ドローンとは、遠隔操作や自律飛行が可能な無人航空機を指します。近年では、空撮や物流、災害救助、農業など、さまざまなシーンでドローンの活用が広がっており、その認知度も向上しています。
しかし、ドローンという名前は知っているものの、ドローンが飛ぶ仕組みや機体の構造について詳しく理解しているという方は少ないかもしれません。そこで今回は、ドローンがなぜ飛ぶのか、その仕組みや基本的な構造について詳しく解説します。
ドローンが飛ぶ仕組み
ドローンの飛行は、物理的な法則と精密な技術の組み合わせによって実現しています。ここからは、ドローンが飛ぶために必要な「揚力と重力のバランス」「プロペラの回転による推進力」「方向制御の仕組み」の3点について詳しく解説します。
揚力と重力のバランス
ドローンが飛ぶためには、揚力が重力と釣り合う、もしくは揚力が重力を上回る必要があります。揚力とは、物体が空気や液体の中を移動する際に、上向きに発生する力を指します。
ドローンはプロペラの回転によって揚力を生み出し、機体を空中に持ち上げます。揚力が重力よりも強ければドローンは上昇し、逆に弱ければドローンは下降します。揚力と重力のバランスを正確に制御することで、ドローンは安定した飛行を可能にしています。
プロペラの回転と推進力
多くのドローンは、4枚以上のプロペラを持つマルチコプター形式を採用しています。ドローンが飛行する際、各プロペラは高速で回転し空気を押し下げ、その反作用で機体を上昇させます。
ドローンのプロペラの大きさや回転速度は、飛行性能や安定性に大きな影響を与えます。たとえば、プロペラの直径の大きいドローンは、より多くの空気を捉えられるため、大きな浮遊力や推進力を生み出します。反対にプロペラの直径の小さいドローンは、総重量が軽くなるため、機敏な飛行が可能になります。
方向制御の仕組み
ドローンのプロペラには、それぞれにモーターがついており、各々が独立して動ける特徴があります。そのため、回転速度を個別に調整することで、さまざまな方向に移動できます。
ドローンが「上昇・下降」「前後移動」「左右移動」「旋回」する際、プロペラの回転速度がどのように変化しているか、詳しく解説します。
上昇・下降
プロペラの回転速度を一律に上げると揚力が増し、ドローンは上昇します。反対にプロペラの回転速度を一律に下げると揚力が減り、ドローンは下降します。
前後移動(ピッチ)
前方のプロペラの回転速度を下げ、後方のプロペラの回転速度を上げると、機体が前傾し、ドローンは前進します。反対に前方のプロペラの回転速度を上げ、後方のプロペラの回転速度を下げると、ドローンは後退します。
左右移動(ロール)
左側のプロペラの回転速度を下げ、右側のプロペラの回転速度を上げると、機体が左に傾き、ドローンは左へ移動します。反対に左側のプロペラの回転速度を上げ、右側のプロペラの回転速度を下げると、機体が右に傾き、ドローンは右に移動します。
旋回(ヨー)
対角線上にあるプロペラの回転速度を変えると、ドローンは旋回(ヨー)します。
たとえば、時計回りのプロペラの回転速度を下げ、反時計回りのプロペラの回転速度を上げると、ドローンは時計回りに旋回します。
ドローンの構造
ドローンは、フレームやプロペラ、モーター、バッテリーといった基本的な部品に加え、正確な制御や自律飛行に欠かせないフライトコントローラーやGPS、各種センサー類など、さまざまな部品で構成されています。
各部品の特徴や役割について詳しく確認していきましょう。
フレーム
フレームはドローンの機体の骨格となる部分で、プロペラやモーター、バッテリーなどの各パーツが取り付けられている部分を指します。フレームの素材には、カーボンファイバーやアルミニウムなど、軽量かつ耐久性の高い素材が多く使用されています。
フレームの形状やサイズ、素材は、ドローンの安定性や機動性に影響を与えるため、用途に合わせたフレーム選択をすることが重要です。
プロペラ
プロペラは、ドローン飛行に必要な揚力を生み出すために必要な部品で、飛行性能を左右する重要なパーツになります。
プロペラの素材は、軽量で丈夫なプラスチックやカーボンファイバーが主流です。安価なプラスチック製プロペラは初心者用ドローンやホビードローンに、剛性の高いカーボンファイバー製プロペラはレーシングドローンやプロ用の空撮ドローンに多く採用されています。
また、サイズやピッチによって、飛行速度や飛行時間、安定性が大きく異なるため、プロペラを選択する際は、用途や求める耐性、モーターとの相性を考慮するとよいでしょう。
モーター
モーターは、ドローンのプロペラを回転させるための動力源です。ドローン用のモーターは、「ブラシ付きモーター」と「ブラシレスモーター」の主に2種類で、一般的に、高効率で耐久性に優れたブラシレスモーターが多く採用されています。
- ブラシ付きモーター
