製造業における生産効率とは?生産性との違いや計算方法、生産効率を上げる方法を解説

  • 10月 31, 2024
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人手不足を解消したい、売上をアップさせたい、品質価値を高めたいなど、さまざまな理由から、生産効率の向上に取り組む企業が増えています。

しかし、そもそも生産効率とはどのようなものか、生産効率を向上させるメリットや方法がわからないという方も多いかもしれません。今回は、生産効率の概要や計算方法、具体的な改善方法やメリット、生産効率向上に取り組む際の注意点などについて詳しく解説します。

生産効率とは

生産効率とは、生産における稼働状況を把握する目安となる指標です。生産効率を算出すれば、生産に必要なコストに対して、実際にはどの程度のコストがかかったかを明らかにできます。

例えば、10人で100個作れる製品があったとします。このとき、5人で100個の製品を作った場合は生産性が上がったことになり、15人で100個の製品を作った場合は生産性が下がったことになります。

また、1時間に100個の製品が作れる設備があったとします。しかし、設備の故障やトラブルにより、1時間に80個の製品しか作れなかった場合は、生産効率が下がったと表現されます。

生産効率と生産性の違い・関係

生産効率とよく似た言葉に「生産性」という言葉があります。生産効率が生産における稼働状況の指標であるのに対し、生産性は投入したコストに対する出来高を示す指標です。そのため、生産性を算出すれば、製品がどのくらい少ないコストで生産できたかを把握できます。

生産の現場において、両者は互いに関連しています。しかし、生産効率が上がれば、必ずしも生産性が上るというようなプラスの相関関係があるとは限りません。例えば、生産効率を重視するあまり生産性が下がってしまうケースや、生産性を上げた結果、生産効率が下がってしまうケースも起こりえます。

生産性の向上と生産効率の最適化を実現するためには、短期的な出来高や効率性だけに目を向けるのではなく、全体の稼働率や標準時間等を考慮し、総合的な改善、対策を行うことが重要です。

生産効率と生産性の計算方法

生産効率は以下の計算式で求められます。

生産効率 = 生産に必要なコスト/ 実際に投入されたコスト

計算式中にある「生産に必要なコスト」とは、製品の製造に必要な労働人数や工数(時間)を指します。一方、「実際に投入されたコスト」とは、製品を製造する際に実際に要した労働人数や工数(時間)を指します。人数や時間以外でも、金銭的なコストや物の数量などでも生産効率は算出可能です。

生産効率は100%に近いほど、無駄のない効率的な生産活動が実現できていることを示します。反対に、生産効率が100%を大きく下回っている場合は、作業で無駄が生じている可能性が高いことを示します。

また、生産性は以下の計算式で求められます。

生産性 = 産出量 / 投入量

計算式中にある「産出量」とは、生産した製品・部品の数や販売額等、実際にあがっている労働の成果(アウトプット)の量を指します。一方、「投入量」とは、労働人数や生産に必要な工数、消費した原材料等、生産のために投入された資源の量を指します。

つまり、「生産性が高い」とは、少ない労働人数や工数で、多くの製品を生産できている状態を指します。なお、この「投入量」は、求めたい生産性の種類によって、どの数値を当てはめるかが異なります。

例えば、労働生産性を求めたい場合は、投入した労働量を、資本生産性を求めたい場合は投入した資本量を、原材料生産性を求めたい場合は、投入した原材料の量を分母に当てはめることで、生産性が算出できます。

生産効率の向上が求められる理由

生産効率の向上は、製造業をはじめとした多くの企業で早急に取り組むべき課題として位置付けられています。

では、なぜ生産効率向上が強く求められているのでしょうか。その理由として挙げられる「生産年齢人口の減少」「国内・海外市場の競争激化」の二点について解説します、

生産年齢人口の減少

生産年齢人口とは、生産活動の中核を担う15歳から64歳までの人口総数を指す経済用語です。日本の生産年齢人口は、少子高齢化などの影響から、1995年以降減少傾向にあり、2020年度の国勢調査では7,509万人となっています。

