資産管理は企業経営において重要な業務の一つとされています。建物や設備、IT機器、ソフトウェア、現金、在庫など、企業が保有する資産は多岐にわたり、それぞれに適切な管理が求められます。こうした資産を十分に把握・活用できていないと、無駄なコストや法令違反などのリスクが生じ、経営の足かせとなる可能性もあります。
本記事では、企業における資産の種類や資産管理の重要性、実践的な管理方法について、わかりやすく解説します。資産管理についての理解を深めたい方や資産管理の基本を確認したい方は、ぜひ目を通してみてください。
資産管理とは
資産管理とは、企業が保有するあらゆる資産を正確に把握し、適切に維持・運用・記録するプロセスを指します。このプロセスには、設備や備品の保守・点検といった物理的な側面に加えて、帳簿上の記録、資産評価、さらに取得から廃棄に至るまでのライフサイクル全体の管理が含まれます。
企業が保有する資産の種類は非常に多岐にわたり、企業規模が大きくなるにつれて、その量や種類、複雑さも増す傾向があります。そのため、適切な資産管理体制が整っていなければ、資産の紛失や劣化、重複購入、さらには税務上のリスクといったさまざまな問題が発生しやすくなります。
つまり、資産管理は、企業の効率的な経営を支える基盤であり、リスクの最小化やコスト削減にも直結する、極めて重要な業務の一つであるといえます。
企業における資産とは
企業が管理する資産は主に「流動資産」「固定資産」「IT資産」の3種類に分類できます。それぞれの資産の性質や管理方法について確認していきましょう。
流動資産
流動資産は、1年以内に現金化または消費される予定の資産です。企業の短期的な資金繰りや運転資金の源となるもので、主に「当座資産」「棚卸資産」「その他流動資産」の3つに分類されます。各資産の概要と具体的な内容例は以下の通りです。
分類 |
概要 |
内容例 |
当座資産 |
企業が即時に使用可能な資産。支払いや投資など、日常の取引に使用される流動性の高い資産。 |
現金、預金、売掛金、受取手形など |
棚卸資産 |
売上原価に直結する資産。在庫過多や在庫不足が企業の利益に影響を及ぼす。 |
商品、製品、原材料、仕掛品など |
その他流動資産 |
売掛金以外の未収代金や、将来的に資産として認識される項目。契約や回収の進捗管理が重要。 |
短期貸付金、未収金、前払費用など |
固定資産
固定資産は、1年以上の期間にわたって企業が保有・使用する資産です。企業活動を支える重要な経営資源であり、主に「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つに分類されます。各資産の概要と具体的な内容例は以下の通りです。
分類 |
概要 |
内容例 |
有形固定資産 |
物理的な形があり、企業の事業活動を支える基盤。管理や修繕の記録が必要。 |
土地、建物、機械、車両、工具、備品など |
無形固定資産 |
実体はないが、企業活動に有益な権利や資産。経営資源としての価値が高い。 |
特許権、商標権、著作権、ソフトウェアなど |
投資その他の資産 |
長期的な運用や戦略的保有を目的とした資産。リスクと収益のバランスを考慮する必要がある。 |
投資有価証券、長期貸付金など |
また、有形固定資産は、減価償却の要否によって、さらに以下のように分けられます。
分類 |
概要 |
内容例 |
減価償却資産 |
使用や経年によって価値が減少する資産。耐用年数に基づいて定期的に費用計上される。 |
建物、機械、車両、工具、備品など |
非減価償却資産 |
通常、価値が減少しないとされる資産。帳簿上の価値が維持される。 |
土地など |
関連記事:固定資産管理とは?業務内容や流れ、必要性など徹底解説!
IT資産
IT資産は、業務のデジタル化や効率化を支える重要な資産です。近年では企業経営における戦略的リソースとしての位置づけが強まっており、主に「ハードウェア」「ソフトウェア」「ライセンス」の3つに分類されます。各資産の概要と具体的な内容例は以下の通りです。
分類 |
概要 |
内容例 |
ハードウェア |
物理的なIT設備で、設置管理・保守・持ち出し管理などが必要。業務効率に直結。 |
パソコン、サーバー、ネットワーク機器、モバイル端末など |
ソフトウェア |
業務に必要なプログラム全般。インストール型・クラウド型いずれも含む。バージョンや利用条件の管理が重要。 |
OS、業務アプリ、業務SaaS、セキュリティソフト、クラウドサービスなど |
ライセンス |
契約ベースで発生する使用権の管理対象。期限、ユーザー数、コストの把握が求められる。 |
ソフトウェアの使用権、API連携契約、クラウドストレージの契約情報など |
関連記事:IT資産管理とは?必要性からIT資産管理ツールの選び方まで一挙解説!