内部にあるブラシで、機械的に電流を切り替えて回転する。安価だが耐久性が低い。
- ブラシレスモーター
ブラシの代わりに電子制御(ESC)で電流を切り替えて回転する。摩耗が少ないため、長寿命。高速回転で安定飛行が可能。
モーターの出力はドローンの飛行性能に直結するため、高性能なモーターを搭載すれば、より速く、安定した飛行が可能になります。
バッテリー
バッテリーはドローンのエネルギー源となる部品です。ドローンに使用されているバッテリーは、「リポ(LiPo)バッテリー」と「リチウムイオン(Li-ion)バッテリー」の主に2種類で、一般的に安定性、運用性がより高いリポバッテリーが多く採用されています。
リポバッテリーは、容量(mAh)、セル数(電圧)、放電レート(Cレート)によって飛行時間やサイズ・重量が変わります。推奨されている数値は用途によって大きく異なるため、事前にしっかりと確認しておきましょう。
- 容量(mAh)
バッテリーのエネルギーの総量を示す。数値が大きいほど長時間飛行が可能だが、サイズ・重量も大きくなる。
- セル数(電圧)
リポバッテリーを構成する電池の数を示す。1セルあたりの公称電圧は3.7V。セル数が増えると電圧が高くなり推力が増すが、重量も大きくなる。
- 放電レート(Cレート)
バッテリーが供給できる電流量の指標。この数値が大きいほど、瞬間的に多くの電流を流せるため、パワーが必要なドローンにも対応できる。Cレートが推奨値より低すぎると、電流供給が追いつかず、パワー不足や劣化につながるので注意。
フライトコントローラー(FC)
フライトコントローラー(FC)は、ドローンの飛行を制御する頭脳の役割を果たす部品です。以下に挙げた役割を担当し、スムーズで安定した飛行を実現しています。
- 姿勢制御(ジャイロ・加速度センサーによる傾き補正)
- モーター制御(ESCへの指示)
- GPS・気圧計による位置制御(ホバリング、オートリターン機能)
- 外部センサーとの通信(IMU(慣性計測装置)、コンパス、距離センサーなど)
- 受信機(RX)と連携(プロポの操作信号を解析)
- データロギング・テレメトリー(飛行ログの記録、リアルタイム通信)
フライトコントローラーは劇的に進化しており、近年ではAIを活用した飛行制御や自律飛行、フライト解析が可能なものも誕生しています。
GPS・センサー類
GPSやセンサー類は、ドローンの飛行の安定性や自律飛行の実現に欠かせない重要な要素です。ドローンに搭載されている主なGPS・センサー類の種類や役割は以下のとおりです。
GPS |
「Global Positioning System」の略称。ドローンの位置情報を取得し、安定したホバリングや自律飛行を可能にするシステム。 |
IMU |
「Inertial Measurement Unit」の略称で、日本語では、慣性計測装置と呼ばれる。ジャイロセンサーや加速度センサーを統合し、ドローンの姿勢や動きを検知する装置。 |
気圧計 |
気圧の変化を利用してドローンの高度を測定するセンサー。GPSよりも精度が高いため、高度保持(Alt Hold)や自律飛行で活用される。 |
LiDAR |
「Light Detection and Ranging」の略称。レーザーを使って障害物の距離や地形を測定するセンサー。障害物回避や高度維持の精度向上に役立つ。 |
ToFセンサー |
ToFは「Time of Flight」の略称。光を使って物体までの距離を測定するセンサーで、LiDARの一種。小型・低コストで、近距離測定に強いのが特徴。 |
超音波センサー |
地面との距離を測定し、着陸時の安定性を向上させるために使用されるセンサー。GPSが使えない屋内や低高度での飛行に役立つ。 |
光学フローセンサー |
カメラを使って地面の模様を認識し、位置を安定させる技術。GPSが使えない環境(屋内や狭い空間) でのホバリングを可能にする。 |
温度・湿度センサー |
温度や湿度を計測するセンサー。主に、バッテリー管理や飛行環境の監視に使用される。産業用ドローンでは、火災監視や気象観測等にも活用されている。 |
必要なGPS・センサー類は、ドローンの用途によって異なります。また、高性能なセンサーを搭載すれば、よりスムーズで安全な飛行が実現できる可能性が高くなります。
まとめ
ドローンは、プロペラの回転によって発生する揚力によって空中に浮き上がり、プロペラの回転速度を調整することで、上昇・下降、前後左右移動、旋回など、自由自在な移動を実現しています。
ドローンの頭脳であるフライトコントローラーをはじめ、ドローンを構成しているパーツにはそれぞれ重要な役割があります。ドローンを購入する際は、まずは用途を明確にし、必要な機能や求めるスペックを考慮すると、適切なドローンが選択しやすくなります。