質や生産量を予測することでトラブルが防止できるのです。
また、作業員間のスキルの差を見つけた場合は、熟練度の低い人材には研修を受けさせるなどの対策が打てます。そのため、現場の作業員のスキルやシフトを管理する必要があるのです。
Machine(機械)
Machine(機械)とは、製造現場に設置されている機械を指します。
製品の品質を一定に保つためには、機械の点検やメンテナンスを実施して、性能が低下しないように注意しなければいけません。機械が停止すれば、生産量は落ちてしまいます。また、性能が低下すれば製品品質が落ちてしまいかねません。
機械の生産への影響を把握しておけば、最新機械を導入すべきか、レイアウトを変更すべきかなど判断できるようになります。
Material(材料)
Material(材料)とは、製造現場で使用される原材料や部品を指します。
製品の品質を一定に保つためには、品質が均一化された原材料や部品の調達が欠かせません。不適合品がないか、受入検査を入念に行う必要があります。不適合品が混在していれば製品の生産量が落ちてしまうため、注意が必要です。
このような問題を防止するために材料の管理を行います。材料の管理を行えば、より良い条件の仕入先を選べるようになります。
Method(方法)
Method(方法)は、製品の製造方法を指します。
製品の品質を一定に保つためには、マニュアルを作成して製造方法を標準化する必要があります。
製造方法を変えれば、製品の品質や生産量は大きく変わります。そのため、製造方法を管理して、どの方法が最適かを判断しなければいけません。
最適な方法を選択できれば、業務効率化が見込めるだけではなく、事故なども起きにくくなります。
4M変更管理とは
4M変更管理とは、製造業界で活用されている品質管理の手法です。製造現場では、作業員の変更や機械の入れ替えなど条件変更が求められることが多くあります。
4Mの製造への影響度を考慮して生産計画を立てることで、事故を防げるのです。
例えば作業員のスキルにより、1時間の生産量は異なります。生産量が下がることを見込んで対策しておけば、トラブルが起きて慌てることもありません。このような各要素を変更した際の結果を管理することを「4M変更管理」といいます。
4M変更管理に必要な理由
「4M変更管理」が必要な理由は主に3つです。
- 現場の課題を洗い出せる
- 現場の事故を防止できる
- 製品品質を上げられる
ここでは、それぞれの理由について詳しく解説します。
現場の課題を洗い出せる
4M変更管理を行えば、製造品質が下がったり、事故が起きる要因を洗い出せます。その理由は、どのような要素の条件を変更すると生産に影響が出るのか見直す機会が得られるためです。
例えば作業スタッフの変更により1時間の生産量が減ってしまったら、教育の場を設ける必要があることがわかります。このように現場の課題を洗い出して改善していける点が、4M変更管理の魅力です。
現場の事故を防止できる
4M変更管理を行えば、どのような項目の条件を変更すると製造現場に影響が出るか予想できるようになります。その理由は、項目の条件を変更した影響をデータ管理しているためです。
製造現場では予想外のトラブルが発生したときに報告をさせ、対処法を決めます。どのような影響が出てどのような対処法で解決したかをまとめておけば、トラブルの再発が防げます。
製品品質を上げられる
4M変更管理を行えば、どのような条件であれば品質が高い製品を製造できるか判断できるようになります。そのため、製品品質を上げるためにも4M変更管理が行われているのです。
4M変更管理を徹底してマニュアルを整備しておけば、誰でも基準以上の品質の製品を作れるようになります。また、4M変更管理をすることで、品質管理者の現場改善意識が養えます。
4M変更管理の手順
4M変更の手順は以下の通りです。
- 製造現場の各要素の変化条件を洗い出す
- 変化項目の影響度をランク付けする
- 対応策をマニュアルにまとめておく
ここでは、各手順についてわかりやすく解説します。
製造現場の各要素の変化項目を洗い出す
まずは、製造現場の「人」「機械・設備」「材料」「製造方法」に関する変化項目を洗い出します。各要素の変化項目としては、以下のようなものが挙げられます。
