世界最大の会計事務所「デロイト・トーマツ社」が2019年8月にまとめた報告書では、「ブロックチェーンがビジネスに浸透しはじめた」との見解が示されました。
参考資料:Deloitte’s 2019 Global Blockchain Survey
今やブロックチェーンはフィンテック分野を中心に、製造業や物流業、政治などのあらゆる場面で活用され始めています。
しかし、日本ではブロックチェーンの活用事例が少ないこともあり「ブロックチェーンとは何か?」、「IoTとブロックチェーンはどのような関係性があるのか?」と、疑問を持たれている方も多いのではないでしょうか?
そこで本稿では、
- ブロックチェーンとは何か、またその特徴は?
- IoTとブロックチェーンの関係
- ブロックチェーンの活用事例
など、ブロックチェーンに関する知識を分かりやすく解説します。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーン(Blockchain)とは、取引データのかたまり(Block)が一本の鎖(Chain)で繋がれたデータ構造です。
ブロックチェーンの構造
取引「AさんからBさんに1,000円を送金する」を例にして、ブロックチェーンの構造を確認していきましょう。
取引データの流れは、
①Aさんの口座から1,000円が引き落とされる
②Bさんの口座にAさんから1,000円が振込まれる
となり、①、②の取引データが「【①】ー【②】」のように一本の鎖で繋がれてブロックチェーンが作られます。
それぞれのブロックには、「処理内容」、「金額」、「受信先(送信先)アドレス」といった、取引に関する全ての情報が格納されています。
そのため「誰が、どのような処理を行ったか?」は、ブロックの中身を確認すると分かります。今回の例では、【①】のブロックデータを分析することで、Aさんの取引内容を確認できます。
ブロックチェーンの3つの特徴
ここではブロックチェーンの代表的な3つの特徴をご紹介します。
特徴①:分散台帳/セキュアなデータ保管
一つ目の特徴は「分散台帳」です。
取引データである「ブロック」は、特定の一か所ではなく、複数の場所(ノード)にコピーされて保管されます。データが1か所に集中せずに分散して記録されることから「分散台帳」と呼ばれます。
分散台帳であれば、1か所がハッキング等の攻撃を受けたとしても、他のノードが無事であればデータの整合性が保たれます。これが「ブロックチェーンはセキュリティに優れる」と言われる理由です。
なお、2009年にブロックチェーンの運用がスタートしてからこれまで、脆弱性をついた犯罪は報告されておらず、その高い安全性が証明されています。
特徴②:不可逆性/ハッシュ関数による改ざん防止
二つ目は「不可逆性」です。
不可逆性とは「元の状態に戻せない」特性を意味します。
一つ一つのブロック情報は、外部から盗聴・改ざんができないように、しっかりとカギがかけられています。
ブロック情報の施錠には、ハッシュ関数を使って計算した「ハッシュ」をカギとして使います。一度作られたハッシュを作り直すのは困難とされていることから、「ブロックチェーンは不可逆性がある」と言われます。ブロック情報を閉めたカギの複製が困難であるため、データを改ざんされる心配は要りません。
特徴③:スマートコントラクト/契約の自動化
最後3つ目は「スマートコントラクト(契約の自動化)」です。
スマートコントラクトとは、ある条件をトリガーとして、予め決められた契約内容を自動で実行することを意味します。
自動販売機を例にすると分かりやすいかと思います。利用者が購入代金を投入する、商品のボタンを押す、これら2つの条件が満たされたら商品を販売する。この一連の契約処理をブロックチェーン上で実装するイメージです。
もちろん、ブロックチェーンを利用しなくても、プログラムを組めば契約処理を実装できます。スマートコントラクトが一般的な実装と決定的に異なるのは、ブロックチェーンと連動することです。
特徴①、②でも触れたように、ブロックチェーンでデータを管理することで、改ざんされない安全性の高いセキュアな契約処理を実装できます。
IoTとブロックチェーンの関係
ここで、IoTとブロックチェーンの関係性に触れます。
本稿のはじめに「ブロックチェーンは一本の鎖で繋がったデータ構造」とお伝えしました。
では、IoTに求められるデータ構造とはどのようなものでしょうか?