企業における資産管理の重要性
企業にとって資産管理が重要な業務とされている主な理由は以下の通りです。
- 財務の透明性確保
- コストの最適化
- 法令遵守・リスク管理
それぞれの点について詳しく確認していきましょう。
財務の透明性確保
企業が保有する資産の情報が不正確であれば、財務諸表に誤りが生じる恐れがあり、投資家や金融機関といったステークホルダーに誤解を与えるリスクが高まります。その結果、資金調達の信用を損ねたり、取引先からの信頼低下を招いたりする可能性も否定できません。
特に決算期には、資産残高の正確な把握が求められます。不備があると、監査法人からの指摘により監査対応が長期化する、財務報告書に重大な注意事項が記載されるなどの影響が出ることもあります。
財務の信頼性と透明性を確保するには、資産の取得から廃棄までを正確に管理し、物理的資産と帳簿データの整合性を保つことが重要です。
コストの最適化
資産管理を徹底することで、設備投資や備品購入の無駄を防ぎ、経営資源の最適配分が可能となります。
たとえば、保有資産の使用状況や状態を常に把握できれば、重複購入や不要な在庫の蓄積を未然に防げます。また、老朽化した設備やエネルギー効率の悪い機器を早期に更新すれば、修繕費や電力コストを削減できます。さらに、使用されていない遊休資産を可視化すれば、売却や他部門での再利用を通じて資産の有効活用が進み、資本効率の向上にも寄与します。
限られた経営資源を最大限に活かすには、単なる帳簿上の管理にとどまらず、戦略的かつ継続的な資産活用の視点が欠かせません。
法令遵守・リスク管理
企業の資産は、会計・税務・ITセキュリティなどさまざまな法的・制度的要件と密接に関係しています。不適切な管理が続けば、法令違反や税務上の問題を引き起こし、重大な経営リスクにつながりかねません。
たとえば、固定資産においては、減価償却処理が税法や会計基準に従っていない場合、修正申告や加算税が課される可能性があります。さらにIT資産では、ライセンス違反や不正使用、セキュリティ管理の不備による情報漏洩など、企業の信用に直結する深刻なリスクも想定されます。
こうしたリスクを回避し、コンプライアンスを維持するためには、社内の資産管理ルールを整備するとともに、定期的な点検や見直し、教育の実施が不可欠です。
資産管理の方法とポイント
資産管理は以下のようにさまざまな方法で実践できます。
- Excelで台帳を作る
- 固定資産管理システムを導入する
- IT資産管理ツールを導入する
- 会計ツールを利用する
それぞれの管理方法の概要や管理の際のポイントについて紹介します。
Excelで台帳を作る
資産管理の最も基本的な方法として、多くの企業で活用されているのが、Excelによる台帳の作成です。
Excelは操作性が良く、カスタマイズの自由度も高いため、資産の種類や管理項目に応じて柔軟にフォーマットを設計できます。たとえば、資産番号・取得日・取得金額・設置場所・担当者・減価償却状況などの項目を一覧で管理可能な、視認性の高い資産台帳を構築できます。特別なツールを導入する前段階としても有効で、資産数の少ない企業やこれから資産管理を始めたいと考える企業には特に適しているといえるでしょう。
ただし、Excel管理には手動入力によるミスやデータの更新漏れ、ファイルの散在といった課題も数多くあります。そのため、運用ルールの整備や定期的な棚卸・突き合わせなど、正確性を保つための工夫や仕組みの構築も重要です。
固定資産管理システムを導入する
資産の種類や数の多岐にわたる中〜大規模企業では、専用の固定資産管理システムを導入するのが一般的です。専用のシステムを活用することで、資産の登録・更新・減価償却計算・帳簿出力などを一元的かつ自動で行え、業務効率の向上や人的ミスの防止にもつながります。
会計ソフトとの連携機能や、バーコードやRFIDによる棚卸機能を備えているシステムも数多くあり、台帳と現物資産の整合性を高めるうえでも有効です。さらに、資産の異動・除却・保守履歴等のライフサイクル全体を管理できる機能を活用すれば、経営資源としての活用状況を可視化できます。
初期導入コストや運用負担は必要になりますが、法令遵守・内部統制の強化、資産の有効活用などの観点からも、一定規模以上の企業にとっては有効な選択肢といえます。
関連記事:【徹底比較】固定管理システム15選!基本機能や選び方をわかりやすく解説!