■4M変更管理の各要素の変化項目
Man(人) |
作業員の変更、ローテションなど |
Machine(機械) |
機械の故障、設備の変更、レイアウトの変更など |
Material(材料) |
材料の変更、仕入先の変更など |
Method(方法) |
製造方法の変更、製造条件の変更など |
変化項目の影響度をランク付けする
次に、各項目の中で生産に影響を与えるものをランク付けします。このランク付けを行う際は、日頃の生産管理システムのデータ分析結果を活用するとよいでしょう。
また、IoTセンシング技術を利用して、人や機械の稼働状況のデータを蓄積することもできます。IoTで収集したデータをAIで分析すれば、変化項目の影響度のランク付けを効率化できるのでおすすめです。
対応策をマニュアルにまとめておく
変化項目の影響度のランク付けをした後に、各項目の対応方法をマニュアルにまとめておきます。マニュアルを作成する際には、製造現場の習熟度が低い社員が確認しても、わかるようにしておくことが大切です。
また、製造現場の4M変化項目をすべて把握するのは大変です。そのため、重要な対応策が一目でわかるようなマニュアルを作るなど工夫をしましょう。
4M変更管理で業務変革した成功事例
最後に4M変更管理で業務変革に成功した企業事例をご紹介します。
リードタイムを短縮(日立建機株式会社)
日立建機株式会社は、ITをフル活用して品質管理の業務変革を行っています。IT活用で業務変革を始めた理由は、世界共通モデルのローカライズ化によりサプライヤー数が増えたためです。
また、ビジネスの競争激化により求められる品質も高くなりました。これらに対応するために、生産業務プロセスを見直す必要があったのです
近年、データ偽装や無資格検査が社会問題化したことを踏まえて品質コンプライアンス強化も行いました。4M変更管理データをデータベースで保管して、海外にあるグループ会社にも共有し、製品品質の向上に取り組んでいます。また、同社は出荷検査、ライン内検査はAIを活用して自動判定しており、リードタイムを短縮しています。
グローバル対応に向けて4M変更を実施(ダイキン工業株式会社)
フッ素化学製品メーカーのダイキン工業株式会社では、各製造拠点で4M変更管理を行っていました。淀川工場を本工場として他拠点に展開していくことを考えていましたが、従来のシステムは他拠点からアクセスできないことがネックとなっていました。
また、従来のシステムでは変更管理の申請や承認が主目的となっていたため、その結果がわかりにくい状況でした。新しいシステムに切り替えることで、これらの課題を解決したのです。また、同社では変更管理に関するデータ入力作業を軽減するために、他のシステムと連携させるなどの工夫をしています。
工場認定と商品開発のプロセスを統合(株式会社無印良品)
株式会社無印良品は、約900の工場と連携し、7,000アイテムの商品を展開しています。「生活者は暮らしの中で何を求めているんだろう」という発想で商品作りを行い、価格競争に陥らないブランド展開に成功しています。
同社では年間4,000種類の新商品のリリースをするため、業務プロセスを現場の部署に任せていました。その結果、品質保証部の目が届きにくく、状況が把握できていませんでした。
また、同社は自社設計、自社製造をせず、全てを優良な工場に任せ切りになっていた点も課題でした。工場毎に製造工程がバラバラだったのです。品質管理システムを導入して状況を共有し合うことで、このような問題を解決しました。
品質改善に必要な要素を網羅し、業務の標準化・進捗を見える化することで、7,000アイテムの商品展開をしても、高品質な商品を維持できているのです。
まとめ
4Mとは「Man(人)」「Machine(機械)」「Material(材料)」「Method(製造方法)」を指します。各要素の条件が変わるだけで、製品品質に影響が出たり、事故が発生したりします。逆に、各要素の条件変更による影響を把握しておけば、トラブルを予測できて事故の防止もできるようになるのです。これを機に4M変更管理を行い、品質の高い製品を製造できる仕組みを整えてみてはいかがでしょうか。