IoTでは多くのデバイス同士が連携します。データが攻撃されてもサービスをダウンさせないことが求められますし、データが改ざんされない強固なセキュリティも必要です。デバイス同士のコミュニケーションは自動化の実装が必要になるでしょう。
これら全てに対応しているのが「ブロックチェーン」です。
ブロックチェーンであれば、分散台帳でサービスの安全性が保てますし、ハッシュによる頑丈なカギでブロック情報が守られていますので、データ内容は書き換えられません。スマートコントラクトを使えば、IoTの処理を自動化できます。
このような理由から「IoTに必要とされる条件にブロックチェーンがマッチしている」と言えます。
IoTの基礎知識や活用事例については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
IoTとは?IoTの最新動向と活用事例をわかりやすく解説
IoT × フィンテック/ブロックチェーンの動向
ここでは、フィンテック分野でのブロックチェーンの動向をご紹介します。
①LINE/LINK Chain
LINEは独自ブロックチェーン「LINK Chain」構想を打ち出しています。
国内ユーザー8,000万人以上、全世界でのユーザーは2億人以上と言われるLINEは、ブロックチェーンを活用することで、これまでにないセキュアでフラットな決済環境の構築を目指しています。
参考資料:LINE Token Economy構想(LINE Tech Plus Pte.Ltd)
②Facebook/Libra(リブラ)
2019年6月、Facebookは独自の暗号通貨(リブラ)を使った「リブラ計画」を発表しました。
しかし、金融機関や各国の強い反発により、現在は計画が実現できるか先行きが不透明な状態です。
「全世界20億以上のユーザーを抱えるFacebookの暗号通貨が流通すれば、各国の貨幣価値に多大な影響を与える」というのが、計画に否定的な意見の主な理由です。例えば、経済が不安定になった国で多くの国民が自国の貨幣をリブラに換算すれば、その国の貨幣価値はさらに下がってしまうことでしょう。
このようなネガティブな課題が解決されれば「世界中の統一貨幣」を掲げるリブラ計画は大きく前進する可能性があります。
③MUFG/progmat(プログマ)
国内の大手金融機関にも動きがあります。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、独自のデジタル証券を発行する「progmat(プログマ)」構想を打ち出しています。現在、世界各国の21の企業が参加するコンソーシアム(STコンソーシアム:STC)を立ち上げ、検証実験を行っています。
金融機関がブロックチェーンを採用するメリットは「コスト」と「安全性」です。ブロックチェーンを活用すれば、海外への送金手数料が格安になるばかりでなく、各国の貨幣価値に依存せずに安定した取引が実現できます。
IoT x 物流・製造/ブロックチェーンの動向
物流業や製造業でのIoTは、産業用IoT(Industrial Internet of Things:IIoT)と呼ばれます。
ここでは、IIoTの分野におけるブロックチェーンの活用事例をご紹介します。
①ブロックチェーンロック/カーシェア事業にブロックチェーンを活用
ブロックチェーンロック株式会社は、ブロックチェーンをベースにしたIoTプラットフォーム「KEYVOX」をカーシェア事業に展開しています。
「KEYVOX」はロック処理に特化したプラットフォームで、スマートコントラクトで「契約が完了したらエンジンをかけられるようにする」などの契約内容を組み込むことで、安全なカーシェアの実現を目指しています。
②ニトリ/DXにブロックチェーンを活用
DXとは、「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)」の略で、ビジネスのデジタル変革を意味します。
ニトリはDXを進めており、その一環として2020年秋にもブロックチェーンを活用した新たな物流網を稼働させることを発表しています。
現在のニトリの物流には150社もの運送業者が関わっているそうですが、各業者ごとに契約書を取りかわすため、契約に関わる紙代や人件費などに多額のコストがかかることが課題でした。
この問題を解消するために、スマートコントラクトの自動契約を活用することで契約書のやり取りを軽減し、さらには物流網の透明性を確保することでDXの推進を実現するべく、ブロックチェーンの導入を決定しました。
参考資料:日本経済新聞「デジタル物流、ニトリ変身 秋にもブロックチェーン稼働」
③日通/RFID×ブロックチェーンで安全な医薬品の物流網を目指す
日通は、2021年を目途にブロックチェーンを活用した医薬品の物流網を構築すると発表しました。
医薬品に取り付けたRFIDタグの情報を、ブロックチェーン上に記録する仕組みです。厚生労働省が発表している医薬品の適正流通ガイドライン(GCP:Good Distribution Practices)に挙げられている要件をクリアするために、ブロックチェーンを採用したとみられています。
参考資料:日本経済新聞「日通、ブロックチェーンで偽造品排除 物流に1000億円」
RFIDタグについて詳しく知りたい方は、以下の記事を、ぜひご覧ください。
「RFIDタグの失敗しない選び方〜タグメーカーを一挙紹介〜」
まとめ
ブロックチェーンは、フィンテック分野を中心にあらゆる産業に広がっていくことが予想されています。
今回事例として取り上げたRFIDとブロックチェーンを組み合わせた物流網は、atmosやNIKEも検証実験をスタートしています。
参考資料:ブロックチェーンを活用したRFIDタグ(atmos)
参考資料:Ledger Insights「Nike, Macy’s trial blockchain with RFID for tracking products in supply chain」
国内では、将来的に全商品がRFIDタグで管理されるかもしれないコンビニの物流網でも活用されることでしょう。ブロックチェーンの「改ざんできない」利点を活かして、食品の流通管理などに使われることも考えられます。
物流・製造の分野ではブロックチェーンを活用する動きが活発化しています。そのため、IoTを活用したデジタル物流網を検討する際には、ブロックチェーンに詳しいベンダーと相談しながら導入を進めるのが良いでしょう。