物流業界では、新たな革命「ロジスティクス4.0」が起きようとしています。ロジスティクス4.0では、物流オペレーションが人から次世代テクノロジーに置き換わろうとしているのです。
2020年9月に矢野経済研究所が調査した「次世代物流ビジネス・システムの実態と将来展望 2017」では、次世代物流システムの市場規模は2050年度に2兆7,085億円まで拡大すると予測されています。急速に市場拡大しているため、IT×物流でイノベーションを起こし続けるAmazonなどの企業が脅威となってきているのです。
激しい競争で生き残るために、物流会社は、ロジスティクス4.0に時代が変遷する中でどのような対策を打てば良いのでしょうか?本稿では、ロジスティクス戦略の成功の秘訣について解説します。
ロジスティクスとは
まずは、ロジスティクスの概要について解説します。
ロジスティクスの概要
ロジスティクス(Logistics)とは、物流の流れを最適化し各工程を一元管理することをいいます。製品の保管・輸送・包装・流通加工を一元管理して、製品が消費者に届くまでの工程にムダが生じないようにマネジメントするのです。
ビジネスにおいてロジスティクスが誕生したのは、第二次世界大戦後の1950年代半ばです。ロジスティクスは、戦地への武器・食料の補給を行う兵站(へいたん)の考え方を当てはめて活用されるようになりました。
ロジスティクスの目的
ロジスティクスの目的を分類すると(1)品切れ防止(2)物流の効率化(3)在庫の削減(4)コスト削減に分類できます。
(1) 品切れ防止
ロジスティクスは原材料の調達にも関与します。そのため、発注漏れや部品の欠品などの品切れ防止は欠かせません。原材料の供給に遅れが生じて欠品が発生すると、生産ラインが止まり、生産計画に狂いが生じてしまいます。このような問題を未然に防ぐために、マネジメントを行います。
(2) 各工程の無駄を削減
ロジスティクスでは、物流拠点の集約化や輸送効率の改善、大量輸送の促進などを統合的に実施します。これらの工程の無駄をなくすことが、ロジスティクスの目的です。
(3) 在庫の削減
消費者の求める商品は時代とともに変わるため、在庫を多く抱える企業も多いです。しかし、在庫を抱えることは、不良在庫を増やす結果につながります。そのため、需要と供給を正確に予測して、販売計画や在庫計画に反映させる必要があります。
(4) 物流コストのコントロール
物流業界で収益を上げるためには、ロジスティクスオペレーションが必要不可欠です。人件費や輸配送費、倉庫保管費、荷役費など物流業務に係る費用は莫大です。これらの費用をコントロールする必要があります。
ロジスティクスと物流の違い
ロジスティクスと物流は、間違われやすい専門用語です。
一般的に物流(Physical Distribution)は、生産から消費者に製品を届けるまでの流れを意味します。物資を輸送するまでの流れの総称です。単に物資を輸送するだけではなく、倉庫内での在庫保管や荷役などの作業も物流の一部となります。
一方、ロジスティクスは生産から消費者に製品を届けるまでの工程を最適化することをいいます。各工程を一元管理して生産性向上を目的としたものがロジスティクスなのです。
ロジスティクスのメリット
ロジスティクスで物流の工程を一元管理すると、どのような効果が得られるのでしょうか?ここでは、ロジスティクスのメリットについて分かりやすく解説します。
(1)需要と供給の適切な管理を実現
物流の工程を一元管理すれば需要と供給のバランスが把握できるようになり、「必要とされる物を」「必要な時に」「必要な場所に」供給できます。必要な生産数の把握がしやすくなるため工場余剰品が発生しません。そのため、無駄なコストを削減できます。
(2)業務効率化・生産性向上
ロジスティクスで物流工程を一元管理すれば、データの正確性や信頼性が生まれます。蓄積されたデータを活用すれば、業務効率化や営業活動が効率化できます。営業戦略を立てる上で、ロジスティクスは欠かせません。
(3)適切な在庫管理を実現
適切な在庫管理が行えれば、在庫不足を招く心配もありません。適切な在庫管理を行うことで、販売機会の損失を防止できます。また、不良在庫(販売されずに売れ残っているもの)についても、在庫管理をキチンと行うことでコストの無駄を抑えることができます。
