業務改善とは、現状の業務が抱えている問題点を解決し、業務効率化や生産性の向上を目指す改善アプローチのことです。働き方改革や慢性的な人手不足、社会情勢の変化などの背景から、業務改善を推進する企業は増加しています。
業務改善は一般的に以下のような手順で進められます。
- 業務の可視化
- 問題点の洗い出し
- 業務の棚卸し・可視化
- 問題点・課題点の洗い出し
- 改善計画の策定
今回は、業務改善のステップの中でも特に重要な「問題点の洗い出し」について解説していきます。問題点の洗い出しの具体的な方法やポイント、役立つフレームワークなども紹介するので参考にしてみてください。
業務改善で問題点の洗い出しが重要な理由
業務改善における「問題点の洗い出し」とは、現状の業務が抱える問題点や課題を見つけ、その問題が起こっている原因を究明する作業を指します。業務改善を行う前提となる作業であり、改善により得られる効果や成果に大きく直結する作業でもあります。
効果的な業務改善を行うためには、この作業を特に丁寧に行い、正確に問題や課題を把握することが重要です。本質的な問題を理解しないまま、改善活動を進めてしまうと、緊急性・重要性の低い問題に着手してしまったり、活動途中で手戻りが発生したりするリスクも考えられます。また、改善活動に要したコスト・時間・人員などのリソースを無駄にしてしまう可能性も考えられます。
業務改善をスムーズに進め、成果や効果を十分に得るためにも、問題点の洗い出し作業は適切な方法で行うことが重要です。
業務改善で問題点の洗い出しをする4つの方法
業務改善において問題点の洗い出しは重要なステップです。では、具体的にどのような方法で問題点を洗い出せばよいのでしょうか。ここからは、問題点の洗い出しを行う際に役立つ具体的な方法を4つ紹介します。
社内でヒアリングやアンケートを行う
業務における問題点を見つけ出すためには、現場で働く従業員からの意見が必要不可欠です。現場の意見を取り入れず、トップダウン方式で意見を押し付けてしまうと、現場から反発が起きる、改善のために取り入れたツールやシステムが使われないなどの問題が発生する可能性があります。
そのため、ヒアリングやアンケートを通して、現場が抱える問題や問題が発生している原因について、必ず従業員へ聞き取りを行いましょう。以下のポイントを意識すると、ヒアリングやアンケートの精度が大きく高まります。
- アンケートやヒアリングの対象者は幅広く設定し、できるだけ多くの意見を集める
- 忌憚のない意見を述べられる環境を整えておく
- 先入観を捨て、従業員の言葉や想いを理解するよう努める
クライアントにアンケートを行う
クライアントが関わる業務の場合、クライアントへのアンケートやヒアリングを通して、求めることを確認するのも有用な方法です。クライアントから幅広い意見を集めることで、社内でのヒアリングやアンケートだけでは把握できなかった問題や課題が明らかになるケースも多くあります。
また、クライアントの意見を汲んだ適切な業務改善が実施できれば、顧客満足度やサービス品質の向上にもつながります。
競合他社を分析する
競合他社を分析し、自社と比較するのもおすすめです。他社のサービスの強みや弱み、特徴や戦略などを分析する中で、自社の問題や課題が見えてくることがあります。競合調査には、以下のようにさまざまな方法があります。
- 競合企業への直接訪問
- インターネットリサーチ(ホームページ、関連ページ等)
- アンケート調査
競合調査を効果的に行うためには、事前に調査の目的や対象を明確にしておくことが重要です。また、SWOT分析や5フォース分析などのフレームワークを活用したり、分析ツールを活用したりするとより効率的に調査が進みます。
フレームワークを活用する
思ったように問題点の洗い出しが進まない、そもそもどう進めればいいのかわからないという場合は、バリューチェーン分析やロジックツリーなど、問題点の洗い出しに役立つフレームワークを活用するのがおすすめです。
フレームワークとは、論理的な思考を助けるテンプレートのようなものです。目的や現状に合わせて上手に活用すれば、問題点の洗い出しのステップがスムーズに進む可能性も高まります。
問題点の洗い出しをする際の4つのポイント
問題点の洗い出し作業を効率的に進め、業務改善の効果や成果を十分に得るためには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。ここからは問題点の洗い出しをする際に気をつけるべきポイントを4つ紹介します。
現状を正確に把握する
問題点の洗い出しをスムーズに進めるためには、業務の現状を正確に把握することが何よりも重要です。現状把握が不完全のまま、問題点の洗い出しを行ってしまうと、本質的な問題にたどり着けないリスクが高くなります。
特に、マニュアルや資料に記載されていないなど、属人化、ブラックスボックス化している業務がある場合は注意が必要です。従業員へのヒアリングを丁寧に行ったり、幅広くアンケート調査を実施したりして、抜けや漏れのない正確な現状把握に努めましょう。
洗い出した問題点に優先順位をつける
問題点が複数ある場合は、どの問題に優先的に取り組むか必ず順位をつけましょう。特に重要度や緊急度、投資対効果が高いものは、企業が最優先で取り組む問題と考えてよいでしょう。
優先順位をつけることで、改善活動が効率的に進むのはもちろん、改善による効果や成果もより得やすくなります。
問題解決がもたらす効果について考える
