製造業や在庫管理の現場で「カンバン方式」という言葉を耳にしたことのある方は多いでしょう。カンバン方式は、トヨタ生産方式の「ジャストインタイム」を実現させるための道具として開発された仕組みで、日本のみならず、世界でも多く採用されています。
今回は、カンバン方式の詳しい仕組みやカンバンの種類・役割、具体的なメリットやデメリットについて解説します。
カンバン方式とは
カンバン方式とは、トヨタ生産方式の「ジャストインタイム」を実現させるために開発された手法です。
ジャストインタイムとは、必要なものを必要なときに必要な分だけ生産するという考え方で、自働化とともにトヨタ生産方式の基本思想とされています。
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カンバン方式ではまず、製品や部品に、商品名や品番、保管場所などを記載した「カンバン」を取り付けます。カンバンは、作業工程により、発注書や納品書等、さまざまな役割を果たします。各工程がカンバンの指示に従い、製造・加工を行うことで、造りすぎのムダを省き、仕掛在庫を最小にするのが、カンバン方式の大きな目的です。
カンバン方式の仕組み・流れ
カンバン方式の具体的な仕組みや流れについて確認していきましょう。
使用するカンバンの種類
カンバン方式で使用されるカンバンは、大きく以下の3種類に分類されます。
- 引き取りカンバン
- 生産指示カンバン(仕掛けカンバン)
- 臨時カンバン
それぞれについて詳しく解説します。
引き取りカンバン
引き取りカンバンとは後工程が前工程から、何を、どのくらいの量、どのタイミングで引き取るかを指示するカンバンです。運搬カンバンとも呼ばれ、引き取り先の違いから「工程間引き取りカンバン」と「外注部品納入カンバン」の2種類に分類されます。
- 工程間引き取りカンバン
自社内の工程間において使用されるカンバン。後工程が必要なものを前工程から引き取るために用いられる。
- 外注部品納入カンバン
仕入れ先との工程間で使用されるカンバン。使用した製品を使用した数量分だけ仕入れ先に納入してもらうために用いられる。
仕掛けカンバン
仕掛けカンバンは、工程内の生産着手を指示するカンバンです。生産指示カンバンとも呼ばれ、運用方法や役割の違いから、「工程内カンバン」と「信号カンバン」の2種類に分類されます。
- 工程内カンバン
工程内の仕掛けに使われるカンバン。引き取られた製品を引き取られた順番で補充生産するために用いられる。
- 信号カンバン
ロット生産の工程の仕掛けに使われるカンバン。プレスエ程や成形工程などで使用されることが多い。トヨタ生産方式では、三角形のカンバンが用いられるため「三角カンバン」とも呼ばれている。
臨時カンバン
臨時カンバンは、通常生産分より多く、部品の生産、運搬、保管を指示するカンバンです。型保全、機械設備の改造・修理、稼働日の違いなど、イレギュラーなケースで用いられます。臨時カンバンには、目的・有効期限の他、赤色の斜線が入っており、通常のカンバンと識別しやすいように作られています。また、使用は一度きりで、使用後は回収されます。
カンバン方式の流れ
カンバン方式の大まかな流れは以下の通りです。
上記の図の通り、カンバン方式では、後工程が使用し、減少した在庫を、前工程がカンバンに基づき、必要量補充する仕組みが取られています。これによりムダを減らし、生産の効率化を実現したのがカンバン方式の大きな特徴です。
カンバン方式のメリット
カンバン方式の主なメリットとして挙げられるのは以下の2点です。
- ムダの削減
- 情報共有がしやすい
それぞれについて詳しく解説します。
ムダの削減
カンバン方式では、後工程で外されたカンバンに基づき、前工程が必要なものを必要な量だけ生産する仕組みが取られています。そのため、過剰在庫に陥ることがなく、トヨタ生産方式が提唱する7つのムダの一つである「造りすぎのムダ」を防げます。
また、常に在庫量を最適に保てるため、管理コストや、在庫ロスによる廃棄コストなど、余分なコストの削減も期待できます。
情報共有がしやすい
カンバン方式で使用するカンバンには、何を、いつ、どのくらいの量、どのように造るかなど、生産に関するさまざまな情報が明記されています。そのため、カンバンを見れば、必要な情報がすぐに確認でき、従業員間の情報共有もスムーズに行えます。
また、カンバンの数を確認すれば作業の進捗状況も的確に把握できます。万が一、問題が発生した場合でも、原因となる工程をすぐに特定できる点は、カンバン方式の大きなメリットの一つといえるでしょう。
カンバン方式のデメリット
カンバン方式の主なデメリットとして挙げられるのは以下の4点です。
- 欠品リスク
- ヒューマンエラーの発生
- 現場にかかる負担が大きい
- 設計・管理の難易度が高い
それぞれについて詳しく解説します。
欠品リスク
必要なものを必要なときに必要な分だけ作ることを目的としたカンバン方式では、基本的に余分な在庫は持ちません。
そのため、万が一、作業工程に問題が発生した場合、欠品が発生するリスクが高くなります。欠品が起きてしまうと、受注機会の損失や売上減少など、企業に多大なダメージを与える可能性があるため、注意が必要です。
