需要予測は製造業の仕事の要となる業務です。なぜなら、出荷量と実在庫量を比較して、適正な在庫量を確保することが大切であるからです。
お客様が希望する納品日に商品をお届けするために、過剰に在庫を抱える企業が多く見受けられます。しかし、過剰在庫は保管などの管理コストが嵩んでしまうため注意しなければいけません。
一方で、新型コロナウイルスやウクライナ侵攻後に生じた部材不足の影響で調達のリードタイムが延びており、在庫不足に陥って販売機会を失うこともあります。そのため、需要予測を行い適正な在庫量を把握する必要があるのです。
需要予測に取り組む企業の中には「予測と実績に差が出てしまう」などの悩みを抱えてしまうケースも多く見受けられます。このような悩みを抱えないためにも、需要予測とは何かの基本を学び、精度を上げていきましょう。
今回は需要予測の目的や手法、導入事例など含めてわかりやすく解説します。
需要予測とは
需要予測(Demand forecast)とは、自社商品の需要を予測する業務をいいます。需要予測は、製造計画(仕入・生産・販売・人員配置・設備投資・資金調達)を大きく左右する重要な業務です。
ビジネスのグローバル化が拡大して、受注から納品までのリードタイムを短縮させなければいけなくなりました。
お客様の希望する納品日に応えられなければ、販売の機会損失を招いてしまいます。そのため、過剰に在庫を抱える企業もありますが、過剰在庫は保管費用や人件費など余計なコストがかかります。このような問題を発生させないためにも、需要予測をして精度の高い見込生産計画を行っていく必要があるのです。
従来は、担当者の経験や勘で需要予測が行われていましたが、近年はシステムを活用した需要予測を行う企業が増えてきました。
需要予測の目的
需要予測は生産計画を大きく左右する重要な業務ですが、どのような効果が見込まれるのでしょうか?そもそも、なぜ需要予測を行う必要があるのでしょうか?次に、需要予測の目的について解説します。
販売機会の損失を防止する
需要予測をして適正な在庫量を確保しておけば、お客様が希望する日に商品をお届けできます。お客様の中には、商品が届く速さで注文先を決める方もいるため、即座に配送できる体制を整えておけば、販売機会の損失を防止できます。
近年は、ビジネスのグローバル化で競争は激化しているため、発注から納品までのリードタイム短縮は欠かせません。公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)の独自調査「2019年度 配送満足度調査報告書」では、半数近くの商品が注文から3日以内に届いていると述べられています。この結果からわかるように、他社に顧客が奪われないためにも、需要予測をして適正な在庫量を保有しましょう。
工場での生産量を最適化する
需要予測すれば、どの製品をどれくらい製造すればよいかがわかり、生産量を最適化できるようになります。
需要を無視して生産を開始すると、過剰在庫を引き起こしたり、余剰人員が発生したりと、製造現場に悪影響が出ます。ムダなコストが発生して、収益が見込みにくくなるでしょう。このような問題を防止するためにも、需要予測に基づいて生産計画を立てる必要があるのです。
材料の調達量を最適化する
需要予測して生産計画を立てれば、どれぐらいの材料が必要であるかわかるようになります。従って、原材料や部品などの調達量を最適化できます。原材料の調達は多すぎても廃棄に繋がり、少なすぎれば生産は間に合わなくなります。このような問題を防止するために、需要予測をして調達計画の最適化を目指す必要があるのです。
要員と設備の計画を立てる
需要予測を行えば、必要な生産量が決まるため、必要な要員数や設備の目途が立ちます。必要以上に多くの要員を確保したり、設備投資をしたりすると負担が重くなり、収益が見込めなくなります。このような問題を防止するため、適切な要員と設備の計画を立てなければいけません。これらの計画も、需要予測を参考に立てられます。
保守部品の確保をする
需要予測を行えば、適切な量の保守部品を確保できます。保証期間付きの製品を販売すると、3年から5年は修理用の保守部品を確保しておかなければいけません。保守部品を切らしてしまうと、顧客満足度が低下してリピート購入に繋げられなくなります。そのため、適切な量の保守部品を確保しておく必要があるのです。
製品によっては、保守部品が数十万種類に及ぶこともあります。このような場合は、人的作業では対応できません。しかし、需要予測システムを活用すれば、多くの種類がある保守部品の適切な量を瞬時に計算して確保できるようになります。
[業界別]需要予測の活用事例
需要予測について解説しましたが、どのような利用シーンに活用されているのでしょうか?ここでは、業界別の需要予測の活用事例をご紹介します。
製造 |
在庫過多を防止するために需要予測をしている 売上や在庫情報の収集をして需要予測をしている 廃棄ロスの効果が期待できる |
小売 |
在庫過多や消費期限切れを防止するために需要予測している 精度が高い需要予測ができれば、食品の売れ残りが押さえられる 廃棄ロスの効果が見込める |
物流 |
出荷量の需要予測をしている 繁忙期に十分な人員を確保できる |
化学 |
バッチプラントの蒸気量の需要予測をしている 工場の省エネルギー化や燃料・電力削減を目指す |
