トヨタ生産方式(TPS)とは?基本思想や4つの手法についてわかりやすく解説!

  • 7月 31, 2024
  • RFID

トヨタ生産方式は、トヨタ自動車が確立した合理的かつシステム化された独自の生産方式です。近年では、業務効率化や生産性向上を実現する手段として、日本だけでなく海外でも広く認知され、研究、導入がすすめられています。

 

今回は、そんなトヨタ生産方式の基本思想や、具体的な手法、導入により得られるメリットや注意すべき点について、詳しく解説します。

 

トヨタ生産方式(TPS)とは

トヨタ生産方式(TPS)は、「TOYOTA Production System」の略称で、トヨタ自動車が確立した、ムダを徹底的に排除し、利益を最大化するための生産方式です。

 

トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎らの考え方や思想を、大野耐一、鈴村喜久雄が体系化、定着化させた手法とされています。自動車業界だけでなく、幅広い製造現場で採用されています。

 

一般的な生産方式とトヨタ生産方式の主な違いは以下の通りです。

 

一般的な生産方式

トヨタ生産方式

需要予測に基づいた生産計画の策定

顧客のニーズに基づいた生産計画の策定

各工程で大ロットで生産

必要なものを必要なときに必要なだけ生産

完成品在庫の備蓄

最小限の在庫

在庫を確保することで

トラブルや需要変化に対応

顧客ニーズに沿って供給

 

一般的な生産方法では、大量生産によりコストを抑え、安全在庫を確保することで、販売機会を獲得する仕組みが取られています。しかし、在庫を抱えることで、過剰在庫やリードタイムの長期化、管理にかかるコストや手間の増大などの問題が発生しやすい特徴もあります。

 

トヨタ生産方式では、顧客ニーズを元に生産計画が策定され、必要なものを必要なときに必要な分だけ生産・供給する仕組みが取られています。抱える在庫量も最小限となるため、生産や管理のムダが発生しにくく、コスト削減や業務効率化に繋がりやすい特徴があります。

トヨタ生産方式の基本思想

トヨタ生産方式を理解する上で欠かせないのが、「自働化」と「ジャストインタイム(JIT)」という二つの基本思想です。それぞれについて詳しく確認していきましょう。

 

自働化

自働化とは、機械設備や品質の異常、作業の遅れなど、製造工程で問題が発生した際に、機械が自動で停止する、または人の手で簡単にラインを停止させられる仕組みを指します。単純な自動化(オートメーション)ではなく、人間の知恵を利用して改善や再発防止が行われることからニンベンのついた「自働化」が使われています。

 

自働化の仕組みを取り入れ、検査などで不良品を発見するのではなく、そもそも不良品を生産しないのがトヨタ生産方式の発想です。また、異常が発生した場合、自動的に機械が停止するため、省人化や作業工数の低減も期待できます。

 

自働化を支える仕組みのひとつに「アンドン」があります。アンドンとは、点灯するランプで機械の稼働状況や、作業指示を知らせる電光表示盤を指します。アンドンの利用により、万が一製造工程に問題が発生した場合でも、関係者に迅速に異常を知らせることができます。さらに、ラインの停止、原因の究明、再発防止策の検討もすぐに行えます。

 

ジャストインタイム(JIT)

ジャストインタイムとは、必要なものを必要なときに必要な分だけ供給・生産する仕組みを指します。ムダな在庫を持たず、注文後の生産リードタイムを短くすることで、製品を適正価格かつ、タイムリーに顧客へ届ける生産手法です。ジャストインタイムでは、顧客への供給だけでなく、生産に必要な部品についても、必要なものが必要なタイミングで届くように設計されています。

 

ジャストインタイムを導入するには、「平準化生産」を前提とし、以下の3原則の実現が必要となります。

 

前提

  • 平準化生産

生産する製品の種類や、生産量を均一にし、安定して供給できる状態

 

基本3原則

  • 工程の流れ化

一個流し生産や小ロット生産を行い、生産工程が停滞や後戻りせず流れるようにすること

 

  • タクトタイム(生産の平均作業時間)の決定

必要生産数に合わせて、人員を柔軟に変動できるラインをつくる(少人化)

 

  • 後工程引取り

後工程が前工程から必要なものを必要な数だけ引取り、前工程は後工程が引取った分だけ生産する仕組み

 

ジャストインタイムのツールとしてよく知られている「かんばん方式」は、上記の後工程引取りを実現するための道具として活用されています。

 

トヨタ生産方式を実現する4つの手法

トヨタ生産方式を実現するために重要な4つの手法について、解説します。

 

ムダの排除

トヨタ生産方式では、生産工程で発生する付加価値をうまない作業を「7つのムダ」として提唱しています。

 

  • 加工のムダ:必要のない加工や検査を行うこと
  • 在庫のムダ:必要以上の在庫を抱えること
  • 不良をつくるムダ:不良品の手直しや処分、再出荷が生じること
  • 手持ちのムダ:作業者の手元に作業がない状態が発生すること
  • つくりすぎのムダ:仕掛品や完成品を必要以上に生産すること
  • 動作のムダ:製造の進捗に関係しない動作を行うこと
  • 運搬のムダ:モノの余計な移動を行うこと