国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、生産年齢人口の減少は今後もさらに進み、2070年には4,535万人となると推計されています。

生産年齢人口が減少すれば、多くの企業が労働力不足に陥ります。製造業の受ける影響は特に深刻とされており、企業存続のためにも生産効率の向上が喫緊の課題です。

国内・海外市場の競争激化

近年では、国内だけでなく、海外市場での競争も激化しています。特に付加価値が高い製品や、低価格な製品を数多く開発、製造する海外企業と対等に戦うためには、日本企業も高い生産性や効率性を保つことが不可欠とされています。

日本の生産性や効率性は海外企業と比較して決して高いものではありません。そのため、生産効率を向上させるための改善策や対策を行わず、現状維持のままでは、競争に負けて市場から淘汰されるリスクが高まります。つまり、国内や海外市場で勝ち残り、利益を確保していくためにも、生産効率の向上は製造業が取り組むべき重要な課題といえます。

生産効率を向上させるメリット

生産効率の向上は、企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。詳しく確認していきましょう。

コスト削減

生産効率の向上は、無駄なリソースの削減や最適なリソース配分を可能にし、製造コストを下げることにつながります。材料費、人件費、エネルギーコストなどが削減されるため、利益率の向上が見込めます。

利益増加<

生産効率の向上が実現すれば、同じ時間、同じ労働力でより多くの製品を製造できるようになります。生産量が増えれば、その分、売上の増加、固定費の分散が見込めるため、結果として企業利益の増加につながる可能性が高くなります。

また、効率的な生産体制を確立すれば、市場や需要の変化への柔軟な対応が可能になります。これにより販売機会損失を防止し、収益機会を最大化できるため、さらなる利益アップが期待できます。

顧客満足度の向上

生産効率が向上すると、不良品やミスの発生が減り、製品の品質が安定・向上します。高品質な製品の安定した提供は、顧客満足度を高め、リピーターや新規顧客の獲得にもつながります。

また、生産効率の向上により、受注から納品までのリードタイム短縮が可能になります。短納期での納品等、顧客の要望に迅速に対応できるようになるため、さらなる顧客満足度の向上や、新たなビジネスチャンス獲得が期待できます。

従業員のモチベーション向上

生産効率が向上すれば、業務のムリ・ムダ・ムラが減り、従業員の作業負担が軽減します。従業員が本来の業務に集中して取り組める環境が整うため、モチベーションやパフォーマンスの向上が期待できます。

生産効率を向上させる方法

生産性効率を向上させる方法には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。詳しく確認していきましょう。

業務の現状把握

生産効率の向上を実現するために、最初に取り組むべきなのが、業務現状の把握です。現場で行われているすべての工程を洗い出し、誰が、いつ、どのような作業を、どのような手順で行っているか、正確に理解しましょう。

業務の現状をしっかりと把握することで、生産効率低下を招いている問題点や課題点が発見しやすくなり、効果的な解決策や改善策の立案も可能になります。

業務の可視化

業務の現状が把握できたら、続いて業務の可視化を行います。業務の可視化とは、フローチャートやプロセスマップなどを用いて、業務内容や作業工程、生産数や業務にかかる時間を視覚化することを指します。

業務の可視化を行うことで、ボトルネックとなっている工程や作業がどこか、無駄が発生している工程や作業がどこかを一目で把握できるようになります。

可視化された情報やデータは従業員へ開示・共有することも重要です。データや数値をいつでも確認できる状態にしておくことで、従業員に生産効率改善への共通認識や目的意識を持ってもらいやすくなります。

ムリ・ムダ・ムラの削減

業務の全体像が把握できたら、現状の業務が抱えている問題点や課題点を洗い出します。課題や問題の洗い出しは、現状の業務で発生している「ムリ・ムダ・ムラ」に着目するとスムーズに進みます。