IT資産管理ツールを導入する
PCやサーバー、ソフトウェア、ライセンスといったIT資産は、更新頻度が高く情報量も多いため、手作業での管理には限界があります。そのため、専用のIT資産管理ツールを導入する企業が近年増加しています。
IT資産管理ツールを活用すれば、各デバイスのハードウェア情報やソフトウェアのインストール状況、ライセンスの使用状況などを自動的に収集し、一元的に管理できるようになります。資産の不正利用やライセンス超過といったリスクを未然に防げるため、法令や契約上のコンプライアンス維持にも役立ちます。
また、ツールによってはセキュリティパッチの適用状況や稼働実績の分析もできるため、不要なソフトウェアの洗い出しやIT資産の最適化、情報セキュリティ対策の強化にも有効です。
テレワークやクラウドサービスの普及が進む昨今において、IT資産管理ツールの重要性はさらに高まることが予測されます。
関連記事:【徹底比較】IT資産管理ツールおすすめ15選!選定ポイントから徹底解説
会計ツールを利用する
会計ツールは、資産の取得・減価償却・除却といった処理を正確に記録し、財務諸表や税務申告に反映させるために欠かせない仕組みです。
多くのツールには、固定資産台帳の作成や減価償却費の自動計算機能が備わっており、会計基準や税法に準拠した処理を効率的に行えます。また、仕訳との自動連携によって、入力ミスの防止や決算業務の省力化も期待できます。
さらに、固定資産管理システムやIT資産管理ツールと連携すれば、実際の資産状況と会計処理の整合性が保たれ、正確かつスムーズな資産管理の実現が可能になります。
固定資産管理をより効率的に行うためには
固定資産は、数量や種類、設置場所が多岐にわたるため、管理が煩雑になりやすい傾向があります。さらに、減価償却や除却といった会計処理にも関わることから、正確な情報の維持とタイムリーな更新が求められます。
従来の手書き台帳やExcelベースの管理では、入力ミスや更新漏れのリスクが高く、棚卸や監査対応に大きな労力がかかっていました。
これらの課題を解決し、より効率的な資産管理を実現する手法として注目されているのが、RFIDを活用した資産管理です。ここでは、RFIDの概要と、RFIDによる資産管理方法について詳しく解説します。
RFIDについて
RFID(Radio Frequency Identification)は、無線で情報の読み取りができるICタグ技術です。従来のバーコードに比べ、視認や接触を必要としないため、読み取り効率が高く、棚卸や資産移動の追跡に優れています。
企業の現場では、資産にとりつけたタグにRFIDを埋め込み、ハンディリーダーなどを使って一括スキャンを行うことで、棚卸時間を大幅に短縮する事例が増えています。
関連記事:【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!
RFIDは在庫管理だけではなく資産管理にも活用できる
RFIDはこれまで在庫管理の手段として活用されることが一般的でしたが、近年ではその応用範囲が広がり、固定資産やIT資産の管理にも利用されています。
たとえば、オフィス機器、ノートPC、ネットワーク機器などにRFIDタグを貼付すれば、移動履歴や使用状況を記録・追跡でき、紛失防止や不正利用の抑止につながります。
また、資産台帳とRFIDシステムを連携させれば、資産のリアルタイム管理や自動棚卸が可能となり、担当者の負担軽減や人的ミスの削減にも貢献します。
特に、資産の種類や設置場所が多岐にわたる中堅・大企業にとって、RFIDの活用は管理精度の向上とコスト削減の両立を実現する有力な手段になり得ます。
参考記事:RFIDでモノの位置を可視化する在庫・物品管理システム 「Locus Mapping」
まとめ
企業にとって資産管理は、単なるモノの記録ではなく、財務の正確性や法令遵守、業務効率、リスク回避に直結する重要な業務です。固定資産や流動資産、IT資産といった多様な資産を適切に把握・運用することは、健全な経営基盤の構築にもつながります。
これまでは、Excelなどを活用した手作業による管理方法が一般的でしたが、近年では会計ツールや資産管理システム、RFIDなどのテクノロジーを活用した効率的な管理手法が注目されています。
資産管理を正確かつ効果的に行うためには、自社の資産規模や運用体制に応じて、最適な管理方法を選択し、定期的に見直していくことが重要です。