ヒューマンエラーの発生
カンバン方式では、カンバンの取り付け・取り外しなどの作業をすべて手動で行います。そのため、カンバンの外し忘れ、紛失などの人的ミスが起きるリスクはゼロではありません。
ミスが発生すると、現場が混乱し、最悪の場合、生産がストップし、顧客へ製品の供給ができないといった事態に陥る可能性も考えられます。
近年では、ヒューマンエラーの発生を抑制するため、従来のような紙カンバンではなく、バーコードやRFID技術を活用した電子カンバン(e-カンバン)を取り入れる企業も増えつつあります。
これまで手動で行っていた作業をデジタルな手法に置き換えることで、ミスのリスクを減らすのはもちろん、さまざまな作業の効率化も期待できます。
現場にかかる負担が大きい
カンバン方式では、在庫が使われたタイミングで生産指示が共有されます。いつどのタイミングで生産指示が出るか予測がしにくいため、生産量が多い場合や納期が短い場合は、現場や取引先に多大な負担がかかる可能性があります。
また、カンバン方式は、不良品を出さないことを前提とした生産方式です。そのため、万が一不良品が発生してしまうと、欠品リスクや作業の中断を余儀なくされる可能性が高くなります。不良品を出さないよう厳しい生産管理が求められるため、現場の作業者や担当者にかかる負担も大きくなる傾向があります。
設計・管理の難易度が高い
カンバン方式はどんな製品を扱う企業でも導入できる万能な手法ではありません。導入、効率的な運用を実現するためには、事前に以下の条件を満たす必要があります。
- 繰り返し生産される商品であること
- 生産が平準化されていること
- 工程が安定しており、不良率が低いこと
上記をクリアした上で、さらに扱う商品の特徴や自社の現状に合わせて、設計や運用方法を決めることで、はじめてカンバン方式のメリットを享受できます。
また、カンバン方式の十分な効果を得るためには、カンバンの適切な管理も重要となります。特に、生産終了などでカンバンの破棄や変更が生じる場合は、管理にかかる工数が高くなる傾向があります。
カンバン方式を用いた管理方法
カンバン方式が採用されているのは、生産の現場だけではありません。ここでは、カンバン方式を用いた「タスク管理」と「在庫管理」の方法について紹介します。
タスク管理
タスクやプロジェクトの管理にカンバン方式を活用する企業も増えています。 カンバン方式を使ったタスク管理は、一般的に以下のような方法で行います。
- カンバンボードを作成する
タスクの進捗状況が確認できるよう、縦軸に「作業前」「作業中」「完了」といったステージ列を作成する - タスクを洗い出す
タスクはできるだけ細分化し、負荷量を揃えると良い - カンバンを作成する
洗い出したタスクを元にカンバンを作成する。優先度がわかるようにラベルなどをつけるとわかりやすい - 進捗に合わせてカンバンを移動させる
タスク管理にカンバン方式を活用することで、タスクの進捗が視覚化され、情報共有がスムーズにできるようになります。業務で発生しているムリ・ムダ・ムラにも気づきやすくなるため、属人化の解消、適正な人事評価へつながるなどのメリットも期待できます。
近年では、カンバン方式を取り入れたタスク管理ツールも数多く誕生しています。ドラッグ&ドロップの簡単な操作で使えるものや、無料で使えるサービスなど、さまざまなツールがあるため、自社の求める機能やかけられるコストなどに合わせてツール選択をするのがおすすめです。
在庫管理
カンバン方式を活用した在庫管理は、一般的に以下のような方法で行います。
- 部品に、補充に必要な情報(部品名、数量等)を記載したカンバンを取り付け、保管する
- 部品を使用する際、カンバンを取り外す
- 取り外されたカンバンの分だけ、部品の発注または生産を行い、在庫を補充する
カンバン方式を活用した在庫管理は、定量発注方式(発注点方式)に分類されます。定量発注方式とは、在庫がある一定の量(発注点)まで減った時点で、あらかじめ決められた量を発注する方式です。在庫が減ったタイミングで毎回一定量を発注すればいいため、発注業務にかかる手間やコストが削減でき、業務の効率化が見込めます。
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まとめ
カンバン方式は、必要なものを必要なときに必要な分だけ作ることで、ムダを無くし、生産効率の向上を目指す生産手法です。製造業が陥りがちな過剰在庫を防ぎ、従業員間の情報共有もスムーズに行えるメリットが期待できますが、欠品リスクや、設計管理の難しさ、現場にかかる負担など、注意すべき点も多いという特徴があります。
また、平準化や不良品を出さない仕組み作りなど、導入・運用の前提となる条件があるため、生産する商品の特徴や生産量によっては、カンバン方式が適さないケースもあります。
カンバン方式の導入を考えている場合は、自社の製品の特徴や前提条件をクリアできるか、導入により生産性向上が見込めるかなどを考慮し、現場の意見も取り入れて検討を進めることが重要です。