(4)物流コストの削減
物流業界で収益を上げるためには、ロジスティクスオペレーションが必要不可欠です。人件費や輸配送費、倉庫保管費、荷役費など物流業務に係る費用は莫大です。これらの費用をコントロールすることで物流コストが削減できます。
ロジスティクスイノベーションの変遷
これまで物流業界では、業務効率化や生産性向上のため、ロジスティクスイノベーションを起こしてきました。ここでは、ロジスティクスイノベーションの変遷について解説します。
ロジスティクス1.0(輸送の機械化)
ロジスティクス1.0では、輸送の機械化が行われました。第一次産業革命(1760年~1840年)によって都市へ人が集まり、工場生産が拡大していく過程で、人やモノの長距離輸送が増加。移動手段は馬車や船のため、舗装道路や運河の整備を進めましたが、需要増で輸送料金が高騰したのです。
このような課題を解決するために、蒸気機関の実用化が進みました。蒸気船や鉄道などが輸送機として活用されるようになり、主要都市をつなぐ高速かつ大量輸送が可能となりました。このようなロジスティクス革命を「ロジスティクス1.0」といいます。
ロジスティクス2.0(荷役の機械化)
鉄道や蒸気船を活用した輸送の機械化を経て、1960年代に普及したのが荷役の機械化です。汽船にコンテナを載せて海外まで運ぶ工程を可能にしたのは、荷役を担う大型クレーン車です。ライン生産を大幅に効率化したベルトコンベアーも同時期に登場しました。
荷役の機械化とは荷役運搬機械を利用するだけに留まらず、コンテナやパレット化などによる輸送方式の一体化など広範囲に渡ります。このようなロジスティクス革命を「ロジスティクス2.0」といいます。
ロジスティクス3.0(物流管理のシステム化)
荷役の機械化によって大きなイノベーションは訪れたものの、荷物の入出管理や在庫管理に関する業務は手動で行われており、情報は台帳で管理されていました。
しかし、1980年代にコンピュータが普及して、WMS(倉庫管理システム)が導入されるようになりました。WMSは、倉庫内の物流管理の正確性を向上させ、入荷・格納・ピッキング・検品・梱包までの作業を一元管理できるシステムとして活用されました。管理業務の電子化というイノベーションを起こしたのです。このようなロジスティクス革命を「ロジスティクス3.0」といいます。
ロジスティクス4.0(AI・IoTによる省人化)
近年では、AIやIoTを活用した省人化が注目を浴びています。これらを活用した物流工程の省人化の取り組みが始まっています。省人化とは、業務を見直して無駄な工程と人員を削減することです。
例えば、自動運転の実用化やドローンによる宅配、RFIDを活用した業務効率化などをいいます。「ロジスティクス4.0」では、物流オペレーションが人から次世代テクノロジーに置き換わろうとしているのです。
ロジスティクス4.0の省人化システム・機械
ロジスティクス4.0では、物流オペレーションは、人から次世代テクノロジーに置き換わろうとしています。ここでは、次世代テクノロジーの省人化システム・機械をご紹介します。
IoT
IoT(Internet of Things)は、インターネットに接続したモノのことをいいます。あらゆるモノをインターネットで接続することで、生産から配送までの全体の工程をリアルタイムで把握することが可能です。「どこに」「なにが」「どれぐらい」を把握でき、物流情報を広く繋ぐ効果をもたらします。
ドローン
ドローンとは、無人で遠隔操作や自動制御により飛行できる航空機の総称をいいます。ドローンを活用した無人配送も技術的に可能なまでに近づいてきます。また、ドローンを使って、高い位置にある棚卸業務を行うなど業務効率化でも活躍する機械です。
自動運転トラック
トラックドライバー不足の問題が話題に上がりますが、この問題を解消するのが自動運転トラックです。国内でも、高速道路で複数台が自動で連なって走る隊列走行の実験が行われており、商用車として登場するのも間近です。このような自動運転トラックが高速道路を走れば、省人化が実現できドライバーの人件費が削減できます。