インフラ |
電力の需要を予測している 電力需要予測計画の効率化によるコスト削減の効果が期待できる |
スポーツ |
試合の観客数の需要予測をしている 試合の観戦チケットの適正価格を決定する際に役立つ |
需要予測の方法
適切な生産計画には需要予測が欠かせませんが、どのように行うのでしょうか?一般的に需要予測は、以下のような流れで行われます。
- 需要予測の方法を決める
- 計算式を用いて需要予測する
- 需要予測と実績を比較する
ここでは、それぞれの手順についてわかりやすく解説します。
需要予測の方法を決める
まずは、どのような方法で需要予測するかを決めていきます。
過去の実績を用いた統計的予測 |
過去の実績を用いて未来の状況を予測する 新しい外的要因が発生すれば予測が外れる 定期的に予測モデルを見直して精度を確認する必要がある |
専門家の意見による予測 |
専門家が保有する情報を参考にして需要を予測する 突然の状況変化にも柔軟に対応できる 複数人の意見を用いて予測する場合は時間がかかる |
市場調査による予測 |
市場調査の結果を参考にして需要を予測する 市場に参入する前でも需要が予測できる 新商品の需要の予測に適している |
AI・機械学習による予測 |
ビッグデータを活用して需要を予測する AIの開発が必要である |
計算式を用いて需要予測する
次に計算式を用いて需要予測をします。
算術平均法 |
過去のデータの数値の平均を出す 計算方法が簡単で大まかな結果を予測できる |
移動平均法 |
数値を移動させながら平均を出す 直近のデータをもとに予測値を算出する 一部のデータがあれば算出できる |
指数平滑法 |
過去のデータと予測から予測値を出す 「α×前期の実績値+(1-α)×前期の予測値」 |
回帰分析法 |
因果関係がある数値同士の関係性を算出して需要を予測する 予測したい内容に対して影響しうる要因を複数設定できる |
加重移動平均法 |
最新の需要変動の影響を考慮して平均を出す 「(◯月の加重係数×◯月の販売数量)+(□月の加重係数×□月の販売数量)+…+(△月の加重係数×△月の販売数量)」 |
需要予測と実績を比較する
需要予測をして実績が出たら、その都度、予測値と実績値を比較しましょう。その際に、数値の誤差を確認するだけではなく、誤差が発生した理由まで分析することが大切です。どのような要因(季節的要因・地域的要因、外的要因)が需要を変動させているのか把握できれば、需要予測の精度が上がります。
需要予測の方法について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみてください。
>>需要予測の手法
需要予測に関するよくある質問
最後に需要予測に関するよくある質問をご紹介します。
Q.需要予測を行うデマンドプランナーの業務を教えてもらえますか?
メーカーで募集されているデマンドプランナーの仕事内容には、以下のようなものがあります。
[仕事内容]
- 売上・需要予測を担当して正確性を確保する
- サプライチェーン全体の最適化を図る
- 売上・需要予測に基づいた生産計画を作成する
- 在庫量の最適化を図る
Q.需要予測に必要なデータの集め方を教えてもらえますか?
需要予測に必要なデータは、RFIDやIoTを活用すると自動化、効率化できます。
RFIDとは、情報が書き込まれたRFIDタグをリーダーから電波で読み取る技術をいいます。バーコードとの大きな違いは、瞬時に数百枚を読み込めることです。さらに、非接触型で5m前後離れたところからデータをスキャニングできます。
アパレルを中心に普及していますが、昨今のDX化の潮流から、産業系メーカーを中心に工場での在庫管理(原材料、仕掛品、完成品、保守部品)にRFIDが導入され始めています。RFIDを活用すれば、在庫に関して「いつ」「どこに」「どのような状態で」「どれぐらい」あるかリアルタイムの情報を自動で取得可能です。そのため、在庫情報の精度を効率的に高められます。
また、工場の装置の状況はIoTを活用すれば可視化できます。
RFIDについて詳しく知りたい方は、下記の記事を読んでみてください。
関連記事:『【更新】RFIDとは?仕組みや特徴、最新の活用事例をわかりやすく解説!』
Q.需要予測の精度を上げる方法を教えてもらえますか?
需要予測の精度を上げる方法として、「高品質なデータを用意する」「最適な計算方法を選ぶこと」「ヒューマンエラーを防止する」があります。高品質なデータは、RFIDやIoTなどのテクノロジーを活用して効率的に取得できます。そのほかは、需要予測システムを導入することで解決できるでしょう。
需要予測システムを使用すれば、データ分析を自動化できます。最適な計算方法が何か、何度も繰り返し検証できるため、精度を上げたい方はシステム導入をおすすめします。
>>需要予測システム
まとめ
今回は、需要予測について解説しました。正確な需要予測が行えれば、適切な生産計画が立てられるようになり販売機会の損失を防止できます。また、ムダな経費を削減できるようになるため、収益を最大化できるのです。需要予測は、さまざまな業界で取り組まれています。
今回お伝えした方法や活用事例を参考に、需要予測に取り組んでみてください。