2020年から、日本でも5G「第5世代移動通信システム」の提供が開始され、大量のデータが高速に通信可能となります。5Gにより、身の回りのあらゆるモノがネットワークに繋がる「IoT」の導入も進んでいくでしょう。
IoTを活用することで、従来可視化されていなかったデータの取得が可能になります。取得したデータを集約する際に、重要な役割を担う技術が「クラウドコンピューティング」です(単に「クラウド」と呼ばれることもあります)。また、「クラウドコンピューティング」を補完する役割を担う、「エッジコンピューティング」にも注目が集まっています。
ただ、「クラウドコンピューティング」や「エッジコンピューティング」について、聞いたことはあるものの、明確に説明できる人は、少ないのではないでしょうか?
そこで本稿では、
- クラウドコンピューティングとは?
- クラウドコンピューティングが普及した背景
- IoTにおけるクラウドコンピューティングの役割
- エッジコンピューティングの役割
についてご紹介します。
更なる普及が期待される「クラウドコンピューティング」
まずは「クラウドコンピューティング」についてご説明します。クラウドコンピューティングとは、ネットワーク経由でソフトウェアやアプリケーションなどを「必要な時に、必要な分だけ利用するサービス」の総称です。
例えば、以前はMicrosoft Wordを利用する際には、パソコンにソフトウェアがインストールされている必要があり、データはパソコン自体に保存されていました。
一方、クラウドの場合はパソコンにソフトウェアがインストールされていなくても、Microsoft Office 365にインターネット経由でアクセスすることで、Microsoft Wordを利用できます。
その他にもGmail、Dropbox、AWSのS3など様々なクラウドサービスが提供されています。
このようなクラウドサービスが普及した背景には、CPUの高速処理化・仮想化、ネットワークの高速化といった技術革新があります。
また、ソフトウェアを導入する企業は、サーバーの購入コストや維持/運用コストを抑えれます。さらに、ユーザーにとっては、1つのデータを多人数に共有できる利便性もあり、クラウドは急速に普及しました。
しかし、日本は他国と比べると、クラウド後進国と言われています。2022年に、アメリカではIT支出全体の14%をクラウドに投資すると予測される一方で、日本では3.0%と、まだまだクラウドの普及する余地が残っています。この状況は、日本政府が政府共通プラットフォームとしてAWSというクラウドサービスの利用を決定したこともあり、徐々に変わっていくでしょう。
[参考文書]
政府システムのクラウド基盤、AWS採用を正式決定
IoT時代に欠かせない「クラウド」の役割
IoTとは、Internet of Thingsの頭文字をとった用語であり、あらゆるモノがネットワークに繋がることにより、新たな価値を生み出すことを指します。「モノのインターネット」とも呼ばれます。
様々なモノからデータを取得できるIoT化が進めば、構造化されていない大量のデータ(ビッグデータ)を取得・分析して、新たな価値を生むことが可能です。
IoTの普及には、ネットワーク速度とコストが課題でした。
従来のネットワークには、大量のデータ通信を高速に処理するスピードがなく、データ通信・保存環境の維持に膨大なコストが掛かっていました。
しかし、クラウドサービスの登場によって、「必要な時に、必要な分だけ」のデータ通信、保存、処理が可能になりました。
さらに、今後5Gが普及することで、ネットワークが高速化し、IoTはより普及しやすい環境になるでしょう。
以上のように、IoTの普及にはクラウドの存在が欠かせません。
クラウドを活用して、取得したデータを解析すれば、新たな価値を生み出すことができます。
例えば、車に取り付けられたセンサーから取得したデータを分析して、ブレーキの使用状況からメンテナンスの時期を自動で知らせてくれたり、路面状況の把握が可能になる未来も遠くないでしょう。ただし、「自動運転」に関しては事情が異なります。センサーによって自動で車を制御することは可能ですが、車とクラウドがデータを通信する場合に「遅延」が発生してしまいます。遅延が生じると、ブレーキが間に合わないなどの問題が起きます。
このような「遅延が生じる」などの問題を解決するために、「エッジコンピューティング」という仕組みが考えられています。
クラウドコンピューティング vs エッジコンピューティング
ネットワークが高速化しているものの、大容量データを送受信すると費用が高くなり、さらに、通信に遅延が生じる恐れがあります。
そこで、通信の遅延を防ぐ技術として注目を浴びているのが「エッジコンピューティング」です。
クラウドコンピューティングがインターネット経由でクラウドサーバーにアクセスするのに対して、エッジコンピューティングは、パソコンやスマホなど、ユーザー端末の近くに、分析・処理をするサーバーを配置します。
(出典)総務省「IoT時代におけるICT産業の構造分析とICTによる経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究」(平成28年)
上図のように、エッジコンピューティングはクラウドコンピューティングと並行して使用されることが多く、全てのデータをクラウドに送信するのではなく、手元で処理可能なデータは手元で処理します。
エッジコンピューティングが検討されているのには以下のメリットがあるからです。
○通信コストの削減
通信コストは昔に比べると大幅に低下していますが、IoTであらゆるモノからデータを取得できるようになったため、データ量が膨大になっています。大容量データの一部でも手元で処理し、必要なデータだけを通信し、通信コストを削減することが可能です。
○セキュリティの強化
あらゆるモノからデータ取得できるようになった一方、データをクラウドに蓄積する際の漏洩リスクが懸念され、セキュリティ意識が高まっています。エッジコンピューティングでは、インターネットを介したクラウドとの送受信が必要ないため、漏洩リスクがなくなります。
○リアルタイム性の担保
ネットワークは高速化していますが、クラウドとのデータ送受信に数百ミリ秒から数秒の遅延が発生します。例えば、自動運転や遠隔手術ではリアルタイムなデータ処理が必要です。その際、必要な処理を手元側ですることによって、リアルタイム性を実現します。
今後、75%のデータはデータセンターではなく、エッジ等で処理されるようになるという予想もあります。
[参考記事]
What Edge Computing Means for Infrastructure and Operations Leaders
上記のようにエッジコンピューティングには様々なメリットがありますが、全ての処理をクラウドコンピューティングからエッジコンピューティングに移行すれば良いわけではありません。
クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングの強みと弱みを理解して使い分けることが重要です。
例えば自動運転では、ブレーキをかけるタイミングはリアルタイムな対応が求められるのでエッジコンピューティングで処理し、ナビなどの多少の時間的誤差が許容される処理はクラウドコンピューティングで処理するなどです。
このようにクラウドコンピューティングは大局的な分析・判断に使用し、エッジコンピューティングは局所的な分析・判断に使用することが望ましいでしょう。
まとめ
IoTを活用する上で、効果的にデータを収集・分析することは重要なポイントです。
それを支えるのがクラウドコンピューティングです。クラウドにもまだまだ課題はあり、それを補うのがエッジコンピューティングです。
それぞれの特徴を理解して、自社の課題に合った活用をすることが重要です。本稿も参考にしながら、IoT導入を進めてみるとよいでしょう。