倉庫ロボット
倉庫ではロボットが荷降ろしや運搬、ピッキングまで自動で行います。また、人的作業が必要な作業でもパワードスーツで筋肉の補助を行います。このような進化したロボット技術を採用すれば、物流業務の省人化が実現していけるでしょう。
RFID
RFIDとは、電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステムです。バーコード運用では、レーザーなどでタグを1枚1枚スキャンするのに対し、RFIDは複数枚のタグを一気にスキャンできます。RFIDによる業務効率化は業界のスタンダードになっていくでしょう。
ロジスティクス戦略で注目のソリューション
ロジスティクス4.0の革命で物流業界は大きく変わろうとしています。実際に、どのような次世代テクノロジーがあるのでしょうか?ここでは、ロジスティクス戦略で注目のソリューションをご紹介します。
屋内作業用ドローン「Mini」
ACSL産業用ドローン「Mini」とブルーイノベーションが開発したソフトウェアプラットフォーム「Blue Earth Platform」を活用した屋内作業用のソリューションが販売されました。
AIや5G通信を搭載したMiniが屋内を巡回して点検します。Miniに搭載されたAIでデータ解析がリアルタイムで行われ、点検結果はその場で確認が可能です。このような仕組みで、人による在庫管理に比べ、迅速化・効率化・低コスト化ができると注目を浴びているソリューションです。
物流現場向けアシスタントロボット「AMR」
物流現場のピッキング作業のアシスタントロボット「AMR」は、2020年8月に日本通運が導入したことで大きな注目を浴びています。AMRは、ピッキング商品棚まで自動運転を実現。作業員は商品棚前で待機しているAMRにピッキング商品を同梱するだけで済みます。
作業員側はAMRが停止している場所を把握することができるので、最短歩行距離でピッキングを終わらせることができます。ピッキングの運搬作業を自動化できる画期的なアシスタントロボットが登場しました。
(参考資料:rapyuta robotics「ロボティクスプラットフォーム「rapyuta.io」を提供するRapyuta Robotics、AMRの新機能を日通倉庫向けに提供開始」)
需要予測が行える「AI」
正確な荷物数予測が行えれば、その予測に基づいた配車計画が行えます。そのため、荷物数予測だけではなく、購買金額予測、在庫・仕入れ数の予測、商品価格予測などが行えるAIが登場しています。ビッグデータを解析した需要予測ができるシステム受託開発会社の需要は伸びていくことでしょう。
(参考資料:ASCILL.jp「予測AI開発に特化するAIベンチャーROXがAI受託開発を開始」)
棚卸時間と探索時間を削減する「LocusMapping」
倉庫内のモノの位置をバーコード等で管理し、位置特定する場合や棚卸を実施する場合は、莫大な時間を要します。しかし、RFルーカスが開発したRFIDタグの位置を特定する技術を組み込んだ在庫管理システムを利用すれば、短時間で位置管理・特定、また棚卸を実施できます。この自動ロケーション管理機能を搭載した在庫管理システムが「LocusMapping」です。
中間決算や期末決算の棚卸し作業、月次で実施している処分物の探索作業などを簡略化することで年間320万円程度のコスト削減をしている企業も登場しました。従来のバーコードからRFIDへの移行は着実に進んでおり、物流業界のスタンダードになっていくことでしょう。
(参考資料:LocusJournal「RFIDタグの活用により、棚卸し作業において年間437人日の工数を削減!」)
まとめ
ロジスティクスは、物流の工程を一元管理化してマネジメントすることをいいます。近代的テクノロジーが登場したことにより、AIやIoTによる省人化「ロジスティクス4.0」が注目を浴びています。
2030年度には約1510億円まで市場拡大すると予測されているため、物流業界のスタンダードになっていくことは必至です。どのようなソリューションがあるかを把握して、物流戦略を見直してみてください。