  • ムリ:従業員にムリな仕事を担当させていないか

   特定の従業員に過度な負担をかけていないか など

  • ムダ:昔からの慣習やルールにより業務が滞っていないか

   ムダな手間が発生していないか など

  • ムラ:製造工程での問題から品質にムラが出ていないか

   従業員の経験やスキルによって作業時間にムラがある業務がないか など

これらのムリ・ムダ・ムラを削減する施策を実行することも、生産効率を向上させるために効果的な方法といえます。

DX化の推進

紙や手動での管理を廃止し、業務のDX化を推進することも重要です。DX化に役立つシステムやツールの導入にはコストがかかりますが、手動での管理より紛失やミスが起こりにくく、正確かつ効率的な管理が可能になります。

近年では、生産管理や在庫管理、工程管理、入出庫や購買管理など、企業のDX化、自動化に役立つシステムが数多く誕生しています。導入するシステムを検討する際は、自社の生産効率向上を目指すためにはどのような機能が必要か、既存システムとの連携が可能か、複数のプロジェクトや部署で横断的な管理が可能かといった点を考慮して選択するとよいでしょう。

また、AIやIoT技術の活用も生産効率向上に大いに役立ちます。特に故障、異常等、人間では気づきにくいトラブルを予知、検知できる点は大きなメリットといえるでしょう。

関連記事:デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?3つの成功事例から学ぶ技術戦略

設備レイアウトの改善

設備レイアウトの見直し、改善も生産効率の向上の施策として有効です。設備レイアウトの改善を図ることで、作業者の動線を短縮し、移動や運搬にかかるロスが防げます。また、関連する作業が効率的に行えるように、設備や機械、必要な材料の配置を見直すことも重要です。

設備レイアウトが最適化できれば物理的な作業環境の改善はもちろん、従業員への作業負担の軽減につながり、業務全体の効率性の向上が目指せます。

生産効率の向上を目指す際の注意点

生産効率の向上に向けた取り組みをスムーズかつ効果的に行うためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。詳しく確認していきましょう。

目的・目標を明確にする

生産効率の向上を実現するためには、従業員の協力が不可欠です。従業員に目的意識を持って、改善活動に取り組んでもらうためには、以下の点を明確にし、定期的に共有することが重要です。

  • 生産性向上を目指す目的
  • 生産性向上により得られる効果やメリット
  • 具体的な目標数値や進捗状況

生産性向上の取り組みを行う目的や目標が明確かつ具体的であれば、社内での認識が統一され、改善への取り組みがスムーズに進みやすくなります。

適切なシステム・ツールを導入する

新しいシステムやツールを導入する際は、自社の求める機能が揃っているか、導入によりどの程度の効率化が見込めるかを慎重に検討しましょう。システムやツールの運用に長けた人材が不足している場合は、トラブルやアクシデントが起きた際のサポート体制についても確認しておくようにします。

また、実際にツールやシステムの運用を行う現場の従業員の意見を尊重したシステム、ツール選定を行うことも重要です。現場の意見を取り入れず、トップダウンで導入を進めると、現場で活用されず費用が無駄になってしまった、導入により逆に生産効率が低下してしまったなどの事態を招く可能性が高くなります。

まとめ

生産年齢人口の減少、国内外での競争の激化など、製造業を取り巻く背景はめまぐるしく変化しています。限りある人材を有効に活用し、企業の競争力を維持するためにも、生産効率の向上は早急に改善すべく重要な課題といえるでしょう。

生産効率の向上に寄与する方法には、システムやツールを導入したDX化の推進、設備レイアウトの見直し等、さまざまなものがあります。生産効率向上の取り組みに着手する際は、自社の抱える問題や従業員のモチベーションを考慮しつつ、最適な施策を選択、実行していくことが重要です。