製造現場や物流現場で急速に導入が進むのが搬送ロボットです。工場におけるプロセス自動化の波に乗り、主要メーカーだけでなくAI機能などを売りにした新規参入にも注目が集まっています。
かつてはサイズも大きく、決まったルートで荷物を運ぶという限られた用途で利用されていましたが、最近では自分でルートを計算して走行し、柔軟な使い方ができる製品も登場しています。また低価格帯の製品やサブスク型の製品など選択の幅も広がっています。
多くのメリットが期待できるAGVについて、詳しく知りたいという企業は少なくないはずです。そこで本稿では、AGVについて基礎的な部分から代表的な種類まで、必要な情報をコンパクトにまとめて紹介します。
AGVとは
AGVについて解説します。また最近注目が集まっているAMRについても違いを解説します。
AGVとは
AGV(Automatic Guided Vehicle)とは、無人搬送車、無人搬送ロボットを指します。製造業の方であれば、現場で目にしたことがある人も少なくないでしょう。床に磁気テープを貼るなど何らかのガイドに基づいて、自動で目的地まで運ぶ搬送ロボットです。形状もさまざまで、フォークリフト型、積載型、牽引型など用途に合わせたタイプがあります。
JIS規格では、「一定の領域において,自動で走行し,荷など人以外の物品の搬送を行う機能をもつ車両で,道路交通法に定められた道路では使用しないもの」と定義されています。(JIS D 6801)
AGVとAMRの違い
AGVと似た場面で使われる用語にAMRがあります。どちらも搬送ロボットで、名前も英語の頭文字を取ったものなので、混同しやすく、注意が必要です。
AMR(autonomous mobile robot)とは、自律走行搬送ロボットを指します。
「autonomous(自律性の)」の名前のとおり、固定のガイドが不要で自分でルートを決定して走行できます。センサーなどで検知した人間や障害物を自動でよけながら走行するため、既存レイアウトのまま導入できるのがメリットです。
産業用ロボットのうち、柵などで分けずに人と一緒に作業できるタイプを協働ロボットと呼びます。AIによる高度な認識技術により安全性が確保され、現場に柔軟に対応できるのが特徴です。
AMRは協働ロボットの位置づけで、作業者がピッキングした荷物をAMRが運ぶなど、AGVとは違った使い方がされています。なおAMRは、AGVの進化系という意味合いで、次世代AGVという名称で呼ばれることもあります。
AGVの重要性
AGVは、製造現場や物流現場で重要性が非常に高まっています。ここ数年でAGVを導入した企業も増加し、2023年には国内で200億円規模、グローバルでは3,000億円(27億ドル)規模の市場になると予測されています。
工場での働き手不足や自動化へのニーズを背景に、AGVは今や現場になくてはならないものになっています。FAやスマートファクトリーを考えるうえでも、AGVの果たす役割は非常に大きいと言えます。
AGVとAI(人工知能)
AGVは固定ルートに沿って荷物を搬送しますが、AI技術を搭載することによって人にやさしい柔軟な対応が可能になります。たとえばAGVが障害物を検知した際に、単純にストップするのではなく、道を譲るなどの動作ができます。これにより、人と機械が混在する作業環境での効率が上がります。
また、画像認識技術でマッピングしてルートを自動計算する協働ロボットを搭載し、搬送と同時に作業も行うなど、AIによってより高度なことができるようになります。
AGVと5G
国内でも5Gの提供が開始し、工場などでは敷地限定で利用できるローカル5Gに対する注目が集まっています。ローカル5Gは超高速、多数同時接続、低遅延といった特性があるため、AGVで活用することで今まで以上に高性能な動作が可能になります。
現在は製造業・通信キャリアなどでAGV遠隔制御をはじめとした実証実験が実施されている段階です。今後はローカル5Gの普及に合わせてAGVによる省人化が一層進むでしょう。
AGVの種類
AGVは、形状の違いによって以下の種類に分けられます。
コンベア型AGV
コンベアとは、品物を一方向・一定速度で運搬する装置を指します。コンベア型AGVとは、車両の上部分がコンベアになっているため、ラインでコンベアを設置せずに搬送を自動化できます。
平ボディ・重量級型AGV
車両の上部分が平らになっているタイプのAGVです。重い資材も安全に搬送することができます。
低床型AGV
ラックやカートの下にもぐりこんで、上のラック・カートごと搬送するタイプのAGVです。配膳作業の効率化などに使われ、病院や学校でも導入されています。
けん引型AGV
台車に載せた品物を、複数台連結させて台車ごとけん引するタイプのAGVです。施工が簡単でコストパフォーマンスに優れているのが特徴です。
特殊型AGV
上記4種類以外で、特殊な用途で利用されるAGVを指します。工場などのニーズに合わせてカスタマイズされたもので、フォーク機能がついていたり屋外用に雨除けがついていたりするものもあります。
AGV導入によるメリット
AGVを導入するメリットとして、以下の3つが挙げられます。
作業者の負担削減
AGVが荷物を運ぶため、作業者が重い荷物を持ったり何度も往復する必要がなくなります。
ミスの削減
指示に沿って決まった場所に移動するため、ヒューマンエラーが発生せずにミスが起きにくくなります。
コストの削減
長期的な視点で見ると、AGVの導入により作業人員を削減できるため、コスト削減になります。
AGVのデメリット
一方、AGVを導入する際には、デメリットとして以下の2点について理解しておくことが望ましいでしょう。
購入コスト
AGVの導入には、初期費用として1台百万円~数百万円程度の購入費がかかります。それ以外に保守・運用費等がかかる場合もあるため、それなりのコストがかかると想定しておく必要があります。
最近では中小企業でのニーズなどを受け、200万円程度で導入できる製品や、月々の利用料で支払うサブスクリプション型なども登場しています。導入ハードルはかなり下がっている印象です。
現場設計の見直しが必要
AGVは、走行するためのガイドが必要です。そのため磁気テープを貼る、工場内のレイアウトを変更するなど、現場設計の見直しが必要になります。ただAMRを導入することで、レイアウトを変更せずに導入することが可能です。
AGVを運用するために
AGVの有用性をお伝えしてきましたが、自社で効果的に運用するためには導入前の事前設計が非常に重要です。
AGVは運行ルートを決めてスペースを用意する必要があります。そのためAGVがスムーズに運行できるようなレイアウト設定や走行幅の決定などを行います。また自社のニーズを明確にしたうえで、AGVをどこまで活用するかの範囲も事前に決定しておきます。
まとめ
製造・物流現場において業務効率化、省人化を実現するためには、AGVは欠かせない技術です。AI搭載型のタイプも普及が急激に進んでおり、今後は多くの工場で「高度な機能を備えて人と協働する」「無人で作業を行う」方向性に進んでいくと見られています。
製品バリエーションが増え、費用やサイズ、性能面での多様化が進んだことで、利用する側の選択肢は急激に広がっています。運搬などで課題を持っているのであれば、AGVを検討しない理由はないでしょう。本稿や他記事を参考にしながら自社に合った製品を探してみてはいかがでしょうか。