 

これらのムダを見直し、排除(ムダ取り)することで、作業の効率化やさまざまなコストの削減を目指すのがトヨタ生産方式の考え方です。

 

課題の可視化

トヨタ生産方式では、トラブルや問題が発生した際、それを隠すのではなく、見える化し、広く全員に共有する考え方が確立されています。自働化の項目で述べた、異常が検知された際に生産ラインをストップさせるルールやアンドンの採用も、課題を可視化するための手段であるといえます。

 

課題の可視化が徹底され、原因の追求、改善策の検討がスムーズに行われれば、より大きなトラブルへの発展の回避、再発防止など、さまざまなメリットが期待できます。

 

なぜなぜ分析

なぜなぜ分析は、トヨタ自動車が問題解決と再発防止を目的に考案した分析手法です。

 

具体的には、発生した問題に対して「なぜそれが起きたか?」を繰り返し問い、問題が起きた真の原因を特定する手法です。一般的に5回「なぜ?」を繰り返すと真因に辿り着くとされていますが、状況や問題に合わせて、柔軟に問いの回数を調整する必要があります。

 

なぜなぜ分析を行い、問題の根本原因を把握することで、その場しのぎの改善策ではなく、再発防止まで含めた効果的な改善策の策定が可能となります。

 

なぜなぜ分析を実践する際は、解決したい問題を明確にし、客観的な分析ができるよう、業務に関わる従業員複数人で分析を行うのがおすすめです。

 

カイゼン

カイゼンとは、現場での作業効率や安全性等を見直す活動を指します。トヨタ自動車が提唱する「カイゼン」には、現場の従業員を中心に皆が知恵や意見を出し合い、問題解決を図るという特徴があります。そのため、誤りや欠点を改める、漢字の「改善」と区別し、「カイゼン」の表記を使用しています。

 

海外でも「Kaizen」の表記で広く浸透しており、トヨタ生産方式を実現するための主要な考え方のひとつといえます。

 

カイゼン活動を積極的に行っていくことで、業務の効率化、生産性の向上、製品やサービスの品質向上など、さまざまなメリットが期待できます。また、従業員のアイデアや意見が取り入れられるケースも多いため、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上にも繋がります。

トヨタ生産方式のメリットデメリット

トヨタ生産方式の導入により期待できるメリットにはどのような点があるのでしょうか。導入に際する注意点やデメリットとともに紹介します。

 

メリット

トヨタ生産方式では、前述した7つのムダをはじめとした、付加価値をうまない作業を徹底的に見直し、排除します。そのため、現場で発生していたムリ・ムラ・ムダな作業や手間が減り、業務効率化の実現や、人件費をはじめとしたさまざまなコストの削減が見込めます。

 

また、自働化の仕組みにより、トラブルが発生した場合でも迅速な対応が可能な点や、カイゼン活動を通して、社員の自主性が育つ点もトヨタ生産方式導入のメリットとして挙げられます。

 

デメリット

ジャストインタイムの導入には、前述の通り、平準化生産の実現が必要となります。平準化生産を実現するには、生産ラインを止めたり、必要に応じて生産ラインを切り替えたりする必要があります。そのため多品種を扱う現場では、トヨタ生産方式を導入することで、逆に製造効率が低下してしまうリスクがあります。加えて、商品の安定受注もジャストインタイムの導入の絶対条件となるため、季節などによる需要変動の激しい商品を扱う業種では、導入が困難なケースもあります。

 

また、トヨタ生産方式では、必要なものを必要なときに必要な分だけ調達し、在庫を必要最低限に抑える考え方が採用されています。そのため、大量購入によるコストダウンを図る購買戦略が使えず、結果として部品単価が上昇してしまう傾向がある点は注意が必要です。

 

まとめ

トヨタ生産方式は、「自働化」と「ジャストインタイム」という2つの基本思想により、ムダを排除し、生産を合理化、効率化する手法です。

 

業務効率化の実現、在庫の最適化、コスト削減などさまざまなメリットが期待できるため、近年では日本だけでなく、海外でも導入をすすめる企業が増えています。

 

しかし、平準化や安定受注の実現が前提条件であったり、従業員の理解や生産工程の大幅な見直しが必要であったりと、導入のハードルが高いのも事実です。また、扱う商品の特徴や種類によっては、トヨタ生産方式の導入が適さないケースもあるため注意しましょう。

 

ムダの削減や在庫管理の効率化、最適化を実現するためには、在庫管理システムやRFID、ハンディターミナル、重量計等、ITツールやサービスを活用するのも効果的です。

 

自社にどのような手法やサービスの活用が適しているかわからない場合は、現場の従業員の意見や、扱う商品の種類や特徴、現状の課題などを考慮して検討をすすめるとよいでしょう。