問題解決により得られる効果や考えられるメリットは事前に明確にしておきましょう。ゴールの見えない漠然とした業務改善では、従業員からの協力が得られず、取り組みがスムーズに進まない可能性があります。
残業が減る、業務負担が軽くなる、賃金アップが見込めるなど、具体的なメリットや効果を伝えることで、業務改善に対する従業員のモチベーションも高く保てます。
従業員への周知・教育を徹底する
問題点の洗い出しをはじめ、業務改善の各ステップを遂行する際には、必ず従業員への周知や教育を行いましょう。周知や教育が十分に行われず、従業員の理解が得られないまま業務改善を進めてしまうと、改善のために導入したシステムが使われない、新たな運用手順が浸透しないなどの問題が発生するリスクが高くなります。
影響範囲が広い業務改善を行う場合、すべての従業員へ教育が行き届かないというケースもあるでしょう。そのようなときは、各部門から代表者を選定し、その代表者へしっかりと教育を行うのもおすすめです。一般従業員への教育や疑問点の問い合わせ対応を任せることで、より効率的に業務改善の必要性や目的をすべての従業員へ伝えられます。
問題点の洗い出しに役立つフレームワーク
フレームワークを活用すると、問題点の洗い出しがスムーズに進むことがあります。ここからは、問題点の洗い出しに役立つフレームワークを6つ紹介します。
PDCAサイクル
PDCAサイクルは、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の頭文字をとった言葉で、継続した業務改善に役立つフレームワークです。
PDCAのサイクルに沿って、目標や目的に向けた行動計画を策定、実行、評価することで、業務の抱える問題や課題が明らかにし、改善策を見出します。PDCAそれぞれのステップの概要とポイントは以下の通りです。
- Plan(計画):具体的な行動計画を策定します。できる限り定量的な目標を設定し、達成までの期限も決めておきましょう
- Do(実行):計画を実行します。できる限り計画通りに進め、実行した内容を記録しておきましょう
- Check(評価):結果の評価を行います。なぜその結果が生じたか要因についてもあわせて分析しましょう
- Action(改善):明らかになった問題や課題などを踏まえ、改善策を検討します。検討を終えたら、再び最初のステップに戻り、新たなサイクルをスタートします
ECRS
ECRSは、業務改善を行う際に着目すべき視点と検討の順番を示したものです。ECRSのそれぞれの概要は以下の通りです。
- Eliminate(排除):その業務が必要かどうか、取り除ける業務はないかを検討します
- Combine(結合):業務をまとめることが可能か、反対に、集中しすぎた業務の分割が可能かどうかを検討します
- Rearrange(代替):作業の順番や担当者を入れ替えることでより効率化できないかを検討します
- Simplify(簡素化):作業を簡単にわかりやすくできないかを検討します
ECRSの視点に沿って、順番に現状の業務を分析していくことで、抜け漏れなく効率的に課題や問題の洗い出しができます。
BPMN(ビジネスプロセスモデリング表記法)
BPMNは、「Business Process Modeling Notation」の略称で、業務の効率化や業務フロー改善に使用されるフレームワークです。
BPMNでは、決められた図や記号を使い、業務プロセスを見える化します。業務の流れや関連する部署等がわかりやすく可視化されるため、問題点や課題の把握がしやすいメリットがあります。
ロジックツリー
ロジックツリーとは、問題や課題に対してどのような原因があるかを樹形図に書き出し、解決策を導き出すフレームワークです。問題や課題が生じている直接的な原因を洗い出した上で、さらにその原因が発生している要因を掘り下げていきます。
ロジックツリーを活用し、可視化することで、問題や課題の根本原因が特定できる、思考を整理できる、チーム内で共有がしやすいというメリットがあります。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、企業の一連の活動を、利益を生み出す「主活動」と、主活動を支える「支援活動」に分け、分析を行うフレームワークです。
バリューチェーン分析により、企業活動が可視化されることで、利益をもたらしている活動や問題のある活動が把握しやすくなります。無駄なコストの洗い出しや競合他社との比較分析にも役立つため、幅広いシーンで活用できるフレームワークといえます。
なぜなぜ分析
なぜなぜ分析は、問題の原因把握に役立つフレームワークです。トヨタ生産方式の考え方から生まれた分析手法で、発生している問題に対して、なぜそれが起きたのかを繰り返し問うことで、根本的な原因を抽出します。一般的に「なぜ?」を5回繰り返し、掘り下げると問題の真因に辿り着くとされています。
なぜなぜ分析を行うことで、問題が起きている原因が明確となるため、解決策や再発防止策を立てる際にも役立ちます。
まとめ
問題点の洗い出しは、業務改善を効率的に進め、十分な効果や成果を得るために非常に重要なステップです。
自社の抱える問題点を見つけ出すために大切なのは、現場の従業員やクライアントなど、多くの関係者とコミュニケーションを取ることです。ヒアリングやアンケートなどを通してさまざま意見を集めることで、新たな問題や課題が発見できるケースも多くあります。
もし、洗い出し作業がうまく進まない、問題の本質がどこにあるかわからないといった壁にぶつかったときは、フレームワークを活用して作業を進めるのも効果的です。